第四話 初学者のハジメ②
登場人物
一年五組ーズ
・剛田 ケンシ
5組担任。ガタイのいい、元殺し屋。
・眞義 トーマ
殺し屋志望。狂気的性格を持ち、いわゆる戦闘狂であるが、圧倒的な戦闘センスをもつ。
ここは、学校から徒歩5分圏内にある特別演習場。
マンションや、スタジアム、学校まで、様々な建築物が用意されており、普段は映画の撮影や、サバゲー会場などにも用いられる。
だが実際には、サバゲーという名目で、殺し屋たちの演習や、チームの連携確認、スナイパーの狙撃練習...などの使用が一般的にも認められており、むしろそちらでの利用の方が多いと言っても過言ではない。
この施設自体は、学校が保持しているわけではなく貸し出ししている団体から借りているだけではあるが、風見ヶ丘高校は基本的に授業でここを使っているので、いわゆる”常連さん”である。
それにより、年パスのような扱いを受けていて、授業として使うのはもちろん、生徒が個人練習で使用する際にも、学生証の提示で無料で使用できるのだ。
「よし、全員揃ってるな。」
五組メンバーは、教室でランダムにタッグを組まされ、特別演習場までの移動時間で、作戦を立てた。
...というのが一般的ではあったが、如何せん彼らも会ってから二日目の面々であり、各個人のコミュニケーション能力による部分も大きく、実際にきちんと作戦を立てられたのは、十五組中九組ほどであった。
ペアの中には、スナイパー同士や、近接戦闘タイプ同士など、極端に距離戦闘の得意範囲が限られるものもあり、戦闘前からある程度の有利、不利は生じていた。
「今回のステージは、学校だ。」
学校。
基本的に倫理というか、暗黙の了解で、学校などの公共の施設での殺しはあまり良しとされていないのと、そんな場所で戦うのはマングースに見つかりやすいので、学校が舞台となる戦闘は、学校内部の戦いによるものが多い。
つまり、この訓練はあまり実戦に近いものとは言えないのだが、ハイドタイプ(基本的に暗殺対象に姿を晒さずに、罠を仕掛けたり、スナイプにより殺す)にも、近接戦闘タイプ(剣術や武術)にも、中距離戦闘タイプ(飛び道具、銃火器)でも、あまり不利が存在しないようにこの場所が選ばれたのだ。
「初期待機位置は、俺が恣意的に決めさせてもらったペアの順番で、選べ。」
特別演習場は、見た目はスタジアムのようであり、その中に、部屋が別れて存在し、各ブースは屋内にある特徴を活かして、天気、時間帯を設定できるようになってある。
学校は三階建てで、屋上が用意されている構造。また、二棟立てであり、各階に渡り廊下が二つずつ用意されている。
「設定は無難に、天気曇り、時間は22:00を設定してある。
つまり、暗殺のど定番。夜だ。」
夜。足元のトラップワイヤーはよく見えず、隠れてるスナイパーには、撃たれるまで気づけない。
角を曲がれば強襲に遭い、小さな影にすら敵が潜む。
彼らには小型無線機(イヤホン型)が配られており、ペアとの小声での連携が可能になっている。
だが、夜の学校では、小さな声ですら見つかる可能性が十分にある。あまり、コミュニケーションを頻繁に取ることは難しい。
「どーするぅ?」
「そうだなー...」
まず初期待機位置を選ぶのは、二人ともスナイパー希望の、相模ミツルと、鉞ケント。
彼らについては、もろ寄られては負けのチームなので、トラッパー(罠を仕掛けたり、毒殺を狙うタイプ)や、もちろんガンナー(中〜近距離戦を得意とする、銃火器などの飛び道具を使用するタイプ)等よりも初期位置の選択順が優先される。
「まあ、普通に考えれば、屋上か、もしくは高所で隠れやすい位置だろうな。」
と、ケント。
「僕は、それの虚をついて、意外と1、2階のハイドポイントで、時間制限3分前ぐらいまで隠れて、最後に1ペア狙撃で、も一回隠れて終わりとかでもいいと思うけどねー。」
とミツル。
「無論、どこを選ぼうが、他の者にはどこを選んだか通知されない。
初期位置の選択可能場所は各ペアで違うから、選べないことで予測されることもない。」
と、剛田。
スナイパーは、隠れることと同時に、射線がよく通っていることが重要となる。
かくれんぼをしているわけでもなければ、一方的な射撃ゲームをしているわけでもないということだ。
悩み抜いた末に、彼らはスタート位置を三階トイレに選択した。
「じゃあ、次は私たちね!」
と、阿多真ポンズ(トラッパー)。
わくわく、といった感じでぴょんぴょんと跳ねる。
「自分たちに有利な位置を最優先で考えるより、ある程度他の人たちの初期位置を予測した上でうまくポイントが取れそうなとこを考えてもいいかもしれませんね。自分の位置が他の人たちに通知されない以上は、初期位置で圧力かけられませんしね。」
と言いながら、右手で顎を触っているのはペアの東テンジ(スナイパー兼トラッパー)。
合わせて5名の特別運動クラス推薦合格者のうちの一人であり、警察志望であるが、噂によるともう既にマングースへの入隊が決まっているなんていう話もある、エリートである。
「でもあたしー、他の人がどこ取るとか難しいこと考えるの苦手だな〜。」
そう言いながら、ポンズが頭を抱える。
「もし、良ければここなんてどうだろうか。」
そんなこんなで、全員の初期位置決めと、点数配分、待機が完了した。
「では30秒後、校内アナウンスでブザーが聞こえたらスタートだ。」
そう伝えながら、特別演習場観戦ルームにて剛田は、各ペアの今回の情報を見ていた。
今回の学校ステージは、一般的な学校と同様にグラウンドや体育館、プールなんてのも用意されている。
初期位置にプール更衣室、グラウンドにある部室、体育館の倉庫などを選んだペアもいるため、今回は学校といえど広範囲な戦場となっていた。
今回眞義トーマは、ガンナータイプの葉竹マリとペアを組み、待機場所は一階家庭科室だった。
理由は、
トーマ「一階から誰一人逃さず屋上まで制圧。これを2回繰り返せば、学校制圧完了だろ。後は、他んとこから来れば迎え撃つし、来なけりゃそのまま生存点取って優勝だ。」
マリ「ほとんど眞義さんが一人で決めましたが...。あえて理由をつけるなら、おそらくトラッパータイプは、攻め込まれるのを恐れて、低い階を初期位置には選ばないはず。私たちのペアの強みは、単純な1on1や乱戦の強さ。罠ができるだけない場所を選ぶのは、合理的です。」
らしい。
(とはいえど、とにかく動いて点数を取らなきゃいけないお前たちは、そんなダンジョンに入る勇者みたいなポジショニングからだと、トラッパーが十分に罠を仕掛け終えてしまうから、まあそこ注意だな。)
と、剛田が心の中で評する。
「まもなく、10秒前。10,9,8,....」
カウントダウンと共に、学校ブースに緊張が走る。
「3,2,1.....30分間、スタートだ!」
けたたましい音でブザーが鳴った。
そして、ブザー音の後、気配を殺した暗殺者たちは、静かに、それぞれ動き始めた。