1. 私の現実
小さい頃の夢は自分だけの小さいケーキ屋さんを開くことだった。
誕生日みたいな特別な日、いいことをしたご褒美の日にお母さんは、星のかけらが溶けたかのようなスポンジと雪みたいに真っ白なクリームが重なって、そのてっぺんに宝石のような果物がのっかっているケーキを毎回作ってくれた。
我が家秘伝のレシピノートをこっそり持ち出して作ってみても、黒焦げの物体ができるだけだったので、ケーキを作れるお母さんはもしかしたら魔法使いなんじゃないかと本気で考えていたんだっけ
まぁいまさらどうしようもないけど
考えていた脳みそを停止させてゆっくりと目を開けてみるとメイクもばっちし、服装もばっちしなかわいいかわいい同僚の女の子が立っている。
時刻は19時35分。
「ねえ、お願い…今日は彼氏と記念日のデートなの」
そのセリフ一週間前も聞いた気がするのは気のせいですかね、
「うちの彼氏嫉妬深くて、仕事が長引いたって言っても信じてくれなくて」
そいつ社会人やってけねぇぞ
「次はしっかり仕事するから、ね!お願い」
いつも遊んでばかりのくせに
…黒い心の声を声に出せるほどの勇気はなくて。きらきらの瞳に見つめられたら何も言えなくなって。
無言で首を縦に振ってしまった。うぐっそんなまぶしい笑顔で見つめないで!!お願い!!
「ありがとう!!!!!」
どたばたと騒がしい彼女が出て行ったオフィスでは私のタイピング音だけが響いていた。
「あーなんで私はこうなんだろうなぁ」
誰かに聞かせるわけでもなく口から出てきた言葉がこの静かな空間に響いてるのが、染み渡るような、私を受け入れるかのような気分がしてちょっとだけ気分がよくなって。仕事のスペースが早くなる。いやちょろいな私。
この勢いのまま終わらせてしまおう。
そうだ、さっき同僚の仕事を引き受けたんだった。人に任せるくらいの仕事だから少ないよねきっと…
彼女のデスクに向かおうと、ゆっくりと椅子から立ち上がったその時だった
ズキズキ
あれ、頭が痛い。
ズキズキ
割れてしまいそう
ズキズキ
そういえば最後に寝たのはいつだっけ
ズキズキ
冷静な判断ができない。ちょっとだけちょっとだけ寝てみよう、どうせ残業の夜は長いんだ。
冷たい床を感じて私の思考は途切れた
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