第三十四話 「勇者大戦④ ルクロの牙」
ディルグ平原はほぼ制した。
あとは勇者のいる本陣だけ……!
俺は勝利を確信した。その時、
「ブレイブキャノン! 放て!」
勇者軍の指揮官らしき声が聞こえた。
光の筋……というべきか。筋にしては、明らかに大きすぎる閃光が、一瞬にして戦場を駆けた。
その閃光は、俺の真横を過ぎ去り、勇者軍もろとも、聖騎士、騎馬隊達を飲み込んで巨大な爆発を起こした。
なん…だ…?
業火に包まれる戦場。
おびただしい悲鳴。
累々転がる、焼け焦げた死体。
「全軍! 散れ! 狙われている!」
ブレゲだけは、冷静だった。指示を出して、味方を分散させている。
おそらくこれは、勇者軍の新兵器。ただ、俺はこの閃光を見たことがあった。
ルクロとの闘いで俺が直撃を浴びた、ブレイブ・ビームなどというものにそっくりだったのだ。
「これが……ビーム……??」
ビームという言葉の意味は分からなかったが、俺たちにとって恐ろしい兵器だということは明白だった。
とにかくブレゲに知らせないと……!
俺はデュナミスですぐにブレゲと合流した。
「二発目が来ない…! どうやら連射はできないようね」
ブレゲは馬で駆けながら言った。
「ブレゲ! この攻撃は、ルクロのブレイブカイザーの攻撃とそっくりだ! こいつは、盾や魔法じゃ防げないぞ!」
「だったら、ずっと逃げ回ってろって??」
「いや……一つだけ手はある。デュナミスをおとりに使う。コイツの装甲なら一撃ぐらい受け止められるはずだ。その間に、お前たちであの兵器を破壊してくれ!」
「ちょっと! あなた、それで一度瀕死になったんじゃない!」
「大丈夫! エイフェさんのところで修行もしたし、今回は持ち堪えられるはずだ!」
「ダメ!!! 万が一あなたがやられたら、誰がルクロを倒すの!?」
ブレゲが大声を出した。
「……。でも、このままじゃ……」
「失礼ながら、ブレゲが申しあげた通りでございますぞ」
いつのまにか、ムドラズの騎馬隊が来ていた。
「王子のその魔王こそ、ルクロを倒す唯一の希望。失うわけにはゆきませぬ」
「では、どうやって……」
「忘れましたかな? 我が右腕も、魔王と同等の力を持っていることを」
「!!!」
「ワシの部隊が、おとりになりましょう」
「それじゃ義父さんが……!!」
ブレゲが、息をのんだ。
「ふっ、まだワシを、父と呼んでくれるか……」
「……」
ブレゲはうつむいた。
「心配するな。無茶はせん。部下の命もあるしな。」
「どうか我らにお任せを! アスト王子、ブレゲお嬢様!」
リハンも言った。
「貴様ら! 我らの働きで、この戦の……世界の行く末が決まる! 準備はよいか!!」
「うおおおお!!」
騎馬隊達の士気はまだまだ高い。これなら……。
「ムドラズ……すまない……。ありがとう」
「義父さん!! 行かないで!!」
ブレゲが、泣いていた。
「もう……私を一人に……しないで……」
「……今まですまなかったな。ブレゲヒュッテ……」
これほどまでに優しい顔のムドラズを見たのは、初めてだった。
「しかし、お前は今、全軍の指揮官だ。今はただ、勝利のために何をすべきかを考えよ」
「…………」
ブレゲが泣きながら首を横に振る。
「大丈夫だ。必ずまた会える。……お前は、ワシの誇りだ」
そういう言うとムドラズは、俺の方に振り返った。
「王子、娘を頼みましたぞ」
……ムドラズの言葉がどういう意味かは、その時の俺にはわからなかった。
「行くぞ! ムドラズ隊!」
リハンが叫び、二十騎もない騎馬隊が、おたけびをあげながら勇者軍の新兵器めがけて駆けていった。
「ブレゲ……」
「……勝手なのよ……いつも」
ブレゲは涙声で言った。
「だからこそ、私がしっかりしなくちゃね……。 さぁアスト、作戦開始よ!」
ブレゲは平静を装いながら言った。
しかし、手だけは……微かに震えていた。




