第三十八話 「死闘」
「何だあれは……」
勇者軍との戦いは終わった。
そして、ゆっくりとルクロがフラフラと現れる。
「さ、本番ですよ」
ルクロは指を弾き、その合図を持ってブレイブカイザーが現れる。
しかし、その姿は以前と違い、紫色に染まっていた。
「はーあ。結局最後は役に立つのは僕ってことですね。どいつもこいつもゴミばっかりで役に立ちません」
「ふざけるな。ルクロ……お前は自分の部下を化け物にして。それでも勇者か!」
こいつのせいで、人が死んだ。
死ななくても良い人が大勢死んだんだ。
「勇者ですよ。だって、僕のことを勇者って言い出したのはあなたたちじゃないですか?」
この男は平然と言い捨てた。
「何……?」
「僕から言い出したわけじゃないんです。なら、その言葉の責任を取るのってどっちなんですかね?」
……それは。
ルクロの言うことでも一理あるかもしれない。俺たちは確かに帝国に負けていて、それを全てルクロに任せた。
そしてルクロは俺たちの望む成果を出した。それ自体は事実だ。
「だからって、だからって……お前のやっていることを認めるわけにもいかない」
「僕だってそうですよ。あなた達のやっていることを認めるわけにはいきません。僕は今まであなた達の言うことを聞いてきた。そして勇者を演じてあげたんです」
演じてあげた、だと……?
「演じ上げた後は自分の好きにさせてほしい。そういうことなんですよ」
「ふざけるな。やっていいこと悪いことがあるって教わらなかったのか、お前は?」
「すいませんね。僕が知っていることは権力がある人間が何でも好きにしていいっていう言葉だけです」
「なら、お前をその権力とやらから引きずり落とす……!」
これが最後の戦いになる。
だが、この男は強い。
「みんな……! この男は俺が倒す。下がっていてくれ!」
俺は全員に下がるように叫んだ。
「良いんですか、そんなこと言っちゃって」
「黙れ、お前は俺が終わらせる……!」
俺の剣とルクロの剣がぶつかり合う。
力量としては互角……いや。
「あれ? ちょっと力が足りなくないですか?」
「くそっ……!」
押されている。
あれだけ、強くなったと言うのにまた勝てないのか……!
「ほらほらほら! ホラホラホラホラ!!」
「ぐぅううう……!」
ダメだ。捌き切るのが精一杯でまともに押しきれない。
「頼む、最後なんだ……デュナミス!」
俺は最後の魔力を振り絞る。
それでも、状況は変わらない。
「あははははははは!! 無理みたいですねえ!!」
「ルクロ……!」
「お! さあ、吹き飛ばしましょうか!!」
ブレイブカイザーの胸元に光が満ちる。
まずい。前に見た一撃だ。
「……!」
「喰らいなさいよ。僕の一撃を」
……? おかしい。
強烈な光が放たれた瞬間、俺はとっさに目をつぶった。
だが、衝撃が来ない。
「何故だ……?」
嫌な感情が持ち上がる。
やめろ。後ろを向くな。
「ああ……」
そうだ。俺に来ないなら……。
そして、ルクロならやりかねない。
見ると負傷者達がいるであろうところが燃えていた。
「貴様……! それでも勇者……いや、それでも人間か!」
「はあ? あいつら、何か僕に魔法をしかけようとしてたんですよ。だからやったまで」
ルクロは自慢げに続けた。
「そもそもさ、君の言うことも聞かない人達ですよ? そんなのを始末してあげたんだから感謝してほしいですね」
「ルクロオオオオ!!」
俺はフランメ・シュヴァルツを発動し、剣に炎を纏わせる。
その一撃はまともに入ったが、しかし……。
「効きませんから。そんなのは」
ブレイブカイザーの拳を叩きつけられる。
デュナミスはあっさりと吹き飛んだ。
「が……!」
ダメだ、これは……。
俺は、また死ぬ。
「じゃあ、今度は遊び無しで殺します。お疲れ様でした、王子」
再びブレイブカイザーに力が集約される。
もう何も出来ない。動けない。
「成仏して下さいね、王子!」
俺に向かって、光が来る――。
だが、それはまた俺には直撃しなかった。
「ふう……。間一髪ってところね」
あの強烈な光は既にかき消えていた。
ルクロがビームを放った時、俺の前に割り込んだ何者かが握りつぶしたからだ。
その何者かは俺には見覚えがない……だが、それは間違いなく魔王の姿。
「何だ、お前は……?」
「警戒してるの? 私よ」
もう一体の魔王。
その魔王からは確かに聞き覚えのある声……ブレゲの声がした。
「まさか……ブレゲ、なのか?」
「ええ。私も神殺しの器……魔王の力を得たのよ」
恐らくは、いつもの不敵な笑顔を浮かべているんだろう。
全く……ブレゲはいつも良いところを持っていくな。
「そうか。……なら、頼りにさせてもらうぞ、ブレゲ!」
「任せなさい……!」
もう限界だと思った。
だが、これなら……これならまだやれそうだ。




