第二十一話「ブレゲの洞察」
「ただの…松明ね」
ブレゲヒュッテが言う。
「一体それと条件と、何の関係が?」
煌々と燃えさかる松明を持ったままエイフェが言う。
「貴様らはルクロを倒したい。それには、魔王を強くする必要があるのじゃろう」
「そうです」
「ワシはな、魔王を強くすることができるのじゃ」
「ええっ!?」
「ま、厳密に言えば、魔王そのものを強くするのではないがな。魔王の強さというのは、乗り手の魔力によって左右されるのは知っておろうな」
「……そうなの?」
俺は一応コーネルに聞いてみた。
「わ、私は知りません……」
「まったく貴様らは…。今までよく生きておられたの。仕方ない。魔王についてワシが知っておる事を、話してやろう」
エイフェは丁寧に魔王について話し始めた。魔王は古代の兵器だった可能性があること。乗り手によって姿が変わること。一度乗った人物は「契約」とみなされ、自分専用の魔王となること。
「ワシは、長年魔王について調べてきたが、乗り手の魔力を高めることが、強さを上げる唯一の方法なのじゃ」
「そうか!じゃその魔力をエイフェさんのお力で高めてくれるんですね?」
「貴様は人の話を途中で遮る癖があるようじゃな」
「あ……すみません……」
「それをするための条件じゃろうが」
そう言ってエイフェは、火のついた松明をアストに差し出した。
「この松明の火を1時間消さずにおれたら、魔力を上げてやろう」
「ただし、松明は貴様が持つのだ。アストレアス13世」
「はぁ…」
そんなことでいいのか?と思いつつ、松明を受け取った瞬間。
「あっ!」
火が消えた。
「今さっきまであんなに燃えてたのに……」
「ったく、しょうがないわね。ちゃんと持ってなさいよ! 炎よ!マグニ!」
ブレゲが手から炎を出し、松明に浴びせた。
「うわっ!」
それでも松明には火はつかない。それどころか、ブレゲの炎を受けても焦げ目ひとつつかない。
「何なの……コレ」
「貴様ら、ワシの家の中でそんな魔法を使うな!」
俺たちは追い出されてしまった。
松明が1時間消さずにいればまた会ってやると言い残し、エイフェは扉に鍵をかけてしまった。
「1時間消さないどころか、まず火をつけないと」
それから俺たちは、ありとあらゆる方法を試した。
ブレゲの炎の魔法を使ってみたり、焚き火を起こしてその中に松明を投げ込んでみたりした。しかし、どれも効果はなかった。
数時間後、俺が松明を木片にこすり付け、摩擦で火を起こそうとしていた時だった。
「くぅ……腕が疲れたな……」
「アストさん、もう1時間もこすってますからね。私が代わりにやります」
コーネルが手を差し伸べてくる。
「ダメよ、松明はアストが持つって言われたでしょ?」
ブレゲがそう言った瞬間、俺はコーネルに松明を渡してしまった。
「あっ、そうか。ごめんコーネル。松明返してくれないか?」
「アストさん……コレ……」
コーネルが持っていた松明から、一筋の煙が出ていた。
「今まで何も起こらなかったのに!」
「どどど、どうしましょう?」
コーネルは松明を持ったままおどおどしている。
「とにかく俺に渡して!」
受け取った瞬間。また煙が消えた。
「え……何で?」
ブレゲがじっと見つめて言った。
「アスト、それ、貸してみなさい」
ブレゲにも渡してみると、コーネルの時と同じように煙が出てきた。
しかし、コーネルの時と比べて煙の量が少ない。
「わっ!煙ですね!」
コーネルがはしゃぐ。
「何となくわかったわ」
ブレゲは俺に松明を投げてよこした。
「わかったって、何が?」
「ここからは私の仮説よ。その松明は物理現象で燃えるものではない。それは今までの試行錯誤からわかっている。つまり、何か魔法のようなもので作られたものね」
「そして、私とコーネルは、燃えるまではいかなかったけど、煙が出た。つまり、人によって差がある「何か」がきっかけで燃えるものだと推測できるわ」
「なるほど、じゃあ、その「何か」ってのは?」
「私が思うに、それこそが魔力よ」
「じゃあ、俺には魔力がないってことなのか?」
「ないのではなく、足りないのよ。思い出して、魔王の強さは乗り手の何に左右されたのか」
「魔力か!」
「そう、そしてあの魔王はあなたにしか操れない。つまり、この「火を絶やさない」という条件は、そのままあなたにとっての修行なのよ」
「……そう言うことか」
「それならば、松明をアストさんが持たねばならないって、エイフェさんが言ったのも、アストさんを鍛えるため……」
コーネルが言った。
「なるほどね……皮肉だな。一番魔力が必要な俺が、一番魔力が低いなんて」
「まあ、私やコーネルは教会でそれなりに魔力を鍛えてきたから。それに関してはあなたより一日の長があるわ」
「なら、頼む。俺に魔力の鍛え方を教えてくれ」
「もちろんそのつもりよ、王子様。ただ……」
ブレゲは魔導師がいる小屋を見て、不敵な笑いを浮かべる。
「そういうことを何も言わずに、松明だけ渡すなんて、あの魔導師、やってくれるわね」
3人の姿を透視能力で見ていたエイフェが呟く。
「やっと気づいたか。こりゃ前途多難じゃの」




