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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
3/37

第二話 引っかかり

 ───突然の編入生紹介の後には特に何事もなく。午前の授業も

 終わった頃。




 今の所午前しか無い授業も終わり、授業に使った教科書や筆記用

 具を引き出しの中へ仕舞い込み。一度閉じては取っ手のダイヤル

 を回してもう一度開き、中から私物本を取り出しては鞄へ仕舞

 い。今日もいつも通りに昨日と変わらない帰り支度を済ませた。

 片付けも済んで一呼吸の間。自分の視線は何時もと違う動きをし

 てしまう。


「……」


 視線を向けた先は一階席で片肘を付いて座る編入生の下。

 授業中ぼーっと先生の授業を聞いていたウェアウルフに、視線を

 向けているのは自分だけじゃない。


「…。……?」

「………」

「! ………!」


 遠巻きにする誰彼が指差し、笑い、ウワサしている。良くないと

 思うも、それも仕方が無い。


「(授業中にアレじゃあ、ね)」


 自己紹介の後。座る事を進められた編入生が席に付き先生の授業

 が始まってすぐの事だった。編入生は授業中いきなり手を上げた

 かと思うと。

『それってなんだ? ……ああ!もしかして文字なのか!?』

 何て質問を先生に飛ばした。その後直ぐに先生がウェアウルフの

 側に寄って話をして居たのだけど。同じ教室、しかも授業中とも

 成れば、先生との会話は嫌でも耳に届く。だから分かったのだけ

 ど、どうやら編入生は一般文字(ベーシック)が読めないらしい。

 その瞬間周りが一斉に編入生を見てざわついたし、会話の最後。

 先生が放った言葉でもまた大きく一度ざわついた。

『ええ。これは一般文字と呼ばれるモノです。この文字を学びたけ

 れば、是非図書室へ行く事をオススメします』

 それだけ。たったそれだけで、文字の読めないウェアウルフを置

 いて授業は何事も無かった様に進行。

 気不味い空気の中。編入生はと言えばその後手を上げる事もせ

 ず、ただ“ジッ”と先生の授業を最後まで見ているだけ。


「(自分だったら恥ずか死してるかも。いやしてる)」


 数多ある文字言語(ランゲージ)の中でも、種族や国で違う文字でのやり取り

 を、スムーズに行えるよう作り出された共有、共通化された文字

 言語の一つ。それが一般文字だ。独立種族とか辺境の国とかでは

 一般文字を扱えない、通じないヒト達も居るらしいけど、発展国

 等の多くの場所では義務教育レベルの知識。それを知らず、更に

 は魔法と言うもっと高度な知識、技術を学ぼうとする生徒が、し

 かもウェアウルフが。注目を集めない訳無い。

 最初に集めた珍しいと言う好奇の視線が“奇”だけを残し、一般

 文字も読めないと言う“異”が混じり。視線は奇異な物へと変わ

 ってしまった。ただの編入生だったら今頃色んな生徒に話し掛け

 れていたはずだ。この学校にいる獣人族は少ないのだから、もし

 かしたら好意的な出会いも合ったはず。

 でも自分達は年頃の生徒で、クラスカーストを考えれば、あんな

 注目の仕方をした編入生に声を掛けたりする子は居ない。エルフ

 も妖精も、数少ない獣人仲間のハーシュも。クラスの誰も話し掛

 けたりはしなかった。


「(ま。その辺自分にはどうでもいい事だけどね)」


 願わくば、同じクラスで陰湿な出来事へ発展しない事だけを祈ろ

 う。

 さて。もう自分は帰って今日話された無意味に等しい授業内容を

 一応復習をして、ああお風呂の前に……と。考えながら席を立っ

 た瞬間の事。


「ティポタ氏」

「! はい」

「此方へ」


 先生に名前を呼ばれてしまう。

 先生に呼ばれ無視する訳にも行かず。……一瞬聞こえない振りも

 考えたけど、教室を出るには先生の前を通るしか無いので、意味

 が無い。だから仕方無しに階段席を下り先生の側へ向かう。嫌な

 予感を“ひしひし”と感じながら。


「何か用ですか? 先生」

「ええ少しお願いしたい事がありまして。その前にもう一人、ヴ

 ォルフ氏」

「?」


 この後の流れに察しが付く。最悪だ。

 先生は編入生の、只今注目の的なウェアウルフを此方に呼び招

 く。嫌な予感が絶対の確信へと変わる中。帰り支度をもっと早

 く済ますんだったと後悔。クソ。

 呼ばれた編入生が此方に来ると先生は。


「ヴォルフ氏への学校施設案内、それを是非頼みたいのです」


 はい面倒事来ました。クソが。


「知っての通り。この学園は学び舎としてが主ではありますが、同

 時に魔法に神秘、呪いに占い。ありとあらゆる不思議を集め研究

 している場所でもあります。

 ですので、知識の乏しい者が近寄っては行けない場所も勿論あり

 ますよね?」


 黙って聞く。聞くしか無い。


「入学式で既に施設の説明を受け、氏の学友足る貴方にその案内を

 お願いしたいのです。ええ」


 此処が抵抗のチャンスかも。


「えっと……。自分よりも上級生、先輩方の方が案内に適してい

 るのでは無いでしょうか? 事実自分も先輩方から説明を受けた

 訳ですし」

「最もですね。ですが上級生達は上級生達で忙しいのです。新入

 生への案内日は等に過ぎましたし」


 この学園のシステム上、“上級生何てのは五万と居る”だろう

 に。しかしここで下級生は下級生で忙しいんですけど? とは言

 える訳無い。言いたいけどさ。


「勿論下級生は下級生で忙しいとは思いますが───」

「ブッ!(心読まれたッ!?)」

「?」


 思わず吹いてしまった。が、幸い先生は特に気にした様子も無

 く。


「我がクラスでも優秀で、学年で見ても上から数える程の貴方に

 是非、我らの新たな学友。その案内を任せたいのですよ」


 自分が優秀だって言うなら───いや。身構えろ自分!


「優秀、と言うなら学年一位の子に頼みむべき。とも思うでしょ

 うが───」

「(ッシャ!耐えたぞ! 読みが尖すぎでしょ!)」


「───件の氏は現在学年行事の集まりへ強制出席中。ですので、

 お鉢は次点のティポタ氏へと回ってきたのです。ええ」


 面倒を避ける為に優秀、優良を示したけど。こうした違う面倒が

 襲ってくる事もある。はぁ。これは避けられない最低限として、

 仕方なしと思う事にしよう。うん。


「ティポタ氏なら上級生から受けた説明は勿論、足りない場所すら

 補える事でしょうと、先生は思っています。彼は事前試験を終え

 て今日が学年初日。ですので既に先を歩く学友の氏こそが、案内

 に一番適切だと考えまして。……お願いできますか?」


 持ち上げられて、しかも当事者が隣に立ってるこの状況。断れる

 訳ない。流石教職員、と言った所かも。なら此方もアピらせても

 らおう。


「分かりました。先生“直々の頼み”、ですものね。もう自分で良

 ければ喜んでお手伝いします」

「ああ引き受けてくれますか。それはありがとうございます」


 そう言って会釈しては、先生はにこやかなまま教室を去って行

 く。序に用事も無い生徒たちも同様で、教室に残ってるのは暇を

 持て余してるらしい僅かな生徒数人に。


「んな訳で。一つよろしく頼む」


 この元気な編入生でウェアウルフだけ……はぁ。

 こんな面倒も仕方ない。築き上げた、作り出した自分の環境を守

 るためだ。先生へのポイント稼ぎも大事だしね。よし。


「じゃあ案内するので付いてきてください。あ、自分の事は──

 ─」

「ティポタだよな? ちゃんと覚えてるぜ!」


 まだ自己紹介もしてねーよ、誇んな。つーか何いきなり呼び捨し

 てんだコイツ?それに声大きッ。いや大きいのは声だけじゃない

 わ、背デカ過ぎないか!?この編入生! 二メートル近くありそ

 うなんですけど!?

 種族差別は微塵も無いけど……。まあ、よく聞く乱暴者じゃなさ

 そうなだけマシ、かな。野蛮だったらどうしよ。ウェウルフって

 血の気が多いって、好戦的だって話だし。


「?」


 マジマジと見詰める編入生はシャツにジャケットを羽織り、少し

 丈の足りてない長ズボンに、獣人のヒトに多い素足スタイル。足

 の構造的にそうなるってだけだろうけど。

 腕や顔を覆う銀色の毛並みは少しだけひんやりとしてそうで、琥

 珀色の瞳がちょっと怖い。……瞳孔どうなってんだろ?

 人間の、その中でも女性な自分とは体格が全然違うってのも怖い

 よな。側で見上げないと行けない程に大きいし……? なんかネ

 ックレスやら指輪にブレスレットと、アクセサリー? がジャラ

 ジャラと付いてるな。獣人のヒトには珍しい様な? そもそもウ

 ェアウルフとか初めてだし、何か、何か普通と違う様な───


「???」

「ッ」


 やば!ジロジロ見すぎた! 不安気に固まる自分を編入生が不思

 議がっている。行けない、近くでウェアウルフを見る何て今まで

 にない体験だったから、つい見すぎたかも。こんな案内さっさと

 終わらせて、さっさと帰ろう。


「じゃ、じゃあ案内します」

「おう!」

「(笑ってる……のか? よく分からん!)」


 視線を誤魔化すため、逃げるように自分は先に教室を出ては、そ

 の後ろに編入生が続く───


 ───広い廊下を歩きながら、自分は先生に頼まれた案内を編入

 生に行う。自分達の学年が使う予定の教室や、場所等の説明。

 普通の学校なら勝手に見て回っても良いものだけど、此処は魔法

 そのモノを学ぶ特別な学校。なので当然立ち入っては行けない場

 所もあり、また実験的に設置された魔法の道具等の使用方法や、

 学内標識の見方等。それらの説明を編入生にしては。


「おースッゲー……」

「ですねー(お前今の所何でも『スゲー』だぞ)」


 説明の度にずっとこの調子。獣人のヒトが全く居ないって事はな

 いけど、学園でウェアウルフは一人として見た事が無い。と言う

 か同学年には一人も居ないし。もしかするとこの学校唯一のウェ

 アウルフの生徒かも知れない。

 それもそのはず。獣人は一般魔法ならまだしも、純粋な魔法とは

 相性が頗る悪い、なんて。それは誰もが知ってる定説だもん。


「(きっと一般化してない魔法関係は何でも珍しいんだろう

 なぁ)」

「お!何だアレ!」

「(にしても)」


 いくら何でも物珍し気すぎるだろ。普通に暮らしていれば魔道具

 や家電を使うだろうし、電車やポータブルクォーツ等で魔法の恩

 恵にあずかってるはず。この学園特有の実験物以外の、一般的魔

 道具にすら驚くのは何なんだ?


「(ああでも聞いたことが在るかも。場所に寄っては魔法の道具

 が殆どない場所もあるんだっけ? 獣人だけの田舎な村とかがそ

 うだったとか何とかって。確か前に何かで読んだような……。

 だとしらこの編入生、いったい何処のど田舎から来たんだよって

 話になる)」

「おお!? なんだコレ、開かねえ扉だぜティポタ」

「あ、バ───んん。その扉は開きますよ」


 危ない危ない。うっかりストレートな罵倒が口から飛び出す所だ

 った。自分は編入生が開けたがっていた扉へと近付き、ドアノブ

 へ手を翳すと。“カチャン”っと解錠の音が響き、ドアノブ回せ

 ば。


「おお開いた! ……なんでだ?」


 こんな事で一々燥ぐなよ。とは言わず編入生の横を通り抜け教室

 の中へ。


「此処は植物学で使う教室ですね」

「へぇー……」


 分かってねーだろうなー。


「……魔草、仙草、薬草、野草等など。様々な種類の草を魔法学的

 に活用、応用したり、また魔法触媒に適している種類の見分け方

 などを習うんです(今の所は習ってないけどな)」

「ふーん。……ああ、これとか使うのか?」


 言いながら編入生が手にしようとした標本の一つ。っておいおい

 おいおい!


「は? ちょちょちょ!ダメ、触んなバカッ!」

「お、おお?」


 標本へと伸びた編入生の手を必死に掴む。あ、あ、あぶな!


「これは凄く貴重な魔草で、標本はこの学園ですらこれ一枚なん

 だぞ! しかも植物学教授の私物! ……らしいッ!」


 実物として貴重な標本にもしもの事があったら……正直どうでも

 いい。いいのだけど、今この部屋へ入室したのは自分で、壊した

 責任をコイツと一緒に負わされるのだけは御免だ。


「そんな貴重なんだなーこれって」

「じゃなかったらこんな物々しく置いてないだろ! 栽培方法も

 確立されて無いし、そもそも群生地が判明しないって言う謎で希

 少な魔草なの! それだけ貴重で大切な実物標本なん───です

 よ」

「へぇー……。これって貴重だったんだなぁー……」

「(つーか“触れるな”って文字見えてないのか!? ど田舎ワ

 ンコ!)」


 ってそうか。そうだった。


「んん。確かヴォルフ君は一般文字(ベーシック)が読めないんでしたね」

「ん?おお。これの事か?」


 指差すのは標本前に置かれたプレート。


「そうです。……因みにそれには“標本へ触れるべからず”って

 書いてありますよ」

「え゛そうだったんか。悪い、んで助かったぜ」


 言いながら編入生は、自分がずっと掴みっぱなしだった手を引き

 離し。そのまま此方の手を握ってきては。


「ありがとよ!」

「あああ。そそ、そうですか(手もデカイな獣人はッ!)」


 デカイ、暖かい、デカイ、爪鋭ッ、デカイ。と、感想が光速で数

 多駆け巡る間に。“パ”っと編入生が手を放し。


「んじゃ次ん所の案内頼むぜ」

「……はい」


 疲れる。なんか疲れるんだけど、これ。

 いいやめげるな、これも先生への好印象の為。今日だけと思い頑

 張らろう! 苦労に見合った印象ポイントを得られる。

 そう自分に言い聞かせ、編入生と一緒に教室を出ては扉をしっか

 りと閉め。施錠音を確認。


「おー今度は勝手にカギ掛かんだな。でも何でオレには出来ねー

 んだ?」


 編入生の疑問に自分も引っかかる。そうだ、自分同様開けられる

 はずなのに、何故?


「あの、これは持ってますよね?」


 自分のポケットから手のひらサイズの、小さなクリスタルが嵌め

 込まれた学年級証明カードを見せながらウェアウルフへ尋ねてみ

 る。


「なんだそれ?」

「……これは───」


 おいおいマジかよと思いながら、少し歩き出しては興味津々な編

 入生へ説明してやる。

 この学園、学校へ通う生徒にはこのカード、学年級証明書と呼ば

 れる物を個人個人に配るのだけど。これには各学年級に見合った

 権利、権限、道具等への使用許可の有無範囲など、それらが記録

 された魔法のカード。

 証明書であると同時に、学年に許された範囲への入退室をこのカ

 ードが自動で判断してくれる。なので権利権限のない場所への扉

 は開かない仕様。証明書であると同時に権利行使を担うカード。


「───なんですよ。だから貴方も当然持ってると思うんですけ

 ど……」

「?」


 編入生が衣服のポケットに手を突っ込んで探し回り、“ハッ”

 としては。


「ああ!そう言えばカードは手続きがどうのって、だから後日く

 れるとかって、そんな話ししたな」


 後日? 自分は入学と同時に貰っていたのだけど、編入となると

 少し勝手が違うのかもしれない。と言うか、先生は入退室に必要

 なカードの説明もしなかったのか。……或いは、この編入生が聞

 いてなかったのか。自分は後者だと思う。

 そもそもカード無いなら危険な場所も───ああ。だからこそ自

 分にって事か。納得。


「んで。これで何処でも行けちまうのか?」

「な訳ね───無いですよ。ええと───」


 面倒くさい。そもそも本当に何も知らないのかよ、このワンコ。

 自分は後であれこれ聞かれるのが面倒だと思ったので、この学園

 自体の事を一部含め話してやる事に。

 流石に学園については知ってるだろうから適当に、だけどね。


「まずこの学園には初等部、中等部がありますよね? 通う彼らに

 も同じカードが配られるんですけど、ほぼただの証明書で、権限

 なんてほっとんどありません。でも中等部以上、自分達学年級ク

 ラスに成ると、証明書に幾つかの権限が追加されるんです。そこ

 で初めて追加されるのがこの“塔”と。中の幾つかの部屋への

 入退室の権限です」

「へぇー。スッゲー」

「なので───」


 分かってるとか理解してるかとかは気にしないで進める。

 学園マギストディウム。ここの学校は一般の学校とは大きく違

 う。魔法に神秘、魔法学に魔科学。沢山の魔法的研究を行い、同

 時に学ぼうとする者へ門を開き続ける魔法の学び舎。他の大国や

 帝国の魔法、魔術校に引けを取らない学園。

 だから当然学園には安易に触れては行けないモノ、踏み入っては

 行けない場所が沢山ある。そんな場所やモノのある所へ間違って

 もコイツみたいな、コイツみたいな知識の乏しい者が入れないよ

 うに、学年級(ノービリス)と言う制度で権限を管理している。

 学園と生徒の両方を守るために、らしい。


「───です。だから君がカードを貰う時には、同じ学年ですから

 学年級も同じ。きっと一年級(ウヌス)なはずですよ」

「オレもそうなのか! ……ん? って事はこの辺に居るのって皆一

 年って事なのか?」

「まあ。大体は多分」


 編入生が辺りを見回し。そっと自分に顔を近付け───近いッ

 て!


「皆同い年、なのか? 人間もエルフも一緒ってスゲーな」


 な訳あるか。いやあるかも知れんけど、どう見ても年上なヒトも

 居るってーの。はぁ。全く。


「違います。良いですか? そもそも───」


 この学校が一般学校と違う所はまだまだ沢山ある。その一つが、

 学年が年進級制度では無い所。普通の学校なら一年生は来年二年

 生。だけど此処では進級資格に学年試験結果が反映され、合格ラ

 インに届かなかった場合は進級無し。

 一般と一緒に思えるけど、違う。学年級を貰う段階で、同じ精神

 年齢の種族、男女がある程度纏められて複数のクラスが作られ。

 そうして一度足並みを揃え、進級試験を合格出来なかった者には

 ───学徒になり学園に残るか、退学するかを選べる仕様。


「あ? 学生と学徒って何か違うのか?」

「違います。学生は足並みを揃えられた生徒で、今の自分達。学徒

 は自由生徒って違いがあります」

「???」

「えっと───(はいはい分からないのね)」


 学生は一般的なものと変わらず。学徒ってのはこの場合学園に席

 を置いて研究を続ける者。授業は自由に見れる、出れるし。最終

 学年級の権限は有効で、年度試験を受け合格すれば学年級を上げ

 る事も可能。

 こう聞くと学徒の方が良いように聞こえるけど……。


「態々分けてるのには理由があるの。学生には他の一般学生と同じ

 様に、学校生活を満喫させる為って言うのと。一番は他校との交

 流の為らしいです」


 他の魔法の学び舎はここ程尖ってない。寧ろ此処だけ鋭角過ぎる

 だけ。他は一般学校と同じ校則、規則で運営されてる所が殆ど。

 なので他校、他研と交流を交わす場合には、同じ足並みを幾つか

 作って置くと助かる、って事らしい。何せ入学に年齢種族の何に

 も制限は無いし、知識と理解が十分なら初等部中等部をパスして

 学年級を貰えちゃうしね。今の一年何か皆初等部中等部をパスし

 た組だって話しだし。

 それに交流って目的があるからか、学生が先生から受けられる授

 業内容は質が高いって特典が付いてくる。此処が一番のポイント

 かもね。

 そして、そんな学園なのだから勿論。


「年上は沢山居ますよ」


 試験は決して楽なものじゃない。だから学徒に身を置くヒトは多

 く、大人なヒトが沢山居る。自分達が出会わないのは、学徒と学

 生で使用エリアを分けてるからだ。学生と学徒の区分けは大変だ

 と思うけど、この塔の異常な構造なら。いやだからこそ可能なの

 だろうね。イカれてるよね、ホント。

 ま、自分は“魔女”目指してる訳でも無いし。学園級を獲得した

 だけでも凄い功績だから、別に途中でドロップアウト(学徒)しても

 構わない。学徒も視野に入れての入学だったし。

 等と。自分の将来設計について少し考えていると。


「スッゲーな、此処ってやっぱ超面白い!」


 子供? の様に笑う顔には牙がズラッと。……いや笑うな笑うな

 怖い怖い!


「そ、うですね。えっと次に───」


 笑顔を向けられ、それから逃げるよう顔を背け。次へと向かう。

 そうして行く場所行く場所でアレコレと質問を飛ばされ、答え。

 必要な施設への説明を済ませた頃には、自分はうんざりとした気

 持ちでいっぱいだった。悪印象を与えてでも断るべきだったと後

 悔してる。後の祭りだけど。


「以、上で。学校施設、自分たちの学年級が使う場所の説明はお

 しまいです(親切に説明しすぎて喉が乾いた。クソが)」

「マジ助かった。感謝してる」

「はい……(ああそうかよ。ならもう二度と話しかけんなよ)」


 開放感を味わい頭で独り言を吐いていると。


「……」

「?」


 ウェアウルフがちょっと離れ、そして直ぐに“ズンズン”と此方

 に近付き。真正面に───うわ、影が出来るんだ、つかやっぱデ

 カイ!


「な───」


 怖い。っと言う思いが防御姿勢、つまり両腕を胸の前に上げてい

 たのだけど、それを編入生がデカイ両手で外から握り込み。


「今日はマジありがとなッ! これお礼だ!」


 手を掴まれ、握られ、牙が見えるちょっと怖い笑顔で、素直な感

 謝を示されてしまう。包まれた自分の手の中には瓶が一つ。


「あ、はい」

「んじゃまた明日な!」

「また明日。はい」


 真っ直ぐなお礼に面食らっている自分などお構いなしに、握られ

 た手は直ぐに開放され、側を離れる編入生がこっちに手を振って

 やがる。自分は、自分は祈るように固まる手を僅かに振り返事を

 返す。

 そうして姿が見えなくなって少し後。自分は震えながら握りこぶ

 しを作り、両腕を上げかけて。


「なんッ───だったんだよ……」


 遅れて来た何かの感情で声を張り上げそうになるのを抑え。息と

 言葉を静かに零す。上げかけた腕を下ろし、序に肩もガックリ。


「ホント、何だったんだよ。……はぁ、帰ろ」


 今日は沢山喋って、歩いて、気まで使って疲れた。もう帰ろう、

 今すぐ帰ろう帰りたい。

 自分は肩を落としながら、イライラする様な気分を引きずりなが

 らも。握らされた瓶の蓋を開け中身をゴクリ。


「……うま」


 それまで飲んだ事の無い、と言うか学園の自販機は利用した事も

 無かったので当然なのだけど。自分の知らない味の飲み物。


「………」


 アイツが買ったであろう飲み物を自販機で確認してから、自分は

 学校を後にした───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───チクチクする様なイライラを引きずりながらの帰宅後。

 色々あって疲れた自分は、夕食とお風呂を済ませ。少しの読書だ

 けでベッドへ横になる事に。勿論今日の復習は欠かさない。……

 けど。


「自主学習はお休みしよ。良いよね、今日ぐらいは」


 言い訳を正当化する為に呟く。疲れた、それもあるのだけど、イ

 ライラしたモノが頭に、胸の辺りで(わだかま)り。いまいち集中できない

 と言うのが一番の原因かも。


「……」


 横になるためベッドへと向かいながら、その原因への思い当たり

 を考える。勿論他でもない今日の出来事で、あの編入生の獣人が

 元凶だ。なんか見た目怖いし、銀色な毛並みは冷たそうだし、琥

 珀色の、背がデカイ……。


「………」


 ふと。何気なしに自分の両手を合わせる。祈るように。


「…………ッバカか自分は!?」


 瞬間。自分はそのまま両手を大きくをベッドへと叩きつけた。ふ

 かふかベッドのお陰で痛くはない。“ボフン”っと揺れるベッド

 側で両膝を付き。


「何考えて、は? 今何思い出し、は???」


 自問したけど分からない。と言うか、何故今叫んでベッドを殴り

 つけたかが、全く自分でも理解でき無い行動だった。

 自分で自分が分からず、イライラが(くす)ぶり混乱する。

 冷静に考えるんだ。いややっぱ考えるな! ……ああああクソ!

 妙に学校での出来事が浮かんでくる、来そうな所で自分は再び─

 ──


「ッ! ッッ!」


 口を両手で抑え声に鳴らない叫びを上げ。急いで部屋の灯りを消

 し。ポータブルクォーツをサイドテーブルに置いて布団を顔いっ

 ぱいに被ってやる。

 この、今の自分の一連の動作全てが理解できない、把握できな

 い。こんな事は初めて。


「(きっと自分は今混乱状態)」


 なら何も考えない、このまま眠るのが一番。変な事を考えそうな

 ら複雑な魔術書を頭で復唱すれば良い。


「(魔法の発現、魔法構造構築要素がもたらす───)」


 そうやって。頭を限界の限界まで酷使してみる。途中、自分の考

 えが呟きとして口から溢れたいたらしく、隣部屋の壁が小さく叩

 かれたりもしたけど。良い感じに頭が薄ぼんやり。

 今にも意識を手放しそうだ。……まだちょっとだけイライラして

 いるけれど、眠れ、そう。かも。


「……手。大きかったなぁー………」




 微睡む少女は自ら口にした言葉を、きっと覚えてはいないだろ

 う。今考えていた事も。

 覚えているのは何時だって静かで、物言わぬ暗闇だけ────

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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