第十話「血と決意と咆哮」
「これは……」
俺がこの、骨のような物に乗り込んだ瞬間、光が俺を覆った。
少しずつ、骨を覆うように周りが作られていく。
これは俺の中の魔力なのだろうか。
中にいるので、見た目はわからないが、魔力が増幅されている感覚がある。
骨が巨人になった……のか。
今の自分の状態が確認できないが、恐らく不死者の状態と似ているのだろう。
不死者の時は苦しさもあったが、今は人を捨てずにいられる。
その上で、感じる強烈な力。
恐らく不死者の時とは格が違うのは感覚でわかっていた。
「だから、封印していたのか」
俺が座っている席の前には左右に水晶のような球があった。
これに手を乗せれば、良いのか。
乗せた瞬間、『デュナミス』の名前が浮かんだ。
そして、これの動かし方も理解できる。
しかし、デュナミス……確か、この名前は初代魔王の名前じゃなかったか。
国をも滅ぼす力を持っている人間と戦えるのは、確か魔王しかないかも知れない。
それを封印するのは、当然のことだろう。これが魔王に連なる力なら。
ただ今は……。
「今だけは、使わせてもらう……!」
『登録完了』
「何だ……今の声は……」
一瞬だったから、聞き逃したかも知れない。
妙に無機質な声が俺の耳を通り抜けた。
しかし、視界が異常なぐらいクリアだ。
何故、前が見えているのかは全くわからないが、そこから見えているのは……。
ルクロに嬲られているブレゲヒュッテの姿だった。
「ルクロォオオオ!!」
俺が怒りのままに叫ぶと、巨人が動き出す。
それも操っているであろう俺が理解出来ない速さで。
一瞬で距離を詰め、拳でルクロを殴りつけていた。
「ううわあああ!!」
殆ど不意打ちに近い一撃。
鉄がぶつかる鈍い音が俺の耳に響いた。
「ブレゲヒュッテ! 下がっていろ!」
聞こえているのかいないのか。
まるでわからず、俺は叫んだ。
だが、聞こえていたようでブレゲヒュッテはフラつきながら後ろに下がる。
足が折れているのか、片足でおぼつかない動きをしている。
「最低野郎め……」
ルクロが痛めつけたことは明らかだった。
やはりこの男は勇者の器ではない。
「な、何ですか何ですか!?」
状況が理解出来ないのか、ルクロが俺を困惑気味に見上げている。
「ろ、ロボット?? そんな、この世界にこんなのが?」
ろぼっと。知らない言葉だ。
「いいえ……」
その言葉をブレゲヒュッテは違うと否定する。
「あれが、魔王よ。貴方が勇者だと主張するなら……」
倒してみなさい、とブレゲヒュッテはいつもの笑みを浮かべて言い切った。
「ま、魔王……?」
魔王……。
俺の先祖のどこかに魔王に繋がる誰かがいたと言う話がある。
詳しいことはわからない。
わからないが、その関係からこの力が封印されていたのだろうか。
「いや」
何でもいい。こいつを、勇者を倒せるなら……!
「ビックリしましたが、そんなガラクタ、一瞬で蹴散らしてあげますよ」
「やってみろ、ルクロ」
俺には確信があった。
ルクロの攻撃は一切通用しないと。
「これが帝国を滅ぼした斬撃ですよ、皆さん!」
脳裏に焼き付いて忘れることが出来なかったあの勇者の剣をルクロは、子どもがおもちゃを見せびらかすように振り回す。
その斬撃を何度も、俺の魔王に浴びせるが……。
「それで? それが何だって言うんだ?」
衝撃も何も感じない。
不死者の時とは、明らかに違う。
やはり、これは別格だ。
「効いてない、なんて嘘ですよねえ?」
「見てわからないのか?」
俺からは何の確認も出来ない。
ただ、本当に効いていたら、何かしら反応があるだろう。
本当に何もない。
ルクロの攻撃は本当に効かないということだ。
「く、くそおおおお!!」
何度も斬撃を浴びせてくるが、やはりダメージはない。
俺は拳を叩きつけることをイメージする。
思った瞬間、魔王の右拳がルクロに炸裂する。
「うおおおあああ!!」
質量が違うこともあって、ルクロは吹き飛んだ。
「くそ、何でえええ!」
叶わないと思ったが、ルクロは叫ぶ。
「こうなったら、もう良いです。この地下ごと吹き飛ばしましょうかあ!!」
ルクロは勇者の剣に光を集めている。
「まずいわ……。あれは3年前に帝国を焼き払った閃光……!」
ブレゲヒュッテが不安そうに話す。
「早く! あれを使われる前に潰して!」
「大丈夫だ。俺には効かない」
俺は自然に答えた。
あれでやられる可能性は、ない。
「効かない? ふざけんなよお前えええ!!」
ルクロの選ばれた者だけが持つという勇者の剣。
そこから放たれる一筋の強烈な光。
「死ねええええええええええ!!」
帝国はこれで滅ぼした。
だが、俺は滅びない……!
「それが勇者の言うセリフか!」
俺は右手で光を留める。
そして、そのまま……。
「握りつぶした……!」
コーネルが驚く声が聞こえる。
かなり、周りの声が入るな。この魔王。
「くそ、卑怯だろ! 出てきて戦いなさいよ! 自分だけそんなのズルいでしょ!」
「今更か。散々、勇者の力で世界を引っ掻き回して、ズルいだと?」
「うう、くそ!」
ルクロは一瞬で目の前から消えた。
どこだ、と思ったが、俺の後ろに回り込み、ブレゲヒュッテを捕まえて、俺の正面に戻っていた。
「これで、これでどうですか! アスト王子、あなたにこの女ごと僕を殺せますか!?」
「貴様……!」
「貴方、どこまでも……! 勇者としてのプライドはないの!?」
「はあ? 勇者って言ってるのはあなた達が勝手に言ってるだけですけど?」
「あれだけ勇者の名前を使うだけ使って……!」
どこまでも最低な人間だ。
そして、こいつはそれをためらいなくやるだろう。
このまま、ブレゲヒュッテごとルクロを倒すか、それかこの男の要求を飲むか。
「殺されたくなかったら、さっさとそのロボットから降りて下さい!」
「……わかった」
俺には、ブレゲヒュッテを殺すことなんか出来ない。
「ダメ……! それをするぐらいなら、私ごとやりなさい。アストレアス!」
「あはははは!! これで、僕の勝ちです!」
ルクロの剣から再び光が放たれる。
そして、その光は俺の体を……。
「光壁、展開!」
貫かなかった。
コーネルが槍を変化させて、俺を守っている。
まるで傘のように開いた槍は強固なシールドとなって、俺達を守っていた。
「なっ! 何をしてる!!」
「コーネル……!」
「バカですか! 明確な裏切りですよこれは!」
ルクロがコーネルに罵声を浴びせる。
「もう耐えられません。貴方のような醜い心の持ち主には、付いていけません!」
だが、それに強気で返すコーネル。
その声には迷いは一切なかった。
「何を言ってる! 僕は勇者だぞ、コーパル!」
「私の名は誇り高き聖騎士、コーネル・ラウド! 二度と間違えるな!」
国を滅ぼしたその力を受け止めながら、コーネルは叫ぶ。
「お前えええ!! 僕に」
ルクロは醜くコーネルに叫んでいた。
そして、そのスキを。
「いった!」
ブレゲヒュッテは見逃さない。
左拳を顎に食らわして、その場から離れる。
足を怪我しているから、ルクロの足元に闇魔力を叩きつけ、その反動で離れた。
「今、コーネル!」
「跳ね、返せええええ!!」
ブレゲヒュッテが言った瞬間、コーネルはルクロの光の閃光を跳ね返した。
それがそのまま、ルクロに突き刺さる。
ーー今だ。
俺は魔王の中に再び戻った。
「うううううああ!!」
光を浴びたルクロの鎧はズタズタになっていた。
あれでは、加護が効いているようにはまるで見えない。
「終わりだ、勇者ああ!!」
「ぐうううううえええああ!!」
再び、魔王で拳をルクロに叩きつける。
「来い、俺の剣!」
骨剣を呼び出した時のイメージで俺は剣を呼んだ。
無骨な剣ではあるが、異様な気配を持っている剣だった。
「消えろ、ルクロォオオオオ!!」
「ぎええあああああ!!」
ルクロは剣で防御したが、耐えきれず両断される。
これで終わりだ。
ただ、途中で攻撃が当たっている感触がなくなる。
ルクロは光に包まれ、消えていった。
「やったわね……」
ブレゲヒュッテから安堵の声がする。
「う……」
ブレゲヒュッテが限界なのか、床に座り込む。
俺は魔王から出て、ブレゲヒュッテに駆け寄った。
「大丈夫か、ブレゲヒュッテ!」
ブレゲヒュッテは横たわっていたが、コーネルが治癒術をかけてくれている。
少しずつだが、傷は良くなっているようで、俺は安心した。
「……ええ。でも、本当にあったのね。逆転の手が」
「ああ……。終わったよ」
「いいえ、まだ……だと思います」
コーネルが恐る恐る言った。
「まだって……?」
「勇者……いえ。ルクロがやられる寸前の、あの光は何か違和感がありました。もしかしたら、勇者専用の転移……などかも知れません」
「なら、まだ死んではいないのか」
「……恐らく」
まだルクロは生きている可能性がある。
冗談じゃない。
「問題ないわ。私達は、あの勇者に好きにさせない力を得たのだから」
ブレゲヒュッテは強い口調で言った。
確かにそうだ。
ようやく対抗出来るようになった、と言うのは間違いない。
「そうだな……」
本当に、あれを解き放ってよかったのかと言う疑問はあるが、ルクロに好きにさせているよりかは良い。
魔王……これがそうなら、俺は本当に世界の敵だ。
「コーネル、良かったのか?」
ただ、コーネルはどうするのか。
それが気がかりではあった。
「言ったでしょう。私は誇り高き聖騎士だと」
「そうか……。何の答えにもなってない気がするけど」
「うるさいですね! 良いんです!」
俺は魔王を見上げる。
魔王は、最初の骨のような姿に戻っていた。
そして、光をまとって消えていった。
ただ、何か繋がりのような物は感じる。
またこの力を使うことは可能だろう。
解せないことはあるが、それでも今は勇者ルクロを退けたことの安心に浸りたい。
そう思った。




