里長
彼女に引っ張られた先は一つの小屋だった。
「私の家よ」
「家…」
彼女の家は木で作られていて、まひとの家(?)よりしっかり組み立てられている。
別に私は建設会社の人間ではないのだが、あの家との差ぐらいはわかる。
「…」
私、メリーは人と会話をすることはおろか、交流することも無かった。
元々、意を前に出すことのない私が目前の女性となんとか会話できているのは、蓮子のおかげか。
「さ、入りなさいな」
「は、はい」
背を押され、家の中に入った。
真ん中に囲炉裏があり、四隅に藁でできた座布団が敷かれていた。
せっせと座らされる。
彼女も反対側に座り、向かい合う形になる。
口を開いたのはもちろん彼女である。
「…まず謝らなきゃね、彼等が乱暴したのよね?」
「い、いえ、私が勝手に来たのもありますし…」
事前に言える事でもないと思うが。
役所とかあるのだろうか?
「私は琴、ここの里長よ、彼等には後で注意しておくわ…ごめんなさい。」
琴と名乗った彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
そこまで激高することでもない…少なくとも私はもう気にしてはいないのだが。
気を紛らわすために、私がここに来た理由を告げてみた
「え、えと…ここに、温泉がある…」
「あぁ!まひとが言ってた子ってあなたの事ね!」
またしてもセリフが遮断された。
先ほどの顔が嘘のように晴れ、にこやかな笑顔が現れる。
「あ…」
私とまひとの事を知っている?
いつかにまひとが言っていた「知り合い」とはこの人の事だったのか。
「話は聞いているわ、居場所が分からないってこともね」
彼が私の事を話したのか。
詳しい事はわからないが、どこかで会っているようだ。
「彼を知ってるんですか?」
「長い付き合いよ」
「はぁ…付き合い…」
確かに彼女の言動なら誰だろうが翻弄できるであろう。
ただ、長い付き合いと言うには年が合わないように見えるが。
聞きたいことは山々だが、本題に戻す。
彼と会っているなら、私がここに用があるのは知っているのか?
「あの…」
「ん?」
「私がここに来ることも知ってたんですか?」
「えぇ、いつ来るかなんて言ってなかったけど」
数日しか関わっていないまひとだが、その間に私に色濃く印象を叩き込んでくれた。
気が利かないまひとは、事前通告などはしてくれないであろう。
「まぁ、ここに居たいって言うのなら歓迎するけれど…一つ」
「!…」
まひと同様働かなければ居させてもらえないとあらば、私はいよいよ居場所がなくなる、スキマを見つけた以上、ここ付近を離れるわけにはいかない。
そんな理由から私はビクビク怯えていたわけだが。
「皆と仲良くしてくれるなら、だけど」
杞憂だったようだ。
私は心の中で安堵の息を漏らす。
「も、もちろんです…多分。」
…多分。
ともかく、身を置けるのならどうだっていい、落ち着く場所が欲しいのだ。
まったく知らない場所で落ち着くというのも妙な話だが。
と、琴さんが立ち上がり、見下ろされる形になる。
「私の家に泊まっていいわ、ここ私一人には割に合わないから」
「あ…ありがたいです…」
仲良くしてくれ、と言われたそばから何だが異性とは中々接し辛いところがある。
いくら勢いが強かろうが、女性であれば話しやすい、筈だ。
「じゃ、皆に言ってくるから、自由にしていいわよ」
「あ…」
私が何かを言う頃には、彼女の姿は消え私の声だけが空しく響いた。
「自由…ねぇ…」
私を襲ったあの二人はともかく他の人達は私の事を知らない筈だ。
今出たとして驚かれるだけだろう。
気絶していたものの、そう時間は経っていない筈。
なのに里長である彼女は、私をまひとの知り合いという理由だけで招き入れてくれた。
あの男二人が私を襲ったのは私にとっては驚きでしかなかった。
他の人も、私を警戒するに違いない、その点でも、ここに居れるのは吉だろう。
私は頭を抱えた。
「あぁぁ…不安だわ…」




