第四話「苦痛の連鎖」
「ウウ……」
ルクロに城の地下に叩き落されて、どれぐらいの時間が立ったのか。
周りには何も見えない。
ただ、体は再生が終わり、元の状態に戻っている。
地下とは言え、この巨体でもそれなりに動くことは出来そうだ。
だが、根本的に今いる場所からは出られそうになかった。
扉はあるにはあるが、この巨体では腕が入るぐらいでどうにもならない。
かと言って、壁も簡単には崩れない。
そもそも、崩してしまえば生き埋めになる。
「……」
俺は、これからどうすれば良いのか。
人間を捨てたというのに、ルクロには完全に敗北し、生きていると言ってもこの巨体だ。
そもそも、この体は既に不死者の体になってしまっている。
どうしたら良いのか……答えは見えないが、考える時間だけはありそうだった。
あれから、ずっと考えていた。
ルクロは今、何をしているのだろうか。
帝国を、王国を、滅ぼすようなことをして……その先には何があるのか。
それに、シルヴィアは……。
俺が見た時は助からない傷を追っていたが、ルクロが世話をすると言っていた。
もしかしたら。命だけは助かっているのだろうか。
周りを調べてみたが、この巨体ではこの地下を抜けることは出来ない。
俺がここを出る方法はあるのだろうか。
いや、出たとしてもこの姿だ。
既に俺は人間ではなくなった。
そのうち、俺は考えることすら疲れてしまった。
そんな俺に聴こえてくるのは、地下に流れ込む叫び声のような風の音と俺自身の唸り声。
そして、痛いほどの、静寂。
不死者の体になったことで、俺は食欲も、性欲も、睡眠欲もなくなった。
そのせいか、時間の感覚がわからなくなっている。
水も、食料も、いらない。
ただ、時間だけが無意味に俺を蝕んでくる。
それから、いったいどれぐらいの時間が経っただろう。
「おい、ここに扉があるぞ!」
声が、聞こえた。
「お宝があるかもー! ワクワク!」
人の声だ。
「ウウ……?」
地下に落ちてから、久々に聞く人の声。
勢いよく、扉が開かれ入ってきた人間と対峙する。
人数は3人。男2人に女1人。
俺と同じぐらいの年齢だろうか、見たこともない連中だ。
「おお、見つけたぜ。あれがプリンスオーガか。賞金100万トラスの化け物!」
筋骨隆々の男が俺を指差す。あの鎧は戦士がよく好んで使う重装備だ。
「だね。あれをやれば、当分遊んでくらせそうだ」
マントの男がこちらを見て、ニヤけている。
そして、その男にしがみつく魔術師らしき女。
「プリンスって言うからイケメンと思ったら、ただのハゲじゃない」
「ばっかお前、あれアンデッドだろ。そんなのにイケメンもクソもねーよ」
何なんだこいつら。賞金稼ぎ……ハンターか?
それなら理解は出来る。
だが、プリンスオーガという名前……俺のことだろうが、何故そんな名前で呼ばれているんだ?
「焼き尽くすわ、火炎の号砲!」
魔術師が火炎魔術を俺に向けて放ってくる。
まずい、思考している暇はなさそうだ。
俺は何とかかわした。何とか、会話できればとは思うが……。
「ウオオオオオ!!」
「うっわ、怒らした?」
「半端な魔法打つからだろうが!」
ダメだ、まともに声が出ない。
かと言って、俺は戦うつもりはない。
「逃げてんじゃねえぞ、賞金首が!」
筋肉質の戦士が俺の足を斬りつけてくる。
痛みはある。だが、だからといって……。
「おいおい、ダミアン。そんなヤツさっさと倒せよ。そんなんだとルクロ様に近づけねえぞ!」
「うるせえぞアブデル! だったらテメエも手伝え!」
ルクロ……ルクロだと?
その名前で思い出した。
あいつは何を言っていたのか。
『では、アスト王子……。あなたはゲームを楽しんで下さい。僕を少しでも楽しませてくれたお礼ですよ』
ゲーム。あいつが言っていたゲームと言うのは、俺を賞金首にしてこうやってハンターを送りつけて遊ぶことか。
「オオオ……」
どこまで。
「オオオオオオオオ!!」
どこまで、人をバカにすれば気が済むんだ、あの男は……!
「何だ、突然吠えだしたぞコイツ!」
良いだろう。
これがあいつが言ったゲームだと言うなら、俺が。
「早く斬り殺しなさいよ!」
俺が潰してやる。
その怒りが伝わったのか、体が思い通りに動く。
「わかって……ぐはあああ!」
俺は足元の戦士……ダミアンと呼ばれていた男を思いっきり蹴り飛ばす。
吹き飛んだところに剣を叩きつけた。
「嫌ああああああ!!」
それを見た魔術師の女が逃げ出す。
「ウオオオオ!!」
だが逃さない。
ルクロに関わる者は全て潰す。
「くっそ、無理だこんなの……!」
残った男も逃げ出した。
簡単に逃げてもらっても困る。
入口の扉に向けて、俺は剣を投げつけた。
2人はその一撃を背中に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「オオオオオオオオオオ!!」
恐らく、またハンターは来るだろう。
来る人間、全てを潰し、最後はいずれ来るであろう勇者を俺が殺す。
いつでも来い、ルクロ・カルティム。俺は地下で待っている。