二十四話「シルヴィアの行方とアストの希望」
「では王子、私がお相手させていただきます。私はあなたと違い生身です。お手柔らかに」
「生身だって? そんな腕をつけておいて、よくそんなことが言えるな」
あの腕はどう見ても、魔王の腕だ。
ムドラズは右だったが、ディウルスは左腕……。
やはりこの男は魔王を調べていたのか。
「お手柔らかにとはひどくないか? 裏切り者に手を抜けって、ディウルス。お前はそう言うんだな」
「裏切りとは……何を持って裏切りと言うのでしょう」
「王国軍を裏切って、勇者軍に付いたことだろう」
「確かにそうでしょう。ですが聞いていませんか?」
「何のことだよ?」
「ムドラズにですよ。あの男が私に監視をつけていないはずがない」
監視。そういえばそうだ。
この男、俺を前にしても特に動揺はなかった。
ムドラズがディウルスに監視をつけているのなら、その逆も確実にある。
「私は今誰を守っているのか、それが分からないあなたではないはずです」
ディウルスの言う誰、と言うのは間違いなくシルヴィアのことだろう。
「……お前」
だが何故、それをはっきり言わないのか。
気にはなるが、俺はそのまま会話を続けた。
「仮にそうだったとしてどうして俺に剣を向けるんだ」
「そうよ。おかしいじゃない?」
ブレゲが会話を挟んでくる。
「本当にあなたはアストの味方というならここで敵対する意味はないはずよ」
「意味は私が決めます。あなた方ではない」
ディウルスの言葉には誰の言うことも聞かない。そんな意志が感じられる。
「だからこそお相手願いたい、王子」
「そこまで言うなら相手をしてやる。死んでも文句を言うなよ」
「面白いことを言いますね王子。死んだら文句は言えません。それはあなたでも同じことですよ」
「言うな! 腕だけで勝てるものか!」
「それはやってみてから判断してもらいたい……!」
ディウルスから風が迸る。
「ヒューゲリオス!」
強烈な風圧が俺達に叩きつけられる。
とっさに俺は防御したが、その攻撃自体は俺達3人が対象だった。
「お前、まさか……3人全員とやる気か!」
「当然。ここにいるのは、敵が3人……ならば、やらねばならないでしょう」
敵と来たか。やる気なら、迎え撃つまで。
それはブレゲとコーネルも同じだった。
「舐められたものね。だったら、私達も加勢するわ」
「そうですね。襲ってくると言うなら、迎え撃たなければなりません……!」
「それでこそ。いざ尋常に……!」
ディウルスは飛び上がり、左腕を俺達に向ける。
「させるか!」
炸裂する閃光。だが、それはムドラズが使っていたことで見ている。
俺はその閃光を手で受け止めて握りつぶした。
そして、降りてきたディウルスの左腕を掴み、握りつぶそうと力を入れる。
「どうする? 諦めるか?」
「まだですよ……王子……!」
ディウルスはヤケになったのか、左腕に魔力を集めている。
そして、誰もいない方向に閃光を放つ。
「何を……?」
状況の理解が出来なかった。
だが、閃光の先にいたのは知らない男だった。
「なんだコイツは……」
「……この人は恐らく、勇者軍です。ほら」
コーネルが指をさす。
男の胸元にはよくわからないエンブレムがある。
言われてみれば、こんなものをキワストもつけていた。
「この者はルクロの監視です」
「監視……?」
「ええ。そもそも人間ではありません」
ディウルスが言うと、男は砂になって消えた。
ルクロは最近では、人間のような物を操って監視をさせているらしい。
人間が信じられないのでしょうね、とディウルスが皮肉をこめて言った。
「戦っていると見せかけて倒すつもりでした。それを始末した以上、今ここで我々のこの会話を遮られるものはいません」
「わざわざそんなことをする意味があるのか。俺と話すなら最初から堂々とやればよかったんじゃないのか」
「確かに王子の言うとおりでしょう。ですが、私はあなたが本当にルクロと対抗できるのかと、確かめる必要もありました」
「そんなことをする権限があなたにあるの?」
ブレゲは明らかにディウルスを疑っている。
それはコーネルも同じようだった。
「おこがましいことは分かっています。ですが。あの勇者は性格的にも理不尽です。それはもうよくご存知のはずですが」
「それは……そうですね」
コーネルは思い出すかのように目をつぶってつぶやいた。
「私の目的は王国復興です。だからこそ……シルヴィア様を保護しています」
「やはりお前が……」
シルヴィアはこの男のもとにいる。
「生きているのか、シルヴィアは? 今どこにいるんだ!」
「それは、言えません。これは勇者どのにも秘密にしていますから」
「何……。なら、どういうつもりでシルヴィアを……。無事なんだろうな!」
「ええ」
「シルヴィアを何かに利用するつもりか?」
「もちろんです」
ディウルスは隠さずに言った。
王国復興のシンボルにするつもりで、シルヴィアを保護したと。
もっとも、俺が生きているとわかってから、路線を変えたらしい。
「……だったら俺がお前の目算に見合わなかったらその時はどうなってたんだ?」
「もし私が勝つようなことがあれば、そのままルクロに首を持って行っていたでしょう。その方が私もルクロに信頼されやすい。クーデターが起こしやすくなりますからね」
「……なるほどな」
相変わらず打算的な男だ。
ただ、元々ディウルスはこんな男だった。
「ですが、あなたは圧倒的な力を私に見せてくれた。あれなら間違いなくルクロを倒せるでしょう」
……だからこそ油断はできない。
俺を持ち上げてはいるが、この男は野心の塊だ。
「だから改めて」
ディウルスは俺の前にひざまずいた。
「私を臣下として使って頂けないでしょうか?」
どうする。
ここで、斬る方が良いかもしれない。
胡散臭いのはムドラズだけで十分だ。
判断が難しい……。
つい、俺はブレゲを見た。
ブレゲは俺を見て頷く。
構わない、と言うことだろう。
「分かった。ただ、シルヴィアと会わせてくれ。それは絶対条件だ」
……ここで言えるのはこれぐらいだ。
全く、何でこんなに疑わなければならないような奴ばかり仲間になるんだ。
「ありがたい。シルヴィア様との面会はもちろんです。彼女も喜ぶでしょう」
一言。ディウルスは笑顔を見せて立ち上がった。
その笑顔がどういう意味を持つのか、今の俺にはわからない。
「では、私はこれで。今はルクロに対して忠実な部下を演じなければいけませんので」
「分かった。でも、俺たちはこのままルクロを倒しに行く。良いよな?」
「構いません。それでは私はその機会に一番都合のいいタイミングで裏切るだけです」
ですが、とディウルスは言葉を続ける。
「一つだけ懸念点があります。あの男は何度死んでも絶対に蘇ります」
「なんだそれは」
「侍女が見ていたそうですが、光の柱からルクロが現れて誰かに叫んでいたらしいですね。もっと強くしろと」
「それだけで絶対に蘇る、と言うのは根拠が薄いんじゃない?」
ブレゲが疑問をぶつける。
「無論、それだけではありません。彼は何度か、自分で自分を殺しているのですよ」
「何……?」
「その現場は私も確認しています。そして、強くなって復活する」
「……まるで不死者じゃないですか。もしそうなら、倒しようがないってことですよね……」
コーネルが苦しそうに発言する。
でもそうだ。
ようやく強くなったって言うのに、復活し続けるなら倒しようがない。
しかも復活の度に強くなる。
「でも言われてみれば心当たりはあるわ。最初あなたは魔王を使って戦った時、間違いなく死んでたはずよ」
「確かにそうですね。なのに、あの男は普通にまた現れた……」
そうだ。あいつの言うブレイブカイザー……力を得て帰ってきた。
「もしそうだったらどうやっても勝てないじゃないか……」
「そうですね。そして復活するたびに力を手に入れて戻ってくる」
「だったら更にこっちが強くなればいいんじゃないのか?」
今回の俺のようにだ。
「それではイタチごっこが続くだけです。それにもしこちらが力を上げられなければそれで終わりですよ」
「だったらどうやって倒せって言うの?」
「封印魔法、ヴォルハン……。私はそれしかないと考えています」
ヴォルハン……?
聞き慣れない言葉だが、倒せないならそれしかないとディウルスは言う。
俺は知らなかったが、ブレゲとコーネルには心当たりがありそうだった。




