第2話:羊の亜人ペコリ
「俺の名はオネット・トゥーゼン。ただの一般市民だよ」
オネットが名乗ると、女性は
「まさか!」
と、血相を変えて魔獣を総動員させる。
血に飢えた魔獣は我先にと食いつくが、またすんなりと受け流し、
魔獣の上をサーフィンするかの如く踏みつけては蹴散らしていく。
狼と虎は一瞬で全滅したがクマだけが残った。
驚いているクマに回し蹴りで先制攻撃を仕掛けたオネットだったが、効いている様子はなく、その隙にクマの強烈な殴打がぶち込まれる。
オネットはその場に倒れるが、すぐに起き上がり笑みを浮かべる。
「もっと来なよクマ公、全部受け止めて俺のものにしてやるから。」
意味深な言葉も意に介さず、遠慮なくクマは連撃を続ける。が、何かがおかしい。
最初の一発は倒れたのに、食らえば食らうほどよろけなくなり、
二十発も食らう頃には、クマなどの攻撃ではびくともしなくなっていた。
それどころか地面のほうが耐えられなくなり、ひび割れや陥没を起こしていた。
そのうち殴ろうとしたクマの手を掴み、
「そんなもんかクマ公よぉ...俺は一発で十分だぜ!」
オネットはそういいながらただのパンチを顎にクリーンヒットさせ見事K.O
クマの巨体は大地に沈み、民衆からは歓声が沸き上がった。
周りを見ると先ほどの女性はもういなくなっており、魔獣は魔力の塊となり消えていった。
そこに、「助けてくれてありがとうございます~!」
と、民衆の中から一人の少女が駆け寄ってきた。
「羊の亜人の、ペコリといいます~!どうかお礼をさせてください!」
ゆっくりしたしゃべり方で身長は低く頭には羊のような巻き角があり、タレ目でモコモコの服を着たかわいらしい少女で、その雰囲気から今にも眠くなりそうだった。
「当然の事をしたまでよ!」
オネットはかっこつけてみたが、結局ペコリの言われるがままペコリの家にきてしまった。
ふかふかの寝具に、大量のもこもこのぬいぐるみ(大半が羊)。
そして謎のいい匂い。THE・女の子のかわいらしい部屋だった。
「大したお礼はできないですけど、お茶とお菓子です~
あんまり手に入らないおいしいお菓子なんですよぉ~!」
とてもうれしそうにホカホカのお茶とお菓子を出してきた。
茶を啜っているとペコリは尋ねる
「このへんじゃ見かけない能力ですよね、どこから来たんですか?
それに、先ほど名乗った時にあの魔獣使いの女性が焦っていたので、なにか有名人なのかと…」
純粋な目を向けるペコリに、オネットは答えた。
「一年前に異世界から来た悪魔500体をたった七人で葬った猛者たちがいたってニュースになったんだ。そいつらの能力は決して完全なものじゃないが、手にした魔法道具とその戦い方から、七つの大罪を基にした異名をつけられた。『アルク・ハティヤーズ』俺はその中の一人。『傲慢の拳闘士』オネット・トゥーゼン。」
オネットは決まったと思ったが、
「そ、そうだったんですねぇ~!わたし情報に疎くて知らなかったです~」
ペコリのあまりの世間知らずさに驚愕した。
この情報はかなり噂され、知らない者はいないとまで言われた話。
箱入り娘とかなのかもしれないと割り切り、咳払いをしたのち、
「ま、まぁ最近無差別に人を襲う集団がいろんなところに出没しているらしい。
俺らはそれを止めるためにここまで送り出されたんだ。」
そう言い調子を取り戻す。
「送り出されたってことは、誰かに雇われたとかですか?」
ペコリは首をかしげる。あざといが、わざとらしくないところから天然なのだろう。
「そうだな、とある金持ちに依頼されたんだよ。ま、されなくてもやってたけどな。
所々の惨状を見ればさすがにな…」
そして、ほかのメンバーを探していることと、今絶賛野宿生活だということを伝えると、
ペコリの家をしばらく宿として泊めてくれることになった。
もちろん最初は遠慮した。
「男が女の子の家に何日も止まるなんてちょっとアレだろ…?」
そういってもペコリは首を傾げ、
「あれ…ですか?」と、ピンときてないご様子だ。それにもう一つ。
「女の子って言ってますけど、私大人なので!」ペコリは自慢げに腕を組む。
そんなこんなでペコリの家にお世話になることにした。