第三十九話「新たなる魔王」
「父さん……」
まだ、信じられなかった。
こうもあっさり、父が死ぬなんて。
いや。
今は戦の最中であることを忘れてはダメだ。
悲しみに浸るのは、勇者ルクロを下してから……。
そう思った私は、父がいた場所を背にルクロのところへ向かおうとした。
「危ない……! 皆さん、防御を!!」
コーネルの声。
眼の前には光しか見えない。
ルクロだ。
あいつが言っているビームだろう。
とっさに防御魔法を展開したが、それが無ければ私は死んでいた。
広範囲のものだったため、そこまで威力はなかったみたいだが……。
「ごめんなさい……! 守れなかった……!」
負傷兵たちがいたところが抉れている。
あいつは面白半分でこれを狙ったのか、それともアストの挑発か。
そんなことで、人を簡単に殺すなんて……許せるわけがない。
「どこまでも、ふざけてる……!」
怒りと憎しみが頭を満たす。
そんな時、
『我が力を使え』
声が、響いた。
とっさに後ろを振り返った。
その父が使っていた腕……魔王の腕が怪しく輝いている。
『我が力を使え、適合者よ』
また声が響く。
「適合者……」
その言葉はかつて、エイフェから聞いたことがある。
修行が終わった後、私は魔女と呼ばれたエイフェに質問をした。
「私が魔王とはなれないの?」
「ほう、自分から魔王に成りたがるか」
面白い、と笑うエイフェに私は気にせず問いかける。
「貴女もわかっているでしょう。修行して強くなったとしても、アストの魔力は私には及ばないことが」
「……ふむ。確かに、魔力の量は貴様の方が上じゃな」
「なら――」
「しかし、間違えるな。量は上とは言え、質はアストの方が上じゃよ。短期決戦なら貴様が負ける」
「……」
アストと戦うことなど、今後ありえない。
しかし、わかっていても負ける、とはっきり言われるとそれはそれで、不快ではある。
「じゃがな。仮に――貴様が適合者に選ばれれば話は変わる」
「……何、それは」
「神殺しの器はそれだけだと魔力増幅装置になる。普通より少し強力な魔法が撃てるイメージじゃな」
エイフェは説明を続ける。
「しかし、適合者なら話は変わる。さっきも言ったが、貴様は魔力量が多い。一部分だけしかない神殺しの器だったとしても、適合者に選ばれれば……」
「魔王に、なれる……」
「そうじゃ。ただ、流石に一部分だけだと短時間しか戦えんがな」
「……覚えておくわ」
そんな、かつての会話を思い出した。
そして今、適合者と神殺しの器に呼ばれている。
しかもそれは、ムドラズ――父と呼んだ男が使っていた装備でもあった。
なら……。
「私が使うのは、必然……か」
『我が力を使え、適合者よ』
「同じことを何度も……」
使うことに、躊躇いはない。
父の無念、そして私自身の無念。
更に言えば、アストを助けるため。
「良いわ。その力、私が使う」
『良いだろう。ここに契約は完了した』
神殺しの腕が私の右腕に装着される。
『適合者よ、我が名はシャルド。名を呼べば貴様は魔王と呼ばれた力を得られる』
「上等じゃない。それは私が望んた力よ」
気がつくと、コーネルが私を心配そうに見ていた。
大丈夫、と言う言葉をこめて私は頷いた。
「シャルド……! 私に勇者を打ち砕く力を与えなさい」
『良いだろう』
右腕から全身に鎧のような物が覆っていく。
これは明らかに、アストの魔王と同種のものだ。
それが全身に周った時、私は自分の中から湧き上がってくる力を感じていた。
この力なら、戦える。
「待って下さい……!」
アストが戦っているところに向かおうとするその直前。
コーネルが声をかけてきた。
「私も、連れて行って下さい! お邪魔はしませんから!」
邪魔、なんてことはない。
コーネルも今や大事な戦力だ。
「バカね。コーネル、貴女なら嫌と言っても連れて行くから」
「はい……!」
私はコーネルを抱えて、アストの元へ向かう。
この力で世界から勇者をなくすために。




