第十三話「襲来」
俺は魔王デュナミスを呼び出して、2人を両脇に抱える。
そして、勇者城の方向に向けて魔王を動かした。
デュナミスは空中も受けるらしいが、ブレゲが怖いと言うことで、
地上ギリギリで飛んでいる。
「怖くはないわよ。ただ、慣れていないだけ」
と、本人は言っているが。
「早い、わね! これなら時間を掛けずに辿り着ける……!」
ブレゲは声を出してくれるが、コーネルは必死にしがみついている。
俺はなるべく声をかけないように心がけた。
体感でそこまで時間がかかっていないが、城のシルエットが見えてきた。
「あれが勇者の城……」
金色に輝いているあの城は一体何の意味があるのか。
悪趣味、と言うのが第一印象だ。
「アスト、かわして!」
ブレゲの声で俺は前を見た。
光の球が眼の前に迫っている。
「うわっ……!」
何とかかわした。
視界には鎧を着た騎士が存在した。
全身鎧をつけているから、何者かはわからない。
ただ、騎士にしては妙だ。
「何だあいつ……」
武器が杖だからだ。
騎士なのに、杖を武器にしているなんて妙な話は聞いたことがない。
そうこうしているうちに騎士は杖をこちらに向けている。
あれは、ルクロが使っていた光の柱……。
「まずい、降ろしてアスト!」
事態のまずさを理解してか、ブレゲが叫ぶ。
ブレゲとコーネルが降りた瞬間、光の柱が俺を襲う。
「ルクロと同じ技なら問題はない……!」
ルクロの時と同じように右手で受け止めて握りつぶそうとするが……。
潰れない。
「嘘だろ……!?」
俺が、魔王が押されている。バカな。
「何者だ、コイツ……」
ルクロは魔力量で言えば世界で最強クラスだ。
それは間違いない。
なのに、そのルクロを超えてくるなどありえない。
「はああ!」
ブレゲが騎士の側面から襲いかかる。
闇魔力を拳に集中させて、殴りつけようとしているが……。
「うあっ!」
風魔法……か?
騎士の左手から強烈な暴風が発生して、ブレゲは吹き飛ばされる。
そのスキに背後からコーネルが騎士に槍を振り下ろす。
瞬間、騎士の背後が爆発した。
「時間差の火炎魔法……?」
誰かがそれをやっているのを見たことがある。
だが、威力は桁違いだ。
コーネルはとっさに防御したみたいだが、普通の人間なら再起不能だろう。
「ブレゲ、コーネル! あいつは別格だ。俺がやる! 離れてくれ!」
とっさに叫んだ。
あれは無理だ。人間の限界を超えている。
通常、人間が使える魔法は一種類か、才能があって二種類。
あの騎士は今、炎、風、光と使っている。
その時点で異常だ。
それも全て高レベルで使いこなしていて、勇者を圧倒した俺達を軽くいなしてくる。
「何者だ、この騎士……!」
ともあれ、全力でやらなければまずいのは事実だろう。
「死んでも恨むなよ!」
俺は空いている左手に精神を集中する。
「死の炎を受けろ、騎士!」
まさに獄炎と呼べる黒い炎が騎士に向かって襲いかかる。
流石にかわすだろうと思ってみていたが、奴は飛び上がり、こちらに向かってきた。
そして、杖を短く持ち、先端から光の刃が放出される。
「魔王剣……!」
俺は剣を呼び出した。
相手の斬撃を止めるが、圧力が異常だ。
「嘘だろ……?」
奴は左手を天に掲げ、その手に雷を呼び寄せた。
「天雷……爆砕」
声はくぐもっていてやはり、男か女かはわからない。
しかし、その雷は魔王の右肩に炸裂する。
「ぐぁあ!!」
俺に痛みが走る。
この騎士、間違いない。
この騎士は間違いなく、ルクロを超えている。
あいつの攻撃は一切、通じなかった。
なのに、騎士の攻撃はまともに突き刺さっている。
どうする……?
「空中からやりなさい、デュナミス!」
ブレゲの叫び声が聞こえる。
空中か……!
確かに空中からなら、こちらが一方的に攻撃が出来る。
若干卑怯だが、相手が何者かわからない以上、有利な位置取りは当然だろう。
「はな……れろっ!」
俺は鍔迫り合いをしている剣を下に降ろして、その隙に空中に飛び上がった。
「これなら……」
と、安堵したが、
「嘘だろ……!」
騎士も飛び上がってくる。
とっさに剣で構えるが、騎士は背後に回り込み、光の刃でデュナミスを斬りつけた。
「ぐ……!」
痛みが俺に伝わる。
右足が痛む。
そして、次は左足。
「まずい……これは……!」
ダメだ。
デュナミスは空中に浮いていられなくなった。
地上に着地する。
まだ、足が痛むが、地上での移動には問題はなさそうだ。
「どうする……?」
集中しろ。
俺は小さい相手には慣れているはずじゃないか……!
「ぐ……!」
相手は素早く飛び回り、斬りつけてくる。
俺はその動きを観察した。
少しずつだが、遅くなっている。
そうか、この騎士は空中に浮いている間も魔力を使っているんだな。
「そこだあああっ!」
動きが鈍くなった瞬間を狙って、俺は騎士の側面から魔王剣を叩きつけた。
相手は吹き飛んで、地面に叩きつけられる。
「終わったか……?」
倒れた騎士から光が満ちている。
あれはコーネルが使う治癒術の光だ。
「治癒術まで……使うのか……?」
本当に何者なんだあいつは。
あんな才能がある人間なら、誰も知らないなんておかしい。
治癒によって、怪我が治ったのか騎士はゆっくりと立ち上がる。
そして、俺に背を向けて高速で去っていった。
「……」
ルクロを完全に倒したら、終わりだと思っていた。
もしかして、それだけでは済まないのだろうか……。
「ふう……」
騎士は街から外れた小屋の中に入っていく。
そして、そこには1人の男がいた。
「ディウルス。いつからここに?」
男に質問しながら、騎士は兜を外す。
そこから現れたのは、年端も行かない少女だった。
「貴方をお待ちしていました。仕留めきれなかったようで」
「ええ……。まだ慣れてはいなかったから、ここで仕留めたかったですが」
「それは残念ですね」
「未完成の状態で難しいのなら、他の手を考えなくてはなりません」
「そうですね。私が調べておきましょう」
ディウルスは恭しく頭を下げて、その少女の名前を言う。
「シルヴィア様」
シルヴィアは自分の名前を呼ばれて、ディウルスを冷たい視線で眺めていた。




