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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
6/37

第五話 当然に成りきれない当然

 ───図書室での出来事から数日後。

 都市中央に構える巨大な学園は、今日も学び舎、研究の場として

 十全に機能を果たしている。

 学園内には大小無数に建ち並ぶ研究工房に、学園内で暮らす誰そ

 れへ為であろうか幾つかの家屋が見て取れる。正面から塔までの

 道から見える施設は比較的普通の学園に有り得そうで、極々普通

 な風景。

 しかし。よくよく見れば地面“に”設置された用途不明な木製扉

 の姿に気が付くだろう。それも一つ二つでは無い。普通そうに見

 える建物の裏影では、怪しげな色彩の草花が育成されていたり、

 四季を通し溶ける事の無い氷の彫像、その中には更に謎の銅像が

 隠れていたりなど。確実に魔法的不思議が蔓延っている学園。

 此処へ通う者にとっては既に見慣れた光景。そして、今学校で授

 業を受ける新入生たちが将来見慣れるであろう光景なのだ。

 今はまだ、建物物陰に怪しい草花が生い茂っているとも知らず、

 氷の彫像が解けぬとも知らぬ。そんな新入生たち。

 彼らは今、自らの教室で勉学に励んでいる。




 編入生を加えた教室。今日も先生が黒板前でチョークを片手に授

 業を執り行っている。魔法の学園での授業、と言っても。学校入

 学から間もない一年級の授業と言えば。


「魔法の起源は遥か昔。神が残したと言われる───」


 魔法についてやその扱いに関する注意点等。言ってしまえば心構

 えの様な物の方が多い。勿論魔法の授業もあるにはあるのだけ

 ど。


「(生徒による実践はまだ無い)」


 筆記授業が主と成っている。初めに先生から学校授業の流れにつ

 いて説明があったのだけど、一年級は事前学力調査、準備授業を

 受けた後にある正式な初試験の結果を見て、クラスの魔法授業へ

 のバランスを考えるのだとか。

 取り扱いに慎重さを求められる魔法関連だからこそ、いきなり魔

 法の事を学べる訳じゃない。だから退屈と思うのは行けない事な

 のだけど。


「(あの学力調査の内容、自己採点と比べた順位結果。そして少し

 の観察を加えると。自分を初めこのクラスの全員が魔法への知

 識、技術を既にそこそこレベルには持っているらしい事が予想で

 きる。……エルフも妖精も誰も、育ちや家柄が良さそうなのばっ

 かりだし。序に教養も高そう)」


 知識技術を半端に持っているからか、皆自分同様授業を退屈そう

 に感じている様に見える。


「(学園一位と少しを除いたクラスメイトが、だけどね)」


 混ぜられたクラスの偏差値の高さには少し驚きもした。

 魔法への英才教育を受けたであろう貴族達に、大手商店経営者の

 跡継ぎとか。有名所も多い事実。このクラスの中では間違いなく

 自分は一般的な方で小市民も良い所。まあでも、魔法の才能とか

 魔法への興味とかで入学したのでは無く、安泰な将来設計に此処

 を利用してる目的ってのは、他の生徒と変わらないだろうけど。


「(皆大概が箔付け目的でしょ。……ま、箔が付くのは二年級を得

 られてから、なんだけどね)」


 マギストディウムで二年級の資格を得たと成れば、この都市で仕

 事や研究、冒険者ギルドでも困る事は無いって話しで、その最上

 に当たるのが“魔女”の称号。これを持ってれば他国ですら大き

 な社会ステータスとして扱えるのだけど。価値が高いだけにそう

 そう得られる物じゃない。ただのステータスアップで狙うには高

 すぎる目標だと思う。

 そんな凄い称号付与を行えるこの学校は、間違いなく凄い場所な

 のだけど……。


「……zzZ」

「(授業中に良くも堂々と寝れるよな、コイツ。て言うか当たり

 前の様に毎日隣に座ってくるよな、お前!)」


 隣では腕を組み考え事をしています。と言う様なポージングのま

 まに、“すやすや”と眠っている編入生の姿。よく見れば片手に

 ポータブルクォーツを握ってやがる。器用だなコイツ。

 さっきの考えは全てコイツの存在を除いた考えで、今後も加える

 積りは無い。真剣に学ぶのかと思いきや、コレだからね。


「(コイツに関しては色眼鏡を掛けても良い気がする)」


 編入生には何かと迷惑を掛けられっぱなしだ、と。ちょっと前ま

 では思っていた。初日から翌日に予想外な頼み事や遭遇を経験し

 て、イライラとモヤモヤが何故か(くすぶ)って思考力を低下させてい

 たけど。冷静に今の状況分析を行うと、コイツは積極的に自分と

 関係構築を図ろうとしてる訳じゃないっぽい。

 朝の挨拶とか帰りの一言とかは毎日だけど、別段会話を持って来

 られる訳でも、また求められる事も無いし。今までの事は“頼ま

 れたから”と“困っていたから”の二つで、両方当然の事だった

 と思う。良くも悪くも気安く自然体なのだろう。


「(……だとしても隣に座ってくるのは“無し”だと思うんだけ

 ど!)」


 幸いにも注目を集めるコイツと自分の関係は、周りにはただのお

 隣、としか思われてないのが救いだ。

 だがコイツが変に話しかけて来たり、馴れ合おうとしないからこ

 そ、今までの席を離れるって事に踏み切れない。側に居れば何時

 また頼られるか分からない。自分を利用させるなどお断りだし、

 友達なんか求めてもいない。誰かの側に居たら巻き込まれる事に

 も成りかねないしーあー……。あーーーーー!


「(あ゛~ウザイー!)」


 こんな事で自分が悩む、考えさせられる事態がもうイラつく。授

 業が退屈だからとは言わないけれど、先生が見せる魔法の実技と

 かだとコイツも起きてるので、実技の時はこんな事を考えないで

 済む。自分も実技は気になるし……。

 ダメだ、またコイツの事で頭を、思考を停滞させている。よし、

 此処は気分を変えて先生の退屈な授業に集中しよう。


「───ので。現在の魔法体系、系統の枝分かれが生まれたのです

 ね」

「先生ー」

「はい?」

「編入生が寝てるっぽいんですけどー」

「(ゲッ!)」


 早速トラブルが飛来。いや、自分が巻き込まれる感じじゃ無いけ

 どね、これは。ただ、コイツが叱られるってイベントの風景に、

 側に居た自分も差し込まれるのは困る。が、逃げたくとも席の端

 も端なので逃げ場は無い。クソが!

 席の端でせめて他人の振りをして成り行きを見守ろう。


「ああはい、彼は大概寝ていますね。それが何か?」

「アイツ本当にこのクラスに置いとく価値あるんですかー?」


 最初とは違う生徒からのヤジに、更に他の生徒達から『ねー』と

 か『此処に寝に来てるんじゃね?』等の嘲笑混じりの声が上が

 る。先生の授業が皆暇すぎるからか、それとも悪目立ちする様な

 事ばっかするコイツが行けないのか。

 何にしても注目が集まってるのは仕方がないと思う、思うけど。


「(価値がどうこうとかって言い出す奴は頭がおかしいのだろ

 う)」


 聖人を目指してないのと同じく、悪人を目指してる訳でもない。

 なのでさっきの発言をした奴の顔を覚えておこう。自分が距離を

 置けるようにね。

 要注意人物のリストを頭で作っている傍ら、クラスメイト達の誰

 それが適当な言葉を呟き続け。不意に先生の動きが止まる。

 何かを言わんとする予備動作。


「「「……」」」


 だからクラスメイト達が呟くのをやめ、先生を注視する。自分も

 ノートに頭を落としつつ、視線だけを向けやる。

 視線の先では少し考える仕草をする先生の姿。やがて黒板にチョ

 ークを置いては、教卓の前まで進み出て来て。


「学びへの“価値”或いは“資格”、と言う話しでしょうか?

 だとすれば今のはとても良い質問ですね」


 “うんうん”と小さく頷き。


「結構。その質問に答える意味も込め、我らが学園についてまた

 少しお話しましょうか。

 まず皆さんご存知の我らが学園への入学資格ですが、学ぶ“意

 欲”たった一つですね。ですので、年齢も職業も種族性別生まれ

 に至るまで、それらで入学を拒否される事は一切ありません」


 入学前と入学初日に聞いた話しだ。


「また退学、追放、対峙の条件も至ってシンプルです。“学ぼ

 うとするモノ、これを排し妨害せしめんとするモノ”だけです。

 まあ追放退学対峙に関しましては、もう少し色々とあるのです

 が……大原則はこれだけです。

 ですので───これに大きく抵触しない限り、学園では血を流す

 決闘すらも許されているんですよ?」

「「「!」」」

「(けっとう?今先生決闘って言ったの!?)」


 驚く自分達を他所に『学ぶために戦う、良いですよねぇ』とか呟

 く先生。いきなりな事を言ったそんな先生へ一人の生徒が。


「あ、あの。相手を殺したり、犯罪者も───」


 恐ろしい質問を飛ばした。けど其処まで話して誰かは口を噤んで

 しまう。


「? ええ勿論。最初に言ったように条件は一つですから、他所

 で犯罪者であった者であろうとなかろうと、当然資格を認められ

 れば此処で学ぶ事ができますよ」


 ニッコリ笑顔の先生は話を続ける。


「あ、ああでも、安心してください。一学年級に自由決闘権はあ

 りませんし、危険人物に生物などからは私達指導者級(ドゥクス)、それと他

 先輩方に守られるのが決まりですから。学ぶを競い合いはすれ、

 同じ学友である事は変わりませんもの。それに、恐らく貴方が危

 惧しているであろう犯罪者との学園生活ですが、ご安心を」


 相変わらずのニッコリ笑顔。何処か、その影が増した気がする。


「誰かをただ害そうとすれば追いやられ。此処を隠れ蓑だけに利用

 し、学ぶ事をしない輩等は、皆誰かの研究、実験目的での私闘の

 餌食になり、自主退学して行きますから。“学友を守るのは、ま

 た同じ学友である。”これも学園理念の一つです。

 ですので、そう言ったヒト達はある日突然消えているものです。

 そう、まるで学友を守る専門の方が居るかのように、ね」


 語る先生の指がレイピアの柄に少し触れた。その手付きは何時も

 とは違い、撫でるかのように。或いは、付いた何か拭うかのよう

 にも見える。


「ああ勿論純粋な学びを目的としたモノ、発破掛けや発起。そう言

 う類での目的なら、学生同士の私闘は大いに、それはそれはもう

 大いに歓迎されて然るべき事で、大事かつ定期的に行われるべき

 イベントです。ですが、命の奪い合いに発展しそうな場合はスト

 ップが掛かりますです。

 ヒトがこの学園で死ぬと、学園存続に文句やら何やらと面倒事が

 起きますし、死の研究でならまだしも、命は続けば続くだけ新た

 な学びを生み出すかも知れませんからね。

 誰かの可能性を守る事は自らの考えに将来大きな影響を与えるか

 も知れませんし。なので学園は勿論学び舎を守るためにも、その

 辺りはちゃーんと考えられていますのです」


『安心安全でしょ?』と此方、生徒に同意を求めるも、自分達は

 半笑い。先生のテンションが少し高い気がする。


「それと世に甚大な被害を出しかねない研究、研究だけならまだし

 も、実験実証などは、同様に私の様な指導者級や同業の研究者等

 に止められますねー。此方の場合は世が乱れたら自分達の研究に

 専念出来なくなってしまいますから。学ぶを害す、に抵触します

 ので。

 この場合は大概現研究自体を凍結し新たな研究を見言い出すか、

 此処で学びながら研究する権利を放棄して、他所で研究するかを

 選ばされます。でもこの場所の価値を思えば前者を選ぶヒトが多

 いですし、学園長の“隔離”使用許可が下りれば隔離状態でまた

 研究を続けられるかも知れませんからね。学園を去るヒトは少な

 いのですよ。嬉しい事に」

「「「……」」」


 皆が一緒の事を考えていると思う。“とんでもない場所に入学し

 たのでは?”と。ウワサがウワサじゃなさそうだと誰もが認識す

 る中。


「あっと。話が退学や楽しい決闘についてそれてしまいましたね。

 確か、そう。学ぶ意欲あるモノがこの学園へ入学し、授業を受け

 られる訳ですが、これに条件はありません。学生と学徒の分類分

 けなどはありますが、どちらも授業へ出る事に一切制限などあり

 ません。

 また授業への態度、姿勢も決まりがないのです。皆さんが寝間着

 姿で授業を受けようと、裸だろうとなんだろうと。先生に依って

 は退室を言い渡す事はしないでしょう。まあ、注意はするかもで

 しょうがね。

 それら全て個々人の指導者級へ任されていますから。因みに私は

 裸で授業はダメです。ですが寝間着でなら、授業を受けても構い

 ませんよ」


 先生の冗談、らしい物にクラスでは乾いた笑い声や冗談が少しだ

 け響く。流石に寝間着で授業に出る生徒は居ないだろうし、きっ

 と精一杯の冗談、だと思う、思いたい。

 少なく、乾いた笑い声が収まった頃。


「ですので。私の授業を寝て受ける、と言う事も私が気にしてい

 ない以上構わないのです。

 我々は授業を妨害し得る物以外、得に異にも介さないでしょう

 ね。寝て過ごし、手を抜き、結果授業に付いて来れなくとも、

 我々は助けなど貸さない、怠った者へ此方から手を差し伸べは

 しないのですから」


 先程から教室の空気が変わってる気がする。重く、暗く。


「我が校の規則や校則が極端に曖昧なのは、それこそが各々の抑

 止と自発の元であると、歴代の指導者並び現学園長のお考えだか

 らです。事実これまで学園は学園として機能し続けてこれました

 しね。

 自ら学ばんとする者へは出来得る限り教え導き、学ばぬ者は歯牙

 にもかけない。それが指導者級を含め大抵の学園関係者の考え方

 でしょう」


 空気がピリつき出す。


「さっきも言いましたが、此処で最も重要な資格は“学ぶ意欲”

 です。そこを最も重視するべき我々が、間違っても軽視するはず

 も無い。我らが学園長のお言葉を入学の時に聞いたとは思います

 が、あれは少し対外的な事を含め改定された物なのです。本来の

 あのヒトの物言いで言うならば───」


 先生は手にしていたチョークを握り潰し、粉と成ったそれを黒板

 へと払いかける。すると言葉が浮かび上がって来る。

『新入生諸君。我が学園へようこそ。

 入学に必要な物はもう知っていよう? それ以外の事など些事も

 些事。大した問題ではないので気にしない、するな。学費が払え

 ない? では我が学園で素晴らしい労働に従事させてやろう。楽

 ではない労働だが、それを行ってでも学びたいと心挫けぬなら、

 存分に学ぶが良い。歓迎しよう。

 富を持ち払える者は技術、知識の噛み砕きへ当然足る対価として

 支払ってもらう。嫌だと言うなら素晴らしい労働をすればいい。

 裕も貧も差別なく、歓迎しよう。因みに寄付は何時でも受付中。

 窓口かパンフレットの記載を参照しろ。

 さて。この学園入学へは誰の反対賛成も関係ない。学ぶ事を自ら

 の意思で示した者であれば、我らが学園は門を決して閉ざしたり

 はしない。

 此方が学生父母ならび諸兄へ求める物は許可でも、まして多額の

 金銭でも無い。そんな物で我らを動かせるとお思いなら、考えを

 改めるべきだろう。

 学ぶ事をやめるな。学ぶ者を害するな。学ぶ者を排するな。そん

 な暇は微塵も無く、そんなモノの全てを我らは許さないのだか

 ら。

 これに異があれば、身のためにも尽く失せよ。それでも失せぬと

 言うのなら。我れら識り得た天上の啓示、深奥の禁忌。空けない

 夜と叡智と共に、これに対するのみであるぞ。

 改めてようこそ。学ぶ者にのみ開かれ足る学園、マギストディウ

 ムへ。我々は諸君の入学を歓迎する』


 最後まで文字が浮かび上がると、黒板へ浮かんだ白い文字達が形

 を失い地に落ちる。


「以上。この言葉から我が学園の、指導者級の考えが少しはお分か

 りに成れたかと思います。我々は学ぶ事を害する、排する何者も

 許さない、許しはしないのです」

「「「……」」」

「何処の王族であろうと、どの種族であろうと。絶対に許しはしま

 せん」

「「「………」」」


 思い沈黙が僅かに流れ。


「コホン。とまあそんな訳で、彼が寝ている事はなんら今現在授業

 に支障が無いと考えます。彼がイビキを立てるならば音を消しま

 すが、寝相は大変よろしい様子ですし。静かな眠りなので今の所

 は私個人が対処する事では無いと思っています。それに寝る事に

 対して私は予め聞き取りを行っていますし。

 その上で、支障がある、気になって学べないと言う生徒は後で先

 生へ教えて下さい。極力は彼をそのままにしたいですが、理に叶

 う理由であれば対処しましょう。ああ勿論、単に彼を排そうとす

 る場合でも、対処は怠りません。

 学ばんとするは誉れ、その学生学徒は皆我らが守るべき存在なの

 ですから」


 教室の空気を感じ取ったのか先生は明るめな声色で言葉を発して

 くれた。けれど内容が物騒すぎて明るくなりきれない教室内。


「んん。学ぶ意欲溢れる者こそが我校の誉れ。ですから、今皆さん

 が投げかけた疑問は、こうして大変遊戯な授業へと繋がりました

 ね。結構です、実に結構な事です。今後も疑問には貪欲であって

 欲しいものですね、はい」


 空気も他所に何故か上機嫌で話す先生と比べ。


「「「……」」」


 生徒の方は少し萎縮してしまった様に思う。いや当然だろ。

 何に決闘ありって。今の説明を聞く限りだと学習を害さない様気

 をつければ、決闘で間接的に妨害出来るって事じゃない? ああ

 でも、このアバウトな決まりが、力のあるヒト同士を牽制させて

 るって事? 秩序作りが難しいからって、混沌で無理やり作るな

 よ!んな無茶苦茶すぎるでしょ!

 秩序然として見えて、薄皮一枚で混沌が溢れるのかよ。トンデ

 モ学園じゃない!


「……zzZ」

「(お前の所為で識りたくない事知ったぞ!クソが!)」


 隣では呑気に眠るウェアウルフが一人───


 ───何となしに重苦しいままに放課後。

 担任による今日の授業も終了。相変わらず魔法の基礎、魔法につ

 いての事ばかりだった。けど。


「「「……」」」


 何時もなら帰っている生徒が今日は多く残って、今日の授業に使

 った教科書などを開き勉強している様子。あの先生の話は確かに

 怖かった。でも恐怖だけを植え付けられた訳じゃない、同時にそ

 んな恐ろしくも危ない場所でこそ、本物の魔法を学ぶ事出来る。

 そんな危ない期待や、同じ側に立つ事なんかを夢見ちゃってるら

 しい。

 ……自分もちょっとだけ、活躍する“魔女”な光景が脳内で再生

 されてるけどね。ホントにちょっとだけ。

 ま。今の所は秩序然ともしてるし、一年級は守られるって話しだ

 しで、そもそも学生学徒は守ってくるらしいし。皆平静を失った

 りはしてない。結果、あの話は自分達生徒のやる気、考え方を揺

 らす授業内容と成った訳だ。

 元々魔法を勉強してた自分にも何か届く物があったし、他の生徒

 も何か感じたのだろう。考え方、思想、とかにね。


「……ふあッ。~~~」


 と言うか。今起きたらしいコイツこそが聞いておくべき話だった

 と思う。強く、強く思う。

 ああいや、構うな構うな自分。さっさと図書室に移動しよ。そう

 思い鞄を手に席を立とうとした所で。


「おいミラクルゼロ」


 窓際、席の出口を男子生徒数人に塞がれてしまった。現れた男子

 生徒が言葉を飛ばした先は勿論自分、ではなく。自分を挟んだ向

 こう。つまり編入生へ。……うん、いや。


「(どうでもいいが退けよ! 自分が出れないだろうがぁ!)」


 机上の道具は既に片付けてあるし、鞄を掴んだ所。なのだけど、

 仕方無しに片付ける振りを続ける。クソが。

 そうしてやり過ごす傍ら編入生はと言えば。


「………あふ」


 眠そうにしてるだけ。まさかの気が付いていない、である。その

 態度が気に入らなかったのか、それとも無視されたと思ったの

 か。

 男子生徒三人は投げかけた言葉に反応が無いと見るや。


「おい、恥ずかしいからって可愛い欠伸すんなって」

「頭のデカくて可愛い耳は飾りかよ」


 と。何様な態度で編入生へ接する。恥ずかしいのはさっきのあだ

 名を考えちゃうセンスと頭だろうに。

 男子が自分を見て話す様子に、ようやく編入生は自分に話し掛け

 てるらしいと気が付いたらしく。


「あ? オレの事?」

「「「!」」」


 隣のウェアウルフが立ち上がり自らの顔を指差す。男子生徒達は

 決してチビでは無いのだけど、そう見えてしまう程に、コイツの

 方が背が高い。驚くよな、自分も毎日、いや座ってる今も驚いて

 るぞ。


「お、おお。そ、だすよ」

「か、可愛くねえ身長じゃねーでうか……」

「(ビビって変な敬語出てんぞ。何がしたいんだよコイツらも!

 あーも!自分の側でやらんでくれー!)」

「オレの名前はヴォルフだぜ?」


 何が嬉しいのか。いや嬉しいか知らんけど。“ニッ”と笑うウェ

 アウルフ。んなのコイツらだって分かってんだよ! お前は今バ

 カにされてるんだと気が付けよ。つか自分を間に置いて話すんじ

 ゃねーよお前らさあ! と、片付けの振りをしつつ心で叫び散ら

 す。クソが。


「ニックネームだよ、ニックネーム」


 ほんのちょっぴりとだけビビってる男子。三人のリーダーらしき

 男子が言う。


「? みらくるぜろってのがか?」

「だ、だから、ほら」

「お前事前の学力試験で結果がゼロ点だったからさ」

「そう言う意味で……」


 説明をしてる男子は凄く恥ずかしそうだ。バカにしに来たのか、

 おちょくりに来たのか知らんが。ニックネームの説明で恥を感じ

 るぐらい純真なら最初からやるなと言いたい。勿論言わないけ

 ど。


「えッ!? あ、いやぁ~……。か、書いたぜちゃんと!」


 話を聞いた編入生が困ってる、ってのは顔じゃなくて声で分か

 た。後ウソ下手くそすぎない? うちのクラスの男子は皆バカ

 なのかな?


「プ。お前知らねーの? 事前試験の結果ってのは廊下に貼られ

 てるんだぜ?」

「え゛!マジかよ! んじゃオレが何も書いてねーのバレちまっ

 たのかよ!?」

「ブフ! ま、頑張れよ“奇跡のゼロ点”君」


 おい。ミラクルゼロだろ? 恥ずかくなったのか知らんが言い方

 をコロコロ変えるな。目ざとくも優秀な自分の思考が気にするだ

 ろうが。

 編入生の慌てっぷりが男子たちの望む結果だったのか、ビビりな

 がらも笑うと言う、何か変な感じの男子生徒。そのリーダーらし

 き男子には見覚え、いや単に覚えがある。覚えがあるのは彼の成

 績が上位だからで、知性と身分の高さは必ずしも教養を育むもの

 じゃないんだなと思わせる。いや、イメージ的には正しいのか

 な? うーん……。いや何考え込んでるんだ自分。これ以上振り

 も限界だし、いつまでも無駄に此処で過ごしたくはない。なの

 で。


「あの、図書室に行きたんだけど……」

「あ、悪い」


 言って男子生徒たちが退いてくれる。素直だな、お前らも。

 存在を主張するのは嫌だったけど、言うしか無かった。彼らが退

 いた所を通る自分の背に。


「お。オレも行こうと思ってたんだ! 一緒に行こうぜ!」

「(コイツぅぅぅぅぅぅうううああああああああああああああ!

 !??)」


 最悪のタイミングで自分の存在をアピールして来やがった。

 此処で断るのは意味不明だし、明日もコイツが隣に居て、嫌な奴

 と目を付けられるのは困る。だったら肯定しか出来ないじゃない

 か。その事に下唇を噛みちぎりそうな思いで。


「………はい(クソがクソがクソがクソが)」

「んじゃ行こうぜ」

「「「……」」」


 仕方なしにウェアウルフと共に教室を出る事になってしまう。ク

 ソが。

 何か止めれるかとも思ったけど、よく知らない相手を巻き込みた

 くないのか。彼らが通せんぼとかっていうガキ地味た事はして来

 なかった。

 そして。いざ教室を出る間際。


「「「じゃあなゼロ点」」」


 彼らからの精一杯な声が届く。

 他の生徒は失笑が漏れる程度、その失笑もどっちにかって言え

 ば、良識がありそうな物だった。つまりクラスの多くはこの出来

 事を特に何も思ってないらしい。お陰で自分も何も思われてない

 のが救い。

 このまま波風立てず出られる。先に教室を出て“ホッ”っとした

 のもつかの間。


「おう待たな! 名前も知らねーあだ名も分かんねー誰か達!」

「「「!!? オマ───!」」」


 開けた扉は閉めるのが自然。その通りにコイツは教室の扉を“ピ

 シャリ”と閉めた。教室の中では何かを叫ぶ誰かの声。


「(コイツはバカなのか?)」

「? なんだ?」


 変なのに目を付けられてる自覚が無いのか。やれやれ。

 自分は他人の振りで廊下を歩き出した。彼らが追ってきても止ま

 るつもりは無い


「「「……」」」


 この学園で獣人はちょっと珍しい。けど全く居ないわけじゃない

 のだ。けれど、同学年が多い所通ると視線が自然と集まってく

 る。獣人と言うよりウェアウルフって事に注目が集まってるらし

 い。


「ん? 道此方じゃあねえのか?」

「そうですね。此方は少し遠回りになりますけど、自分は此方から

 行こうと思います」


 そうだ。教室を一緒に出はしたが、途中で道を変える事で離れて

 も良いはず。少し遠回りだけど、一緒よりはマシだろう。


「……」

「(って思ったけど。何当然と付いてきてんだよッ! お前は向

 こうから行けばいいだろうが!)」


 ……はぁ。もういい。考えるのも疲れる。此方は人通りが少ない

 から、視線を集める事も無いし。

 会話も無く歩く。隣の彼は『へぇ』とか『おおー』とか見渡して

 は一人呟いてるし。ああコイツには何でも珍しいんだろうさ。ま

 あ実際珍しい物も多いし、気持ちは分かるけど……。

 自分の中でイライラとモヤモヤが曖昧な感じに溢れて来て。


「……」


 楽しそうに辺りを見渡すウェアウルフの横顔に。


「何で授業中寝てるの? ……ッ(しまった!)」


 ついうっかりと此方から話しかけてしまった。クソ。

 話しかけると小首を傾げる形で、両瞼を閉じた状態で此方へ顔を

 向けて来る。器用だな、ホント。


「あ~……? ああ。ベーシックで書かれても読めねえから、寝

 てんだ。んでたっぷり寝て力を蓄えて、図書室でベーシックを爆

 勉して分かるように成ったら、もう爆上げで追いかける積りーっ

 ての、そういや昨日センセーとも話したっけか。

 ま、そんな理由で寝てんだよなーオレ」

「でも。後で授業の筆記は見せてもらえないんじゃない?」


 自分は当然丸写しした物を貸す気は無いしな。

 尋ねると編入生は自分の長方形記憶媒体、ポータブルクォーツを

 取り出し。


「へっへっへ。コイツで録画してっから大丈夫だぜ」

「!(寝てる時何時も持ってるのはその為か!)」


 授業の内容の録音録画は得に制限されてない。当然として販売や

 インターネットへの公開は禁止されてる。違反がこの学園との敵

 対ってハイリスクに見合うかは、販売も公開も見かけない事から

 推し量れる事だ。

 しかし。本当に器用だなコイツ。寝ながら録画って……。


「な? 賢いだろ?」

「あ、そ」


 悪戯っ子な笑みで反応を求められたが、望む反応を返す気は無

 い。適当な返事を返して歩く速度を少し早める。


「なあなあ?」


 歩く中で頭で考えた事は、学ぶ意欲。そんな先生の言葉。意欲在

 るものこそ誉れ、ね。ふーん。


「なあなあ? 賢くなかったか?」

「そうですね(しつっこいなコイツッ!)」

「へっへっへ、やっぱな!」

「(オマケにうぜぇ!)」




 反応を返した事へ密かに憤慨する少女と、反応をもらえ満足する

 学生二人が図書室へと向かう───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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