第六話 マギ
───町の真ん中で鎮座する巨大な学園。
町のランドマーク、観光名所の一つ。
名所を囲むは変哲のない赤レンガの壁。ただし延々と続く壁の途
切れは遠く、数にして四つ。東西南北の位置に設置されたそれは
校門。都市中心で多くの面積を陣取り、壁内には研究施設やら何
やらが詰め込まれ、まるで都市の中にもう一つの都市があるかの
様な学園。その門の一つへ、今まさに少女が到着しようかと言う
所。
学園前。
毎日通る道を同じ目的のヒト達に混じり校門を目指す。その途中
で。
「ッ!(ゲ!)」
遥か前方から流れてくる学生の波の中、背の高い獣人の姿を確
認。最近何かと自分を悩ませ、会話をしてしまっている存在。比
較的大きな種族も多い中で、ウェアウルフの編入生は得にデカ
イ。そんなアイツを目視した自分は。
「! ! !」
向こうが此方に気が付く前に人混みを利用しては素早く校門へと
急ぎ、門を潜り街路樹の裏へ身を隠す。暫くじっとして居れば。
「……」
「(バレてない?)」
バレてなかったらしい。
アイツはそのまま塔へと歩いて行く。デカイ身長のお陰でいち早
く気が付けて良かった。咄嗟にこうして隠れる事もできたしね。
「……いや、おかしいだろ」
何で自分が隠れなきゃいけない? 面倒を避ける為に隠れるっ
て、それ自体がもう面倒なのでは? あぁまた、またこうして考
え頭を悩まされる事すら、面倒の一部で。全部が全部負のスパイ
ラルだとよね。クソが!
一瞬感情を高ぶらせかけるも、冷静な思考が感情を抑え込んで強
制終了。建設的かつ健康的な精神維持の為。
「キョウシツニムカオウ」
思考停止のまま。動きだけゴーレムの様に規則正しく教室へと向
かった───
───辿り着いた何時もの教室。
考えないように、って言っても。こうして教室に到着すれば考え
てしまう。チラチラと頭を過るアイツの事を。今の所何故かアイ
ツはずっと自分の隣の席に座ってるしね。
皆最初に腰を落ち着けた場所にその後も座り続ける事が多い中、
初日に座った階段席の一番下ではなく態々上に来たアイツは、一
体何を考えているのだろうか。
「……はぁ」
考えても仕方ない。アレの考え何か自分に分かる訳無いし。
自分は溜息を一つ零しながら教室の入り口を掴み、開く。入り口
から何時もの席へと視線を飛ばすと。
「「!」」
また“ぼーっ”としてたらしいアイツと視線がぶつかる。
アイツは今日も何時も通り自分の席に座って居て。
「……」
此方に顔を向けながら隣の席へズレては此方に譲って見せる。
あれで自分が態々違う席に座れば周りにどう見えるかは明白。要
らぬ意思表示をして何事かに仲間意識を持たれたいとは思わな
い。ので。自分は階段席の中央、では無く。せめてと端からと上
がり窓際の、アイツに譲られた何時もの席へ腰を下ろす。
「ありがとう」
「おう。お早う!」
「……おはようございます(相変わらず朝から無駄に元気だな)」
仕方無しで、感情もゼロなお礼にコイツは笑顔? を見せるて来
る。煩いし、牙牙した歯が笑顔に付随してて、ちょっとの恐怖心
を誘う。だから、だからもう笑うな、笑顔で此方を見るんじゃな
い。自分は視界からアイツの笑顔を外すため正面を向いて、向い
て……向いても。
「……」
視界の端でアイツが此方を見ているのが分かってしまう。
何もする事が無いなら前向いとけよ、前。それに譲るならもっと
離れて譲れよと思う。コイツが編入する前まではこんなにも端に
椅子をずらして座って居なかった。だけどコイツが譲る範囲で座
ると、ちょうど窓からの陽が背に掛かる感じで、バッチリな位置
調整具合。このほんのりとした暖かさは朝の学生にはキツイ。
思えばコイツはコレが……ん?ああ! 素晴らしい思いつき、考
えが浮かんだので即隣へ、アイツへ顔を向けては。
「そう言えば前、この席は陽射しが気持ちがいいって言ってまし
たよね?」
「? ああ。そこがこの教室一番な陽だまりだぜ」
「でしたらこの席を譲りますよ(一番とか知らんが、欲しいなら
くれてやるさ!)」
教室で視線がぶつけ、席を譲られ朝の挨拶を交わす。この、この
地獄の様な呪縛、形作られ始めたルーティーンを崩すには、席を
譲ってしまえばいいのだ! 完璧な答えに震えすら湧き上がりそ
う!
「いや。そこはティポタが最初に捕った良い場所なんだ。ならそ
こはティポタのもんだ。オレは縄張りを横取ったりはしない」
「……そうですか(縄張りって言うなら真隣からも離れろ
や!)」
震えは心の叫びを伴うものだった。クソが。
自分は今まで学校で最低限しかヒトと話した事はないし、特定の
同級生と話すなんて事も殆ど無い。入学して間もないとかは関係
ない話で、もうグループや友達作りが一通り終わっていたから
だ。そして、自分はその何処にも入ってはいない。入りたいとも
思わ無かったし、入る事が強制でも無い。だからこそ、一人と言
う立ち位置を確立できて大いに満足してた。なのに。
「暖けぇか?」
コイツが隣りに座って、飛んでくるはずも無かった挨拶を飛ばす
もんだから、社交辞令で此方も返すしか無い。無視ができればと
思いながら、出来ない事にイライラをまた募らせながら。
「………それなりに」
「そっか!」
こうして返事を返してやる。
何が一番ウザイかと言えば、コイツがただの良い奴かも知れない
って事だろう。此方に不快感を感じさせる様な奴、横暴なバカな
ら此方も喜んで大胆な行動に出る事だってしたさ。でも今の所悪
意らしい悪意は見当たらない。迷惑な善意って感じなら未経験じ
ゃない。
今までも“グイグイ”と来る奴は居たけど、それは『孤立って可
哀想! わたしが話し掛けてあげなくっちゃ!』って言う委員長
タイプな物でコイツのとは全然違うタイプ。
両方悪意が無いって所は共通だけど、コイツの場合自分が良いと
思ったモノを近場の誰かに共有してくるタイプで、オマケに見た
目で断り辛くしてくる。
「(義務感丸出しの委員長タイプになら対処のしようもあったんだ
けどなぁ)」
怖い見た目で、怖い言動で強制されたなら反発にも踏み切れる。
勿論面と向かってではなく裏工作で。だけど怖い見た目ってだけ
で悪意ゼロの善意には、対処もおぼつかない物になってしまう。
コイツは今の所ただ単に良い奴なだけ。“今の所”って言うのが
最大に面倒な所。まあベタベタしつこいタイプじゃないだけが救
いかも
「(行けない。何かしないとコイツの事ばかりでまた頭を埋め尽く
てしまいそうだ。ええい、近いから余計に考えてしまう!)」
なので。今日使うであろう教科書の取り出しと、序に整理でもし
て気を紛らわそう。
そう思いずっと続く長机の、自分の席に当たる取っ手の部分を掴
み。“ガチャン”と言う音が響いてからっ取っ手を引けば、見た
目以上のスペースの中、自分の教科書がズラリ。中から必要な物
を取り出し一度閉めては、取っ手のダイヤルを回し開く。続いて
置いていた私物系を持ち帰るため幾つか取り出し鞄へと仕舞って
行く。
自分は読み物を持って来ては、読み終わっても持ち帰らずついつ
い放置してしまいがちかも。と言うのもこの荷物預かりシステム
が大変便利過ぎる所為。だって学園内指定の場所なら何処でも出
し入れ出来てそれに大容量。
そう言えば、生徒からはこんな大きな倉庫じゃなくて、大量の教
科書の方を電子書籍化すればいいのにと、なんて声も出ているら
しい。考えを確かにと思う一方、どちらかと言えば参考書の類は
実際に触れられる方が自分としては好み。なのでこのままでも全
然良いと思う。魔法技術の発展で電子書籍が大きく普及しても、
実物の本が危惧された通り廃れる、何て事は無く大変嬉しい。
まあ一般学校、それも進んでる所だと殆どの教科書を電子書籍化
しているらしいけどね。クォーツタブレットまで支給して。反対
に魔法を教える専門学校とかだと、実際の本を用いる事の方が多
いらしい。
違い的に何か都合があるんだろうけど、今の自分には分からない
事で、同時に考えるべき事とも思えない。
「(授業スタイル何か知った事じゃ無いしね)」
「おお!? 何だそれ!」
机から本を多く取り出していると。隣からそんな声が上がった。
声に気が付きウンザリした気分で意識と視線を隣へ向ける。する
とウェアウルフは自分が教科書を取り出している、その机の中を
覗いては驚いていた。勝手に覗くとか……つーか顔が近いし鬣
サラサラかよ!
「が、学生ロッカーの事ですか?」
「へぇ?」
反応的に分かってない感じか。と言うか、自分が机から物を出す
のを初めて見た訳じゃないだろうに。ああそうか、単純に今まで
気が付かなかっただけって事? 机の中を大きく開いたのは今日
が初めてだった気もするし。……てかそもそも、分かって無いか
ら毎日毎日デカイ鞄背負って来てたのか。……クソが。
「もう学生カードはもらいました?」
「お? おお貰ったぜ」
貰っただけで使ってないのはバカだぞ。とは言えない。
「貰ったカードを机の引き出し、ダイヤル付近に翳してみてくださ
い」
「ほほう。面白そうじゃん───って何処しまったっけ?」
言いながらウェアウルフはジャケットにある複数のポケットを弄
り始める。初動に溜息を噛み殺しながら明後日の方向を向いて、
今日の夕飯はなんだろうとか、どうでも良すぎる事を考える。そ
うして待ってやっていると。
「おお───おおお!?」
「(一々リアクションしないと死ぬ病気か何か?)」
初期登録の済んだらしいウェアウルフが、独りでに開いたであろ
う引き出しに感動している。机の使い方とか、カードの使い方は
教わってるはずでは? ……まさかあの先生何も教えなかったと
か?
いや流石にそれは無いと思う。あの先生しっかりしてるヒトっぽ
いし。だとすると……。
「おースゲー……」
「(コイツが聞いてなかったんだろうなぁ)」
引き出しへ腕を突っ込んで燥ぐデカイの。もっと簡単な物だけ
ど、仕組み自体は魔法学校以外にもあると思うのだけど? や
っぱド田舎……考えを強制終了。
「貰った学生カードで一度登録すれば、以降はカードを所持してい
るだけでどの教室のどの机でも。自分専用のロッカーへ接続され
ます」
「へーやるなぁ!」
「後で教室後ろの縦型ロッカーにも登録して置くと良いですよ。
あっちは大きな物で、此方は小物系ですから。それで多分ロッカ
ー二種類の登録は完了だと思います」
現在の権限的に小物二個と大型一個だけとか、ダイヤルの使いか
とかは、まあ、大丈夫でしょう。聞かれてない事まで何でも教え
るとか、自分はコイツの親切なお友達じゃないんだから。
「なるほど。んでこん中に入れりゃ良いんだな、コイツは超便利だ
ぜ!」
「あ、バ───!」
言いながらバカがデカイ鞄を引き出しの中へひっくり返す。引き
出しの先は結構広いので勿論入りはする、だけど。
「───整理整頓は自動では無いですよ」
「!」
バカは引き出しの中を覗き。
「あぁー……マジかー」
縋るような表情で引き出しを一度閉じ、もう一度開いては。
「うおぉーやっちまったぜぇぇぇ」
「(ホントリアクションがデカイな)」
頭を抱え仰け反るウェアウルフ。
デカイウェアウルが机の引き出しに突っ込んだ教科書やら私物を
取り出しては、机の上にどんどんと並べ置き。一つ一つと仕舞っ
て行く。その様子は周りにバッチリと目撃され。
「「「……」」」
僅かながらの失笑を誘っている。これは笑われても仕方ない。自
分だって心で笑う。
ただコイツの失態は自分にはどうでもいい事だったけど。一つだ
け良かった事がある。
「(これで此方を見られずに済む)」
少なくとも片付けと言う目的、やるべき事が出来たコイツには
ね。
実際整理整頓に夢中で、整理が終わってもずっと机を覗いたり何
だりと。此方へ顔を向ける事は無かった。
お陰で先生が来るまでの間、心穏やかに過ごす事が出来ると言う
物。
「あぁ~……」
「(ふふ)」
自分を悩ませて来たウェアウルフが隣で悩む様は、少しだけ気分
の良い物だった───
───先生が教室を訪れるギリッギリまで詰め込んだ教科書やら
を取り出すのに苦戦していたウェアウルフも、今は静かに前を向
いている。前、教壇に立っているのは勿論担任のテレーズ先生。
「───ですので。家庭等で使用される一般的な魔法の行使は全
て、触媒等。魔法道具の機能にほぼ全てを依存、管理されている
と言う訳ですね。そうして魔法の行使に必要なエネルギーと言う
のが、誰もがご存知の魔力と呼ばれるモノです」
今日の授業は魔力と魔法の関係性について。
隣のアイツも今日はしっかりと聞いている。他の生徒も同様。ク
ラス全体が前よりも少しだけ真剣に見えるのは、多分この前の授
業のお陰だろう。インパクトのある話しだったからね。
それに。通っていれば少なからず本物の魔法を目にする機会があ
るので、皆モチベーションが徐々に上がっているのかも知れな
い。
「さて。この魔力と呼ばれるモノですが、これはこの世界の何処に
でも存在しているモノで、魂持つモノ全てが持っている、とも言
われています。この説明で用いられる図としては球体、それを輪
で囲むと分かり易いですね」
黒板に球体と輪っかの図を書いて説明してくれる。と言う事は、
多分これ試験に出るか、近い物を出題してくるのかも知れない。
試験は筆記だけと事前に通知があったので、この辺メモっとこ。
黒板の図と簡単な説明をノートへ書き込む。
ちょっと考えれば気が付く事で、一人がノートに書き込む姿を見
せれば誰も彼もが気が付く。
「「「……」」」
気が付けばクラスの殆どがノートやクォーツタブレットに授業内
容を書き込んでいる。取ってないのヒトもちらほら居るけどね。
まあこの辺りの内容は知ってるヒトの方が多いだろうし、ノート
取ってるのももしもが大半かも。
そんな中一際必死な奴が一人。
「! ………!!」
小声で『おお。おおお』とか呟きを零す隣のウェアウルフ。
何時もなら寝てるもんなのだけど。真剣に、必死に、黒板に書か
れた物全てを読めないだろうに書き写していた。何時もの様に録
画で良いと思うのだけど、しっかりポータブルクォーツが机上に
横で立て掛けられている。録画もしてるらしい。……良くないと
思うけど。
「(大柄なウェアウルフが真剣必死にメモを取ってる姿は少しだけ
かわ───面白い! 凄くオモシロイおもしろい!)」
危ない危ない。バカなのか自分は? 他人に興味なんか示したり
して。
僅かに傾けた意識を本来傾けるべきヒトへ無理やり戻す。
「ここまでの事は魔法を余り知らないヒトでも分かる事で、言わば
現代、魔法文明社会での常識に当たる部分ですね。皆さんが知ら
ないであろう事は、魔力とは決して一種類では無い、と言う事で
すかね」
「「「!」」」
クラスの注目が集まる。
「魔力にも種類、性質、特性の様な物もありまして。分類分け何か
もされているんです。種類で言えば最も代表的なモノだけで言え
ば魂の魔力と自然魔力。そしてちょっと特殊ですが信仰魔力に
無の魔力と呼ばれるモノ達が存在しますね」
黒板に文字を書き皆がメモを取る。
「性質、特性と言う事だけであれば自らの魔力とそれ以外でしょ
う。魔法を使うには魔力を使わないと行けません。では自らと他
の魔力とは? まず自らの魔力ですが」
先生が先程書いた図、球体と輪っかのうち、輪っかの中を塗りつ
ぶして行き。輪っかの色付きの部分を指差しながら。
「図で言う所のここです。これこそが私達個人の、魂の魔力と呼ば
れるモノで、魔法や魔道具を使うと───」
輪っかの色が半分指で消されて行く。
「───この様に消費、される訳ですね」
成程。と言うか此処までは自分でも分かってたりする。けど授業
と言うのはやっぱり凄い。自分だけで勉強するよりもずっと分か
りやすいのだから。
「そうして魔力を使い切ってしまうと、コップの水を飲み干してし
まうが如く。当然として魔法が使えなくなりますね。更に付随し
て極度の疲労感、目眩、意識レベルの低下等などの問題にも襲わ
れてしまいます。命に関わる事はほぼありませんが、使い切らな
いに越した事はないでしょう」
テレーズ先生が話す背へ。
「世界に満ちてるって言う魔力だけを使えばいいんじゃないんで
すかー?」
「な。他の魔力ってので良い気がする」
誰彼の質問に先生が“結構結構”と呟き頷いては。
「そこへ関係してくるのが性質です。先程輪っかの中に色を付けた
のは分かりやすくする為だけではありません。実際に魔力にも色
がありまして……いえ、まあこれ、便宜上形式的に“色”と読ん
でるだけでもあるのですが。この先は複雑で専門的な話になるの
で一旦今回は置いて置きましょう。
さて。世界に溢れる魔力、これだけを指す場合無の魔力と呼ばれ
るモノが該当しますね。あらゆる生命の活動残滓、魔法行使に依
って色を無くし、世界へただ帰属し満ちるだけのモノ。何にも属
さない魔力。色は無色と考えればよろしいかと。
この魔力だけを使うと言う考えはとても賢いですね。しかし世界
を漂う魔力とは無色と言う色であり、これを使うには自らの魔力
に染め上げる、その過程が必要になります。染め上げには当然自
らの魔力を必ず消費しますので、コストゼロは無理なのです」
質問を飛ばしたらしい生徒から『あぁ~』と言う残念そうな声が
教室に響く。効率が悪そうだからね。
「ですが、一般的魔道具と魔法使いの多くは自らの魔力と他の魔
力を利用します。何故なら自らの魔力だけを使うよりも、無色の
魔力を染めて魔法を使うほうがずっとエネルギー効率が良いので
す」
意外。染めるって過程の方がー……ああ。色って態々言ってるの
は薄めるとか混ぜるとかって意味合いを使うから? 水と買って
話も出てたし。納得かも。
「何故かと言えば染める割合、それが一定を超えれば魔法は発動し
てくれるからです。水に絵の具を一滴落とすのをイメージすると
良いかも知れません」
一同に理解への確認をしては。
「他の魔力は使うにはまた少し特殊で、扱い方や仕様が違うモノで
すが。基本多くの魔法使いが使う魔法は、魂の魔力と無の魔力の
二つを用いのが大半であると、そう覚えておきましょう。
この魔力の染め上げを深く利用した技術、恒久的魔法作用につい
ては魔法科学、召喚・儀式学に超常構造学など。また自然魔力に
ついては自然学、動植物学。信仰魔力については神秘学でより詳
しく学べる事でしょう。
魔力について詳しくならずとも魔法は扱えますが、より深くとお
思いの方は是非今挙げた授業をオススメします」
区切りとばかりに先生が生徒一同を見回し。
「ああ結構。実に結構です。皆さんの学びへの意欲的姿勢、それに
先生は泣きそうです」
「「「!……」」」
クラスに少し笑い声が溢れる。その後『まあ泣きませんが』と呟
いた先生は笑顔のまま。
「さて。何れ学ぶだろう授業、そして魔力について今日お話したの
には理由があります。何の理由かと言えばですが……その前に。
皆さんの能力を察するに、一般的なのは勿論初歩の魔法も扱える
事でしょう。そして、初歩魔法を使うと酷く疲れませんか?」
確かに。一般魔法以外、つまり本物の魔法の初歩。その力を使う
と徹夜後みたいな疲労感が襲ってくる。たかがマッチ程度の火を
起こすのすら。
同じ事を思っているのか、クラスメイトの何人かが頷いてるのが
見えた。
「これは皆さんが初めて知る事実であり、この様な学び舎でしか知
り得る機会も無い事なのですが。皆さんが魔法を使う時には、消
費している魔力の百パーセントが自らの魔力だけなのです」
「(へぇー……)」
「驚きますよね? 魔法とは無色の魔力だけでは行使出来なくと
も、自分の魔力だけでは行使出来るのです。そして当然の事です
が、一般魔法が記録される魔道具は自動的に使用者の魔力バラン
スを取ってくれているので、酷い疲労が襲ってくる事はありませ
ん。過度に使い過ぎなければ、ですけどね」
知らなかった。魔力の仕組みは知識で持ってるけど、自分で魔法
を使う時も勝手に魔力が効率化されているとばかり思っていた。
うーん……。やっぱり魔法の学校で実際に学べる機会は貴重なも
のだったらしい。
「そして真の魔力の使い方、魔力を使い切ったってしまった時にど
うすれば魔力を溜められるのか。魔法を使う上で必要になる技術
こそ、我が校が新入生皆さんへ教える最初の“実技”授業となり
ます」
「「「おおお!」」」
クラス中で期待が膨れ上がっているを肌で感じる。
「楽しみでしょう楽しみでしょう。ですが───その前に最初の試
験が皆さんを待っていますよ」
「「「!!」」」
黒板へ先生が手を翳すと白文字で日付が浮かび上がり。
「試験実地は今から一週間後。試験内容は事前のお知らせ通り筆記
のみとなりますが、大事な初試験です。範囲等は掲示板と学園運
営のSNSに掲載してありますので、確認を怠らないように。
そして試験後。魔力の実技指南授業がありますので───」
一層の笑顔を見せ。
「皆さん。是非試験に全力で挑んでくださいね」
話し終わりと同時に修行終了の鐘の音が響き渡る。
いよいよ魔法学園で初めての試験、試験が来るんだ。そしてその
後は実技と。緊張と興奮がクラス中に入り交じる中。
「試験……」
不意に隣から呟きが聞こえ。チラリと横目で様子を伺うと。
「自信ねぇなぁ………」
「(だろうな)」
絶望顔で黒板を見詰めるウェアウルフの横顔が見えた。
魔法を学ばんとする学生たちが沸き立つクラスにて。一人の生徒
だけが浮かない表情───
最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら
幸いです。
物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。