第十五話「勇者再来」
俺達は領主館でムドラズの部下達の歓待を受けて、ようやく休めることが出来た。
右眼をくり抜いた後だと言うのに、ムドラズは何事もなかったかのように俺に接してくる。
流石だとは思ったが……。
3回も裏切りをこなす人間だ。信用は出来ない。
そんな警戒心も久しぶりのベッドに寝転んだら、少しずつ無くなっていった。
人間に戻ってようやく、取り戻した睡眠と食事。
そんな状態が2日続いた後、俺はムドラズに呼び出されていた。
「何の話だ、ムドラズ」
「すいませんな、王子。話をしたいことがありましてな」
「……右眼は良いのか」
「ええ。そろそろ眼帯にも慣れてきたところです」
あの後、傷ついた右眼を必死にコーネルが治療した。
元には戻らなかったみたいだが、構わないとムドラズは静かに言った。
「本当はブレゲもこの場に呼んだのですが……話す気はないと断られましてな」
「当たり前だろう。裏切りが多すぎるんだよ、お前は」
「……部下が生きる世界を作りたいと言うのは本心ですがね」
「それは……わかる」
ムドラズの部下……腹心のリハンと話したが、ムドラズのことを全く悪く言わなかった。
助けてほしい、信じてほしいと頭を下げられてしまったぐらいだ。
実際にムドラズが信じられるかどうかはわからない。
ただ、部下達は心の底からムドラズを信じている。
「それで……勇者を倒す力。魔王のことなのですがね」
「魔王……ああ。あれは俺だ」
「……でしょうな」
「知っていたのか?」
「魔王の力……あれは教会を利用して、私がブレゲに探させたのですよ」
「え……?」
元々はムドラズがブレゲに依頼していたのか。
「もっとも、本人は知らないでしょうな。教会に密告ということで、手紙を送りつけたのです」
ムドラズは露骨に咳払いをする。
「まずはシルヴィア様の情報ですが……これに関しては、そこまで詳しい情報を持っているわけではありません」
「何だと? あれだけ引っ張っておいてか?」
「申し訳ありませんな。言えることは、シルヴィア様が生きていることと、ディウルスのところに身を寄せていることだけですな」
何故、それがわかったかと言うと、ムドラズはディウルスを倒すために部下に監視をさせているらしい。
そこでシルヴィアの姿を見たそうだ。
「……いや、生きていることがわかっただけでも良い情報だ」
あの血まみれの姿が頭に焼き付いているから、何とも言えなかったが……。
生きているならそれでいい。
ルクロを倒してから、ディウルスのところに出向けば良いだけだ。
「後は……戦力の強化に役立つであろう魔王の情報を渡したいですな」」
それはかなり魅力的だ。
強化出来るに越したことはないからな。
ただ、この男が油断のならない相手なのは間違いない。
一方的に情報を取られないように、慎重に話さないとな。
「……やはりまだ、信用しては下さらないですかな」
「ああ。やっぱり思うよ。裏切られるんじゃないかと」
俺は正直に言った。
ムドラズは怒るでもなく、当然ですなと軽く返した。
「疑うのは当然でしょう。ワシは王が殺された後、即座に勇者軍に寝返りました」
ムドラズは3年前の話をしてくれた。
そもそもが、ルクロが異常に強いことを理解していて、真っ当に戦っては勝てないこと。
そして、勇者を倒すことを常に考えていたこと……。
「だからこそ、ブレゲに調査を任せたのです。まさか魔に染まって来るとは予想外でしたがな」
「それは俺を復活させたからだ……」
「わかっております。ただ、元々聖女なんぞ似合うような娘ではなかった」
「はは……。ブレゲが怒るぞ」
ムドラズと少し笑いあった俺は蘇ってから起こったことをムドラズに説明した。
もちろん、この男が裏切る可能性もまだ十分にあるが、俺達を受け入れている時点で
勇者への反逆行為なのは違いないだろう。
それに、ムドラズと話して、信じても良いと俺は思い始めていた。
「なるほど……。それは興味深いお話ですな」
勇者を退けた話をすると、ムドラズの興味は膨れ上がったようだった。
「力を込めると、骨にガワが作られる……と言うのが、気になるポイントですな。心当たりもある」
「あるのか?」
「ええ。こちらへ」
言われてついていったのは、地下室。
そこまで広いものではなかったが、その先にあったものは見覚えがあるものだった。
「これは……骨か……?」
巨大な骨の腕。
少し形は違うが、デュナミスの物と同じような物なのはわかる。
「やはり、お心当たりがおありで?」
「心当たりしかない。俺はこれで、ルクロを倒した」
「そう、ですか」
ムドラズは満足そうな笑みを浮かべた。
この男はやはり、勇者に忠誠心は全く無い。
「腕だけなのか?」
「ええ、今は。それと王子。ガワの話なのですが……」
そう言うと、ムドラズは腕に手を向ける。
魔力を注いでいるようだった。
そして、骨は俺のデュナミスと同じようにガワを纏っていく。
「これは魔装甲と言う物だそうです。この腕を発掘した時、古い本が見つかりましてね。そこに記載がありました」
「魔装甲……」
そんな名前がついていると言うことは本と言うのは魔王に関する本なのか、と聞くと違うらしい。
「古代文字で書かれていることもあって、完全には読み解けていませんが、どうやら昔に争いがあったそうです」
これはその時の兵器の残骸だと言うことだった。
「なら、俺のデュナミスもそうなのか?」
「そうでしょう。それでは、魔王ではないと言うことになりますね」
「じゃあ、古代兵器ってことか。それを父上は封印していた……?」
「それは……」
ムドラズが答えようとする瞬間、強烈な揺れが俺達を襲った。
「何だ……?」
「一旦出ましょう」
外に出た俺達を待っていたのは、焦っているブレゲだった。
「やっと見つけた……! どこに行ってたの!」
「何があったんだ?」
「ルクロよ。あいつが……魔王みたいなのを操って、領地に攻撃をしてる」
「何……?」
ルクロ。あいつが、先にこちらに来たのか。
何でだ。俺達がここにいるのがバレたのか……!
「あは、あはははは、ハハハハハハ!!」
思い通りに全てが動く。
ルクロは今、楽しみの絶頂にあった。
アストに敗北した時、ルクロは神にねだった。
もっと強い力をよこせ、自分しか使えない最強の力をよこせと。
そして、それが今、ルクロが乗り込んでいる最強の機体。
ルクロは勇者皇帝、ブレイブカイザーと名付けていた。
「さあ、行きなさい! 龍のアギトォ!!」
背中から小さい龍の頭のような物が放出されるとそれ一つ一つが炎を発射する。
威力も高く、ルクロの注文通りになっていた。
何もかもが思い通り。これが理想なんだとルクロは改めて、世界が楽しくなった。
「何だあれ……!」
領主館がある街は火の海になっていた。
そこで、コーネルの姿を見つけた。
「早く! こっちに!」
住民の避難をしているようだ。
「まさかな……。ワシの裏切りを察知したのか、勇者ルクロは」
早すぎる、と呟くムドラズ。
ムドラズは焦りを隠せないようだった。
「いいえ、違うわ。ただ、この領は勇者城に近かった。そして、単にその力を試したかった」
それだけよ、とブレゲは短く切り捨てた。
しかし、あれがルクロの魔王か……。
さっき見た魔装甲で作られた物と違い、全体的に角ばっている。
見た目も、何か異質だ。
まるで、別世界から来たような妙な感覚がする。
「私も避難誘導を手伝ってくる。悪いけど……アスト」
「ああ、あいつは俺が倒す」
何者でも関係ない。
あの勇者は俺がもう一度、潰す。




