第三十五話 「勇者大戦⑤ 散りゆく戦士」
ムドラズはいち早く新兵器を発見した。
「ふむ……あの巨大な筒のようなものが、先ほどの新兵器か」
勇者軍の新兵器・ブレイブキャノンはルクロ本陣のすぐ近くに設置していた。
ーー距離は……およそ500メートル! 世界のどこにもこの距離から狙撃できる兵器はない……やはりルクロ、人外の者か!
ムドラズは大砲という物が遠く海を渡った国で発明されたということは知っていたが、この新兵器はそれとはまったくレベルが違うことに気づいていた。
「魔装壁、展開!」
ムドラズは右腕に魔力を込め、防御魔法を展開した。
魔力の壁がムドラズ隊の正面を包む。
「突貫するぞ!」
「おおお!」
騎馬兵たちも、ありったけの魔力で、防御壁を強化した。
もちろん、騎馬兵たちは聖騎士ほど魔力は高くない。しかし、ムドラズとともに戦場を駆けるとき、彼らは実力以上のものを発揮したのだ。
ーーあと300メートル!!
その時、声がした。
「手柄を独り占めとは、兄上も人が悪い」
ディウルスだった。
「我らもお供させてくだされ! ムドラズ様!」
ディウルスの腹心のハミルトンだ。
ディウルスの騎馬隊が合流したのだ。
三十騎あった騎馬隊が、今はその半分ほどに減っていたが、彼らの眼は死んでいなかった。
「ディウルス……! 貴様の力など借りぬとも、ワシらだけでやりおおせるわ!」
「見殺しにしてもよいのですが、あなたは私がこの手で討ち取りたいのでしてね」
「ふん! 勝手にせい!」
「では、さように」
ディウルスはそう言って、自身の左腕に魔力を込めて、防御壁を展開した。
ーーあと200メートル!!
その時、ブレイブキャノンの砲身が、紫の光を放ちだした。
ーー来るか……!!
ムドラズは構える。
そして、閃光が戦場を駆けた。
「おおおおおおおお!!!」
「むうううううう!!!」
ムドラズとディウルスが渾身の力で受け止める。
「うおおおおお!!」
騎馬兵達も必死に耐えた。
「王子!! 今ですぞ!!」
まばゆい光の中、ムドラズは叫ぶ。
「はあああ!」
アストの声、そして爆発。
「やったぞ! ムドラズ! ディウルス!」
作戦通りアストがブレイブキャノンの側面に回り込んで破壊を成功させていた。
閃光の放射が、終わった。
「ぐ……なんとか……耐えたか……」
ムドラズは身体に違和感を覚えた。右腕の感覚がない。
身体の右側を見ると、肩口から先の腕が失われ、血を流していた。
ーーまぁ、よく耐えてくれた、と言ったところか……
「貴様ら! 生きておるか!?」
他の者達は、怪我をしている者もいたが、命に別状はないようだった。
「兄上……右腕が……」
ディウルスが近づいて来た。
「ふん。貴様が心配する質か? なに、大したことはない」
「……それだけ強がりが言えれば、大丈夫そうですね」
ディウルスが回復魔法で止血をした。
ーーコヤツに手当を受けるなどとな……。
その時、ムドラズは気づいた。
ーーなぜ勇者軍に動きがない……?
違和感。
本陣目前にまで攻め込まれて、ルクロ本人も出てこない…。
何かが、おかしい。
ムドラズは辺りを見回した。
「!!!」
草木で周到にカモフラージュされた、もう一つのブレイブキャノンがあった。その砲身は……デュナミスを狙っている!
ーー罠か……!!! 新兵器を囮にされた!!
「アスト王子! 逃げなされ!」
叫んだが、怪我のせいか、うまく声が出ない。
「くっ!」
ムドラズは1人駆け出した。
「我が愛馬よ、持ってくれよ!」
ーーもう防御壁は張れぬな。しかし、ワシが何とかせねば……!
「ムドラズ様! 我らも…!」
部下達が続々とついて来る。
ディウルス達もだ。
「貴様ら! ワシ一人で行く! ついてくるな!」
「兄上! 死ぬつもりですか! 言ったでしょう、あなたを討つのは私だと!」
「黙れ! 死に場所はワシが決める! 貴様なんぞのためにこの命かけるものか!」
「……」
ディウルスが黙った。
「ワシは、貴様が憎い。この上なくな。しかし、それ以上にこの命、未来のために使いたくなったのよ」
「……ブレゲヒュッテですか」
「ふん、本当なら、貴様に引導を渡すのはワシのはずだったが……。まぁ、貴様が苦しんで死ぬ事を、願うとしよう」
「……」
「ワシの死に場所はワシが、決める! そこに貴様なんぞが入り込む余地はない! 消えろ!」
ディウルスは、唇をかみながら、部下に離脱を命じた。
「ディウルス隊! 離脱せよ!!」
ディウルスの号令とともに、ディウルスの部下たちが離れていく。
ムドラズは、振り返って自分の部下たちにも言った。
「貴様らもだ! 離脱せい!」
誰も、離脱しなかった。
「ムドラズ様、我々は、どうかお供させてください」
リハンが言った。
「!!! 貴様ら! 正気か!」
「正気でないのは、将軍ゆずりでございます。どうか、ムドラズ様最後の花道を、我々とともに」
「……バカどもが……」
ーーワシには……過ぎる部下たちよ!!
胸に部下に対するありったけの感謝の念が浮かぶ。
「貴様らには、迷惑をかけた。帝国を裏切り、王国を裏切り……」
「それでも、ついていきたいと思えたのは、我らが将が、ムドラズ様だったからです!」
リハンが力強く言った。
皆がムドラズを見ていた。
部下たちの目には、一点の曇りなく、ムドラズに対する信頼のみが映りこんでいた。
「よかろう! ムドラズ隊! 最後の突貫だ!!! 貴様ら、次会うときは黄泉の国だ! あの世でも、ムドラズ隊の名を轟かそうぞ!!!」
ムドラズが、さらに速く駆ける。
部下たちもそれに追随する。
十騎を超える騎馬隊が、一本の矢のようになった。
ブレイブキャノンが近づいてくる。
砲身に紫の光を貯めこみ、それを吐き出すのを待ちきれないようだった。
近づく。
近づく。
そして……
「おおおおおおおおおお!!!」
ムドラズは最後の雄たけびをあげた。




