第4話・・・新たな魔物
X1518年、センセ王国
クエストカウンター前
「よおっし、これで今日のクエストは終了だ!明日はSランクのクエストに挑むから今日はゆっくり休まねえとな!」
もうそろそろ夕刻になろうかという時間帯。レジェンドの2人へのクエスト同行もここで終了、お別れの時間である。
「改めて、今日は同行させていただきありがとうございました!」
「今日のことはこれからの糧にします!ありがとうございました!」
リヒトは礼を言い頭を下げる。続けてレンも礼を言い頭を下げる。
「はっはっはっ、しおらしいじゃねえか。最初みたいにもっと豪快な態度をとっていかねえと伸びねえぞ?」
「まあまあ、君たちもきっと伸びるよ。今日の戦いを見てそう思った。頑張ってね。」
グレースはお腹をたたきながら、シュテルケはメガネをクイっと上げながら声をかける。
リヒトとレンが大きな声で返事をするのを見ると、レジェンドの2人はそれじゃあなと言ってその場を去っていった。
「さってと、俺らも戻るか!」
リヒトはレンに声をかける。
「せやな、今日ので強くなるためにもっとやらなあかんことが見えてきた気がするわ。」
そう言って2人が宿に戻ろうとした時だった。
ゴオオオオオオオオオオオン!と街の中で建物が崩れる音がした。その方向を見ると、大きな魔物が現れたことが確認できた。
「なっ、なんだあの魔物は!?」
リヒトとレンは急いで魔物が出現した方向へと向かう。様々な建物から人が出てきては、雪崩のように魔物から逃げるように走っていく。
(こっからは・・・割と近くか!?)
「レン!」
「ああ、オッケーや!」
レンはリヒトを担ぎ上げると、思いっきり地面を蹴り目の前の建物の屋根の上に飛び乗る。屋根を飛び移って魔物のもとにたどり着くと、すでにレジェンドの2人がそこにいた。
「おお、お前らか!わりぃがここは任せてくれ!逃げ遅れたやつがいるかもしれねえ!避難誘導をしてきてくれ!」
「頼んだよ!」
「分かりました!」
レンは返事をすると、近くの路地に飛び降り近くの逃げている人に声をかけていく。
「そこの人達!あっちの道を通って第3図書館まで逃げるんや!」
道を指さし、時には直接抱え避難を進めていく。そして、周りから逃げ遅れた人がいないことを確認していく。
「よし、この辺はだいたい大丈夫やな・・・リヒト!魔物のところへ戻るで!」
「あ、ああ!分かった!」
そう言って、2人は先ほどの魔物のもとへ戻る。そこにはクエストと同様に魔物に立ち向かうレジェンドの2人がいた。
グレースが敵の攻撃を受け流し、時には反撃し、シュテルケが持っている槍で一撃を入れる。
しかし、大型のその魔物には効いている様子はなかった。
「・・・ったく、なんなんだよこの魔物は!」
盾を持つグレースが叫ぶ。
「今まで見たことがないタイプだね・・・」
槍を構えながらシュテルケも言葉を返す。
そこに現れた魔物は、Sランククエストをいくつもこなすレジェンドの2人でさえ知らない魔物だったのである。
その魔物はピエロのような顔つき、太く大きなお腹、足はなく地面から浮遊していて、腕がなく肘から先が体と連動して浮いている謎の魔物だった。
グレースが声を上げる。
「ったく、攻撃が効かねえんじゃ埒が明かねえ!」
「もしかしてこの魔物が噂に聞く、物理攻撃を一切受け付けず魔法攻撃しか効かない魔物なのか・・・?」
その声を聞き、レンが駆けつける。
「それじゃあ、俺に任せてください!」
「おぉん?おっ、さっきの小僧か!避難は終わったのか!?」
「この一帯の避難はもう済んでます!それより、魔法攻撃しか効かないなら!俺にやらせてください!俺は魔法攻撃が使えるんで!」
そうか・・・とグレースは考え込み、結論を出した。
「じゃあ、すまねえ。攻撃するスキは俺たちが作ってやる。一度やってみてくれ!」
「分かりました!」
レンはリヒトの方を振り返る。リヒトとレンは目を合わせ頷くと、それぞれの場所へ移動していった。
「あいつら・・・魔物との混血の一族だったのか。」
「グレース、今は目の前の問題を解決するのが先だよ。」
シュテルケが声をかけると、分かってるよ、とグレースは頷く。
「さて、相棒。お前が攻撃した時、あいつに当たった感覚はあったか?」
「当たった感触はあるね・・・効いてる感じはしないけど。」
「なら試してみるか、あいつを地面にたたき落とすぞ!」
「なるほど、分かった。」
2人は少し細工をし、準備を終えるとシュテルケが魔物に向かって急接近した。
シュテルケは魔物の下に潜り込むと、上に向かって大きく飛ぶ。魔物の胴体に手に持っていた槍を突き刺す。そして、槍に仕込まれていたギミックを起動する。
しかしその時、魔物の体が傾きシュテルケがその場に取り残される。突如、シュテルケの右側から魔物の左手が現れ、シュテルケの体を吹き飛ばす。
シュテルケは建物にぶつかりそのままひきずり落ちる。
「くっ・・・相棒、すまねえ!」
槍につなげられた鎖に掴まりながらグレースは叫ぶ。そう、先ほどの細工は槍と盾を鎖で繋げることだったのだ。そして、グレースは盾に仕込まれたギミックを起動させる。途端、グレースが持っていた盾が極度の重さになり、鎖に繋がれた槍を、槍が突き刺さった魔物を、上空から地面へと落下させる。
ズウウンと地面に落ちる音が響きわたる。
「今だ、来い!こぞおおおお!」
グレースが叫ぶと、待っていたかのようにレンが上空から現れる。
「この一撃で!」
「行け、レン!俺とお前の一撃なら!」
レン、リヒトは叫ぶ。レンの持っている剣に炎が宿る。レンは思いっきり剣を振りかぶり、魔物に向かって背を向け、剣を振るう直前に体を回し、魔物に向かって振る剣の速度を一気に上げる。そしてリヒトとレンは同時に叫ぶ。
「「コンビネーションスカイハイ・・・フレイムバージョン!!」」
レンが剣を振り下ろすと魔物の周辺に炎が巻き上がる。なんとか脱出したグレースが魔物を見上げて騒然とする。
「はっははっ・・・こりゃすげえな・・・」
炎に巻き込まれる魔物の姿は圧巻の一言だった。吹っ飛ばされていたシュテルケはメガネを探し、リヒトもやったと声を上げる。
しかし、その場で喜んでいない者が一人いた。レンである。
(こ・・・いつは!)
「まだ・・・まだ、だ!こいつはまだ!」
レンが声を上げると同時に、魔物はその両手を振り下ろした。その勢いでレンは吹き飛ばされる。
「レン!」
リヒトは急いでレンに駆け寄る。
魔物は少し後ろに下がると、自分に突き刺されている槍を無理やりへし折った。レンが吹き飛ばされたことで炎は鎮火し、その魔物は黒焦げになりながらもまだ動いている。
そう、先ほどの一撃で魔物は倒せなかったのである。
その魔物はじりじりと、リヒトとレンに向かい距離を詰めてくる。レンは朦朧とする意識の中、リヒトに声をかける。
「お、俺のことはええから・・・さ、さっさと逃げ・・・」
「お、お前を置いて逃げれるか!」
と、言いつつもリヒトは足が震えて逃げることすらできなかった。初めての絶対なる敵への恐怖心、死と隣り合わせの状況にリヒトは動けなかったのである。もちろん、動けたとしてもレンを置いて逃げずに立ち向かう。そう考えていた。
その時、グレースが駆け寄ってくる。
「こいつらには手を出させねぇぞ!俺が相手だ!」
へし折られた槍から解放された盾を持ち、グレースがリヒト達の前に立つ。しかし、一時の抵抗もむなしく、グレースは魔物によって吹き飛ばされてしまう。
「グレースさん!・・・っ!んなっ、こんなことってあるかよ!・・・俺だって、俺だって魔法が使えれば!」
リヒトは叫ぶ。
「や、止めてくれよ!止めてくれよお!俺の大切な人を、友達を・・・これ以上傷つけないでくれえ!!」
リヒトは立ち上がり、泣き叫びながら、剣を構える。その間にも魔物はじりじりとリヒトとの距離を詰めてくる。
(俺が魔法を使えたらこんなことにならなかったんだ。もっと強ければ・・・守れたんだ!あの2人も、レンも!この町も、いつか見つかる兄さんを!)
リヒト達に近寄ったその魔物は、右手を大幅に引き、リヒト達めがけてまっすぐに放った。
「俺が・・・魔法を使えたら!!」
瞬間、雷が魔物を貫く。魔物の右手はリヒト達の目の前で止まり、やや仰向けになった魔物は動きを止め、地面に落下し跡形もなく消え去った。
消滅した魔物の後ろにある人物の影が浮かび上がる。夕日を背にして表情、顔は見えないが、肩に剣を乗せていることは分かる。リヒトは緊張の糸が切れ、地面に崩れ落ち意識を失った。その直前に声が聞こえてきた。
「・・・もっと強くなれ、そうじゃなきゃ張り合いがない。」
なす術もなくやられたリヒトとレン。その魔物を倒した人物とは・・・?