第五話 初学者のハジメ③
登場人物
一年五組ーズ
・剛田 ケンシ
5組担任。ガタイのいい、元殺し屋。
・阿多真 ポンズ
警察志望。天然ぽいかわいさ。トラッパー。
・相模 ミツル
警察希望。スナイパータイプ。マイとは双子ではあるが、マイのことは苦手らしい。チャラ男。
・葉竹 マリ
国際警察希望。ガンナータイプ。眼鏡っ娘。冷静沈着。
・東テンジ
スナイパー兼トラッパー。
合わせて5名の特別運動クラス推薦合格者のうちの一人であり、警察志望であるが、噂によるともう既にマングースへの上官候補としての入隊が決まっているなんていう話もあるエリート。
・眞義 トーマ
殺し屋志望。狂気的性格を持ち、いわゆる戦闘狂であるが、圧倒的な戦闘センスをもつ。
・鉞ケント
警察志望。スナイパータイプ。なのに、近接もゴリゴリ強いムキムキタイプ。というか、スナイパーライフルをショットガンみたいな使い方するやばい奴。
「ねえ、眞義君。」
「あ?なんだよ。」
「もしかして、先ほど剛田先生におっしゃっていた作戦をそのまま実行する気ですか?」
ここは、一階家庭科室。
眞義トーマ、葉竹マリペアの初期待機場所である。
トーマが開始早々、ドアを開け出て行こうとしたので、マリは声をかけた。
トーマはドアノブを握ったまま、マリの方を振り返った。
早く行きたい、と言った様子で右足のつま先でトントンと床を弾く。
「お前もわかってんだろ?時間が経つにつれてトラッパーが罠ガチガチに仕掛けちまうだろーが。」
トーマがマリを睨みつける。
「ですが、動くということは当然、この状況では不利な側に回るということですよ。」
トーマが舌を鳴らす。
先手必勝、という言葉がある。
そして、それは悪い考えではない。
先に動くことで、自分のペースに持ち込む。
動くということは、それだけで脳を働かせやすくする行為でもある。
ただし。
後手には後手の有利な点がある。
それは、相手の動きをまず見た上で手が打てるということである。
そしてこの状況において、誰がどこに潜んでいるかわからず、どこに罠が仕掛けられているかもわからない中で闇雲に動く行為は、ほとんど自殺行為なのだ。
先に動けば動くほど、自らの位置が早く相手にばれ、情報を与えるだけなのである。
「何度も言うがな、時間が経つほどトラッパーは奴らの周囲を完璧に整えちまう。
どんなトラップがあるかについては俺たちは知らされてないし、トラッパーもいねえから知りようがねえ。
仮に、奴らが毒ガスを模したペンキガス爆弾でも持ってたらどうすんだ?
周囲が整った瞬間ガスまで撒かれて、結局炙り出されて終わりなんだよ。
わかったか!!」
「いや、それならもうすでに使われていてもおかしくありません。
自らの周囲をガスで固めてからその間にトラップを仕掛けたり、適当にガスをばら撒いて私たちを炙り出し、我々で潰し合わせることもできますから。
ですが、そんな様子はない。
となると、ガス爆弾のようなものはなくて、トラップは、設置式のものと想定するのが妥当です。」
マリが、メガネをクイっと押し上げる。
トーマが怒りを募らせているのか、大きくため息をつく。
「じゃあ尚更、設置式の爆弾が整う前に行くべきじゃねーかって言ってんだろ!」
声がだんだん大きくなっていることに少し不安を募らせながら、マリが説得を続ける。
「だからこそです。
だからこそ、眞義さんと同じように考えて出てきた近接タイプを我々は潜伏して奇襲するべきなのです。
我々のペアには私と言う中距離戦にも対応しやすいガンナータイプがいるという強みがあります。
つまり、敵に近寄る必要なく攻撃する術を少なからず持っているのです。
一方、例えば是路、永井さんペアなんかは両方近接戦闘タイプ。
敵を見つけても、近寄らなくては点が取れない彼らは、このままポイントを生存点のみに絞らない限り必ずポイントを取りに来ます。」
「俺たちより動く必要性が高い奴らが状況を動かすのを待てと。」
「その通り。
焦らず冷静に戦局を動かせれば、おそらく近距離戦最強の眞義さんと、中距離戦のカバーができる私のペアが贔屓目なしに最強だと思います。」
トーマが頭を項垂れる。
「なるほどな。」
「わかっていただけましたか?」
マリがトーマの肩に手をかける。
マリの持っている水鉄砲から、液体が滴り落ちる。
「じゃあ、尚更ぁ...」
トーマが....
バァアン!!!!
ドアを蹴り飛ばし開ける。
「今飛び出ても問題ねえよなあ!!!」
ドアの乾いた音が廊下に響き渡り、ドアが再び壁にぶつかり跳ね返る。
マリはポカンと言う感じでトーマを見ていたが、すぐに、銃を持ち直した。
「なんで....そうなるんですかぁ!!?」
一方こちらは三階トイレ。
相模ミツル、鉞ケントの初期待機位置である。
「普通に考えれば僕らはスナイパー二人組だし、このトイレを選んだのもトラッパーの部屋だと思わせ警戒させて、できる限りのハイドと、射線確保のためだもんねー。」
そう言いながら、ミツルはドアにもたれかかりながら、スナイパーライフル型水鉄砲を人形のように抱きしめた。
「そして、単純にここにトラップ仕掛けることが出来なくしたというのもある。」
ケントは窓の外に意識を集中させながら、戦況の動きを推し測っていた。
「でもまあ、」
そう言葉を切り、ミツルがケントを指さした。
「うちらの場合は、他のペアは知らない、君と言う隠し要素があるけどね!」
ケントがそれを聞き、静かに微笑を浮かべる。
「まあ、な。」
「よっしゃあ!まずは端からだ!!」
ドンッ!とドアを蹴破り、一階端の理科室に突入したのは、マリ、トーマペア。
トーマがどんどん先に行ってしまうので、慌てて追う様子でマリが後ろから銃口を部屋中に向ける。
「本当にこのまま一部屋ずつ開けていく予定なんですか?」
トーマが進み入念に隠れていないか確認するのを後ろから眺めながら、マリが尋ねる。
「まーな。てゆーか、俺たちから動かねえとこのまま全員隠れたまま試合終了もありうるからな。
俺はそんなのはごめんだぜ、馴れ合いじゃねーんだよ。」
トーマが、ロッカーを強引に開ける。
すると、中には古賀ノロシ(トラッパー)。
「ひっひいぃ!!ごめんなさいいぃ」
ノロシが怯えながら土下座をする。
「たっくよお。拍子抜けするぜ!生徒相手ってのはこういう雑魚相手だもんなあ!!」
トーマが腰元の、液体付きゴムナイフを抜き取る。
そして、振りかざした、その時。
「あとは任せたよ!!」
ノロシの眼に、叛逆の火が宿る。
ノロシが、土下座をやめ、腹の部分を晒す。
隠してあったのは、液体の散布を行うガス爆弾と、煙草。
「はっ小賢しい!!」
トーマが、咄嗟に後ろに飛びのこうとする。
だが、頭の中では、なぜ煙草があるのかということに対する答えが出ておらず、完全に平静ではいられていなかった。
その時、上を見たマリだけが危険を察知する。
「眞義くんっっ!!上っっっ!!!」
「あ!?」
上に設置してあったスプリンクラーが、ジリリリと音を立てる。
煙草の意味と、相手の作戦がトーマの頭で繋がったその時、スプリンクラーが一気に液体を放出し、ノロシがガス爆弾のピンを抜いた。