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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
5/37

第四話 探しモノ、見つけたモノ

 ───魔法学園の図書室。

 落ち着いた色の光りに満たされた室内中央には円形の受付、其処

 から上をと見上げれば天井までの吹き抜けが一望できる。遥か天

 辺には星座を模したらしき光が僅かに灯っている様子が見られ、

 中央吹き抜けから確認できる限り四階以上はありそうだ。

 外観との違いに目眩を覚えそうな図書室内部。外と内のちぐはぐ

 具合を他所に、図書室らしく一階には整然と並べられた本棚に、

 分類別にキッチリ整頓された本達がびっしりと収まりっている。

 入り口から中央受付までの距離は近く、受付から奥の方を見やれ

 ば、ずらりと並んだ机に読書へ勤しむ生徒の姿がちらほら。

 その内にの一つ。本を開くは他と同様、しかし不自然にも顔の真

 ん前に持って読書をしているらしき一人の学生。彼女は本の縁か

 らそっと片目を覗かせる。その先には───銀色の毛並みの獣人

 学生の姿。




『魔法を学ぶなら何処が良い?』と尋ねれば誰しもが名を上げるは

 ずの、魔法学園マギストディウム。学園と称しているけど興りは

 小さな魔法研究工房だったらしい。魔法学に神秘学、呪いに占

 い。あらゆる魔法的、超常的な効果、現象、発現から。異物聖遺

 物企業の最新商品と言う物体と言う物体に、非物体も集めに集

 め、研究解明に昼夜問わず勤しんでいたとの事。

 時代的に魔法が珍しく、技術に昇華され初めた頃の事で、おまけ

 に秘密主義だったとか。だから当時には狂人の集まり、或いは魔

 の巣窟とも言われてたんだって。

 実は今も影では言われてるらしいけど……。


「(それがある時『深奥を覗くばかりでなく、教える事もまた探求

 の道である』とか何とか工房の偉い人が言って、今の学び舎、学

 園へ転換したのだとか)」


 そんな学園付属の図書室はもうすんっっっごく広い。

 広大なスペースへはこれでもかってぐらいに押し込まれるように

 本が“びっしり”と収めれているし。魔術書に魔導書、魔科学の

 分野別専門書から神秘系統学書。果ては改定事変前の稀少本まで

 まで。こんなに多くて種類分類できるのか?ってぐらいに沢山の

 書物が収められている───らしい。

 生憎、一学年級が利用できる一階では、基礎の基礎しか無いから

 ね。それらが在るのは二階以降。

 んまあ一階にも貴重で希少な本は少なくないんだけどね。だから

 当然在学生が利用する機会も多い場所でもある。


「(ってのは微妙)」


 皆勉強は先生から学べば良いやと思ってるのか、それとも入学し

 たてだからなのか。同学年級の生徒を此処で見た事が殆ど無い。

 もしかしたら、自分達の学年級で利用できるのは一階までなの

 で、“基礎と基本”の一階はスルーする積りなのかも? 上級生

 は一階なんて利用しないだろうし。何にしても学生も学校外のヒ

 トも少ない一階は、利用する自分にとってはとても過ごしやすい

 環境。元々が広いから、今後ヒトが増える事があっても気になら

 ないと思うし。……なんだけど。


「……?」

「? ……?」


 ガードに使う本の縁から様子を伺う先には、図書室で初めて見る

 同学年、しかも同クラスの生徒の姿。その姿は紛れもなく獣人で

 あり、綺麗な銀色の毛並みをした、かの編入生で間違いない。


「……」


 一度強く瞼を閉じ。ゆっくりと再び開いて見れば。


「……。……?」

「………。………。」


 残念。視界先には受付で何か話しているアイツは居た、確実に居

 ちゃってる。


「(もう何でよッ!)」


 本を掴む指に“ギュッ”と力が籠もる。

 教室で寝てた、いや授業中から眠ってた奴が何で此処に居る訳

 よ? 絶対此処に用ないと思うんですけどッ!

 突然現れた編入生の姿に独りパニックになる自分を他所に。


「!」

「……」


 受付で何か話してたらしいアイツは自分が居る方とは別方向へ歩

 き出した。その様子に心底“ホッ”と胸を撫で下ろす。

 そう、そうだよ。この図書室はバカみたいに広い。だから自分の

 方に来る可能性は低くて当然じゃない。

 安堵からもう一つ息が溢れ。上げた腕を下ろし。


「読書に戻ろう……」


 本を机に開き置いては内容へ注視を試みる。

 手に持って読むのも好きだけど、大きめなサイズの本をこうして

 机に置いて読むのも好き。ポータブルクォーツで魔法関係の書籍

 を読むのも嫌いじゃないけど、実物に手が触れる、紙の擦れる僅

 かな音をまた格別だと感じる。

 とは言っても。今は読書を楽しむのでは無く、知識を噛み砕き脳

 へ押し込んで行かねば。勉強とは無心で行うべき作業、作業……

 作業は得意……。


「(………あ~ぁクソッ! 気が散ってる!)」


 さっきの所為で、あの獣人の所為で全ッ然集中力出来ない! 一

 度大きくかき乱された集中を取り戻すのは難しい。アイツの所為

 で集中できない自分は、何と無しに本から顔を上げた。一種の気

 晴らし気分転換として。


「(いっそ席をもっと奥の奥に移動───ハァッ!?)」


 同時に“バッ”と本を急いで拾い上げ、顔をガード。

 何故なら。丁度あの編入生が受付の所へ戻って来た所を目撃した

 から。戻って来るにしては幾ら何でも早すぎる! 横着せず席を

 移動するべきだった! いやそうだ、もう一度アイツが受付を離

 れた隙に今度こそ移動してしまおう! 或いは帰ってもしまうの

 も───


「……」


 考えながら様子を伺う先では、編入生が受付の辺りで“キョロキ

 ョロ”として居た。どうやら受付担当のヒトが席を外してしまっ

 ているらしい。なら早くどっか行け、早くどっか行けよと念じる

 思いが届いたらしいく。


「「!」」


 睨む自分とアイツの視線が見事にぶつかる。クソがッ!

 咄嗟に視線を本へと隠してみたけれど、きっと絶対確実に手遅

 れ。ああ本当に最悪!

 顔は本へ向けつつ少し視線を動かせば……ああぁ此方に来てる、

 来てるよ来ちゃってる! 編入生でウェアウルフ。彼ら獣人の多

 くは人間よりも身体機能が高いので有名。だから当然此方の姿が

 見えてる訳で、間違いなく、迷いなく、自分の側に歩いて来るん

 だろうなぁ。

 来るなと願いつつ。無情にも願い叶わず側へ来た編入生は。


「……」

「……(何んだよ)」

「………」

「………(だから! 何黙ってんだよッ!)」


 何故か自分から少し距離を空け立ち止まり、一向に話し掛けて来

 ようとしない。

 このままスルーし続けるか? いやでもさっきバッチリ互いの目

 合わせてしまったし、非常に残念な事に面識もあるクラスメイ

 ト。此処でスルーして何か因縁を付けられてしまうかも知れな

 い。それは困るしちょっと怖い。ああでも、気が付かない振りし

 て逃げるのも?

 頭で“ぐるぐる”と様々な考えが巡り、案と対抗が衝突を繰り返

 され。


「~~~ッ何か御用ですか!?(だぁーもう! あるから来たん

 だろなッ!)」

「! ……」


 持ち上げた本を勢いよく下ろし。側で見やるウェアワンコへ顔を

 向け言葉を飛ばしてやった。煩わされる事自体にイライラが募

 り、つい強気を見せてしまった、けど。


「……」

「(あぁーデカーイ……)」


 アイツが側に寄ってくると自分の視線はコイツの腰の辺り。ホン

 ト、ホントデカイなコイツ! 今更ながら強気を後悔しながら視線

 を上へ上へと、尖った口の付いた顔へ持って行けば。


「………」


 意外な事に。凄く意外な事に、バツの悪そうと言うか申し訳無さ

 そうと言うか……。そんな感じの表情で此方を見下ろす獣人の顔

 が其処にはあった。申し訳無さそうとだと自分が感じたのは、表

 情を読み取れたからじゃない。だって顔は凛々しい───怖い、

 怖いままだし。自分がそう思った理由は、耳だ。

 ウェアウルフの耳が少しヘタっていたから、そう感じたのだと思

 う。

 言葉を飛ばした少し後。獣人は尖った口の、自分達人間で言う所

 の鼻骨辺りを“ポリポリ”と一度掻いては。


「悪い。読書の邪魔しちまったよな?」

「え? あ、いや。い、いけど、別に(うわコイツ、そんな静か

 な声も出せるんだ)」


 図書室何だから当然声量は下げて話すべき。それを守れるとは思

 えず身構えて居たけど、出て来たのは静かで穏やかな声。しかも

 今の表情は“申し訳ない”って表情で合っていたらしい。……少

 しだけ自分の胸が“チクッ”とした気がする。何時ものとは違っ

 た感覚で。

 気の所為だと思うし、思う事にする。


「! ……んでよ」


 見上げる自分に気を使ってくれたのか、ウェアウルフは屈み込み

 此方の目線へ自ら合わせに来て。


「ッ」

「あのよ」

「はい(顔近ッ!鬣サラサラかよ!)」

「もしかしてベーシックの本ってヤツ、何処にあるか分かったりし

 ねーか?」

「……あ、ああ。分かります、よ」


 自分が応えた瞬間明る気、ヘタった耳を“ピンッ”と立てては。


「マジか! ホンッとにわりぃんだけさ、その場所ってどの辺か

 教えてくんねーか?」

「それだけですか?」

「ん? おお、そんだけだ」


 コイツが此処に来た目的が分かった。それは自分と変わらない物

 だったらしい。

 極力面倒な事はしたくない、関わりたくない。一言『知りませ

 ん』と言えば済む話。……だけど。


「此処からすぐ近くですね。……案内しましょうか?」


 普段の自分ならこう言う時は場所を指差すだけに留める。だけ

 ど、心の中とは言え少し、ほんの少し良くない考えや悪偏見を浮

 かべた事へ。小さく罪悪感を感じていた。だから案内は───そ

 う。自分の清い心に従っただけ。コイツへの罪悪感ではなく、自

 分自身への罪悪感を軽くするためだ。うんうん。


「良いのか? 頼めるとオレは助かっけどさ」

「良いですよ。はい、じゃあ付いてきてください」

「おう!」


 席を立ち、ウェアウルフが目的とする本棚へ向かう。それは先程

 コイツが向かったのとは逆。つまり、自分が座って居た席の後ろ

 側。

 歩く傍ら直ぐ隣を歩くウェアウルフが頭上で呟く。


「あー……此方だったのか」

「受付で話して居たのが見えたんですけど、何故反対側へ行ったん

 ですか?」


 素朴な疑問。コイツが嫌がらせを、亜人差別何て古い考えをあの

 受付さんが持ってるとは思えないし、そもそも受付のお兄さんお

 姉さんに人間は居ないしね。

 まあ、雑談とかする気はないんだけど。気には成るよねって事

 で。


「ああ。普通に『一般文字(ベーシック)の本は何処にあるー』って聞いた

 ぜ? したら『あっちだー』て言うからよ。んで案内を見ようと

 思ったんだけど」

「案内文字はそもそも一般文字、ですからね」

「それだよ。んでもっかい受付に聞きに戻ったら居なくなってたか

 らよ。何処だって探してる途中ティポタの姿見えたから、こうし

 て頼らせて貰ったんだぜ」


 話を聞いた自分は、多分受付のヒトは『一般文字の本』と聞い

 て、一般文字自体について書かれた本の場所をコイツに教えたん

 だと思う。差別をした訳ではなく、まさかコイツ自身一般文字が

 読めないとは思わなかったのだろう。それぐらい此処でも珍しい

 事なんだと思う。

 コイツが真に探しているのは『一般文字の読み書き本』だ。そん

 な魔法との関係が縁遠い本もあるのが、この図書室。場所は初め

 て行く所だったけど、利用前に見取り図を頭に入れていたので迷

 いはしなかった。

 受付のある中央から遠のき、読書する学生の姿すらなくなった

 頃。並べられた本棚の一つへ入り。


「はい此処ですよ」

「おお!ありがとよ!」


 迷わず到着。


「んー……」

「(……クソが)」


 このまま本棚の前に置いて行くのも出来るけど。自分は性悪では

 ない。


「多分これ」

「おおお!」

「(喜び方が一々うるさいな)」


 棚から一番最適だと思う習得型技術書(ラーンブック)を選び、分厚い本を両手で

 手渡してやる。感動したらしいコイツはちょっとだけ声が大きく

 なり、動きも同様。……まあ、だいぶ抑えてる方だけどね。

 これでもう用もないだろう。


「じゃあ自分はこれで───……まさかと思うけど」

「?」

「習得型技術書の使い方は分かりますか?」

「おう。魔力籠めて読めば良いんだろ?」


 流石に技術書の使い方は分かるらしい。まあ習得型技術書の適正

 云々の話は自分には関係ないし、どうにも出来ない事だから。聞

 かなくても良いよね。


「そうです。多分その本が一番ラーン技術に優れてる所のだから、

 半分程習得できれば一般文字にに困らないかと思います」

「へぇー……」


 ウェアウルフが分厚い本を片手に持ってしげしげ見つめる。


「じゃあ、今度こそ自分はこれで」


 頼み事はちゃんと聞いてやったし、親切までしてやった。もうこ

 れで後引くのはやめよう。罪悪感も消えたっぽいし。後はこの場

 をさっさと離れるだけ。

 そうして席へと踵を返す間際。


「なあティポタ」

「……(また呼び捨てかよ。コイツ舐めてるな)」


 弱そうな、大人しそうな奴が甘い顔をするとこれだ。生憎、利用

 されるぐらいなら面倒事も大いに起こすタイプだぞ、自分は。


「何です? ───」


 仕方無しに、やるならやるぞと心構え振り返ると。


「ホント、親切にしてくれたありがとな。助かったぜ!」

「───は、い」


 やっぱ怖くなって肩をすくませ見上げた先で、笑顔、だと思う表情

 を浮かべ。分厚い本を軽々と振っては此方を見送ってくれるらしい

 ウェアウルフの姿。素直な感謝の言葉と身振りいっぱいの“ありが

 とう”が此方に送られてる。


「……」

「?」


 両手を顔の辺りで構える状態で固まる自分を、笑顔そのまま小首

 を傾げる獣人。


「! じゃッ」

「おう。また明日な!」


 何故か声が出し辛かった。何故か歩く速度が速かった。

 ウェアウルフをその場に残し自分が座っていた席に戻っても。


「……」


 何故か、何故か頭は真っ白。

 その後もなんだか集中できず、イライラとモヤモヤが自分の中で

 反復飛びを始める始末。仕方なしに、その日は席と本を仮置させ

 てもらい家へ帰る事に。

 帰り際。あのウェアウルフが技術書を読んでいるであろう、図書

 室の奥へ視線を飛ばしかけ。


「(……どうでもいい)」


 体を無理やり帰路へ向かわせた───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───自宅。

 お風呂を出た後には真っ白な頭にも思考が戻って来てくれて、自

 室に帰れば寝る前の予習を済ませる事が出来た。間の空いた日課

 を済ませられた自分は、気持ちよくベッドの中へ。

 掛け布団を引き上げ目を閉じる。今日は直ぐに眠れそうだ。


「……」


 目を瞑ると頭に浮かぶのは自分の良くない考え、そして偏見の目

 だった。日常にいきなりだったのだから、思ってしまうのは仕方

 ないはずで、珍しいモノを珍しいと思う気持ちは誰にも否定でき

 るモノじゃないと思う。……だとしたら。今後も考え続ける事、

 見方を変えないのはきっと違うのだろう。

 自分は別に聖人でも何でも無い。誠実を取り柄にしたい訳でも無

 いし。ただ、ただ自分が嫌だと思うなら気を付けるべき。それだ

 け。


「………」


 眠気が強まる。もう瞼を開ける力もない。そんな瞼の裏、ぼんや

 りとした光景に図書室が浮かぶ。そして、尻尾らしきが僅かに揺

 れ此方を見やる銀色の人影。

『ありがとな!』

 人影から薄っすらそんな声が聞こえた気がする。


「…………クソが」




 暗闇に少女の声が小さく響く───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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