第十七話「道標」
「これが勇者に従った者の末路、か……」
ムドラズはまだ生きていた。
その視線には燃え盛る街があった。
勇者に降ってもただの面白半分で殺されてしまうこの現実。
そんな物が何故勇者なのか、ムドラズには納得は出来なかった。
魔王と勇者の激突の後、力尽きたのかルクロの巨人はどこかに消えた。
そのおかげで何とか生き延びることが出来たのだが……。
ヴォルグドハイム領はルクロのブレイブカイザーの攻撃でまだ燃え盛っている。
部下達が必死に消火活動を行っているが、その火を見て、やはり奴は異常だと改めて思った。
勇者を始めてみた時、あの男は顔が腹が立つと言いながら、帝国の民を殺していた。
気に食わないと言うだけで人を殺すその姿を見て、これは世間で言われている勇者ではないことにムドラズも感づいた。
そして、自分を認める者だけは重宝する。
そこに能力のあるなしは全く関係ない。
であれば。
「……」
自分もそれに乗るしか道はないと考えた。
だからこそ、裏切り者の汚名を被ってでも生き残り、勇者に近づいて倒す方法を模索したのだった。
ただ、それをやったとしても、今……眼の前に広がる地獄は作り出される。
「……おのれ」
ムドラズは失った右眼を抑える。
本来なら、無くさなくて良いもののはずだった。
ブレゲヒュッテの信頼もそうだ。
もし、ブレゲと勇者の元に降っていたら、ブレゲを后にすることを要求されただろう。
実際にその話はあった。
娘を寄越せ、と。
「馬鹿馬鹿しい」
今でもムドラズは思う。
あり得ない要求だと。
更に言えば、それをしてもブレゲは一生、国を裏切った勇者の后と言うのがついて回るだろう。
だからこそ、ムドラズはブレゲとは相談せず裏切りに踏み切った。
勇者に売り渡すぐらいなら、最悪は帝国で野垂れ死んでも構わんと思っていたが、ブレゲは生きていてくれたので、
姿を見た時は、ムドラズとしては胸をなでおろしていた。
「……む」
魔王と勇者が激突した場所から少し離れたところにルクロが倒れているのを、ムドラズは見つけた。
最後に勇者側が放った閃光は恐らく、最後の力を振り絞ったのだろう。
「うう……」
「ほう、まだ生きておるか」
虫の息。その言葉が似合うほど、ルクロには力がなかった。
ここで、やれる。
ムドラズはその姿を見て確信した。
「……フン」
静かに剣を抜く。
そして、ムドラズは少しずつルクロに近づいていった。
「お、お前! 確か将軍だな。早く僕を」
助けろ。その言葉より早くムドラズが剣を振り下ろしていた。
「あぎゃああああ!!」
その剣はルクロの左肩にめり込んでいた。
あまりの痛みにルクロが叫ぶ。
「やかましい。貴様など、叫ぶ資格すらないわ」
「うう! うううう!!」
勇者が醜く唸りだす。
そして、
「ヒューゲリオスううう!!」
「ぐっ……!」
強烈な風で吹き飛ばされるムドラズ。
地面に叩きつけられた後、次の攻撃に備えて構えるムドラズだが、
そこには既にルクロはいなかった。
――逃したか。
「大丈夫ですか……!」
ルクロと入れ違いにムドラズの前に現れたのは、コーネルだった。
「問題はない。ワシは生きておる」
王子は? と聞くムドラズにコーネルは「ブレゲが介抱している」と答えた。
「王子は力尽きただけで、今は眠ってるだけです。問題はなさそうですね」
「ほう。流石に魔王の適合者だけあるな」
「適合者?」
「……忘れろ。そんなことより、次の行動であるが」
完全に裏切りをルクロに認知されたムドラズはどう考えても、ルクロの復讐対象になる。
その状況に置かれたムドラズに出来ることは一つしかない。
「ワシは姿をくらましながら、部下達と応戦する。お前達は……」
王子達はどうしたら良いのか。
「もし、アテがないなら、この地図を持っていけ」
「……これは?」
「万が一に備えての、ワシの地図だ」
コーネルは怪しみながら、その地図を見た。
そこには商業都市と呼ばれる場所を経由して、森に辿り着くルートが書かれている。
そして、その森には『エイフェンガーデン』の文字がある。
コーネルはどこかで聞いた名前だ、と思ったが、思い出せなかった。
「エイフェ……と言う魔女。教会にいたお主なら知っているだろう」
「ええ……。噂だけは。実際に存在しているのですか?」
「そうだ。その力を借り受けるのが良いだろう。ワシの名を出せばとりあえずは話ぐらいは聞いてくれるはずよ」
「魔女……」
「抵抗がありそうだな、聖騎士」
「……それは」
「今更よ。既に魔王の力を借り受けているのであれば、今更魔女の力を借りても抵抗はあるまい」
コーネルは納得がいかないと言いたそうな顔だったが、ブレゲ達に伝えます、と言って去っていった。
ムドラズはコーネルの後ろ姿を見送った後、勇者城の方向を見る。
どこまで、ムドラズ、普通の人間の部隊が勇者に抵抗出来るのか。
しがらみが一切なく戦えるムドラズには戦の血が滾っていた。




