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第二話「正義のために」

「父が……死んだ?」


「ええ。その通りです、王子」


 突然の報告に頭がおかしくなりそうだ。

 俺の父、アストリアス12世が亡くなったと騎士団長ヨナスから報告があった。


「意味がわからないぞ、ヨナス……。 それは本当なのか? 何故父が死ぬなんてことになる? 帝国の残党にやられたのか?」


「いいえ、違います」


 ヨナスは表情を崩さずに言った。

 彼女は性別ではなく能力で引き立てた父に感謝しているはずだが、この報告に動揺がない。


 ――まさか。


「討ったのは勇者ルクロ。そして、死霊術師の血を根絶やしにするためにあなたを討ちます、アスト王子」


 ヨナスは剣を引き抜いて、俺の眼前にそれを突きつける。

 その剣は王家の信頼を受けたものに与えられる宝剣だ。


 それが王家の人間に向けられるなど、前代未聞に違いない。


「……今更それを言うのか? 父も、俺も、それを使って何かをしたことはないはずだ」


 しかも死霊術師だと? 今更すぎる理由だ。ヨナスだって知っているだろうに。


「今後もそれを誓えますか? 何か緊急時があったとしても、絶対に禁術を使わないと」


「……それは」


 強く言われると……絶対とは言い切れない。

 例えばシルヴィアに命の危機が迫った時、使わないかと言われればそれは、約束できない。


「言えないでしょう? その力は悪の根源とも言える力です。なら、勇者の名の元にそれを根絶することが正義の道でしょう」


 ヨナスは力強く正義の言う言葉を口にする。


「根絶、か……」


 騎士団長であるヨナスは裏切りと言う言葉からは程遠い人物だと思っていた。

 帝国との戦いでも最前線で最後まで戦い抜き、俺の剣の指導者でもあった。


 だから、この状況がまだ受け入れられていない。


「何故、裏切った?」


 何とか絞り出した言葉がそれだった。


「裏切った……いえ。裏切っていたのはあなた方です。死霊術師、かつて魔王の眷属だった者の末裔だと知っていれば、私はあなた達に仕えなかった」


 これは本当なのか。ヨナスは死霊術師のことは知っていたはずなのに。

 何なんだ、これは……。


「……」


 しかし、魔王の眷属という言葉には否定が出来ない言葉でもあった。

 先祖が魔王の眷属だったと言うのは何百年前の話だ。


 だが、帝国を統べる皇帝も魔王の眷属の血を継いでいたらしい。

 だから、帝国は魔王がかつて夢見た世界征服をやろうとしていると言うのが一般認識だった。


 ヨナス、そして勇者はそんなことを疑っているのか……?


「では、アストリウス13世。ここで、あなたの首をもらいます」


 まずい!


 気がついたら、俺の鼻先にヨナスの宝剣がかすめる。


 俺はとっさにヨナスの迷いのない斬撃をかわすことが出来た。

 あれをまともに浴びていたら、俺の首は確実に落ちていただろう。

 

「抵抗、するのですね」


「当たり前だ!」


 こんな訳のわからない状況で死ねるわけがない。


「ならば、斬り伏せましょう。あなたの父を勇者が斬りつけたように」


「それをやるのか。どうにもならないのか……!」


 俺はヨナスにこんなことをするのをやめてほしかった。

 だが、そんな感情は無意味だ、と言わんばかりに剣を振るヨナス。



「ヨナス。お前は俺を本当に斬るつもりか……!」


 俺の言葉にヨナスは止まった。

 まだ、話を聞いてくれるのだろうか。


「ええ。正義のために」


「正義だと? 何で、そんな凶行に手を貸す!」


「勇者は……私を救ってくれました。あの地獄の戦場の中で。それが全てです!」


「地獄……」


 ヨナスが戦っていたのは帝国の最前線。

 一番槍を任せていたヨナスが破れ、そこをルクロが助けたとは聞いていたが……。


「だが、お前の持っているその剣は、我が父アストレアス12世の信頼を勝ち得た証として得た物だ」


「それは……」


 ヨナスはあからさまに動揺した。


「我が父アストレアス12世から譲り受けたその剣でアストレアス13世を斬るのか……?」


「……う。私は……」


 剣が、落ちた。

 俺はすぐにその剣を拾い、自分の部屋を出る。

 騎士団長のヨナスは追ってはこなかった。


「何だ、これは……」


 俺の眼前に見えるのは地獄だった。

 使用人、兵士に、侍女やその子どもまでも。


 全員、死んでいる。

 いや、斬り殺されていた。


 ヨナス……かと思ったが、あの女から取り戻した宝剣には血がついていない。


「なら……」


 誰が、と思ったが、心当たりはルクロしかいない。


 玉座に向かおうとしたところで、気づいた。


 見覚えのある白いドレス……それが真っ赤に染まっているのを。


「シル……ヴィア……?」


 違っていてくれと願いながら、俺は声をかける。


「お……にい……さ……?」


 シルヴィアの体は血に塗れていた。

 誰がどう見ても助からない。


「シルヴィア……」


 この現実を受け入れたくはないと脳が拒否する。

 ただ、どうしてもわかってしまう。


 眼の前にいるのはシルヴィアだと。


「うわ……あああああああ!!」


 現実に気づいた時。

 俺はこの場から逃げるように走り去っていた。

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