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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
4/37

第三話 差し込む暖かさ

 ───翌日。少女は何時もの様に制服に着替え、朝食を摂り学校

 へと向かう。そして、入るべき自らの教室前まで来ては、暫し佇

 んで居た。




 昨日はちょっとした出来事があった。

 今までも日常に異が交じる事はあったけど、寝れば全ては遠い日

 の事の様に思えたし、実際そうなってくれていた。嫌な思いも、

 恥ずかしい思いも、気持ちを切り替えて無理やり追いやる。それ

 を今までの学校生活で、そしてこの学園に入学してからも。意識

 して行えていた。なので自分はメンタル管理は得意な方だと思

 う。

 今日だってそう。朝起きてから昨日の事を一切考えず学園に、こ

 の教室前まで来れたじゃ───


「(まさに“今”考えてるじゃん。クソが)」


 事実に気が付いてしまい両肩から力が抜け“がっくり”と下がる

 思いだ。

 まあ?昨日の今日だし。この場所でもあった訳だし? 気にして

 しまうのも仕方ないと言える。かも。


「(いや何教室の前で考え込んでるんだ自分は)」


 考えを引きずりたくないのに、現在進行系で引きずってしまって

 いるらしい。これでは行けないと頭を一度振る。いつも通り、い

 つも通りの学園生活を始めよう。

 いざと教室のドアを開け、自分へと挨拶の飛んでこない教室内を

 進み。階段状に並ぶ長机の間を上がり一番端の窓際席へ向かう。

 ……と。


「……zZ」

「(なんでよ、なんでなのよ)」


 全然いつも通りじゃない。もう完全にいつも通りじゃない!

 あの編入生、ビーストマン、ウェアウルフが堂々と自分の席に座

 っていたからだ。クソが。

 正確には自由席制度なので誰の席でも無いのだけど、此処は自分

 しか使ってないし、他のクラスメイト達もだいたい誰が誰の席か

 を理解し意識的に、暗黙的に避けている。


「(そう。コイツ以外なッ!)」


 暗黙を知らないからこそ、コイツが何処に座るか何て誰にも分か

 らない事で、同時に仕方のない事でもある。でも、だけど、どう

 して自分の席なんだ? 他にも席は空いてるだろ、五段式何だか

 らさあ!? ああクソ、昨日に引き続きこうしてコイツに自身

 の思考力を割く事、いやあらゆるを含めて! 凄くイライラさせ

 られる!


「(何なんだ、何なんだコイツは!)」

「………?」

「ッ!」


 イラつきながら睨みつけている先で、不意に編入生が目を覚まし

 てしまう。物音の多い教室で寝てて何で今起きるのよ? 何、気

 配でも察したとか? 怖いわッ。


「(にげ───あ、いや逃げる必要がそもそも。と言うか何で自

 分が逃げ、ああいや逃げるって場所も……)」

「……お」


 逡巡が自分の退路を断ち。意識の覚醒したらしい編入生が側に立

 つ自分に気が付いては。


「わるい。此処ってオマエの場所だよな」

「え。あ。はいそうです、ね(いや『はいそうです』じゃないけ

 ど!?)」


 つーかお前呼びかよ。ホント、何なんだコイツ。

 粗暴なのか気安いのか何なのかと考える先では、ウェアウルフが

 席の終わり、つまり窓際に退いては立ち上がり此方を促す。

 この時点で自分には引き返すか進んで座るかの二択が選べる。い

 や、今更座席は自由だからとか、そんな説明をするのは手遅れだ

 し。此方から言った訳でも無いのに自分から譲ってくれたんだ。

 このまま場所を貰っても構わないはず。と言うかここで断ったら

 それはそれで波風が立ちそうじゃない? よし。

 昨日案内してあげたし此処は素直に。


「ありがとうございます」


 お礼を言って席を譲られよう。……何か、席を譲らせたみたいで

 ちょっと申し訳───無くない。無くないよね。うん。

 自分を納得させる傍ら、窓際から席の後ろ。つまり自分の後ろを

 通る獣人。


「(全く。何だったんだあのビーストマン)」


 ああでもこれで関わりは終わり。此処が自分の席とアイツは認識

 したはずだし、もう座られるなんて事は無いでしょ。明日からは

 こんな接触も無い───


「よっと」

「……(は?)」


 自分の後ろを通り過ぎたビーストマンが、椅子を引きそのデカイ

 体をちょっと窮屈そうに収めた先は、自分の直ぐ隣の席。


「(だから!なんでだよッッッ!)」


 怒気で息が詰まったのは初めてかも。

 最悪だ。なんでこの獣人は自分の隣に腰を下ろしたんだ? 意味

 が分からない。何で何で何でと考えて、考えても論理的な答えは

 出てこない。

 昨日のあれか?あれで懐いたの?懐いちゃったのかな? ああク

 ソッ、隣に座られたらこれじゃあ自分も注目されるだろうが!

 もっと自分が周りへ与える影響考えて行動しろよッ!


「なあ」

「あ゛あ゛? ───ッ!」


 ぁぁぁあああしまった!素で返事しちゃったじゃんか!

 う゛あ゛ーも゛ぉー!

 自分が今の返事をどう取り繕おうかと思案するも。


「そこ、陽射しが良~い感じに当たってさ、気持ちが良いんだ

 ぜ?」

「……は?」


 まるで気にした様子もなく“にんまり”、多分にんまりと笑って

 言葉を飛ばしてきた。

 陽?陽射しが何だって? 言われてコイツと反対、左側の窓を見

 やると。席の端の端。其処には陽の光が斜めに掛かっている。こ

 れが一体どうしたと言うのか。


「だからさ、ほら」

「な、なんですか?」

「もっとそっち、ほらそっち寄ってみろって」

「あ、ちょ、ッ」


 言いながら体を少し此方に傾け席をずらし、自分との間にふっさ

 ふさの尻尾差し込んでは圧をまで掛けてくる始末。何だよコイツ

 本当にさあ!

 ……ああでも悲しいかな。袖の捲られた腕は筋肉的太さで、爪に

 牙何かも鋭い獣人に逆らって目を付けられるは嫌だし怖い。それ

 にこのまま引き下がらないで押し問答繰り返せば周りの注目をど

 んどん集めそう。なので仕方なしに、いつもは詰めない窓際まで

 動いてやる。コイツと距離を空けられると思おう。


「(クソ。これで少しは静かに───)」


 仕方なしにずれてみれば、まるでケープでも羽織ったかのような

 暖かさが体に伝わる。陽射しは自分の肩の辺りまで掛かり、ほん

 のりとした暖かさが半身からじんわり全身へと伝わって来る。

 そうか、ずっと陽射しを避けてたから気が付かなかったけど、此

 方側の方が温かいんだ。そりゃそうよね。


「……温かい!」


 呟いて“しまった!”と思う。自分は反射的に反対、右に居るウ

 ェアウルフへ顔を向け。


「………」

「───ッ」


 振り向いた先では体を此方に向け、机により掛かるように片肘付

 き。ただ、ただ静かに笑っていた───のだと思う。正直あれが

 笑みなのか、威嚇の形相なのか判別付かないし、付かせるなら威

 嚇だと思う。ウザ。あーウザイウザイ。もう相手もしたくないこ

 んな威嚇ワンコ。威嚇されたんだから、此方も構うなって事を体

 全体で示す為に、腕で囲いを作って机の上に突っ伏す。……決し

 て顔に何か異常を感じ、取り敢えず隠そうとか。そんな考えに襲

 われたとかはでは無い。微塵も無い。


「おお。いいなそれ!」

「(うるさい黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!)」


 何がいいか分かんないし分かりたくもない。うぜえ煩えうぜえ。

 無視が効いたのか、関わりたくない気配を察してくれたのか。獣

 人がそれ以上自分へ話しかける事は無かった。いっそ席も離れて

 遠くへ行けよと伏せた机の上で思いながら。


「(………あったか)」


 背に広がる温度がコレ以上も無く。眠気を誘う───


 ───予想外の睡魔に意識を持って行かれそうに成りながらも、

 間一髪の所で先生が到着。起きるに起きれない状況を脱した事で

 眠気は去り。急いで筆記用具を取り出しては授業を受ける。

 クラスの皆が既に見つめる先には、昔ながらの物で、大きな黒板

 前に立つ先生の姿。


「さて。朝の挨拶も済ませましたし、早速授業を始めたいと思い

 ます。では皆さん、本日は参考魔術書のグリーンを───」


 言いながら先生は魔術書を取り出しては。


「───ふむ」

「「「?」」」


『ふむ』とか言ってそのまま固まってしまう。


「私とした事がすっかり忘れていました。皆さんには今日までこ

 れからの備えとして、魔法への基礎知識を復習したほうが良いと

 思い、教鞭をとってきましたが、その前にもっと大事な事を教え

 るべきでしたね」


 開きかけた魔術書を片手で“パタン”と閉じ。教卓から此方、自

 分たち生徒全体見渡すように視線を端から端まで一度流しては。


「今日は魔法の基礎ではなく、一般魔法と我々魔法使いが扱うべ

 き魔法との違いについて。つまりは現代において魔法技術が我々

 にどの様に関わっているのか、そのお話をしましょう」


 何て話す。どうやら今日は魔法そのものについての話し、社会科

 とでも言うべき内容らしい。


「現在魔法は私達ヒトの生活に無くてはならない技術です。です

 が、皆さんがこれまで接してきた魔法を我々魔法使いは一般化魔

 法と、自らの魔法とは呼び分けています。

 この一般化魔法とは、企業や国に寄って扱い方や効果の限定、制

 限の違いは多少ありますが、ほぼ全てに置いて一般の人々が普通

 に扱える事を目指し、普及される魔法、魔法技術の事ですね」


 電車の動力ではなく、動かす仕組み。ポータブルクォーツと通信

 技術。とかに使われてる魔法の事。


「この世界に魔力を持たないヒトは居ない、これは誰もが知ってい

 る常識ですが、実は魔法は誰にでも扱えるモノでは無いのです」

「? 魔法なら俺んちの母親だって使ってますよー?」

「私のおじいちゃんもー」


 一般魔法と魔法の違いをイマイチ分かってない生徒が言葉を飛ば

 す。


「一般魔法とは大衆が使う事を想定され効果限定、規模制限の掛け

 られた、完璧に挙動を管理された魔法の事を言います。コンロに

 火を灯したりする時、部屋の明かりをつける時。必要な魔力を使

 用者から自動的に引き出し、少しの助け共に魔法を発生させるの

 が、一般化された魔法です。ですが魔法使いが扱う魔法とは──

 ─」


 言いながら先生は腰に下げたレイピアの柄に片手を乗せ、もう一

 方を空へと伸ばし。


「場所も選ばず、火種も無く、不自然と火を起こし」

「「「!」」」


 “ボッ”っと火が巻き興り。


「流れもなく、窓の閉じた内側で一陣の風を巻き起こす」


 開いた手を握り込んだと思ったら、火は消え風が自分達の周りを

 通り抜けて行く。


「このような不思議を己が意のままに操らんとする者を、扱う者こ

 そ真の魔法使いと言えるでしょう」

「「「……」」」


 羨望の眼差しが先生へと集まる。勿論自分もこの時ばかりは大興

 奮。生の、魔法石(クリスタル)の込められたライターでも何でも無く、純粋な

 魔法の発現を見られたのだから。


「魔法を学ぼうとする皆さんですが、今の反応と認識は仕方ありま

 せん。現代では魔法が使えないモノは居ない、と言う常識が詳細

 を省き根付いているのは明白で事実。それ故魔法使いと言う言葉

 も意味を希釈され久しくもありますが、ここで皆さんに質問で

 す。

 皆さんは『魔女(マギサ)』に付いては、一体どの程度知っていますでし

 ょうか?」

「スゴイ!」

「強い!」

「頭いい!」

「メッチャ偉い!」


 クラスメイトの言葉が発せられる中、先生は薄い苦笑いを浮かべ

 ている。

 多分質問の意図は、一般的な魔法と純粋な魔法との違いに関係し

 ている事で、つまり魔法使いと魔女は別の意味を持っていると言

 う事だろう。自分の知識から言えば、魔法使いとは言葉そのまま

 魔法が扱えるヒト。だけど先生が言った様に現代ではストーブか

 らポータブルクォーツまで、魔法で動いている道具が多数。さっ

 き先生が火を起こしたけど、魔道具でも火を点けられるしね。

 規模も威力も先生のそれとは比べようもないけど……。

 なので。魔法使いはもう既に一般人で、真に魔法を使える者を今

 は魔法師とか魔法技師って呼ぶから、一般と専門の違いとでも言

 えば良いのかな? この場合は。


「(まあ。指差しでも何でもない問に態々答えたりしないけど

 ね)」


 先生からの質問を何でも答えていては同級生から心象が、ね。

 自分で一つの答えを導き出す傍らで、クラスメイト達が思いつい

 た言葉をそのままを吐き出してんのかって感じに、それっぽい事

 を先生に投げかけ続けていた。大喜利じゃないんだから。

 薄い困り顔だった先生も徐々に“うーん”と言った具合に子首を

 傾げ始める始末。

 なんだ。今日は魔法についてじゃなくて、魔法背景についての話

 しっぽい。これってもしかして自分は聞かなくても良いかも?

 そう思うとまだ背に残っているぬくもりから少し意識が霞む。

 その間も何人も生徒が『カッコイイ』『キレイ』『超人』だとか

 何とか言葉を飛ばしてる。そんな中で。


「遠い昔の罪名。現代では敬意を込めての呼び名」

「おおおお!」


 先生の大声に意識に掛かっていた霞が消し飛ぶ。

 少し慌てて先生へ視線を向ければ先生は何度も深く頷き。


「今“罪名”と言った生徒は魔法文明、時代をよく勉強して居ま

 すね。その通り。魔女とは遥か昔に魔法犯罪者全般へ使われてい

 た呼び名でもあるのです」

「「「へぇー……」」」


 他の生徒全員が関心を示す。勿論自分も。

 知らなかった。魔女って言えば取り分け優秀で魔法専門の技術者

 の、そのトップのヒト達の事だと思っていた。こうして話題に出

 たからには、魔法の時代背景も勉強すべきかも知れない。

 ……でも今の言葉って誰が? 自分も知らない事ってなると学年

 一位さんの───


「……」


 ───いや。学年一位さんも関心のお顔っぽい。

 まさか。まさかと思いながら視線の意識を隣へ向かわせる。


「……」


 目が冷めたら消えていて欲しいと思ったけど、消えてなかった編

 入生な獣人。ソイツは机に片膝を付き手で顎を支え、ぼーっと。

 ホントにぼーーっと。先生を見ていた。コレは違うな、うん。

 まあ自分の知らない事も沢山あるし、知ってる生徒がきっと居た

 のだろうと思い。視線を前へと戻す。


「現代では信じられない話でしょう。ですが遥か昔、魔法が魔法と

 して知られる事も薄い時代の事です。その時代では魔女とは魔法

 を違法に扱う者だけでなく、あらゆる重罪人を指す言葉としても

 用いられ、乱暴極まるとどんな犯罪者も全て魔女だ! と、そう

 片付けられ、使われていた時代があるのです」


 何て野蛮な時代の話しだろう。と言うかもう、現代を生きる自分

 には意味不明過ぎる。魔女が罪名って時点で理解は難しい。


「とは言ってもそれは遥か昔も昔。魔女と言う言葉が記録に残って

 いる最古の時代。魔法と言うモノ自体への認識は勿論、魔法技術

 も技術と呼ぶには幼く、魔科学と言う言葉も無かった時代でのお

 話です。

 皆さん魔女が罪名であったとは知らずとも、ある時代に魔法が革

 新的に進歩し始めた頃、と言うのは習ったかもしれませんね。目

 覚しき発展、魔法技術の進化が興った創生期。全ての魔法技術の

 原点、真理学が興った奇跡の時代。普通学校ではそう言う風に習

 ったかと思いますが、それ程古~いお話なのです」


 先生の話しには聞き覚えがある。でも自分が調べた読み物では、

 確か発展と進化だけの時代では無く、最も残酷で残忍な差別が横

 行し、大地と海、そして空をも染めんばかりの血塗られた暗黒期

 でもあった───とか。そんな話を昔読んだ覚えがある。

 確か、暗黒と光明が入り混じった混沌の時代で、象徴すべき単語

 がゾ───


「ファ~フッ」

「!」


 欠伸をしたのは隣の獣人。自分は咄嗟に“サッ”と他人の振りを

 実行。いや実際他人なんだけど……何態々振りってなんだ、振り

 って。


「……ちょっと退屈でしたか?」

「あ? ああ。いや、ちょっと寝て無くてっさ」

「なるほど。てっきり私授業が退屈で眠くなったのかと、そう思

 いましたよ、私は」

「「「!」」」


 ヒッ。先生の鋭い視線が獣人を突き刺してるし、空気が一瞬で重

 くなった。怖すぎるでしょ、何あの目つき。これじゃ誰も言葉を

 吐ける訳ない。


「何言ってんだ! メッチャ面白いぜ、センセーの話はさ!」

「おや?」

「だってオレも知らねー話しだし、もっといっぱい聞かせてくれよ

 って感じだぜ」

「おやおやおや? それは結構、実に結構な事です。

 ですが、次は欠伸をしたく成ってももっと小さく、隠すなどの配

 慮をしてくださいね?」

「おう!」


 先生は先程と打って変わって綺麗な笑顔。

 この獣人の心臓は体毛同様に覆われてるのか? 弛緩した空気の中

 で自分は“ホッ”と安堵しつつ思う。こっちは険悪な争い合いを

 見たいとは思わない平和主義者だもん。

 ……全く。あれ、直前自分は何を考えてたっけ?


「まあ時代の話はそこそこに。次は魔女とこの学園の話でもしまし

 ょうか」


 ああそうだ。時代の話しだっけ。ま、でも読んだのって世界の陰

 謀論特集みたいなのに載ってた眉唾なお話だったっけ。内容が面

 白くなかったのか直ぐに本自体見なくなったし、出版社からもそ

 の後一切新刊の話を聞かなかったなぁ。つまりよっぽどツマラナ

 イ内容で、売れなくてそのまま……って事なんだろう。

 ダメだ。自分まで欠伸が出そうなんだけど、クソ。これも獣人に

 唆された所為。そうに決まってる!

 閉じそうな瞼を必死に釣り上げ、耳を先生の言葉へ集中させる。


「現代で使われる魔女と言う言葉は一般的な魔法専門職。魔法技

 師、魔法科学者、医術者等。魔法専門職の中でも特別に優れた存

 在へ敬意を込め魔女と言う言葉は使われますが。専門職の彼らは

 勿論、我々も魔女と言う言葉の重みを真に理解しなければ行けま

 せん」


 先生は“うんうん”と頷きながら。


「一般のヒトが、魔法知識の浅い人々は魔法を扱えるだけで魔女と

 敬意を込めて呼びますが、魔女とはただの称号名ではありませ

 ん。魔女である者には多くの権利権限が与えられ、その効力は国

 家間を飛び越え効力を発揮してしまう。そんな称号なのです」


『魔女の位や国、場所に寄っては少し扱いは違いますけどね』と先

 生は付け足し。教室内、角のシンボルマークが記された校章を指

 差しては。


「そして。この学園は魔法の研究機関であり、同時に魔女の称号を

 贈呈できる数少ない教育機関でもあるのです。ですので、入学し

 た皆さんには是非魔女を目指し、この学園で研鑽を───」


 先生はその後少し『魔女を目指そう!』と熱く、熱く。今日行う

 べき通常授業を押してでも語っていた───


 ───少しの遅延を除き、後は滞りなく今日も授業が終了。その

 放課後。

 使った筆記用具を鞄に仕舞い席を立って……隣を見下ろす。


「……zzZ」

「(また寝てんのかよ!)」


 先生の授業を熱心に聞くって感じだったこのビーストマン。黒板

 に文字を書き始め、皆が参考書をを開き始めると同時。寝てしま

 ったのだ。

 何なんだ、何だコイツはホント───いやいい。どうでもいい。

 考えも思考も一ミリだって割かず、さっさと教室を出ようじゃな

 いか。


「……z」

「………」


 ………まあ。起こさない様にだけは、動いてやるか。

 自分は編入生と反対、窓際席の終わりから階段席を下りて、その

 まま黒板を横切り教室を後にする。教室を出る間際にふと一度、

 獣人へ視線を送ってみたが。


「………zz」


 相変わらず眠り続ける獣人と。


「……?」

「……!」

「!」


 アイツを珍しげに見やる生徒達の姿。何故振り向いて確認したの

 か、自分でも分からん。


「(うーん?)」


 小首を傾げ唸っても分からない。何か引っかかる物を感じるけ

 ど、それ以上は留まらず。教室を一人出て行く事にした───


 ───教室を後にして広い廊下を歩く。このまま帰る、訳じゃな

 い。


「(今日は学園の図書室へ寄って行こう)」


 普通学校と違う魔法の学校だけど、似た所も勿論ある。例えば授

 業が魔法の事ばかりでなく、一般教養の授業もあったり、定期的

 に行われる知力調査、またの名を定期試験だってある。

 実は、この学園に入学して初めての定期試験。それがもう近い。

 ここで良い成績を残して置かないとね。今後の学校環境の為、後

 々の将来の為にも。


「(魔女の称号獲得───は別にどうでもいい)」


 冒険者に成りたくて冒険者ギルドに登録する訳でも無し。

 正直この学園に入学して、一年級以上を取れれば、その後の職に

 困る事は少ないだろう。現実設計の為にこの学園へ入学したに過

 ぎない自分には、魔女を目指す事はそれ程重要じゃない。


「(それに初めて、って言うとちょっと違うんだけどね)」


 学年級を貰う前。生徒皆が最初に試験を受けさせられた。

 ただし試験は授業前データの取得を目的としたもので、正確には

 定期試験外であるらしい。でも試験がある事は事前告知され、予

 備知識習得期間も設けられてもいた。

 この入学試験は後の成績や卒業試験結果には加味されない、との

 事だったけど。その()()()()()()()()()()()


「(その事が分かってたから頑張ったんだけど、四から五を狙った

 のに結果二位になってしまったのは失敗だった)」


 成績に加味されない、と言う事は周りもやる気を上げてこないっ

 て事を失念していたのだ。学生の自堕落さを舐めてたな、くそ

 う。

 唯一の救いは学年一位が自分よりもずっと目立つ存在だった事。

 お陰で二位でも影に隠れられたしね。とは言え。


「下手に順位を取っちゃったからこそ、此処で大きく下げると嫌な

 注目を逆に集めてしまう」


 前回二位だったのに“ぐっ”と順位を落とす何て事に成れば、『

 ちゃんと頑張ったら簡単にアイツ抜けたわ』とか『賢そう、賢そ

 うだけなんだね。見た目だけー!』何て、バカとアホ共の標的に

 され兼ねない。……此処は頑張って再びの二位を狙っていこう。

 最悪三位でも可。

 それに必要なのは予習。そして最適な場所といえば、そう図書室

 を置いて他にない。

 静かで過ごしやすい図書室を目指し廊下を歩く中。前方にヒトの

 集りを発見。あんな所で何だろうか?


「うっわマジかよ!」

「えぇー……」


 何か。何か同学年が大分集まって喋ってる様な? あの場所は確

 かお知らせ掲示板の場所だっけ。


「この追加の子ってさ、あのアルゴクラスのビーストマンだよ

 ね?」

「まあまあ予想通りだけど。これはなぁー」

「良かったー!お陰でボクってば順位アップ!」

「「ん?」」


 呆れ笑い。驚き。ちょっとの自爆。

 事前テストの結果が張り出されている掲示板では、同学年のヒト

 達がそれぞれ話して居た。……他人の順位なんて全く興味ない

 し、悪趣味かも知れないけど。


「(一瞬だけ……)」


 チラリと見た掲示板には事前テストの結果順位。そして、追加者

 の張り紙は別用紙なのでとても分かりやすく。だから目につい

 た。

『事前知識調査・追加』と銘打たれた紙に名前は一つだけ。あの獣

 人の名前と、隣に“最下位”の文字。順位が数字ではなく最下位

 と付けられている所。この学校って凄く厳しい、と言うか酷いの

 かもしれない。


「……」


 学校公認での晒し上げにちょっと哀れな思いがこみ上げる。

 元々最下位は全部最下位と書かれるのだけど、別用紙でデカデカ

 と張り出されたらそれはちょっと……。これに悪意がないっぽい

 のが、この学園で一番怖い所だとも思う。

 思う所もあれど。


「(見なかった事にしよ)」


 止まった足を再び動かし、そのまま二階図書室入り口へと向かう

 ───


 ───塔二階の図書室。

 魔法に関する研究機関、その最高峰の一つとして数えられるだけ

 あって、図書室の広さは尋常じゃない。寧ろ図書館と呼ぶべき。

 図書室は中央が天井まで吹き抜けで、見上げれば幾重にも階層が

 続くさまが見て取れる。そして、二階から入った自分が一階に居

 る事も分かる。


「(空間魔法はお家芸なんだろうなぁ)」


 一学年級の学生と学徒、及び許可制で初等部中等部のヒトが使用

 できるのは一階まで。二階以降は一学年級は正式な試験後に開放

 される。らしい。

 来館者として来る人達は事前に審査を受け学園から許可を取り付

 けないと、二階へは行けない。この図書室への入り口は何処にで

 もあるけど、資格や許可が無い状態だと何処から入っても一階入

 り口へと飛ばされる仕様。


「(ホント、此処では夢の技術とされる空間転移が普通にあるんだ

 から驚くよ)」


 とは言え一々驚ける程自分は感情が潤ってない。さっさと今日話

 題にされた話しと、それとは別の自習用。それらの参考書になり

 そうな本を手当り次第カートへ乗せ、空いてる席を探しては寛

 ぐ。

 この図書室は本当に静かで良い。この静かさが意欲を掻き立てて

 くれるし。何よりヒトが少ないのが良い。

 早速持ってきた古めかしい歴史書なんかに手を伸ばした、その時

 の事だ。


「……」

「(……あ? ………ああん!?)」


 現在自分の席からは図書室の入り口が見える。別に注視してた訳

 でも何でもない。それは単純にたまたま、偶然目に入っただけ。


「(なんであの獣人がここにいるんだよッ!!?)」


 用もないだろうこの場所で、教室で“すやすや”寝こけていたあ

 の獣人の姿を発見してしまう。




 静寂の書庫。入り口には逞しきビーストマン。青年を遠くに見や

 る少女は、手にした本で顔を隠すのであった───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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