第二十二話「アストの覚醒」
「さて、魔力はどうやってあげると思う?」
昨日から1日が経ち、最初の修行が始まった時にブレゲが言った。
「ん……座禅を組んだり、滝に打たれたりか?」
「まあ、そういう人もいるけど、それ自体が魔力の本質とは言えないわね」
「本質とは?」
「集中力よ。魔法とは、結局自分の意識が具現化した物。炎術なら「燃えろ」と意識したり、氷術なら「凍れ」と意識したり。つまり、その意識の源が集中力なの」
「つまり、思い込むだけ?」
「ある意味ね」
「それで魔力が上がるのか?」
俺は半信半疑で聞いた。
「そう思っているうちは、魔力はあげられない。本来意志の力は強大なものよ。集中力を増して、ひたすらに意識を針のように尖らせるの。その力が、魔力」
「ならば結局は、松明を睨んで、「燃えろ」と念じるのか?」
「そういうことになるわね。ただ……」
ブレゲヒュッテはミスリルの剣を抜いた。
「その集中力はどんな時にでもとぎらせてはいけない」
「ブレゲ? ……何をする気だ……!?」
「今からあなたに本気で斬りかかるわ。それを躱しながら、松明に集中しなさい」
無理に決まって…!
そう思うやいなや、ブレゲが斬りかかってきた。
「うわっ!」
すんでのところで、初太刀をかわす。
「安心して! 殺しはしないから!」
「はは……そりゃ安心」
「無駄口!!」
返す刀で腹を狙われた。ギリギリのところで、鞘で受け止める。
「ぐっ!」
コレは…まったく余裕がない。本気になるしかない。
15分後。俺はコーネルに治癒魔法をかけてもらっていた。
「私の攻撃を避けるのに集中力を使いすぎてる! 松明がまったく疎かになってるわ」
「いてて…松明に集中すると、ブレゲの剣を防げないんだよ」
「いい? 集中ってのは、一つのことだけを意識する事じゃないのよ。全てに意識を配りなさい」
「……? いやそれ難しい……」
「あと5分でもう一度!」
ブレゲは背を向けて、剣の素振りをしだした。
「ブレゲさん、厳しいですね」
コーネルが、治癒魔法をかけながら、話しかけてきた。
「あいつなりに、応援してくれてるんだろうけどね。イテテッ」
「ごめんなさい!痛かったですか?」
「大丈夫。ありがとう。なあ、コーネル。コーネルも魔力を高める修行を教会でしたのか?」
「はい、私の時は、蝋燭の火を使いましたけど」
「へぇ、どうやって?」
「たくさん蝋燭が点っている部屋の中で、一本だけ魔法の蝋燭があるんです。それを見つけ出せって」
「そうなのか……。かなり難しそうだね」
「はい、魔法の蝋燭は色も匂いも、普通の蝋燭と同じですから。だから、精神を集中させ、微量な魔力を感じ取らないといけないんです」
「なるほど。しかし、それをクリアするって、コーネルはすごいな」
「私なんかまだまだ……! でも、聖騎士の師である私の母から言われたことが、その時は随分助けになりました」
「何て言われたの?」
「「木を見ず、森を見よ」……です」
「木を見ず、森を見よ……か」
「5分だ!」
ブレゲが叫んだ。
「さっきより随分いいじゃないか!」
ブレゲに言われながら、俺は攻撃を避けていた。と、同時に松明からも意識を逸らしていない。
『木を見ず、森を見よ』
コーネルに言われた言葉が頭の中を反芻していた。
一本の木に囚われては、森は見えない……。
見るのではなく、観る。全体を捉えるのだ。
そう思うと、自分の視界が広くなったような気がして、ブレゲの動きがよく見えた。
イケる……!
そう心の中で呟いた瞬間。
「あっ!」
松明から煙が出ていた。
「やった!!……グァっ!!!」
「無駄口!!」
再びブレゲの剣が、腹に食い込んだ。
翌日、俺は集中を完全に物にしていた。
ブレゲに昨日のような余裕の表情はない。
ブレゲも必死だ。
「くっ!」
しかし、俺はその太刀筋を難なく躱す。
まるで、鳥の羽のようだった。無駄に力を込めなくとも、最小限の力で躱せる。
こんな感覚は初めてだった。
意識を一つのものに向けるな。
全てに気を配り、そして心静かに、観る。
はっきり見える。ブレゲの動きも。表情も。向こうにいるコーネルも。今まさに落ちている木の葉さえも。
ああ、とても静かだ。
…これが、集中。
ボウッ!!!
勢いよく、松明が燃えた。
「!!!やったか!」
ブレゲが剣を止め、コーネルが駆け寄ってきた。
「やりましたね!アストさん!」
「ああ。ありがとう2人とも。君たちのおかげだ。」
「驚いた……。多分あなた、魔力だけじゃなく、全てのレベルが上がってるわ」
珍しくブレゲが褒めてくれる。
「さて……」
松明が赤々と燃えている。
「この状態で1時間だな」
俺がそう言った瞬間、
「もう1時間もいらぬわ。見ればわかる」
いつの間にか、エイフェがいた。
「初めはどうなることかと思ったがな。どうやら、それなりの力はあるようじゃ」
エイフェは少し微笑んでいる。笑った顔は初めて見た。
「この松明をつけることが、俺への修行だったわけですね」
「そんな大層なものではないわ。その松明の火をつける事すらできんヤツに、手を貸したくなかっただけよ。まぁ、貴様はようやく及第点、と言うところかの」
「ふん、素直じゃないわね」
ブレゲがニヤリとした。
どの口が言うんだ!
喉まで出かけた言葉を飲み込む。
「さ、今日は日も暮れる。どうじゃ?ワシの家で飯でも食べていかんか?ここにきて数日、屋根の下で寝取らんだろう」
あのエイフェから意外な言葉が出た。そしてそれは願ってもない事だった。俺たちは久しぶりに暖かい暖炉の前で食事をし、ベッドで眠った。
翌朝、エイフェが見送りに来てくれた。
「エイフェさんありがとうございました」
コーネルが深々と頭を下げた。
「助かったわ、ありがとう」
ブレゲも礼を言った。
「本当にありがとうございました。エイフェさん、これできっとルクロを倒せる。世の中に平和もたらす事、約束します」
シルヴィアの事はずっと頭から離れない。
でも今は、ルクロを止める。
そう決めたのだ。
「また、気が向いたらここに来るが良い。手を貸してやろう。気が向いたら、な」
エイフェはニヤリと笑った。
エイフェが呪文を唱えると、エイフェンガーデンの景色が徐々に光に包まれ、そして俺たちはあの森の入り口に立っていた。
「ふぅ……。みんな、行こうか」
確実に強くなっている感覚があった。
待ってろルクロ……!
その時、こちらに近づいてくる一行がいた。




