プロローグ 「ラスボスで遊ぼう!」(勇者視点)
「よくも俺の国を蹂躙してくれたな、勇者ルクロ」
「蹂躙? 統一の間違いですよアスト王子。そろそろ王になりたいなって思ったんです」
王宮の玉座。
そこで僕はこの国の王子と向かい合っていた。
王子は逃げるかと思ったが、ここで自分の父の亡骸と向かい合っている。
「……そんなお使い感覚で、俺の父を殺したのか?」
「殺したって言うのは語弊がありますね。撃退したの間違いです」
「正当防衛とでも言いたいのか。だったら、何故シルヴィアを……城の者も巻き添えにした!」
「わからない人ですね王子。僕は言ってますよ。王になりたいって」
「ふざけたことを……!」
ふざけたことを言っているのはアスト王子だ。
僕は楽しくこの世界を謳歌したいだけなのに。
「何でこんなことに……ああ」
僕は閃いた。彼はこの世界の、僕のラスボスかも知れない。
「そうか。あなたこそが倒すべき敵だったんですね」
「さっきから訳のわからないことばかり呟くな。貴様はここで潰す」
アスト王子が何か唱えている。
普通の言葉は頭に入るが、呪文となると何を言っているのか聞き取れない。
「現われろ、我が死霊ども!」
アスト王子が叫んだ瞬間、僕の周りには死霊……スケルトンが大量に現れた。
中には赤い光を放つのもいる。あれは危なそうだ。
「禁忌と呼ばれる死霊魔術、ですか。こんなもので僕を倒せるとでも?」
「あいにくこんなものしかないからな。自称勇者が死霊を倒せるか、俺としては見ものだよ」
挑発してくるが、焦っているようにも見える。
当たり前か。僕は国一つ滅ぼしたのだから。
「自称。挑発してスキを狙う作戦ですか? 流石ラスボス! 姑息ですね!」
「ラスボス……? まあいい。ここで仕留めてやるぞ、ルクロ・カルティム!」
僕を取り囲むようにスケルトン達が来るが、無駄だ。
「一閃です!」
僕は腰に下げていた剣を引き抜き、スケルトン達をバラバラにした。
「く……これが勇者か」
「そうですよ? もっとも、この剣はその辺で拾った武器ですけどね」
「バカな! 下らない嘘を!」
「嘘じゃないんですけどね」
本当にその辺で拾ったものだ。
実際に僕専用の武器はある。
ただ、強すぎるから使わない。それだけ。
「そうやって今までも自分を良く見せていたのか? 姑息なのはどちらだ」
『今は挑発して俺に注意を向けさせる。時間を稼いで、強力な死霊を呼び出せれば……』
「フフ……」
アスト王子の心の声が聞こえる。
相手の行動は全て筒抜け。
呼び出すまで待ってもいいが、それも気に入らない。
「挑発には乗りませんよ、王子。ここで終わりです!」
僕は一気に距離を詰める。
そして、鉄の剣を王子に突き刺した。
「ぐ……あ……」
「こんなものですよ。安物の剣ぐらいが貴方にはふさわしいかもですね」
アスト王子は力をなくして、膝をついた。
終わりだ。
「これで次の王は僕ですね。そうそう……」
最後に一言。
「あなたの大事なシルヴィア姫はちゃんと回復させて僕が管理しますから、後悔無しで死んで下さい」
「シルヴィア……?」
お。倒れそうだったアスト王子が立ち上がった。
「お前に……お前ごときに妹を……好きには……」
必死に喋っているが、口から血が吹き出ていてよく聞こえない。
「あのですね、王子」
アスト王子は立ち上がり、自分の体から鉄の剣を引き抜いた。
もう瀕死なのに凄いな。
「僕は勇者ですよ? 平民、商人、貴族、そんなものより全てを超えた者、それが勇者です」
僕は瀕死のアスト王子を蹴りつけた。
倒れ込むが、それでも必死に立ち上がる。
「もういい。俺は……もう……」
「おや? ようやく諦めましたか」
「ああ。諦める」
王子はそう言ったが、眼はそうはいっていない。
心を読もうと試みるが、その前にアスト王子が言った。
「人として生きることは……諦める」
「一体何を……」
アスト王子はそう言うと、傷口に右手を突き刺した。
「何のつもり……」
「オオオオオオオ!!」
周りの死霊の残骸がアスト王子に全て集まっていき、巨大化していく。
「これは……まさか」
第二形態ってことか。
「さすがラスボス。こうでなくっちゃ……!」
僕は興奮していた。
帝国もSS級ダンジョンも、さっきのアスト王子も手応えがなかった。
「やっと面白くなってきましたね……! 王子!」
アスト王子は死霊を完全に取り込んで、人の姿をなくしていた。
3、4メートルはあるだろうか。
色は紅くなり、既に人の時の面影はない。
「それでどうします、王子? まさか武器もなく殴ってきますか?」
「オオオオオオオオ!!」
叫び声で応える王子。
右手には死霊の残骸が姿を変えた巨剣が備わっている。
ちょっと強そうだ。
「良いですね、良いですね! さあ、やりましょう!」
この世界で初めて、そして最後かも知れないワクワクする戦い。
僕はこの時間をずっと留めたいと思いながら、
「オオオオオオアアアアア!!」
最後の剣を振るう。