金の鬣と緑の眼
澄んだ空を朱色の大きな翼が裂く。
北国の空の青は薄く、鳥の朱さには少々釣り合わない。
その背にふたつ人影が見える。
「よかったの?おしごと」
顔は前に向けたまま、背後に向かって大声で尋ねる。
ギリギリ音を拾ったシールは身を乗り出してKに頭を近付ける。
「ヴァイスに任せてきた。偶には逆もいい」
「なるほど」
Kの君主たる姫も、王佐に仕事を丸投げしてよく遊びに出てしまう。
ケテルも似たようなものらしい。
「ウチの国はエリさん居なかったら1ヶ月で滅ぶよ」
姫は帝国に美貌とカリスマしか提供していない。
改めて、国の運営を一人で担う王佐エリザベスに感謝した。
朱い鳥に並ぶように蒼い龍がうねる。
龍も鳥もKとaの召喚獣だ。因みに召喚獣のような存在はセフィロートでは玄獣と呼ばれている。
龍の背にもやはりふたり。こちらにはaとグールが乗っている。
風の強い上空で互いに近寄らない彼らは会話が成立しない。
ただしKとaは耳元のピアスで通話可能だ。
「K、そろそろじゃないか?」
風音と共に通信が入る。
「んーえーあ、あそこ」
そして、奇妙なものを見た。
「…なんだこれ」
木々も建物もそこそこにある、ごく平凡な町………なのだが、全てがメタリックな輝きを放っている。
水銀に似た光沢で覆われているのは建物だけではなく。
「…人…だったんでしょうか」
何気ないひと時をふと止めてみたような。
歩いている人―のような金属塊。
商品の受け渡し中の客と店員―にみえる金属塊。
細かい凹凸はなく、単に変なオブジェがたくさんある…と見る事も出来なくはない。
いや無理だ。どうみても、町をひとつまるごとメッキした。そんな風にしか。
4人は言葉無く立ち尽くす。
「この町は、元々こういう…?」
念のため、訊いておく。
「ワケあるか」
「まぁそうだよね」
大まかな造形しか残っていないので絶対とは言えないが、どうも人型オブジェからは焦燥感や苦痛、恐怖を感じない。気が付かない内にこうなったのだろう。
幸いでした、と手を合わせるKにaは不謹慎なものを見る目を向けて抗議する。
光を見つけてから此処に辿り着くまでに数分以上経っている。
例えどうにかしてこのメッキを剥がせても、生存は絶望的だろう。
「おい…」
グールに背を突かれてKは振り返る。指を差された方へと目を向けると。
言葉が出ない。
白い陰。
ゆらりと揺れるそれは人の容をしているようにも見える。
どうみても、実体がない。煙のように揺らいで燻る唯の陰。
そこらに乱立するメッキ人形と同じように、大して凹凸もない、歪な人型。
なのにそれが。
クッパリと口を開いて、笑っているように見えた。
朱の鳥を再召喚。
近くに居たグールを引っ掴み、全速力でKは上空へ退避した。
それに驚きつつ、aもシールを伴ってKを追った。
Kは滝のように流れ出る汗を感じながら、それから目を離さない。
尋常じゃない速度で暴れる心臓が、呼吸を難しくする。
なんだあれなんだあれなんだあれ。
上空のK達を見上げ、それは追って来るでもなく。
小躍りのような仕草をして、消えた。