〈第一話〉順応する青春
思春期、子供から大人に心身共に成長する期間。それは誰にでも来る、それは青春と呼ぶ。そんなものクソ喰らえだ。早く大人になりたい。周りに合わせるのもしんどい。インスタにお世辞でも可愛いとは言えない自撮り写真を上げたり、たった一回行っただけの海外旅行の写真を何度も再投稿する女子を見るだけで腹が立つ。そんな俺にも他の人とは少し違う形で訪れた青春の話である。
俺は立花 元基、突然だが中学生にもカーストはある。俺は特に目立った特技もなく、スポーツも勉強もどちらかと言うと出来ない。そんな俺のカーストは中の下といったところか。周りのカースト上位の人の意見に合わせる。僕はその場、その場に順応してやり過ごしてきた。順応すれば何も起こらない。そんな暮らしも中学になってもう三年目。このまま、なんの変化もなく中学、高校と終わっていくものだと思っていた。
「なぁ、立花、青春してる?」
あぁ、めんどくさい。こいつの名前は斉藤 元秋。身長は背が少し高いぐらいだが筋肉質でスポーツができる。カーストはかなり上位。だが、暴力的なので裏では嫌われている。時々、暇そうなやつを見つけては、ウザ絡みしてくる。だから斉藤をみかけると自然とみんなが避けていく。それに気づいていないのか当の本人は人気があると思っている。さらに無理矢理、みんなに「もっちゃん」と呼ばれている、というか呼ばせてる。元秋だから、もっちゃん。今、こいつのウザ絡みに合っている。あぁ、めんどくさい。
「なーあー青春してる?」
ここは何も刺激せず受け流すのが一番だ
「して…る」
「してないって。彼女もいないし。かと言って楽しいこともなんもない。」
つか、青春するって何だよ。
「そうだね、でももっちゃんは友達が多いから楽しめるんじゃない。」
「そんなことないって。」
ああ、ほんと、めんどくさい。そんなことあると思っているんだろ。めんどくさい。
「ちっ…めんどくせぇ」
しまった。やらかした。つい、口から出てしまった。斉藤の顔が怖くて見れない。
「なんだと。てめぇ。」
斉藤の手が震えている。斉藤が俺の胸ぐらをつかむ。次の瞬間、急に視界が暗くなって意識が遠くなっていく。あれ、どうしんたんだろう…。
「おい、どうしたんだ。おい…立花…やめろ。」
頭がガンガンする。金槌で頭を殴らているような感覚がずっと続く。痛い。痛い。痛い。いた…い…
目が覚めるとそこには目の前に無数の点があった。違う。天井だ。見たことがある。保健室。あのまま、殴られて倒れたのか。いや、あいつには殴られていない。じゃあ、なぜ倒れたんだ。頭を回せば回すほど頭の痛みを感じる。
「目が覚めたの。」
保健室の先生、東野翔子先生だ。通称翔子ちゃん。一昨年から、この学校に転勤してきた。優しくて、誰にでも人当たりが良い。そんな先生は顔もなかなかだ。いわゆる眼鏡美人。そしてなんと言ってもあの…!俺の手と足は鉄の枷で固定されて身動きができなくなっている。
「翔子ちゃん、これって。」
先生は笑顔を崩さない。それが不気味でしかたない。
「あの…」
「立花 元基くん、何か覚えていますか。」
普段は言わない敬語。
「あの、俺、斎藤に掴まれて。そのあと…そのあと…どうなったんですか。」
「覚えていないんですね。」
「あの、俺…」
「覚えていないんですね?」
笑顔だ。
「は…い。」
「分かったわ。これにサインして。」
「えっ。これって。」
そこにはA4用紙にびっしり文字が書かれて、最後に「あなたはこのことに同意しますか」と書かれて署名の欄がある。怪しい、怪しすぎる。紙に目を走らせようとした途端、先生が紙を持ち上げた。
「そんな難しいことを考えなくていいの。さぁ、サインして。」
「でも…」
俺は紙に目を通そうとした。しかし、手で拒まれる。そして、先生は何かボタンのような物を押した、次の瞬間、全身に痛みが走った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
部屋の中に俺の叫び声だけが響き渡る。
「サインして。」
もはや、拒否権などなかった。俺は言われるがままにサインさせられた。
「悪く思わないで。」
そう呟いた先生は部屋から出ていった。入れ違いに黒いスーツを着た男の人が3人、部屋に入って来た。俺の顔に霧状のものを吹き付ける。どんどん、意識が遠くなっていく…
「おい、起きろ。起きろ。」
目の前には翔子先生と知らない女の人、俺はスーツの男の人二人に取り押さえられている。とても、綺麗な部屋だ。ダメだ。まったく体に力が入らない。
「立花元基、お前は今日から本校、能力育成学院に入学してもらう。まず、この学園の校則について説明する…」
能力?なんのだ。今日から入学?
「ちょっと待ってくだ…」
俺は黒スーツの男に頭を地面に押さえつけられた。一瞬だった。反応出来ない。」
「貴様、ママの言葉の遮るな!」
ママ?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているであろう俺の顔を見た女の人が口を開いた。
「私の事だ。この学園の現・理事長、菅原だ。わたしの事は本当の親と思っていい。ママと読んでくれ。」
ママ?確かにクールビューティーって感じだがどう見てもまだ二十代前半ぐらいだ。どうやらこの人がここでのトップだ。言葉を遮るのも許されない。
「校則を説明する。
一.どんな事があろうとも、教職員の命令に従う。
二.卒業までこの学園の敷地外に出ることを禁ずる。
三.特別生徒は月に一回、精密検査を受ける。
四.一部例外を除き、生徒は寮に入って生活する。
五.学園内であれば能力を使うことを許可する。
六.以上の校則を守らなかった生徒や教職員の判断で生徒に電気ショックを流すことが出来る。
以上だ。何か質問はあるか。」
質問だらけだよ。なんだよ。敷地から出られない?能力?電気ショック?ふざけるな。ふざけるな。ふざ…、落ち着け、感情のままに言っても何をされるか分からない。ここは落ち着いて…
「親はどこですか。」
「君の親はもといた場所で君が亡くなったと思って暮らしている。他に質問は?」
『他に質問は?』、じゃねぇよ。そんなこと、許されると思っているのか。怒りが混み上がる。
「これって犯罪ですよね。」
「いや、犯罪では無い、この学園は国に認められた施設であり、この場所は地図に載っていない日本政府が保有する島に建てられている。そしてこの行為は国に認めらてた行為である。」
そんな、漫画のような事があるのか。そんなところがあったのか、衛星写真があるこの時代に?
「それでは立花 元基、あなたを本校、能力育成学園に入学することを許可する。」
あれ、もう、質問コーナーは終わりですか。ていうか、入学したいなんて一度も言ってない。
「ふぅー。さて、こんな、形式的な事は終わりだ。」
急に全員の口元が緩み、スーツの人はネクタイを緩め、僕の拘束を解いた。さっきまでの緊迫した空気が一変、穏やかな空気が流れる。
「立花君、いや元基って呼んでもいいか?まず、こんな手荒なまねして申し訳ない。まず、謝らして貰う。本当にすまなかった。」
そう言うと、翔子先生も黒スーツのムキムキも理事長までもがこちらに向かって頭を深く下げた。俺は驚きが隠せない
「これで君に頭を下げるのは最後だ。元基、君に今から丁寧に説明する。私が話している間に何か疑問に思った事があったらすぐに質問しなさい。今だけ、許可する。」
なんだ、偉そうに。そう感じているのに何故かこの人の何かに包まれていくような。そんな感覚になる。
「まず、最初に一昨年から東野が学校に転勤した来ただろう。それと同じように全国の中学校の保健室の先生が同時期に就職した。それには一つ、理由がある。『能力者の発見』だ。ここからは信じられないことかもしれないが信じて欲しい。実は、世間で言う、超能力者は存在する。」
超能力者、そんなもの信用できるわけないが、こんな状況になった以上もう、何が起きても驚かない。
「驚かないのか?」
「こんな状況ですから。」
「そうだな。なかなか、肝が座っている。それでは、続けるぞ。その能力者なんだが、生まれつき能力者と言うケースはまだ見つかっていない。つまり普通の人間がある日突然、能力に目覚めるのだ。能力は人それぞれで、空を飛べたり、瞬間移動などもある。そこで国はお金をかけてこの施設を作ったというわけだ。この施設の目的は『能力者の保護と研究と能力の消失』だ。」
仮に能力者がいたとしよう、保護と研究はまだ分かる。能力者がいたら国は保護して研究したがるだろう。では、能力の消失は国にとってメリットはないはずだ。利用したいはず。
「詳しく、説明しよう。能力が目覚める人には共通点が三つある。一つ目は中学三年生であること。全ての人が中学3年生で能力に目覚めている。なぜかは分かっていない。二つ目は極度の心的ストレスを感じていること。能力者はストレスから自分自身を守るために能力に目覚めたと私たちを考えている。三つ目は初めて、能力を使った時の記憶がないこと。これに関してはなぜ、記憶がないのかまだ、明らかになっていない。そのことから全国の中学校に調査員を保健室の先生として派遣されたというわけだ。」
「それで俺が能力者だという事ですか?」
「そういうとだ。君は能力者だ。今は自覚が無いだろう、初めて能力を使った時の記憶はないからな。そして、能力を使ったところを東野が保護した。そういう事だ。そんな便利な能力があったら、能力を悪用するやつも出てくるだろう?そういう奴らから君たちを保護して研究し、その能力を無くさせる事が私たちの目的だ。もし、このまま能力者が増え続ければ国同士の能力者をかけた戦争になるだろう。なんとしてもそれは阻止しなければならない。この世に能力はいらない。」
「でも、だからって…」
「分かっている。君たちにやった事は許されることではない。ただ、多くの人の命と引き換えと考えると安く済む。そう、考えている 。」
言い方は上からで、言っている事は理不尽。だが、彼女の目は悲しみで溢れていた。
「あなたは…」
「ママと呼んでくれ。ここにいる全ての能力者が理不尽に親から引き離された。せめて、私だけでも親の代わりになりたい…」
この人はいい人なのかもしれない。もし、この人が理事長でなければもっと酷い扱いを受けていたかもしれない。
「ママ、あなたは僕達の味方ですか。それとも…」
「すまない、君たちの味方でありたい、そう思っているのだが私は元基の親である前に国から派遣された、奴隷だ。本当の親なら違うのだがな…。極力、君たちを守りたい。だが、もし私が間違った事をしていたら正して欲しい。」
この人は心から俺の事を大切に思っている、今日あったばかりのこの俺を。この人は信用していいそう思った。
「ママ、僕はどうすればいいんですか。」
「君にはこれから高校卒業までこの学園で生活してもらう。ここにはなんでもある。ショッピングモールに映画館、カラオケまでもある。好きに利用するといい。寮から毎日学校に通ってもらう。日曜日は休みだ。通っている生徒、全員が能力者と言う訳では無い、クラスに数人ずつしか能力者はいない。他の生徒は官僚の息子や財閥の娘、自分の子供を守るには最高の場所だからな。卒業後の人生は国が保証しよう。ただし、勉強は怠るな、この学園は勉強にシビアだ。」
一見、良い環境だ。さすが、国の施設と言ったところか。好きな物が貰えて好きなことが出来る。ただ、親にも会えず三年生敷地の外に出ることはない。しかし、俺に拒否権はない。
「分かりましたよ。ただ、一つ質問させてください。僕の能力は何ですか。」
「確かに。この学園に来た生徒には自分の能力を伝えている。ただ、君は例外だ。事情があってな。伝えることは出来ない。」
何があるというのか、僕の体はどうなっているのか、ただ、僕にはこの状況に順応するしかない。
「能力者には一人につき一人、マネジャーをつけることになっている。他の生徒とは訳が違うからな。おまえのマネジャーは東野だ。卒業まで、お前の担当をする。何かあったら彼女に言え。以上だ。」
そう言うとママは黒スーツと共に奥の部屋に消えていった。俺は翔子先生と二人きりで部屋に残された。翔子先生が俺のマネジャー?あの容姿端麗、非の打ち所がないあの翔子先生が?
「あの…翔子先生?」
「東野とお呼びください。」
先生はもう先生では無いのだ。あのころの優しい雰囲気はなく冷たい目をしている。
「立花様、今から敷地内の案内をさせていただきます。どうぞ、ついてきてください。」
外に連れ出された俺は息を飲んだ。目の前には都会の風景が広がっていた。ビルが立ち並び、人で賑わっている。これが敷地内なのか。確かに、三年間敷地の外に出ずとも十分過ぎるほど暮らしていけるだろう。
その後、淡々と敷地内を説明された。一人一つずつICカードが配られ、買い物する時はそれをかざせば買える。普通の生徒は親がその代金を払っているそうで買い物金額に上限はないが能力者は月に10万円ずつ振り込まれその中でやりくりする。お金持ちはやはり違う。生活する部屋は一人一部屋ある。広くもないが狭くもない。月に100万円の支払いでは部屋を高級ホテルに替えることもできるそうなのだがそれをするのはほんの一握りの生徒らしい。この敷地には生徒、教職員、研究所、マネジャー、SP、店の従業員、あと国の職員がそれぞれ生活している。敷地はぐるっと一周壁で囲まれており、生徒以外敷地の外に出る事は自由できる。北にある門に自分のICカードかざすと門がかざすと開く。他にもロックつきの場所があり限られた人や生徒以外しか入れないところもある。簡単に言ってしまえば風俗やパチンコ、競馬場まである。どう見ても普通の街だ。結婚して家族て で生活する人もいる。こんなところがあったなんて。
「それでは説明は以上です。では改めて、ようこそ、能力育成学園へ。どうぞ楽しい学園生活をお送りください。」