第7話:レイラ街に恋の花が咲く。
かなり投稿空きました!
村に題材して一週間が経ち、いい加減当初の目的を果たすべく重い腰を上げようとしていたオネット一行だったが…
「オネットさん!この煮物おいしいです~!」
「そうかそうか!いっぱい食えよ~!」
オネットにまんまと餌付けをされて、リスの様にほっぺをぱんぱんにさせながら幸せそうな表情を浮かべるペコリの姿がそこにはあった。(羊なのに)
「ペコリ、オネット、飯食うのもいいけど、そろそろ出発なんだけど。はやく仲間と合流しなくちゃって言いだしたのはオネット、あんたでしょ?」
ヴィネスはもぐもぐと幸せそうに煮物に舌鼓を打つペコリと、のんきにご飯を作ってペコリに食べさせるオネットを急かす。といっても、オネットもヴィネスも準備はとっくに済んでおり、完全にペコリ待ちの状況が出来上がっていた。
「はっ!そうでした!わ、私、準備もまだです~!」
ペコリはオネットにごちそうさまを手早く伝えた後、与えられた部屋へ足早に直行し、準備を進めに行った。本当になにも準備ができていなかったのか、部屋からはドタバタとあわただしい音が聞こえてきたため、これは時間がかかると二人で顔を見合わせた。
「そういえばアンタ、あの子とは本当に隣の町で知り合ったの?」
ペコリが片付けで席を外してから数分、ヴィネスは意味深な質問をオネットに投げかけ、当然オネットは首を傾げた。
「よく考えたら明らかに不自然なのよ。他の地域との関りを極力避けているあの町で、人間中心のあの町で、亜人であるあの子が住居を持てるって、はたしてどれだけ特別な人物なのかしら。と、アタシは思ったわ。それにアタシ、あの時あの子の...」
「お片付けおわりました!...二人とも何かあったんですか?聞いちゃいけない話なら、も、もう少し席を外したほうがよかったですか...?」
さすがのペコリでも場の空気や二人の顔の表情でなにか不穏なものを感じたのか、戻って来るやいなや申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そんなことないわ。ただ、オネットの料理以外の長所はいったいどこなのかが未だに見つからないことについて話してたのよ」
「お前...なんてこと言うんだよ!俺にだってあるわ!長所ぐらい!」
呼吸かの如く嘘をつくヴィネスと、その嘘を真に受けてムキになるオネットの息の合わなさにはペコリは全く気付かず、両手を腰に当て、まったく怖くない目でヴィネスをにらみつけた。
「オネットさんはいいところ、いっぱいあります!優しいです!とっても強いです!あと髪がつんつんしてます!」
オネットとヴィネスは、基本的に思考は正反対で何もかもがかみ合わない二人だが、ペコリの主張を聞いた今この瞬間、二人は同じ感情を同じタイミングで言葉に出した。
「「かわいい。」」
「え!?急にどうしたんですか!?けんかしたんじゃ?かわいいってどういうことですか~!?」
置かれた状況を理解できずにその場で目を回すペコリをよそに、出発の時間は刻々と近づいていくのであった。
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炎獄大陸東方の街へ向かう最中、体力のないペコリは早々に歩けなくなり、オネットの背中の上で揺られながらとある疑問を投げかけた。
「オネットさん、東の街はどんなところなんですか?わたし、実は行ったことないんです!」
「あ~、たしか、昼や夜とか時間に関係なく薄暗くて、あとはいろんな密売や性の店があることから、夜の街、欲望の街、眠らない街、なんて呼ばれ方がされてるな。ちなみに正式名称は『レイラ街』
治安は正直悪ぃけど、炎獄大陸では一番栄えてて面白い場所だぜ。」
未知の世界が待っていると知ったペコリは目を輝かせ、鼻息を荒くし、背中の上で身震いをしていた。
「すっごい楽しみです~!さぁ!いきましょお!」
「歩くの俺なんだけどな...」
オネットの嘆きはペコリにまったく響かず、ただただテンションが上がっていく一方だった。
そして森を抜けた瞬間、目の前はすでに薄暗く、まばらに屋台や出店が広がっていた。
「うっわ汚いわね。ここがほんとに栄えた街なわけ?見た感じスラムの近隣街と何が違うのかわからないんだけど?」
「ほ、ほんとですね...心なしか、怖そうな人も多い気が...」
ヴィネスの言う通り、身なりが汚い者や怪しい者が多く、オネットの言った「炎獄大陸で一番栄えた街」とはかけ離れた場所のように見えた。
「ああ。ここは眠らない街こと『レイラ街』の入口で、大通りと呼ばれる金持ち組の住む場所からあぶれた奴らや、商売に失敗して行き場をなくした奴の住みつく場所なんだ。目合わせんなよ?面倒ごとが増えるからな。」
この話をしている最中も、得体の知れないものを売っている商人が買ってほしそうにしていたり、ならず者の様な身なりの男がこちらを睨みつけてきていたりと、目を合わさずとも面倒な目に合いそうで早くこの場を抜け出したかった。
「お、見えてきたぞ。」
そう言ってオネットが指をさしたのは『レイラ街へようこそ』と書かれた発光する看板だった。
それは激しく劣化していて、何十年も前に作られたのだなと容易に想像がつくほどにボロボロにさびれていた。
しかしその先に見える街並みは、ネオンのようにぎらついた明かりが各々の建造物をジャンクに照らしていて、その光を浴びるいかにも金持ちそうな人々は、酒に、異性に、自分に酔いしれていた。酒を飲み歩く者、両腕に美女を抱いて嗤う者、札束で男をはたく者。多くは金に物を言わせ、その生活を謳歌していた。
「こ、これがお金持ちの街...なんか趣味が悪いです...」
期待を胸にこの街に赴いたペコリだったが、嫌な部分を短時間で大量に見てしまったため、気持ちが一気に萎えてしまったのだ。
さっきまではオネットの背中から身を乗り出して興奮していたペコリだったが、そのまま脱力してうなだれてしまい、ペコリの見た目も相まってか、まるでオネットがモフモフもバスタオルを肩にかけているかのような絵面になってしまっていた。
「ペコリ、なにもレイラ街はここだけじゃない。もっと中心から離れれば、普通の金持ちとかもいるから!な?元気出せよ!逸魅ノマだっけか、あいつもそこにいるっぽいし。」
「は、はい...。そういえばその、お仲間さん。ノマさんは、どういう人なんですか?」
ペコリが質問すると、オネットもヴィネスも首をかしげた。
「むずいわね。何かしら、いわゆる陰キャかしらね。たまに中二病も見え隠れするし、んまぁ、退屈はすることないわね。」
「そうだな、俺はお嬢様モードのほうが印象強いっつーか...ま、そんな感じだな。」
ヴィネオネの説明で要領を得なかったのか首をかしげるペコリだった。
そして、暇になったのか、ペコリは背中から降りて提案した。
「そうだ、みんなで手分けしてその人を探しませんか?そのほうが早く見つけられます!」
「それはいいわね。じゃ、あたしペコリとこの道行くから、あんたは一人でそっち行きなさい。」
そう言い残し、ふたりはスタスタと人ごみに消えて行ってしまった。
「別にいいけどよぉ、なんかさみしいな...」
その声は誰にも届くことはなく、オネットは哀愁漂う背中でトボトボと歩き始めた。
「ここの食べ物美味しいですね~!」
「あんたまた食べてるの?太るからもう買ってあげないわよ。」
「それじゃあれだけ食べてやめます!お願いしますぅ~!」
「し、しょうがないわね。買ってあげるからここで待ってなさい?」
なんやかんや甘いヴィネスは店に入っていった。そして近場のベンチに座った瞬間、目線の先に嫌なものを見つけてしまった。
気弱そうな若い女の子が白昼堂々いかつい男二人にカツアゲされていた。
薄紫の長い髪に、肉付きのいい身体。身長は少し低く、怯えた深紅の瞳は弱々しく泳いでおり、今にも泣きだしそうだった。
「大変です!」
大声を出してペコリは走った。争いを嫌い、戦いのときはオネットたちの後ろに隠れてたあのペコリがだ。
そしてその声に反応したチンピラ二人は、真っ先にペコリを睨みつけた。
「かわいそうです!やめてあげてください!」
「あぁ?なんだこのチビ!このねーちゃんの知り合いか?ちょうどいい、このぶつかってきたねーちゃんの責任、てめぇがとれや!」
めちゃくちゃな言い分だった。その権幕に気圧され手足が震えるペコリだったが、胸ぐらをつかまれた途端、状況は一変した。
チンピラは胸ぐらを掴んでいたその右手を離したのだ。いや、右手が離れてしまったのだ。肩から先が、まるで眠ってしまったかのように。
「!?何をしやがったこのガキ!腕が動かねぇ..」
「も、もう一度だけいいます!やめてあげてください!」
依然としてペコリの手足は震えており、涙はほぼ出かかっていたが引くつもりはないようだった。
しかしチンピラのペコリに対する殺意は高まる一方で、とうとう二人ともナイフを取り出してしまった。
「死ねや!!!」
そういってナイフを振りかぶるチンピラだったが、今度は盛大にその場で転んでしまった。そのチンピラの足も腕と同様に動く様子はなく、力の差を理解したかのように青ざめている。
「わ、わかったらもうおうちに帰ってください!こんな能力...使いたくないんです...」
その言葉と同時にチンピラの手足は動くようになり、怯えた悲鳴を上げて逃げて行ってしまった。
そして、ペコリは女の子のもとへ駆け寄り、震える手で手をとった。
「大丈夫ですか?痛いとこ、ないですか?」
「は!は、はい...だだ、ダイジョブデス。ぁ...あの、あ、ありがとうございます...」
女の子はどもり散らしているがペコリに対して警戒している様子はなかったため、近場のベンチで座って話すことにした。
「お名前はなんて言うんですか?わたしはペコリです!」
「わた、わたしは、れ、恋花。 好実 恋花だよ。よ、よろしく...」
そして恋花は話した。因縁をつけられてカツアゲされていたこと。ここには今は滞在しているだけということ。
ペコリも話した。人を探していることを。その瞬間恋花は急に慌て始めた。まるで恥ずかしがっているように顔を赤くしながら両手で顔を隠して。そしてゆっくりと手を下ろし、口を開いた。
「じ、実はね、私がアルク・ハティヤーズ、『色欲の調教師』好実 恋花...だよ。」
衝撃のカミングアウトをした恋花は、顔を赤くしたまま戻ることはなかった。
そう。花の様に。恋する乙女の様に。
ペコリ,,,どうしちゃったんでしょう,,,!