再来の嵐
「宰相、宜しかったですか?」
その声にハッと意識が戻る。
いつもの宰務室。事務官が心配そうに自分を覗き込んでいる。
そうだ、報告を受けている途中だった。
内容をざっと振り返る。聞き逃した報告は無さそうだ。
「ああ、大丈夫だ。報告は以上か?」
「はい」
報告を労って退室を促す。が、事務官に退室する気配がない。
まだ何か?と顔を上げると、事務官は遠慮がちに切り出した。
「畏れながら、幾分お疲れのようにお見受けします。少し休まれては如何でしょうか」
事務官の言葉に沈黙を返す。
疲れている訳ではない。ただ、言い様の無い胸騒ぎに気をとられてしまっている。
部下にまで心配させてしまうようでは確かに仕事になりはしない。
深く溜め息を吐くと、考えておくと一言返し今度こそ事務官を下がらせた。
戸の閉まる音を聞き終えてずるりとその場にしゃがみこむ。明るい灰色の髪を掻き上げてもう一度大きな溜め息を吐くと、背後の机に少しだけ体重を預けた。
そこへ。
「ヤッホーヒサシブリーゲンキシテタ?」
ヴぉん、と。
確かに記憶にある振動と共に、馴染みの無い音の羅列が背後から聞こえた。
「アッチガッタエットー」
扉は正面にある。自分しか居ない筈の部屋で。
確信を持って振り返る。妙な胸騒ぎはこれを予感しての事か。
「えっと。シール!久し振りだね」
「遊びにきたよ~」
「おまえら…」
跳ねる橙と茶。
記憶に違わぬ、懐かしいふたつの顔がそこにあった。
ふたつの世界の話をしよう。どちらも地球とは違う星だ。
ひとつは今回舞台となる世界『セフィロート』。
神や精霊が存在する自然豊かな惑星。
一続きの大陸に二つの月が輝く、剣と魔法のファンタジーな世界。
この世界の最北の国に、シールと呼ばれた宰相は居る。
もうひとつは魔法の域に達した超科学を平然と扱う帝政の惑星『帝国』。
超巨大建築や高層ビルが立ち並ぶ月さえ霞む機械的な惑星。
たったひとりの絶対君主に惑星の民全てが忠誠を誓う、サイエンスファンタジーな世界。
この世界から、ふたりの問題児はやってきた。
それはもう、セフィロート時間にして13年も前の話。
だいぶ古い話ですがお付き合い頂ければ幸い。