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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
9/37

第八話 試験・学習力

 ───何時もと変わらない学園、では無かった。現在試験期間と

 呼ばれる週へ突入した学園には、静かな熱気が渦巻いている。新

 入生が選ばれる月には試験期間が近い。それを既に入学済みの学

 生や学徒達は知っており、彼らは自らが所属する部や会で確保し

 ている研究室、もしくは個人スペースにて論文や実技発表へ向け

 て励みに励み。新入生はと言えば、図書室等で知識の詰め込に勤

 しんで居た。




 今週は試験期間。と言っても週初めに試験は無く、残りの四日間

 に試験が執り行われるスケジュールらしい。まあ新入生の自分達

 はそもそも試験が週最終日だけなんだけど。試験って言っても筆

 記だけだしね、自分ら。

 派手で、夢の様で、超常的力。魔法を学びに入学したと言えど、

 やっぱり知識勉強は等は当然必須と言う所なのだろう。魔法も立

 派な文明技術の一つだし。

 この学園での試験。これは全て特別な理由がない限り学生は全員

 強制参加。学徒はこれに自由申請と言う違いがある。ただし、学

 徒よりも学生にとっての試験は重要度は大きい。普通の学校でも

 勿論重要だけど、此処では試験落ち、留年、それ即ち学生生活終

 了って事だからね。

 学生には出来るだけ普通学校の様な学生としての生活を送らせ、

 学徒には自らの歩幅で学んでもらう。学園はそんな方針なのだけ

 ど、これに加えて。学生は学徒よりも教員からの授業を定期的に

 受けられ、施設や工房使用の優先度が高いなどで優遇って特典が

 存在する。だから学生を維持しようと努力し、努力は学びを大き

 く助け、学生であろうとする気概が知識を強く育む。

 って狙いがあるらしい。方針にはちゃんとした目的も内包されて

 いるって話しだね。

 まあ学徒が差別受けてるって訳でもない。学徒は学徒でちゃんと

 学ぶ機会があるので歩幅の違い。学生前借りしてる様なモノ。

 と、自分は考えている。

 まあそんな訳で、現学生にとって学園に課せられる試験はどれも

 超重要。学生でいたいなら落としては行けない物───なのだ

 と。


「へぇー……あれ? だとしたらオレってやべえかも」

「かも知れいないですねー(“もし”じゃなくて確実にやべえだろ

 うな)」


 自分達以外誰も来れない秘密の場所。図書室謎空間にて、編入生

 なコイツに説明をしてやって居た。学園の事を知らなさ過ぎるよ

 な、コイツ。

 入学前にちゃんとパンフを熟読しなかったの? それとも教職員

 からの話を一切聞いてなかったのか、もしくは話された事全て

 を忘れたてしまったか。……自分にはどれも等しく関係無い。

 ついこの前の事。図書室で読書に勤しむ自分に、コイツは発見し

 たこの秘密な空間を教えに来た。それからこの場所を内緒にする

 と言う秘密を共有し、静かで快適にな図書室生活を満喫───は

 まだしてない。見つけた翌日から今日までずっと掃除を続け、や

 っとさっき終わったばっかりだ。床やホコリは綺麗になった所だ

 けど、本棚の整理はまだまだ済んではいない。でもまあ、動いて

 もホコリが立たないレベルまで掃除出来たのだからと。一息とば

 かりに席へ座れば、コイツと試験の話し、そして学生と学徒の違

 いの話になったのだ。

 図書室で雑談何かーと思うけど。探り探りやった掃除の音が外に

 漏れたらしい様子が無かったので、恐らく結界に消音の効果も含

 まれているっぽい。

 他にも掃除をしつつ日々調べ検証して分かった事は四つ。

 一、どうやら一度此処に辿り着ければ、後は何度でも来れるらし

 い。

 これはコイツ抜きに此処で待ち合わせをした時、先に迷わず辿り

 着けたので多分そうだと思われる。

 ニ、内側での物音は外に聞こえて無いらしい。

 掃除道具を拝借して床を掃いて棚のホコリを叩いたり、普通に喋

 ったりもしたのだけど、誰かが此処を訪ねてくる事は最後まで無

 かった。どの程度まで大丈夫かは未検証だけど、普通の会話程度

 の音は漏れてないらしい。外から内は未検証。

 三、現在この場所を利用しているヒトは居ない。

 ホコリの積もり具合でも分かってたけどね。

 四、図書室一階には置いてない種類の本が置いてある。また、本

 以外にもスクロールや幾つかの魔法道具らしきも発見。

 参考書レベルではなく、チラ見した限り本物の魔導書と魔術書が

 幾つか置いてあったのだけど、どれも一階に置かれてる本じゃな

 い。それにスクロール系に、幾つか置かれたボックスには細々と

 魔法道具が押し込められていた。まあ本当の魔道具かはどうかは

 まだ試してないから推測なんだけどね。でもま、周りを見れば多

 分そうだと思う。


「(んま。現状わかってるのはこんなもんかな)」


 誰が、何のために? 本の出処、ボックスの中身は? 等など色

 々分かってない事も多いのだけど、全てを一度に解決はできな

 い。それぐらいに掃除は疲れた。広いのは勿論、掃除はやり始め

 たら最後までやらないと終われない作業だからね。本の整理を別

 にしても。


「(この場所自体はまあ、仮説を立てるとするなら───)」

「オレってベーシックの読み方習得してる場合じゃなかったかも

 なー」

「! あはは。かもですねー(ホンットにな!)」


 雑談なんかしたくないけど。この場所を見つけた功績、共有に対

 する対価として、適当な雑談ぐらいは付き合ってやる。勿論仕方

 なく。

 これに互いを知り合う~だとかって言う感情思想考えは一切無い

 けどね。一切。こんなのは社交辞令、場所代代わりに他ならない

 から。うん。

 ウェアウルフは机に片肘を付き頭を支えては。


「あーあー。折角なら学生のまんま進級したかったのによぉ」

「……進級に関わるのは、何もこの試験一回だけではないですよ」

「え!?マジ!」

「ええ。進級は一年通して課される試験、その総合で決まるんで

 す(マジで何の話も聞いてねーな)」


 出席数とかは無いけど、その辺りは普通の学校と一緒。内容は魔

 法に依った物ばかりで、一度の留年で学生生活が終わる以外は、

 ね。


「んなら今焦んなくても大丈夫だな!」


 言いながら近場の本を適当に手に掴み“パラパラパラ”と捲って

 は、興味が無かったのか読めなかったのか。多分後者。そうして

 次は机横に立て掛けられたスクロールに手を伸ばす。


「(焦れよ! ……いやどうでもいい。どうでもいいどうでもい

 い!)」


 魔学的に書かれた図形のスクロールを開き、回したり傾けたりし

 て遊んでいるコイツから視線を外し、同時に意識からも外す。

 イライラさせられるけど、コイツと言う付属物を押してもこの場

 所はとても魅力的。立地、置かれた本の価値、未鑑定のボックス

 の中身を考えればね。


「……」

「(……それに。意外にもコイツって静かなのよね)」


 野性味溢れる見た目と違って、読書の最中は兎に角静か。

 ふと思った。自分はこれまで獣人種のヒトとこんなにも話す機会

 はあっただろうか? ましてウェアウルフ自体を生で見るのも初

 めてだった気もする。いや、見た事ぐらいはあった、かな? だ

 としても何か、何か違和感があるんだよなぁ……? うーん?


「(この町に獣人種は勿論様々なヒト達が沢山住んでいる訳で、ウ

 サギ似のハーシュとかも学園で普通に見かけた事があるし。ウェ

 アウルフだけが特別珍しい種族って訳じゃないはず? ああでも、

 町にあんまり居ないような気もして来た)」


 まあ魔法の学園で見かける事は少ないだろうけどさ。だとしたら

 何に自分は引っかかってるんだろう?


「………」


 考えてる対象が直ぐ側にいるので、視線は無意識に吸い寄せられ

 る。

 スクロールを真剣に見詰める顔は、何処か知的に見えなくもな

 い。獣人のヒトは特別知能知性が低いとか、そんな頭ド底辺の偏

 見は鼻から無い。知的労労働者に獣人のヒトだって沢山居るし。

 だから何も物珍しくは無い。……全く無い………。


「おー……っとと!」


 天上に上げたスクロールに夢中だったらしく、椅子の上でバラン

 スを崩しかけるウェアウルフ。だけど軽い身のこなしで直様体制

 を直して見せる。自分だったら絶対転けてるな、今の。

 ウェアウルフの、一瞬上がったその逆関節の足に、アンクレット

 はあっても靴は無い、と言うかあの足で靴ってのも難しいんだろ

 うね。それに人間と比べて大分頑丈らしいし。自由制服なのでシ

 ャツにジャケット、ネックレスまで。手にはシルバーアクセサリ

 ーって感じの指輪が沢山。いや全体的に見てもアクセサリーの数

 が多い。


「(総合するとおしゃれ……なのかも知れない)」


 コーデとかファッションとか。男子のは自分には分からないけど

 ね。と言うかかなり攻めた服装じゃないか? こんにアクセをギ

 ラギラ着けて、しかもそれを着こなしてる男子って居るのかな?

 デビュー成功者みたいで男子全員が憧れそうな装いかも。一体誰

 が着せてるんだろう? まさか、自分で選んで、とかなのかな?

 うーん……うーーん………。おしゃれ、オシャレな服、かぁ。


「んあ?」

「ッ」


 自分の頭で自分なりのオシャレを考えて、マネキンに悲しいコー

 デを施していれば。ウェアウルフはいつの間にか掲げたスクロー

 ルから視線を此方に動かしていたらしい。

 いかん見詰めたまま固まってた。


「───何でもないですよ、何でも」

「? おう」


 再び頭を上に持って行く編入生。

 はは、いやいや。ははは、いやいやいや。どうでもいい事を考え

 すぎじゃない?自分。 学校デビューとか意識した事も無いのに

 さ、いや少し、多少、ギリ考えてたかもだけど……。ええい!

 もう試験が近いんだ! 筆記のみと言う緩い内容だとしても!

 これからの環境作りの為にも今頑張って置かないとだぞ、自分!


「(……勉強さえできれば家族も教員も、周りの誰だって煩く言わ

 ないんだから)」


 此処まで生きて来た少ない時間で学んだ事。

 恨みを買いたくないなら目立ち過ぎない。面倒を避けるには無視

 では無く、ある程度丁寧に対応。周りに構われたくないなら、そ

 こそこ良い成績を修めて見せる。

 今までの学校生活で何も無かった様に。此処でも居心地の良い学

 校環境を作る為にも。


「(勉強第一)」


 此処での実績は将来設計にも影響するのだから。他の何にも気を

 惑わされちゃ行けない。


「? ……???」

「(………だぁー!何時までスクロール回し見てるんだよ!)」


 近くに居ると気になる。存在が確かに其処にあるのだから。

 やっぱり、試験勉強中は此処を離れるべきかも。


「あ。ティポタ」

「……はい?(何だよワンコ。後名前呼び捨てすんな)」

「廊下の掃除手伝ってくれてありがとな」

「? ああ。まあ。流石に広かったですからね」


 本棚に挟まれる道はそこそこ長い。それに本棚と本棚の間隔も広

 いので、床の面積は結構な物に成る。……一人でやらせるには少

 し申し訳ない程にね。不興を買っても嫌なので手伝いを申し出た

 けど、体力の多い獣人と比べ自分は休み休みでの作業。自分の手

 伝いが果たして必要だったかは、甚だ疑問。


「掃除の成果を考えると自分の手伝いに価値があったかは微妙です

 けど」

「んな事ねーよ。手え抜いてなかったってのは見てて分かったし、

 何より手伝ってくれた事、手伝えてもらった事はオレスゲー嬉し

 かったぜ」


 此方を見詰めるウェアウルフ。その視線が真っ直ぐで、透き通る

 琥珀色の瞳が今日も怖かったから、自分は机の上で本を開いて顔

 も視線も意識も全部落とし。


「………そうですか、良かったですね。自分は読書するのでちょっ

 と静かにしてもらえますか?」

「おお、悪い悪い」


 話しかけられる事にイラついて言葉を投げると、ウェアウルフは

 唸ったりもせず静かにスクロールを眺めに戻った。


「(素直だな。………クソが)」


 胸の辺りでチクチク、チクチクとするイラつきに苛まれながら。

 コイツと二人。図書室で仕方なく読書を試みる───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───図書室での掃除が終わって四日後。筆記だけと言う事もあ

 り、近かった試験日がとうとう当日となった。教室には試験開始

 を待つ同級生達の、独特な緊張感が(ひし)めいてる。着席してる自分も

 ちょっと緊張してる。

 魔力に関しての基礎と狭い範囲ながらも、自分が既にその辺りの

 知識を既に持っているとしても。狙った順位を取れる様に予習復

 習は欠かさなかった。……まあ。図書室も少しは過ごしやすく成

 ったし、効率がちょっとだけ上がった気もしないでもないし。だ

 から。


「(問題ない。何も問題ないはず)」


 この日のために昨日は早寝して十分に睡眠を採った上で、自作の

 予習スケジュールを朝に熟して来た。予想範囲が絶対とは限らな

 いまでも、それまでに得ていた知識でカバーは可能なはず。

 採点方式がどの程度かは分からないけど、今までの学校での試験

 と変わらないなら方式予想はある程度出来る。間違うべき問題と

 正解するべき問題をしっかり吟味して答えよう。仮に取り過ぎる

 って事がもしあっても、事前試験で一位だったヒトの力量を考え

 れば、数個の間違いで一位はまずありえないと思う。狙うは一つ

 下げての三、もしくは五。

 落ち着いて。冷静に試験へ臨もう。


「「「……」」」

「(イロモノ扱いでも流石は有名学園)」


 入学資格が“意欲”とか言う曖昧なモノでも、自分と同じく初等

 部中等部をパスして来た、或いは中等部を超えて来た同級生達。

 緊張はしてても焦ってる様子が全く無い。


「やべぇな……やべえかもなぁ……」

「(隣のアイツ以外ね!)」


 筆記試験なので席の間隔は空けられているのに、それでも“ボソ

 ボソ”と聞こえてくる。教室が何時も以上に静かだから。

 席に付いてすぐに悩み初めたアイツはずっと『読めるかな?』と

 か『あぁ、結果報告に何て書けばいいんだよ……』とか何とか呟

 いている。一般文字(ベーシック)の習得からスタートしたコイツには(さぞ)かし

 緊張の時間なのだろう。


「まあどうにかなる、なるよな!」

「(何処から来る自信だ。後うるさいぞ)」


 ああクソ、また気にしてしまった! 本当にコイツにはイラつか

 される。気にしない、気にしない、気にしちゃ行けない。

 頭の中で復習を繰り返し雑念を追い出す作業に勤しんでいると。


「……」

「「「!」」」


 教室の扉が開き先生の登場。背後には鈍色の球体が二つが浮いて

 いる。あれはゴーレムかそれとも……。


「皆さんおはようございます」

「「「おはようございますテレーズ先生」」」

「……いい顔ですね。結構」


 朝の挨拶もそこそこに。


「本日は予告の通り試験当日です。内容は筆記のみとなります。

 魔法の学園としては地味に思えるかも知れまえんが、この試験で

 皆さんが今日までの授業を何処まで理解できているのか、また何

 処までを自力で学べるのか。それらのレベルを学園側が把握する

 為にも、とても重要な試験です。この結果を元に今後教えるべき

 魔法知識の段階、そして実技の内容を考えますので。

 現状学園から魔法を一つとして教えてはいないこの段階ですか

 ら、進級へ大きく響く試験ではありません。しかし此処での取り

 組みが無評価では無い事は、しっかりと明言しておきましょう」


 説明を終えた先生が左右に控える球体へ目配せを送ると、自分達

 が着席している机、その引き出しが僅かに開いた。引き出しの中

 には用紙の姿が見えている。


「ああまだ取り出さないでくださいね。それが試験用紙ですから。

 今回の試験時間は一時間半。前後無し、です。私語は厳禁。

 記入を終えた者から引き出しに仕舞い退出を。後の授業は本日は

 ありませんので、その後は学年教室に影響ない範囲で好きにして

 もらって構いません。注意事項は以上ですね。ああそれと──

 ─」


 何かしらの模様が彫られている鉄の球体を指差しながら。


「彼らは不正監視用のゴーレムさん達です。不正は許されませんの

 で、皆さんその積りで」


 言い終わると同時に球体二つが自分達生徒の頭上へ動き、制止。

 気も引き締まる思いの中。鐘の音が響き。


「では試験を───始めてください」

「「「!」」」


 自分を含めクラス全員が用紙を一斉に取り出す。

 内容を確認してみると。

『魔法と魔力の関係性』『魔力の種類』『魔術書と魔導書の違

 い』と言った基本的な内容が多い。これなら問題ない。

 自分は用紙を確認し、埋めるべき項目、手を付けない項目を選択

 しては、筆記用具を手に取り書き込む。

 始まる前は緊張はしたけど、内容は全部自分が知っている事だら

 け。多少知らない分からない所もあるけど、これは一般で学べる

 レベルじゃない。此処のような専門機関でしか分からない内容、

 つまり不正解で当然、あえての難問と言う事だろう。なら全く問

 題無い。印象を考え察せる範囲での半回答で良いね。

 そうして。自分が狙った順位へ身を落ち着ける様に点数計算をし

 つつ。


「(よし)」


 書き込むべき場所は全て埋めた。勿論わざと間違えた箇所も織り

 込み済みで。終わった答案を机に仕舞い、席を立とうとし。


「……」

「!」


 ぼーっとしている隣のアイツに気が付く。何してんだ? まさか

 もう終わった───


「………!」


 “ハッ”とした様子で机に置かれた用紙とにらめっこを初めた。

 まあそりゃあそうだよね。あっと、これ以上は怪しまれるし。さ

 っさと帰り支度して帰ろう。ふふ。


「(ああ今日は、凄くゆっくり出来るぞ)」


 自分は久しぶりの、この独特な開放感を噛み締めながら。静かに

 教室を後にした───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───自宅。

 自室でベッドに背を預け大きく、大きくと寛ぐ。流石に試験日だ

 ったのだから今日の予習自習はお休み。今は自分を追い込んでる

 訳でもないし。今日ばかりは好きな本、ネットを見たりして存分

 に過ごしてやるのだ。


「……」


 今日の試験は上手くできただろうか? 自分を天才とは傲って無い

 いまでも、結果として今までの学校生活では常に上位に居たのも事

 実。それも手を抜いてだ。所謂自分は勉強のできる子。その知識が

 あの魔法学園で何処まで通用するのかは、少し、少しだけ不安だっ

 たりもする。


「最下位は絶対ないと分かってるけどね」


 一番下は多分アイツの指定席。偏見でも何でもなく、前回を鑑み

 るならって話し。

 アイツは本当にどうする積りなのだろう? 試験大丈───いや、

 いやいや。


「自分が考える事じゃないでしょ、それは」


 少しでも会話を交わしてしまったから、交流をもってしまったか

 ら、こうしてふとした瞬間思考に浮かんでしまう。胸のイライラ

 は募るばかりで、日増しに強くなってる気もする。


「ええい!」


 こんなイライラに負けじと、精一杯今日をダラダラで過ごすして

 やるぞと意気込み。ポータブルクォーツを手に取り、ネットの海

 へ意識を無理やりに落とす───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───二日後。試験明けの学園。

 学園へ着くと二階廊下には人集りが出来ていた。場所的にお知ら

 せ掲示板の辺りで、試験結果が張り出されてる場所。普通学校で

 は人集りが出来る程じゃなかったけど、やっぱり皆魔法学園にも

 なると興味があるんだな。などと思いつつ、自分もと確認へ向か

 う。


「「「……」」」

「(人集りは好きじゃないんだけど)」


 生憎好きな奴の方が多い。特に自分達学生には。

 自分はそうではないので、ウンザリしながら人混みを掻き分けお

 知らせ掲示板が見える位置に到着。張り出された特大用紙の中ぐ

 らいから視線を上げて行くと。

『試験採点結果・総合第三位』

 しまった。五位辺りを狙ったのに上に来すぎたぞ。ああでも、こ

 れから少しずつ落として行けば良いかな。自分の順位に安堵した

 所で、他の順位が気になる。狙って居た五位には、新顔のハーシ

 ュ族の同級生。相当頑張ったか実力隠しだったのかな? それで

 二位は誰かと言うと───は?


「(可笑しいだろ。何で“前回一位”が二位にいるんだ?)」


 ああでもまあ、やっぱりもっと優秀なのが隠れたのか。前回の試

 験は実力出してない奴多そうだったし、試験後に教室で『適当に

 済ませた~』みたいな話もチラホラ聞こえたし。きっとそう言う

 事なんだろうね。で?それで一位は───再びの、いやさっきよ

 りも大きな衝撃と共に思考が停止。こんなバカな事があるかよ。


「ありえない……」

「ありえませんわ……」


 誰かと同時に言葉が被った。その瞬間。


「おー……? おお!スゲー、一番上じゃんオレ!」

「「「!」」」


 声にその場の誰もが振り向く。声の主はあの編入生で、ウェアウ

 ルフで、前回試験最下位で。今回の試験“学年一位”のアイツの

 登場だ。


「見たかよティポタ!やったぜオレ!」

「……」




 話しかけた少女は目を点にし無反応。獣人の彼は、自身が注目を

 集めている事に全く気が付いていない様子で。ただただ嬉しいの

 だと、太い尻尾を振り満面の笑顔だった───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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