第6話:テレスコープス
「おっさん、この携帯頂戴!」
「おう、9金貨と8銀貨だ。」
大きな袋からジャラジャラと音を立て支払い、オネットは手にした初の携帯に少し戸惑いながら来た道を戻る。その途中、大きな地鳴りが起きた。
「なぁペコリ、これって向こうの森....ヴィネスのいる方向からじゃねぇか?」
「だとしたらヴィネスさん危ないんじゃないですか?あんな大きな地鳴りを起こす相手は....かなり強いかもしれないです!」
オネットは血相変えて走り出す。「ここでおとなしく待ってろ!」と言い残して。しばらく走ると森の入り口の木が一本倒れていたため、先を急いだ。
何度も何度も打撃音が響き、木々がなぎ倒されていく。その音の主はやはりモスロだった。ヴィネスは攻撃を防壁と罠で回避しつつガードしていた。やはり罠ではモスロにダメージは入りにくく、罠を使って攻撃をそらして威力を殺すしかなかった。
「あら、あんなにかっこよく啖呵切っておきながら防戦一方なんて、残念ね。あなたの力がこれまでなら、早く決着をつけてあげるわぁ」
「ふん、そんじゃ見せてあげる。あたしの本気!」
ヴィネスが吠えると、それが合図かのように新たな罠が張り巡らされた。
「また罠?これで本気なのだとしたら、ガッカリだわ。」
そういうとモスロはヴィネスに襲い掛かる。その瞬間モスロの右足に糸のようなものが引っかかり、槍のようなものが虚空から射出される。モスロはそれを回避したが、回避したところに振り子のような巨大なハンマーが迫ってきており、反応が遅れ直撃する。
「やるじゃない....ただ、たまたま一発当てただけじゃワタシには勝てないわ!」
「そう、だといいわね。」
不敵な笑みを浮かべるヴィネスに違和感を覚えるモスロだが、考えるより早く体が動くが、踏み込んだ一歩目にロープが絡まり足を取られる。また一つ違和感がモスロを襲う。
「アナタ、まさか計算して配置してたというの?そんなはずは無いと言いたいけど、説明がつかないのよ。」
「ええ。ただ無目的に攻撃を受けていたわけじゃないに決まってるでしょ。あなたの攻撃パターン、会費パターン、呼吸の回数、アタシの頭、胴、腕を狙った回数、その他諸々を全部見て配置したの。つまりゴキブリホイホイならぬ、お姉様ホイホイってとこね。」
「いいじゃない。さすがアルク・ハティヤーズといったとこかしら。さっきのあなたを侮った発言は撤回するわ。そして、ワタシもあなたに敬意を払って見せてあげる。テレスコープスの本気を。」
そういうとモスロの二の腕に紋章のようなものが現れ、それは脈を打っているかのような動きを見せ、その部分がまるで別の生き物の如く独立しているようだった。その紋章にモスロは血を垂らし、唱える。
「汝の意思の伝承者、モスロの身を糧とし、我に大いなる星の力を授けよ」
その直後、鼓動の音とともにモスロに変化が現れた。立派な角は猛々しく肥大化し、隆起した手足の筋肉は細く無駄のないスマートな形状に変化し、全身に金でできた装飾が施された。
「さ、ショータイムよ。」とモスロが言った後、
「そのショーは、飛び入り参加オッケーだったりするか?うしちゃんよ。」
声の主は、オレンジの髪に水色の瞳、足元は泥だらけで息を切らした男だった。
「アンタ遅いんだけど。もっと早く来てよね....」
「悪かったって!しゃーないだろ?森出てたんだから。」
「まぁいいわ。こいつただでさえ強いのに、多分今もっと強くなったわ。きをつけて!」
「わかったよ。でも大丈夫。俺らが組めば最強だろ?前衛と後衛で別れるってだけでだいぶ戦況は変わるだろうよ。」
「そうね、じゃあいくわよ!」
そういうとまた罠をちりばめる。モスロはただ一点を見つめ動かない。次の瞬間モスロは消え、気づけばヴィネスに蹴りを入れる動作にまで入っていた。
ヴィネスは間一髪で防壁魔法を張り避けたが、圧倒的なスピードとパワーで防壁ごと吹っ飛び木に激突。ダメージは大きくないものの頭を打ったからか平衡感覚が保てない。
「うしちゃんよ、無視はひどいんじゃね?」
オネットは腹部に蹴りを入れるがビクともしない。モスロは「おかえし♡」というと、ゆっくり振り返った。オネットは気が付くと吹っ飛んでおり、気持ち音が遅れて聞こえたような気がした。オネットは能力で肉体を強化し耐える事こそ出来たが、攻撃を受けたであろう右肩から腕までが全く動かない。
「純粋なスピードとパワー。これがワタシの能力。星の力によってその二つが格段に向上するの。ワタシの肉体美が薄れちゃうのは残念だけど、仕方ないことね。」
モスロは得意げに言う。しかし、ヴィネスとオネットを交互に見た後、モスロは悲しげな表情を見せる。
「ワタシ、あまり自分の手で殺したくないのよねぇ....忌まわしい記憶が....」
その場で小刻みに震えるモスロは怒っているようにも泣いているようにも見える。その眼には光などはなく、ただ静かに空を見る。そして二の腕の刻印に触れ、強化状態を自ら解除した。
「あなたを待ちます。そのために。『グラヴ・ディビジョン』」とモスロはつぶやいた。すると、モスロの後ろで大地がうねり、盛り上がった大地を形成する土や泥などの塊が、無数に宙に浮いていた。それをぶつけられればひとたまりもない。が、中々それをぶつけてくる様子はなく、何かを躊躇しているように見えた。
次の瞬間、モスロは急によろめき始めた。
「アナタたち、何をしたの....?」と、状況を理解している様子はなく、自分の体を見つめる。
ふらふらと千鳥足になり、その眼は虚ろになっている。そして、困惑するオネットたちをしり目によろめきはどんどん大きくなっていき、モスロはついに片膝をついてしまった。
「いいわ。また今度相手してあげる。」
そう言うと軽い身のこなしで木の上に乗り、そのままどこかへ行ってしまった。
「何が起こったんだ?あいつ、急に逃げ出したけど....?」
「さぁね、運よく命拾ったんだからもういいでしょ。それより、アンタ肩折られて動けないでしょ?」
ヴィネスはオネットの肩を持とうとするが、頭を強く打ったのが原因かうまく力が入らずそのばに座り込んでしまう。
すると、聞きなじみのあるかわいらしい声が聞こえてきた。
「やっと追いつきました~!…って、やっぱりケガしてるじゃないですかぁ!」
相当心配だったのかペコリは眉を思いっきり下げて駆け寄っていく。可愛らしいポーチから包帯を取り出し、オネットとヴィネスの近くに座り込んだ。
「この包帯はですね、癒しの魔法がかけられている特殊なものなんですよ~。使いきりですけど痛みが和らいで、治るのもとても速くなるんですから!」
「ムッ」と口をつぐみ、いつになく真面目な面持ちでオネットたちの応急処置を進めた。
「できました!これで少しは動けるようになるはずです!」
ペコリの言う通り、先ほどまで千鳥足でおぼつかなかったオネットの青痣だらけの足は、今では万全とはいかないまでもしっかりと地面を踏みしめていた。
「おお!ありがとなペコリ!いくらかマシになった!」
その足で三人は一旦村へと戻り、本格的に治療を進めることにした。
~~三日後~~
「うああ!なんだこれ!?」
オネットの大袈裟な声がぼろ家に響きわたる。
その声に何の関心もなく寝転がってるヴィネスに対し、ペコリは馬鹿正直に駆けつけていた。
「オネットさん!?だいじょうぶですか!?なにがあったんですか!?」
ペコリはあたふたと手足をばたつかせ、すこし涙目になりながらオネットのもとへ走った。
しかし、その心配はいい意味で裏切られることとなる。
「骨折が!ほとんど治ってる!」
虚言や妄言ではなく、オネットの言う通り九割ほどオネットの骨は治っていた。痛みも少ししかなく、動かすのにも何も支障が出ないほど奇麗にくっついていた。
「そうですよ!あの包帯は知り合いの方に作ってもらった特注品で、その方しか作れない特別なものなんですから!その方曰く、骨折どころか原型をとどめてなくても、生命活動を停止していない限りこれでくるめば重症レベルまで回復するらしいです!...まぁ、その方がいればまず全回復しちゃうんですけどね...」
「そいつやばいな、余裕で世界一の治癒魔法使いだろ...何ならそれがあの牛ちゃんとかの...『テレスコープス』だとかってやつらの仲間だったらって考えるとゾッとすんなぁ、悪用されないといいけど」
驚きを通り越してちょっとした恐怖さえ覚えたオネット。その予想は当たるか否か。
モスろお姉様、強かったですね...笑