第五話「悪夢の終わり」
「オオオオオオオ!!」
またハンターらしき人間を潰した。
一体、何人潰せば終わるのだろう。
もう100人を超えてから数えていないが、もう人の死骸だらけで足の踏み場もないぐらいだ。
この死体の量を見て、逃げ帰る者もいる。
だが、どれだけ潰しても目的のルクロは来ない。
あいつは遊び半分で俺をここに落とした。
そこに、意味などなく、ただふざけただけ。
「ウオオオオオオオアアアア!!」
俺は、暴れた。
ただひたすらに。
だが、地下が崩れることはなく、周りに変化はなかった。
無意味に疲れるだけだ。
「ウウ……?」
そう思ったが。
冒険者が入ってくる扉の逆側に巨大な扉が出来ていた。
何故だ? あんな物は今までなかったぞ。
その扉の先を進むと、そこは地下への階段があった。
そして、どれぐらい降りていったのだろうか。
そこにはまた、扉がある。
「ウウウ……」
開けた先。ここは何だろうか。
暗く見えづらいが、今の俺でも楽々と歩けるぐらいに広い。
進んでいくと、女神の像がある。
まさか、と思い、周りを見ると神秘的な模様が周りの壁に書き込まれている。
ここはもしかして、教会なのだろうか。
「嘘……どうしてここにあんな物……プリンスオーガがいるの?」
「移動してきたってことですか、化け物が……」
「……避けてきたつもりなのに、ね。都合が良いわ。やるわよコーネル」
女二人組か。
話から聞くに、俺を避けてここに来たようだが、運が悪いとしか言いようがないな。
しかし、あの2人……。
どこかで、見たような気がするが……。
「ムチャクチャですよ、ブレゲヒュッテ様! 私に、あんな怪物をやれるわけがありません!」
あの声……あの顔……。コーネルと言う名前。
俺の知っているコーネルとは少し違うが、似すぎている。
もし、そうなら……。
「やる前から逃げるわけ? それに貴方は私の護衛でしょう。私を守ってくれるだけで良いのよ」
護衛……。
そうか。コーネルは白い槍を構えている。
あれは確か、聖騎士団専用の槍だったはずだ。
そうなら、あいつは聖騎士。
そして、聖騎士が守る対象で女と言えば……。
それに……ブレゲヒュッテと言う名前も何となく覚えている。
確か、帝国側の人間に、そんな名前があったはずだが、こいつの身を包んでいるのは教会の象徴、聖女の正装だ。
ーーそうか、聖女なら俺を浄化しに来たんだな。
ブレゲヒュッテの武器は服で隠れて見えないが、警戒すべきはコーネルだろう。
あの槍は聖属性を帯びた物……あれを受ければただでは済まない。
そして、聖女がここに来たのは俺の浄化するためだろう。
でも、死ねるわけがない。
「オオオオオオ!!」
教会側の人間。つまり、勇者側……ルクロ側の人間だ。
俺の知るコーネルは教会に所属などしていない。
別人だとわかったなら、容赦なくこいつらを倒せる。
「来る……!」
ブレゲヒュッテが俺の前に立ちはだかる。
そして、その手には教会の人間だけが使えるという光の剣。
俺の骨剣とブレゲヒュッテの光の剣が打ち合う。
力は俺の方が上だが、武器に関しては相手だった。
少しずつだが、俺の剣が溶けるように形を失っていっている。
ダメだ、相性が悪すぎる。
俺は後ろに逃げ、体勢を立て直す。
「私達の武器なら、奴を浄化出来る。続きなさい、コーネル!」
「わ、わかりました! 続きます!」
させるか。
まずは二人を分断する。
俺は骨剣を奴ら目掛けて投げつける。
「くっ!」
二人は左右に分かれて避ける。
俺は右に逃げたブレゲヒュッテを狙った。
動きから見ても、強いのはこちらだ。
まずは実力の高い方から潰す。
距離を詰め、ブレゲヒュッテを殴りつけようを拳を繰り出す。
しゃがんでかわしたブレゲヒュッテだったが、立ち上がる直前を狙って俺は右手でこの女の体をつかんだ。
「うっ、しまった……!」
「バカ! 何やってるんです!」
ブレゲヒュッテは俺の手の中で暴れているが、拘束は解けない。
こうまですれば、あの光の剣は使えまい。
「がああああっ……!」
「ブレゲヒュッテ様……!」
俺は拳に力を込める。
その力に耐えきれず、ブレゲヒュッテは剣を落とした。
終わりだ。
足元にコーネルが槍で突き刺してくるが、そこまでダメージはない。
このまま、ブレゲヒュッテを握りつぶす方が状況としては良いだろう。
「ぐううっ……!」
ブレゲヒュッテは苦しみながらも、俺を睨みつけている。
最後まで足掻くと言わんばかりの表情だ。
『いつか、私達は殺し合う。そうなったら、あなたの首を落とすのは私。そして、私の首を落とすのはあなたよ』
何だ、今の言葉は。
一瞬、思考をブレゲヒュッテから外してしまった。
その緩んだスキをついて、ブレゲヒュッテは拘束から外れ、俺の腕の上を走る。
「コーネル!」
「はい!」
下にいるコーネルがブレゲヒュッテに剣を投げ渡し、それを受け取る。
そして、そのまま俺の首にその剣を突き刺した。
「ガアアアアアアアア!!」
「このまま、化け物の姿は終わりなさい……!」
ブレゲヒュッテは力を更に込める。
首が少しずつ解けていく。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
死にたくない。こんなままで、死にたくは……!
「ウオオオオオオオアアアア!!」
俺はもう思考を投げ捨てて暴れまわった。
ブレゲヒュッテは俺の肩の上で立っていられず、地面に投げ出される。
だが、もうダメだ。
俺自身、既に力が出ない。
暴れた後、まともに動けず地面に倒れ込んだ。
「倒……しましたか?」
コーネルが恐る恐る発言する。
「そのようね。完全にトドメを指したわけではないけれど、これで詰みよ」
ブレゲヒュッテも俺から視線は外さなかったが、既に勝利を確信しているようだった。
『コーネルさん。どうですか、プリンスオーガは死にましたか?』
聞き覚えのある声がする。
こんな不快な声を出せるのは、この世で1人しかいない。
『ブレゲヒュッテさんも。良かったら感想を聞かせて下さいよ』
ルクロ……勇者ルクロ・カルティムに違いない。
読んでいただいてありがとうございます!
あなたが読んでくれているおかげで閲覧数が100を超えました!!
もし、少しでも面白いと思ったら下の星からの評価とブックマークよろしくお願いします!
出来ればコメントなども頂ければ僕らも泣いて喜ぶので、どんなことでも書いてくれたら嬉しいです!