第四十話「決着」
「しかし、いつの間にそんな力を得たんだよ」
「父さんが残した腕が、力をくれた。この魔王、シャルドの力を」
魔王シャルド……。だが、その姿は腕だけじゃない。
俺のように全身を魔力が覆っている。
「待ってくれ。腕だけじゃなかったのか……?」
「説明は後よ。今はルクロを倒すことだけに集中して!」
一瞬で終わらせましょう、とブレゲは強気だった。
俺としては、被害を出したくないから一騎討ちをしていたが、ブレゲが神殺しの器の力を使えるなら話は変わる。
「僕を無視して、盛り上がらないでほしいなあ。どうせザコに変わりがないのに」
「試してみる?」
余裕そうな声がシャルドから漏れ出ている。
ブレゲは勝ちを確信しているみたいだった。
「負けるわけがないんですよ、僕は! ならこれで!!」
これで三度目だ。
馬鹿の一つ覚えみたいにあの光の一撃を放つつもりだろう。
「やめろ、ブレゲ……。デュナミスが通用しなかったんだぞ。いくらお前でもあれは……!」
「大丈夫。ちゃんと計算済みよ」
ブレゲはいつもの平静な声に戻っていた。
「2人揃って死んで下さい!!」
シャルドが光を両手で受け止める。
「ぐっ……!」
「だ、大丈夫なのか……!」
「……ええ。見てわからない? あいつはもう勇者じゃないのよ」
「それは、そうだろう。あんなクズは勇者の資格なんて」
「そういう……ことじゃない」
ブレゲはブレイブカイザーをよく見て、と言った。
どういうことだ?
俺は、もう一度ブレイブカイザーを改めて見た。
やはり以前と違って、姿が変わっている。
白基調だったその姿も紫色に……。
「……! そういうことか!」
「わかったわね。だから、アスト。あなたは力を溜めておいて」
「ああ……!」
勝機は見えた。
俺はブレゲを信じて、剣に残った全魔力を溜める。
「何をゴチャゴチャと! 良いから、圧殺してあげますって!」
「シャルド……! あなただって勇者が憎いはずよ。力を……貸し……いや、よこしなさい!」
シャルドの力は絶大だが、それでもブレイブカイザーには及ばない。
徐々にだが、押されている。
もう力も弱まり、シャルドも限界が来たその時、ルクロが笑い声を上げた。
「アハハハハ!! 神殺しの器が増えたと思ったら、出落ちですね! ゴミ! 早く死んで下さいよ!」
ルクロは勝ちを確信しているが、それは俺達も同じだった。
コーネルがルクロに対して術式を組んでいる。
「フフ……」
「何が面白いんですか? 死ぬ前に頭おかしくなりました?」
「バカな奴だ……! お前の負けだよ」
「は?? 何を言って」
「これで、終わりです。ルクロ!!」
コーネルの怒号が響き渡り、ブレイブカイザーが白い光に包まれる。
光の結界……俺達が動けなかったあの結界だ。
「何?? ナニコレ?? 動けないし!!」
「間に合ってくれたわね……!」
ブレイブカイザーの背後にはコーネルがいる。
シャルドとブレイブカイザーが戦っている間、後ろで準備をしていた。
「私達はおとりよ、ルクロ。本命はコーネルの封印」
勝ち誇ったブレゲの声が響き渡る。
ルクロはひたすらに叫んでいた。
本来なら、光の存在であるルクロにはそんな結界など通用しない。
なのに、効いたのはルクロが魔に落ちていたからだ。
紫色はブレゲもそうだが、魔に落ちた証でもある。
ルクロのブレイブカイザーは、今は紫色に染まっているからまさかと思ったが……。
「やはり、勇者たり得なかったな……!」
同じ魔の力だからこそ、攻撃が効かなかったんだ。
つまり、あいつの方が俺より魔王に近いということになる。
「……ともかく、これで終わらせる……!」
動けなくなったルクロのブレイブカイザーに向かって、俺はデュナミスを操って一気に近づく。
「うわっ! 何?? 無理だって、無理だって!!」
そして、俺の全ての魔力を注ぎ込んだ剣を全力で振り下ろした。
「消えろ、勇者!!」
「あぎゃああああああああ!!」
無防備なルクロは防御も出来ず、ブレイブカイザーは爆散した。
「うぅううううう!!」
「どこに逃げる気だ」
爆散したブレイブカイザーだったが、その爆発に紛れてルクロは逃げ出そうとした。
だが、今更逃がすわけがない。
「こんなはずじゃなかったのに! 何で負けるんだ!!」
「こいつ……」
ルクロは突然、駄々っ子のように叫びだした。
ブレゲとコーネルもこちらに来たが、ずっと叫んでいるルクロに呆れていた。
「僕は勇者に転生して、最強になったんだぞ! サービス残業当たり前の糞仕事! 休みの日に電話しまくる糞上司! 僕の金を取るしかしない糞嫁!」
何のことを言っているか、わからない。
だが、ルクロには大事なようだった。
「そんなのから解放されたっていうのに何で負ける!? 最強の力をくれ続けてたのに途中でやめやがって! そうだ」
ルクロの叫びは止まらない。
「今すぐよこせよコイツラを超える力を! 軍隊を! ハーレムをさあ!! おい、神! 聞いてるのか!!」
「神……? あなた、誰に言ってるの?」
神。どうやらさっきから神に懇願しているらしいルクロ。
しかし、どういうことだ。
神なんて信じるような人間には見えない。
「うるさいなあ! 神って言ったら僕に力をくれた神だよ! そうだ、もう一回死ねば出てくるかも? 早く、殺せよ僕を!」
ルクロに力を渡した神……?
どういうことなんだ。そんな神が実在するのか?
ブレゲも問い詰めたが、会話は支離滅裂で話にならない。
「ダメね……こいつ、話が通じないわ」
ブレゲは情報を取ろうとしていたらしいが、諦めてコーネルに後を託した。
「では、始めます」
コーネルはルクロの前に立ち、呪文を唱える。
「お、お、良いですね! 体中が痛くなってきました! では、次に会う時は」
ルクロは喜々としていた。
自分が死ぬと思っているんだろう。
だが、そんな瞬間は来ない。
「会うことなどない。お前は死なない。封印されるからな」
「何!? 何ですかそれ。そんなの」
「聖なる鎖よ、悪き魂を縛れ……! ヴォルハン!」
「あああ、イヤダイヤダあああああああああああああああ!!!」
光の柱がルクロに降り注ぐ。
「封印……完了しました」
ルクロは光の中に消えていった。
どこに封印されるのかまでは聞いていないが、恐らく教会に関係する場所だろう。
ともかくこれで、もう……ルクロは出てくることはない。
勇者との戦いはこれで、もう終わったんだ。
「終わったようですね……」
「ディウルスか……」
「既にお疲れでしょうが……これでようやく会わせられます」
「誰のことだ?」
お忘れですか、と言い捨てるようにディウルスは言った。
「もちろん、シルヴィア様ですよ」




