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ウェアウルフで魔女な彼に  作者: MRS
第一章
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第一話 平凡な日常

 ───静かな平原。しかし、その大地を見渡せば誰もが気が付く

 事だろう。平原に突如、まるで山をキレイに円形へと整えたかの

 様な台地、その上に(そび)える石壁の姿に。

 円形台地の上には六角形の石壁。白く、高くと聳え立つ石壁の、

 その内側を一つ覗けば。道を歩くヒト、密集した家々に商業らし

 き建物が幾つも建ち並んでいる。つまりは───円内はヒトの住

 処と言う訳だ。

 都市と呼ぶに相応しき町並みを誇る石壁内、立地の異質さもさる

 事ながら、かの中心部にはまた一つの異質、異様あり。

 外縁石壁よりも少しだけ低く、円を描くように壁が建ち並び。中

 には建物の姿が複数。それはまるで都市の中でもう一つの都市を

 作ろうとしたかの様で。その円の真ん中には違法建築を積み重ね

 たかのような、不可思不可解な建造物が鎮座している。

 城と呼ぶには統一感の無い外観、宮殿と呼ぶには品の無い増築、

 改築跡。応急処置で放置されている破損部と。異形な建物が中心

 で構えているのだ。

 遠目に仰ぎ見てもかの建造物は側の壁を、いや都市を守るべきら

 しい外縁石壁の高さすら越えている。しかし、あの混沌極まった

 建造物こそがこの大都市、『アローク』の象徴とも言うべき場所

 であった。

 そんなアローク内、一つの家屋にて。カーテンの締め切られた部

 屋の中。異質さなど微塵も感じない日常を過ごして来た、過ごし

 続けるであろうはずの少女が今、色の無い眠りから現実へと向か

 っていた。




 瞼を開けなくても分かるのは、今自分が目覚めたって事で。つま

 り朝って事。


「……」


 何時からだろう。朝が、目覚めが気怠いと思うように成ったの

 は。

 生まれてから今日まで何度も、何度も何度も繰り返して来ている

 のに、未だに朝が気怠いのは何故? この気怠さが何時も目覚め

 るって事を、一日の始まりを酷く億劫にしてしまう。ああでも、

 思えば最初は気怠く無かった気もするけど……。


「あー……。くだらない事考えてないで、さっさと起きよ」


 意識の覚醒と共に曖昧な思考が霧散して行く。

 口に出してやるべき事を自分自身へ告げる。気怠くとも起きない

 と行けない。だって今日も明日も学校はあるんだから。


「よし」


 ベッドから下りて、重い頭と共に部屋を出て洗面所へ向かう──

 ─


 ───洗面所から自室に戻る頃には、顔に掛かった水の冷たさ等

 で意識は完全に覚醒。壁に掛けた制服を手に取りパジャマから着

 替えよう。

 通う学園は指定日以外基本自由制服制。だけど毎日毎日着る物を

 考えるなんて面倒過ぎて吐きそうになる。だったら同じ服でも変

 と思われないなら、周りから浮かないなら、学園指定の制服で十

 分過だろ。時間を割かずに楽ができるんだから最適の解に違いな

 い。

 制服は紺色のロングワンピースで胸元にリボン、腰回りにベルト

 の付いた物。古いとも新しいとも言えそうな無難な制服。唯一の

 特徴と言えば、スカート部分に真っ直ぐファスナーが付いてる事

 ぐらい。それも真正面に。

 入学して間もないとは言え、特殊な制服でも何でも無いので苦労

 なんてする事も無く制服へ袖を通し。


「……」


 母からの入学祝い。大きな姿見で自分の身だしなみをチェック。

 正確にはこの姿見はお祖母ちゃんから母へ、母から自分へと送ら

 れた物。なのでこれはお祖母ちゃんからの贈り物でもある訳で、

 大切な私物の一つ。


「問題なし。……多分」


 立派な作りのこれを、自分のショートカットを整えるぐらいにし

 か使わないのは、少し申し訳ないと思う。だけどそれで自分には

 十分なので仕方ない。姿見を眺めて過ごす何て事とは縁遠いし。

 鏡で身だしなみを整え、昨日の自分が用意してくれた鞄を手に取

 り一階へと下りる。

 全部何時もと同じ。下で家族に朝の挨拶をしては、母が作ってく

 れた朝食を摂り。


「行ってきまーす」


 何時もと同じ様に今日も学校へ向かう。

 家を出て少し歩くと、この時間ペットと一緒に散歩をしているお

 姉さんとすれ違う。その間際。


「おはよう!」

「おはようございます」


 投げかけられた挨拶へ挨拶を返す。


『『『!』』』

「もー! そんなに慌てないでも大丈夫よ!」


 笑顔のお姉さんの(なだ)めも何のその。三匹の赤いグループキャット

 が“ぐいぐい”と紐を引っ張り散歩を催促。お姉さんは此方に一

 度笑い掛けては、大変そうに舵を取りしつつ去って行く。

 その後ろ姿を見送る、何て事は勿論せずに歩き出す。朝挨拶を交

 わすだけの関係だからね。

 そうして何時もの通学路を歩きつつ、遠くを見やれば向かうべき

 場所が、建物が家屋の隙間から今日も見える。


「(まあ。この都市の何処に居ても見えるわ。あれだけ大きけれ

 ば)」


 一体どれだけ高いのだろう? 何て無駄な事は考えず、通学の為

 路面列車の乗り場へ向かう。駅で学園前行きの列車へと乗り込み

 何時もの角席を確保。奥の方へ態々来るヒトは居ないし、来るほ

 ど混む時間には乗らないので、快適な移動時間だ。

 角席に腰掛け外へと視線を向ける。生憎読書が出来る程の移動時

 間は無いから。なので今日も流れる外の風景を目に映そう。

 車外の光景には町を歩くヒトの姿。

 配達に駆け回っているハーシュに、集団で歩く多種族混合の園児

 たちと。子供を守る警護のロックゴーレム数体の姿。警護担当な

 のに園児たちに腕を引かれ、頭に登れと。ゴーレムから引き剥が

 す引率の先生達は皆困り笑顔。


「(子供ってパワフル)」


 何も変わらない光景を見つつふと。自分の小さな頃を思い出す。

 あれは町の中を走り回る路面電車を、自分が初めて母と見た時の

 事。列車を見て興奮した幼い自分は母へ『あれってまほうで動く

 んだよ! なのにマ、じゃなくて。デン車って変だよね!?』等

 と無邪気にも母へ尋ねた事があった。その時の母からの返答は確

 か……。


『まあ! 私の娘は何て賢いのかしら! ええそうね、きっとあれ

 は魔法列車と呼ぶべきね。でもね、そうしたら殆どの物に魔って

 付いてしまうでしょう? それはややこしいから、きっと皆適当

 に呼び分けているのよ。ふふ、これは内緒よ?』

『そっかー! お母さんもあたまいいね!』

『でしょー? さ、早くお夕飯の───』


 何が“お母さんも賢い”だ。適当な事であしらわれただけ。

 母は昔からよく適当な事を言って誤魔化す。大きくなり知識の付

 いた今なら、魔法列車の動力は魔法で電気を発生、利用している

 ので、実はどっちで呼んでも正しいと言うのが正解だと分かる。

 ……でも、実際問題魔法を使用した魔科学技術製品全般に魔が付

 いてしまうと非常にややこしい。そんな背景もあるらしく、名称

 に魔法を付ける事を避けているらしい。


「(……適当を言う事の多い母が、実は正解を引いている確率は

 結構高いのが、またなんとも釈然としない)」

『次は学園前。学園前ー』

「!」


 適当な事を考えていたら路面電車は目的地へと到着。

 鞄を手に取り他の乗客と共に列車を降りよう。

 全く、頭が意味のない事を考えてしまうのは、きっと睡魔を誘っ

 ているに違いない。睡魔に負けたいのは山々だけど、負ける訳に

 は行かない。自分から睡魔を振り払うように、一度頭を振ってお

 く。意味は薄いけど。

 列車を降りて目的地へ少し歩を進めれば、右手に高く聳え立つ壁

 が続き始める。壁に沿って進めば切れ目、正門へと辿り着き。門

 を潜り中へと入れば───ようやく中の様子が見える。

 壁の内側には煙突から緑の煙を吐き出す建物、誰かが荷運びする

 荷物から小さな石が幾つか転げ落ちては、地面に接した瞬間小さ

 く炸裂して、炸裂自体を含め氷結。等など、壁一枚で一般的魔法

 技術溢れる日常と、見た事も無い魔法技術溢れる非日常が隔てら

 れていると言うのは中々凄い事だと思う。一般化されてないらし

 い魔法道具、魔法技術がゴロゴロだもん。

 そして。この学園一番の目玉、都市を守る大外壁よりも高い建造

 物。あれこそ魔法その物を学ぼうとする者なら全て、誰もが通う

 事を憧れる魔法の学び舎。アロークが他所で魔法大都市何て呼ば

 れる所以。魔法学園『マギストディウム』の恐るべき校舎の姿。


「(まあ。そんな言われがあるこの学校、通うのに必要な条件が

 “魔法を学ぶ意欲”って言う、抽象的過ぎるモノなので。大抵

 誰でも通えてしまう)」


 ビックリするほど入学敷居の低い憧れの魔法学園。意欲さえあれ

 ば誰もがこの門を潜り授業を受ける事がでてしまう。学費が無い

 って訳じゃないのだけど、その問題もこの学園では……。うーん

 それにしても。


「(ホント、無駄に大きいなぁ、無駄に)」


 学園の門を潜り進む中。学園中心にある、あの誰が何を考えて建

 てたのか理解不能な建築物。自分の学び舎でもあり、学園最重要

 主要施設でもある、『マギノス』と呼ばれる建物の姿には。正直

 未だに慣れない。ちょっと慣れたくない気もしてる。美意識的な

 意味で。


「(天才とは奇人でもある、とでも言いたげなアレにはね)」


 通称で“塔”と呼ばれるアレを中心に、学園には幾つもの建物、

 建造物が立ち並び、初等部とか宿舎、準備棟やら研究施設に工房

 やらと。どれも魔法を取り扱うので結構独特な建物は多いのだけ

 ど、それら全てが霞む程の大物。

 アレの所為でよくこの学園には変なウワサが跡を絶たない。やれ

『壁の内側で危険な魔法を研究する為に集められた人々』とか

『禁忌物で溢れ返る魔窟』に『合成モンスターの実験場』だとか

 ウワサされてしまっている。

 この都市に住んでないヒトは特にそう言ったウワサを信じてるら

 しい。まあ、住んでいる自分達ですら『彼処は可笑しい場所』と

 か普通に言ってるから、分からんでもない。


「(自分も入学して実際に通学するまではそう言うイメージだった

 し、ウワサもちょっと信じてた。……ちょっとだけだけど。

 実際いざ通ってみたらそれまでの普通学校と大きく変わって可笑

 しな事は無いし、ご飯処とかも学園内にちゃんとあるし。無秩序

 って感じでもなさそうなのよね。……今の所は)」


 魔術に魔法。神秘術に魔科学。(まじな)いに占いと。魔の技術が集まる

 不気味で不思議の魔窟とか外では呼ばれるけど、食事処での食べ

 物は普通に美味しい。食べ物が美味しい所はいい所、とは母と父

 からの受け売り。

 今の所は意外にも平穏な学園生活だなと思い塔を見上げつつ。他

 の生徒達同様塔の中へ。

 塔の正面玄関を潜り、何故か薄暗く、少し長い通路を進むと。


「!」

「……?」

「「!!」」


 今度は明るく大きなエントランスホールへと出る。この時点で塔

 が外観と比べ倍近く広く、構造的にありえないと気が付ける。入

 学式の後にあった先輩達の説明曰く、『建物全体の空間を捻じ曲

 げ、幅を広げているから』らしい。


「(なに、空間を捻じ曲げるって。一体どんなぶっ飛んだ設計の

 魔法構造(プログラム)でこんな現象が生み出されているのよ?)」


 普通の魔法規格、高価な魔法触媒は勿論。企業や国家主体の魔法

 建造物ですら、到底ありえない魔法発現、現象だと思う。だって

 空間へ作用する魔法ってのは高度で複雑な物の一つで、今も色ん

 な企業や国が率先して研究している分野でもあるし。彼らの研究

 成果の発表、最新技術お披露目を見ても、どれも此処の足元にも

 及ばないって事だけは、今の自分にも分かる。

 国家、企業の最新研究成果、新技術ですら、古くから存在するこ

 の塔での空間魔法を越えられないとは、魔法紙でよく見た通り。

 最も古い空間系魔法(ルームマギア)と呼ばれているのに、現存する空間系魔法の

 最高峰と呼ばれてしまう不思議も、通ってみれば納得できる。確

 かにこれは凄い、その一言では収まりきれない程、凄い。

 因みに。ウワサだと仕組みに関しては歴代学園長しか知らないの

 だとか。

 そんな明るく、広いエントランスホールを何時ものように通り過

 ぎて、二階への階段を登り。二階廊下を通り自分の教室前へ。扉

 を開いては中へと進む。


「おはよう! ねえねえ昨日の───」


 教室内。飛び交う挨拶は自分へ───ではなく。


「おはよ! 見た見た!あれって───」


 名前もうろ覚えの誰かと誰かの物。朝の会話を楽しむ誰それの後

 ろを通り。


「おは。今日のって何だっけ?」

「っす。変わんねーよ。何時ものツマンネー授業」

「おはー。折角この学園に入学したのになぁ~」

「「それな」」


 また誰かたちの後ろ、隣、側を通っては。


「(ふぅ)」


 階段式の席を上がり五段目の一番上端。比較的静かな窓際へ何時

 もの様に今日も座る。入学初日から確保し続けている大事な角

 席。席に着いたら鞄を椅子下の収納スペースへ仕舞う。

 今日の授業も移動は無いだろうし……。


「……」


 鞄から学校指定の魔術書を一冊取り出す。

 魔術書もポータブルクォーツで読めれば良いのにと思う一方で、

 この紙の質感、自分で捲ると言う楽しみも捨てがたいと感じてい

 る。……つまり、どっちも楽しみたいのが自分の本音。

 自分が学ぶこの教室は広く、またそれに見合った座席数が用意さ

 れている。なので態々一番上の、それも角である自分の周りに座

 る生徒は殆ど居ない。皆一段から三段目席に集中している。

 だからつらつらと魔術書を読み耽る間、邪魔が入らないのは凄く

 良い事。


「(自分に話しかけてくるヒトは勿論居ないしね)」


 誰からも滅多に話しかけられないからと言って、間違っても自分

 がいじめられている訳じゃない。一人が良い自分がこの環境を作

 り上げたのだ。入学間もないとは言え、既にクラスにはカースト

 やグループの始まりが起きている。その枠の中で自分は独立、或

 いは何処にも属さない中立の括りに入れられている事だろう。

 この独立性を確立できたのも、自分が学年二位の学力を示したか

 らでもある。勉強さえできれば親も教師も煩く言われないし、そ

 れだけの学力を示せば同年代の周りは勝手に距離を置いてくれる

 物だと言う事は、此処へ至るまでの学生生活でもう知ってる。

 それに、二位は一位ほど注目されない。

 まあ一位と二位が同クラスってのも助かってる。二番より一番を

 気にするからね、皆。

 その上で、話しかけられれば無視せず嫌がらず、当たり障りのな

 い返答を配り続けて置けば、誰も自分へ嫌悪や興味を向けて来な

 くなる。お陰でこうしてゆっくりと、独り。魔術書を教室で読ん

 で居られる訳だ。

 ……何も起きない、薄色の日常。当たり障り無く、変化の少ない

 平穏な日々。

 自分が此処への入学を決めた時に望んだ環境、今はそれ以上だ。

 もし今に不満があるとすれば、入学した学園の授業内容だろう。

 まあそれも些細な事。このままが続いたとしても、“魔女”と

 言う称号を得られなくたって、この学校を無事に卒業さえできれ

 ば構わない。自分の未来設計に支障が無いのだから。


「………」


 静かに。独りで。魔術書の内容を読んでいるのか、ただ文字を読

 んでいるのかが分からなく成ってきた頃。教室扉に文字が浮かび

 上がったのが見えた。


「「「!」」」


 それに気が付いた男子、女子が全員一斉に席へ急ぎ着席。

 扉の文字が消えた少し後。


「皆さんおはようございます」


 扉を開けこのクラス担当の先生が登場。

 自分のクラスを受け持つ先生は女性で、おばさんと呼ぶには若

 く、お姉さんと呼ぶには熟れた感じ。自分と同じ様な色合いのブ

 ラウンヘアー。服装はシックなシャツにケープマントを羽織った

 装い。何よりも一番印象的なのは腰に下げた()()()()。レイピ

 ア、と呼ばれる刺剣を常に携帯している所。武器を携帯して授業

 する何て、多分此処だけだと思う。


「「「おはようございます。テレーズ先生」」」

「はい。皆さんおはようございますですね。

 ああ結構。今日も皆さん行儀の良い事で、実に結構です」


 あの先生は行儀の良さの裏を知らない。

 このクラスの扉は教員が教室へ近付くと感知され、扉に文字が浮

 かび、教員が近付くと消える仕様。過去在籍してたであろう先輩

 が施してくれたであろう魔法。過去の先輩には皆感謝したい気持

 ちだと思う。一番の感謝は将来あるであろう抜き打ちにも気が付

 きやすい、と言う所で。

 そんな、来る事を感知されているとも知らぬ先生が教卓の前に移

 動。

 この後は何時もの日常パターン。自分は必要に成るだろう道具を

 机の引き出しから取り出そうとして。


「さて。早速今日の授業へ移りたいところ、ですが。今日は皆さん

 に大事なお知らせがあります」

「「「?」」」


 手を止め姿勢を戻す。周りの同級生も同じ。

 何時もと違う流れを静観していると。


「今日は新たな学友。同じ学年、このクラスへ編入してくる生徒を

 ご紹介したいと思います」

「「「!」」」


 ざわつき、活気づく教室内。

 今先生は編入って言った? 転校じゃなくて編入? この時期にと

 は珍しいんじゃない?


「はいはいお静かに、お静かに。

 コホン。では我らがクラスへ編入する、新しいき学友を紹介しま

 しょう」


 言いながら先生が扉へ手を伸ばし。扉が独りでに開いては。


「……」

「「「!!?」」」

「(───は?)」


 開いた扉から一人の生徒、編入生が先生の方へと歩いて来た。そ

 の姿に同級生は皆驚きを隠せない。自分だって身を乗り出して、

 食い入るように見てしまった程だもの。それも当然。だって現れ

 たのは。


「ウェアウルフ! 獣人じゃん!」


 クラスの誰かが言った。

 そう、その通り。先生の側に歩み寄っている生徒、顔を綺麗な銀

 色の毛並みが包、尖った口に(たてがみ)。頭の上に生えた二つのお耳と

 フサフサ尻尾。逆関節の足に、全体的に逞しいその体躯。何処か

 らどう見ても自分とは違う種族。ビーストマンのウェアウルフで

 間違いない。


「おーこっちじゃオレの事そう呼ぶんだな」


 飛んできた言葉に反応を示す編入生。笑顔、か怒ってるかは判断

 できない。


「ええその通りです。さあ、私達の新しいき学友、ウェアウルフ

 の───」


 と。先生が編入生に顔を向け。


「! 名前か。名前はヴォルフ! よろしく頼むぜ!」

「はい。よろしくおねがいしますですね」


 元気な挨拶と先生の満足げな頷きを他所に。


「「「……」」」


 名乗りを聞いた生徒からは拍手ではなくヒソヒソ声が響いてい

 る。自分はウェアウルフを見詰め思う。


「?」

「(ああ。可哀想に)」


 注目の的になるのは必然。でもそれは編入生だからじゃないの

 が、あのビーストマンにはきっと分かってない。

 獣人でウェアウルフ。自分を含め誰もが知っている事だけど、獣

 人種の多くは魔法を扱うと言う才能、それに大きく欠けた種族だ

 って話。当然この魔法技術の最先端が学べる場所では、獣人の学

 生を余り見ない。中でも取り分けウェアウルフって種族は特に魔

 法との相性が最悪な事で有名。自分は今まで魔法を扱えるウェア

 ウルフ何て見た事も聞いた事も無いしね。

 そもそもウェアウルフを生で見たのも多分……。


「センセー。マジでこのクラスにウェアウルフが?」

「? ええそうですよ」


 疑問を飛ばした生徒に先生が事も無げに応え。


「あ、ヴォルフ氏の紹介は此処までですから。そうですね、今日

 は編入初日ですか。まずは私のクラス、その雰囲気を感じ取って

 くれればいいかなと。ですので……ああ席はご自由に。決まりは

 ないですから」

「おう!」


 言って彼は一番目の一番手前。誰も座りたがらない先生と一番近

 い距離の席へ腰を下ろした。

 周りから遠慮のない好機の視線が突き刺さっても、明らかに笑わ

 れてすらいても。編入生本人も先生も、誰も気にしていない。


「(本当に可愛そうな編入生だなぁ)」




 それが。自分が編入生のウェアウルフへ持った一番最初の印象だ

 った───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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