第8話・・・ノイヤールフェストと次の目的地
X1518年、ミュー王国
その日はお祭りの日だった。朝から出店やなんやらの準備で外はいつも以上ににぎやかだった。そんな中、宿の中で3人はお祭りの警備について話し合っていた。
「っちゅーわけで、なにが起きても対処できなあかんねや。」
「それなら3人別々のところにいた方が良いよね。」
(ヨシダが別々のところの配備を希望した!?・・・もしかして、これが魔物出現させるための・・・?)
リヒトは昨日のレンとの話を思い出していた。もし、魔物が現れれば・・・リヒトはヨシダの方を向く。
と、横からレンの声が聞こえてくる。
「おい、リヒト。聞いとったか?」
「えっ?・・・ああ、ごめん。なんだっけ?」
「リヒトの配置は会場の左端の方や。んで俺が真ん中、ヨシダが右端やっちゅー話や。」
(うっ・・・よりにもよって一番ヨシダから遠いとこ!)
「なんや、不満か?」
「あ、いやいや。それで大丈夫!」
「仕事中はぼーっしないように気を付けないとね。」
最後にヨシダが締めて、3人はそれぞれ配置の場所へ向かっていく。
ノイヤールフェスト会場 左端
ステージまでにはまだまだ時間があったが、それでも道はかなり混雑していた。
(やっぱり年越しのお祭りってことで人もいっぱい来てるなあ・・・確かにこんなに人がいる中に魔物が現れたらひとたまりもないな。)
なんてことを考えていると、リヒトのポケットが震えてくる。レンからの着信だった。リヒトはポケットから通話ができる通信端末を取り出し通話に応じる。
「そっちはどうや、配置場所の付近にはついたか?」
「ちょうどついたところ。ヨシダは?」
「いや、実は連絡先を聞いてなかったんや。悪い。」
「まじか。じゃあヨシダの方に見に行った方がいいかな?」
「それはまずいやろ。こんな人混みやったら一気に駆けつけることは出来へん。どこで何が起きるかわからへんから、とりあえず配置場所で見回りを続けるんや。」
「う、うん。分かったよ。」
そう言ってリヒトとレンは通話を終了した。リヒトもレンも不安を残しつつも、何も起こらないように祈りながらそれぞれの配置場所で警備に入っていった。
たまに起こる入場者同士のいざこざなどを解決しながら警備を行っていると、いつの間にか夜になっていた。
(おっと、そろそろステージの時間かな。)
リヒトはステージから少し離れた場所の見回りをすませ、ステージの近くの警備にシフトしにいった。
と、そこでレンから着信があった。
「そっちはどうや、リヒト。こっちは今んとこちっちゃい騒ぎばっかで何も起こっとらんわ。」
「そっちも?こっちも何も起こってないよ。これからステージが始まるみたいだし、こっちの警備をメインにした方が良いかも。」
「そうやな。ほな、また何かあったら連絡するわ。」
「オッケー。」
そう言っているうちに、ステージが始まった。最初は人気投票で選ばれた第5位の少女のステージからだった。そしてステージは進んでいき、第2位のステージが終了した。
(みんな、頑張って練習してきたんだろうな・・・こういうステージが出来たら楽しいんだろうな。)
そして、いよいよ第1位のステージ。
最初は少し緊張した面持ちで、しかしだんだんステージが進むうちに明るい表情になっていったその少女は、会場を圧倒していた。
だんだんとキレが出てきたその機敏な動きで、会場全体の熱気に負けないくらいの声量で、何より飛び切り明るくて眩しいその笑顔で。
リヒトは警備を忘れるほどにそのステージに夢中になっていた。
(これが・・・元気を与える、最高のステージなんだね。・・・ありがとう。)
会場の観客も、ステージ上のパフォーマーも、それぞれの思いを胸に、ステージは大盛況のまま終わりを迎えた。
ノイヤールフェスト終了後 楽屋
リヒト、レン、そしてヨシダの3人はアイの楽屋に来ていた。
「アイ、お疲れ様。」
「えへへ、ありがとう。」
「とりあえず、何もなくてよかったね。」
「私はよく知らないけど、警備の間に観客同士でもめたりとかいろいろあったんじゃないの?ありがとうね。」
「それはあったんやけど・・・話してなかったっけ、魔物が突然街中に現れる話。」
「あ~、そう言えば。そうなるとニュンちゃんのとことかちょっと心配かも。それなら、私も一緒にスメル王国に行くよ!」
アイが突然一緒に旅に出ると言い始めた。
「えっ、いや、でもこの国のこともあるし!それに、俺が兄探しするだけの旅に付き合わせるのも悪いよ。」
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ。うちの兵士たちは、国王様は強いから!・・・それに友達が困ってるのをほっとけないよ!」
「彼女もこう言ってるし、良いんじゃない?」
「アイならそう言うと思っとったわ。」
「みんな・・・うん、結局ここでは魔物は現れなかったけど、あと2国でも出てるかは気になるし、行く予定だったしね。アイがそう言ってくれるなら、一緒に行こう!」
「うん!」
そこでヨシダがはっ・・・と気が付いたように疑問をぶつける。
「ところで、スメル王国へはどうやって行くのかな?確か、ここからスメル王国への海域は危険な魔物が多く棲んでいて、通ることが難しかったんじゃなかったっけ?」
その問いに、アイは自信満々に答える。
「それはもちろん!」
その場にいたアイ以外の3人は、アイの次の言葉を神妙な面持ちで待っていた。
「空から行くわ!」
やっぱりか・・・と答えを予想していたリヒトとレン。そしてあまりの予想外の言葉に驚くヨシダ。
「空!?・・・って、ああ、ヘリコプターとかそういうので行くってことだね?」
「違うわ!船よ!」
「船!?」
こうしてリヒト達は、次の目的地に、空から船でスメル王国へ行くことに決めたのであった。