第三十一話 「勇者大戦① 二匹の龍」
「ディウルス様、謀反!」
ルクロの本陣では、伝令兵がディウルスの裏切りを伝えていた。
ルクロはただ黙っている。
「ル、ルクロ様……?」
「ク、ククククッ」
ルクロは笑っていた。
「クハハハハハハハハハハ!!!! クッソがアアァァァアアアァァ!!!!!!!」
ドンッ!!
ルクロを中心として、爆発したように風が吹く。
机はひっくり返り、椅子は空中を舞って落ちた。簡易的な布でできた天井は、今にも吹き飛びそうだ。
「ヒイィッ!」
「どいつもこいつもどいつもこいつも!!! そんなにクソ王子の味方がしたいのかよ!!!」
ルクロは青筋をたてて、喚き散らした。
「こうなったら、僕が!」
ルクロは一旦立ち止まり、口角を醜くゆがめた。
「いや、そういえば、ありましたね。新兵器が。おい、ブレイブキャノンを出せ!」
「は、はいっ!」
伝令兵は、慌てて天幕から飛び出していく。
「よくも僕をコケにしてくれましたね。ひねりつぶしてあげますよ。」
血の匂い、何かが燃える匂い、そして怒号、悲鳴。
そこは、戦場だった。
「おおおっ!!」
「来たれ! 我が黒炎!」
黒い炎を魔剣カオス・ギルディスにまとわせ、勇者軍の兵士を斬りつけた。
「ぐぎゃあ!」
3人の兵士が倒れ、砂に代わっていく。
「獣牙斬っ!」
ブレゲも剣技を放つ。横一閃の衝撃波が勇者軍を襲う。
「氷の精よ! 貫け! フラッゾ!」
コーネルが魔法のつららで、勇者軍を貫く。
「はぁっ! はぁっ! キリがない!」
俺たちに味方をしてくれている100人の軍と、勇者軍300人が激突してから20分、俺たちは先の見えない戦いを続けていた。
「ブレゲ! 戦況は?」
「よくないわね! 士気はこちらが上回ってるけど、数が違いすぎるわ。このままじゃじり貧よ!」
「そうか……。何か策はあるか?」
「この乱戦じゃ、指揮命令なんか届かない……!各部隊の判断にゆだねるしか……」
勇者軍の防御は想像以上に硬い。俺達はなかなか切り込めずにいた。
「ぎゃああ!」
「ごああ!」
その時、勇者兵たちがはじけ飛んだ!
「あれは……!」
ディウルスの騎馬隊だ!
長い槍を装備した三十騎ほどの騎馬隊が、勇者軍たちを蹴散らしていく。
ディウルスたちが通った後の勇者軍に隙ができていた。
「あそこだ! 押し込め!」
俺は叫んだ。
「うぉぉ!」
聖騎士達とともにそこを叩く。
「なるほど……流石ディウルスね。あの突進力なら、勇者軍に穴を開けることができる。私たちは、その穴を叩く!」
ディウルスは部下と共に風を切って走っていた。
「我々の作戦を瞬時に見抜き、追撃を行うとは。王子の頭もなかなかに冴えておられる。そう思わんか、ハミルトン」
ハミルトンはディウルスの腹心である。
「ハ! しかし、殿の策とあらば成功は必須! 今ごろルクロも悔しがっておるでしょうな! これが、殿のおっしゃられた『策』なのですから!」
「ヤツに目に物見せるは、ここからよ。行くぞ!」
ディウルスの騎馬隊がまた勇者軍に向かって突撃した。
「ギギ! 重装歩兵!! あの裏切り者を止めろ!」
勇者軍の将軍らしき男が叫ぶ。ディウルス達の前に、黒い鎧で身を包んだ大柄な兵士達が立ち塞がった。
「!!」
ディウルスの騎馬隊の勢いは殺され、周りに勇者軍の兵士が群がってきた。
「ぎゃあ!」
何人かの騎馬兵が、勇者軍によって馬から引きずりおろされ、殺された。
「殿! 足を止められました! ここは危険です!」
ハミルトンが叫んでいる。
「案ずるな……よく見てみよ」
ディウルスが指差した方向から、風のような勢いで新たな騎馬隊が突撃してきた。
「どりゃぁぁぁあぁぁ!」
「ぎゃぁぁっ!」
勇者軍の重装歩兵が飛び散る。
現れた別の騎馬隊の男は、異様に大きな右腕に、異様に大きな斧を携えていた。
ムドラズである。
「遅かったですね……兄上」
「何度も言わせるな! 貴様に兄などと言われる筋合いはない! それより足を止めるな! 騎馬隊は疾さこそ命だ!」
ディウルスとムドラズは共に戦場を駆けた。
ムドラズの騎馬隊の一撃で勇者軍の壁に風穴を空け、そこをディウルスの騎馬隊が貫き通した。
まるで、2匹の竜が合わさり、1匹の大龍になったかのようだった。
「と、止められねぇ!」
「コイツら! 強い!」
勇者軍の重装歩兵も歯が立たなかった。
「はははっ! さすが我らが殿です! 殿に勝てる将軍はおりますまい!」
馬で駆けながら、ハミルトンが嬉しそうに言う。
「何を……我らの将軍が手助けせねば、全滅しておったくせに。ムドラズ様こそ、最強の将軍よ」
ムドラズの腹心、リハンも馬上から反論した。
「それも含めて殿の策なのがわからんか!? 突進しか能のない猪め!」
「何だと!?」
「貴様ら黙らんか!! 戦の途中だ!」
ムドラズが一喝する。
「兄上そっくりではないですか。兄上の部下たちは」
「貴様の口の悪さも、部隊にうつっておるようだな」
「それは、どうも」
今まで憎しみあい、幾度も戦場で相まみえてきた二人が、初めて共に戦う道を選んだ。
そして、初めてとは思えないほど、両軍の息は合っていた。まさに兄弟のような、阿吽の呼吸であった。
徐々に、戦況が傾き始めていた。




