第十九話「エイフェンガーデン」
「ここが、エイフェンガーデン……?」
丸一日掛かって、俺たちはムドラズの言う場所に着いた。
そこは想像以上に深い森だった。
昼というのに、全く日の光が入らない。
「どう見ても、ガーデンって見た目じゃないわね」
巨大な木々が視界を覆っている。時々光って見えるのは、動物達の眼だろうか。
「で、どうするの王子様?」
お手上げといった感じでブレゲヒュッテが言う。魔女というくらいだから、おそらく一筋縄では会ってくれないだろう。
「よし……」
俺は近くにあった腰くらいの高さの岩に上り、そして大声で言った。
「我が名はアストレアス13世! 世を乱す勇者を討伐せんがため、そして世に平和をもたらさんがため、魔女エイフェ殿のお力をたまわりに参上しました!」
俺は王子としての素性を明かし、魔女に最大限の敬意を示そうとした。魔女が味方してくれる可能性が少しでも上がるかもしれないと思ったからだ。
「ちょっ! あなたバカ? そんなので見つかるわけ……」
ブレゲヒュッテがいい終わらないうちに、あたりに緑の炎が、いくつも灯る。
「きゃっ!」
コーネルが尻餅をついた。
『あのアストレアスの子孫とな……?』
突然声が鳴り響いた。
どこから聞こえるのかはわからない。まるで森全体が話しかけているようだった。
「アスト、あなたこのこと知ってたの?」
ブレゲが警戒しながら小声で言う。
「まさか。この方法しか思いつかなかっただけだよ」
「あきれた……」
俺はブレゲに微笑んで、森に向かってもう一度叫んだ。
「いかにも! 私は13代続くリーラテトラス王国の正当な後継者だ!」
『ほう。13代。しかし貴様は、命を落としたと聞いたが……?』
魔女は、俺の事を知っていた。魔女だというが、世間の情勢はある程度わかっているのだろうか。
「それはちがう! 私は3年間、地下に幽閉されていた。それを、この仲間達に救ってもらった。……そして勇者ルクロの所業を知った。ヤツを野放しには出来ない! ヤツを倒し、平和を勝ち取ってみせる」
森全体から笑い声が響き渡る。
『クックック……貴様は魔の血筋であろう。その力で平和をもたらすだと……?』
この声の主は俺の血筋を知っているらしい。しかし、俺は血筋が全てだと思ったことはなかった。
「その通りだ。人の天命は血によっては決まるものではない。魔の血であろうと、我が意思には及ばない。我が意志を持って、必ず平和をもたらすことを約束する」
『小僧めが……ほざきよる』
「そのためには貴殿のお力を貸して欲しい! 魔女エイフェのお力を」
この魔女にはおそらくおべっかは通用しない。ならば、本気で頼むまでだ。
数秒の間があったのち、声が言った。
『面白い……。しかし、魔女と呼ばるのは心外である。我は大魔導師エイフェじゃ』
『覚悟があるのならば、答えるが良い』
通じた!
ブレゲとコーネルの方に視線を送る。二人は静かにうなづいた。
「覚悟はある!」
その瞬間、緑の光が広がり、俺たちを包み込んだ。
目を開けると、そこに禍々しい森の姿はない。広い草原に俺たちは立っていた。
小さい川が流れていて、とてものどかな場所だ。
「ここは……? 魔女に連れてこられたのか?」
「……わからないわ」
「ここが本当のエイフェンガーデンってことでしょうか……?」
草原の中にただ一つ小さい家があり、中から声が聞こえてきた。
「おう、主ら、こっちじゃ」
「何か、呼んでますね……」
コーネルが怖がりながら言う。
「ついに魔女とのご対面ね」
反対にブレゲヒュッテは嬉しそうだ。
扉を開けると、なんて事のない普通の民家だった。しかし……。
「ん?誰もいない?」
「こっちじゃ。どこを見ておる」
声がした方を見ると、俺の腰ぐらいの高さの少女がいた。
「ああ、これ君のおうち? エイフェって人、いるかな?」
「ほざくな。ワシがエイフェじゃ」
どう見ても12、3歳の少女は、自らをエイフェと名乗った。




