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リア充共に告ぐ!!  作者: 雨鴉
第2話
7/8

喪女の密やかな楽しみ、夏の休日の過ごし方

お久し振りな更新です。

一夜明けて日曜日のお話です。

 

 金曜夜から土曜に掛けて、何とも現実味のない体験ばかりをした。


 信頼できる同僚との飲み会の後、何故か五年振りに会った同期の男と、ホテル最上階にあるお洒落なバーでお酒を飲んで……からのホテルで朝チュン。言っておくが隣に裸の男性が……なんて事はなかった。同期の財力と自分のモテなさに感謝だ。

 それからまた何故か同期の男の引越しを手伝う事となり、男の最寄り駅まで行ったら、会社の後輩のキラキラ女子とその幼馴染みのヤンキーに絡まれた……からの、キラキラ女子と同期の男のラブコメ展開に巻き込まれた……まる。


 結局、夕御飯までご馳走になって、送ると言う男を振り切って家に帰り、寝て起きたら日曜日。今ここです。

 ドラマみたいな展開から一転。いつもの休日が戻ってきた。


「……ま、あんな事頻繁にあったら身体持たないよな」


 ドラマのヒロインってムカつく事多いけど、こういう所はすごいなと思う。




「やっば……、買い物するの忘れてた」


 冷蔵庫を開けてがっくりと肩を落とす。中には調味料と飲み物、あとは卵と少しの野菜くらいしかない。

 過保護な両親と一人暮らしをするに当たって約束した事がある。それは自炊をする事だ。

 律儀に守り続けて10年近く、習慣となってしまったので苦ではない。寧ろ外食の方がしんどい。コミュ症と喪女を拗らせた私には、コンビニで肉まんを買うのすらハードルが高い。


 朝御飯はきちんと食べたい派なので、野菜と卵でスープを作り、ラスト1枚の食パンを焼いた。本当はヨーグルトが欲しいけどないので、コーヒーではなく牛乳にした。

 食パンにバターを塗ってムシャムシャ食べながら、必要な食材を頭に浮かべる。数日分をまとめ買いにするので結構な量になるので、いつも自転車で行く。生憎免許はあるけど、車は持っていない。最寄の駅もそんなに離れてないので、あまり必要がないからだ。でも、まとめ買いの時だけは車があったら便利だと思う。


 朝御飯を食べた後、日用品で不足なものはないか確認して、身支度を整えた。バッチリメイクしたりオシャレな服を着たりする事はなく。日焼け止めとファンデくらいしか付けない。服も昨日と然程変わらない、Tシャツと麻のパンツで履き物がサンダルに変わっただけだ。

 眼鏡を掛けて、日焼け防止の為に薄手のカーデガンを羽織り、麦わらのカンカン帽を被って外へ出た。



 突然だが、私は基本インドアな人間だ。言わなくても分かるだろうけど。

 昔は少ないながらもいた友達と、休日に遊びに行くこともあったけど、年齢を重ねるにつれ、その友達は結婚して子どもを産んでいて、休日は家族で遊びに行くのが当たり前になり、次第に疎遠になって行った。今では年賀状だけのやり取りの子もいる。

 コミュ症な私は、1人でカフェ巡りなんてオシャレな事が出来るわけがなく、必然的に家で過ごす事が多くなった。

 ……家で何をしているかと言うと。


「あ、やっぱり出てた『カルテット・キッス』の最新刊」


 そう。少女漫画を読んでいるのだ。


 現実世界の学校生活に期待が持てなかった時、同じような性格の女の子から薦められて見たのが始まりで、今でもこっそり読んでいるのだ。

 何てったって少女漫画の男の子は、イケメンで優しいし、時には強引だったりする。現実の男共は、ルックスで差別するし、大体ブサイクには優しくない。少女漫画あるあるの、イケメンがブスに恋するなんて有り得ない。

 ……逃避してるって言われても仕方ない。だから、こっそり読んでいるのだ。


『カルテット・キッス』は最近実写映画化された人気少女漫画だ。

 地味で大人しい女の子が、人気アイドルグループのイケメンたちによって可愛く変身していくストーリーだ。少女漫画で使い古された設定だけど、心理描写が秀逸で、ヒロインにめちゃめちゃ感情移入してしまう胸キュンストーリーなのだ。

 “カルテット”と付いてるから分かると思うけど、4人のタイプの違うイケメンも人気の理由の1つで、1番人気は俺様系のカズキなんだけど、私は優しいお兄さん系のマサヤが好きだったりする。


 食料品を買う前に、この辺りで1番大きな書店に入り、お目当ての『カルテット・キッス』の最新刊と、好きな作家の推理小説数冊を買うことにした。

 給料日に加えボーナスも貰った後なので、好きな本を大人買いしたくなって来たのだ。だから、いつもだったら買わない出版社の漫画を買ってみようと、平積みされた漫画の表紙を眺めていたら、近くを大学生くらいの若い女の子二人組が通り掛かった。


「あ、この漫画、すっごい面白いんだよね~」


「え?あんた少女漫画なんて読まないのに、珍しい」


「ネットで話題になってたから、漫画喫茶で読んだのよ。チョー面白かったよ、ある意味でね」


「へぇ~」


 そのまま二人組の女の子は、店を出ていってしまって会話はそこまでしか聞けなかった。

 ……ある意味面白いって、どういうこと~!!


 片方の女の子が言っていた漫画は平積みにされていて、結構巻数も出ている。店員さんのポップにも『ネットで話題沸騰!!』と煽られていた。

 絵柄はすごい綺麗で、どうやら時代物らしい。いかにもなお嬢様っぽい美少女と、クールなイケメン軍人とのツーショットが多く、恐らくこの軍人がヒーローなんだろう。

 時代物は好きなので、試しに1巻を買ってみることにした。

 前知識がない漫画を読むのはワクワクする。早く帰って読みたい。

 書店で清算を済ませ、格安のスーパーとドラッグストアに寄って必要なもの以外に、大量に御菓子と飲み物を買って帰った。



 自転車を飛ばして家に着いた頃には、私は全身汗びっしょりになっていた。天気予報によると、今日は真夏日らしい。

 買ってきたものを冷蔵庫と、戸棚に閉まっていく。そして、エアコンのスイッチを入れてからバスルームに向かった。

 眼鏡を外して、クレンジングで化粧を落としてから、服を脱ぐ。Tシャツは汗で湿っていて脱ぎ難くなっていた。

 汗で脱ぎ難くなったパンツや下着も脱いで、温めに設定したシャワーを浴びる。

 カップ付きのタンクトップとホットパンツと言った、他人には見せられない部屋着を着てバスルームを出たら、エアコンが部屋をひんやりとさせていて、過ごしやすい空間になっていた。


 結構ウロウロしていたから、時間は正午近くなっていたので、漫画を読む前に昼御飯を食べる事にした。

 ここ2日間外食が続いたので、お昼はさっぱりと素麺にする事にした。

 素麺を茹でて、付け合わせにハムやきゅうり、薄焼き卵を千切りにしたのを乗せて完成。

 ストレートのめんつゆに薬味を入れてつるつる啜れば、うーん夏だなぁ……。

 テレビを付けてバラエティを観ながら食べていると、スマホがメッセージを受信した音が鳴った。

 日曜日に連絡してくる人なんて家族か栄子くらいで、時たま坂上さんが仕事について連絡してくるくらいだ。

 カバンに入れっぱなしだったスマホを取り出し、メッセージアプリのアイコンをタップする。……そして、飲んでた麦茶を吹き出した。


「げほっ、ごほっ、……か、各務!?」


 麦茶が変な所に入って噎せながら、スマホの液晶画面を見ると、金曜に久々に会った同期の男の名前が表示されていた。

 そう言えばアドレス交換していたな……。

 恐る恐る名前をタップすると、メッセージ画面が出てくる。上の方は昨晩のこっ恥ずかしいやりとりがある。

 回らないお寿司をご馳走になり、いざ帰る時になって各務が家まで送るとごね出した。時間はまだ宵の口。このくらいの時間帯なら人通りもまだ多いし、仕事帰りがこの時間になることもある。……てか、若くて可愛い女の子なら兎も角、三十路のブサイク喪女なんて襲うやつなんていないだろう。

 ……そう言ったら、何故か各務は苦い顔をした。本当の事なのに。

 その後も不毛なやり取りをして、折れた各務が家に着いたら連絡しろと言って来たのだ。……で、その着いたよメッセージが残っているのだが。


「何だよこの付き合ってるっぽいメッセージは」


 各務は何だ?アメリカに行っておかしくなったのか?

 駅まで送った直後からメッセージの嵐。『駅に着いたか?』『電話してるフリをして帰れよ』そして、最後は『おやすみ』で締められた。

 そして、今回のメッセージは、


『昨日はありがとう。助かった。月曜からよろしく』


「えぇぇえ……」


 あんまりよろしくしたくない。各務が出社したら絶対目立つもの。近寄りたくない。

 しかも昨日、天使ちゃんと出会ってラブストーリーが始まったじゃないか。私、いらなくないか?


「巻き込まれたくないなぁ~」


 新人時代のイジメの数々を思い出して、溜め息を吐く。仕事を押し付けられて深夜まで残業したのは辛かった。終電に間に合わなくてタクシーで帰ったり(家計に大打撃だった)、ホテルに泊まったりもしたなぁ……。時々仕事を手伝いに来てた各務に車で送ってもらったり……。


「……昔からか」


 口が悪くて正論しか言わない奴だったけど、何だかんだ助けてもらっていた。今の自分がいるのは、あの時各務が手伝いながら諭してくれていたからだ。

 天使ちゃんは昔の私と同じだ。自分の責任を果たそうとして、結果空回りして周りに迷惑を掛けてしまう。新人時代に何度も各務に注意されていた事を、私は天使ちゃんに言い続けた。……各務ほど巧くいかなくて私が悪者になってしまったけど。


『昨日会った女の子、昔の私みたいな仕事をするから、気に掛けてやってね』


 送信ボタンをタップすると、メッセージ画面に表示されて間もなくして既読が付く。


『それはその子の教育係がする事だから、俺は余計な事はしない』


「…………」


 それはそうなんだけど、各務の性格だったら口出ししたくなると思うぞ。私にガミガミ言ってたくらいなんだから。

 まぁ、他所の部署の事に口出しするのはルール違反だろうし、各務は部署で1番重大な案件に掛かりきりになると思う。新人教育の為に帰国した訳ではないのだから。


『余計な事を言ってごめん。月曜から頑張って』


 何せ5年ぶりの本社勤務だ。各務が知っている社員は殆ど海外へ出向しているか、辞めてしまって居ない。人間関係はほぼ1から築き上げなければならない。

 ……私なら耐えれない。考えただけで胃がキリキリする。

 そんな事を考えていたら、メッセージを受信する。


『ありがとう。頑張るよ。また明日な』


「~~~~!!!!」


 何だこの甘酸っぱいやり取り!!

 顔に熱が溜まるのに気付かない振りをして、メッセージアプリを閉じた。

 は、早く素麺食べて漫画読もう!!






「う、嘘つき~~!!」


 若い女の子が話題にしていた少女漫画を読んでから出たのは、その一言だった。

 絵柄は綺麗なのに、話がスッカスカで全く面白くない上に、不幸設定の主人公が全然不幸じゃないので、全く感情移入出来ない!!

 初めてここまで『買って損した漫画』に出会った。もう2度と読むことはないだろう。

 本棚には入れず、クローゼットの中にある透明なケースの中に入れる。ここにはあまり面白くなかった漫画や小説を入れている。溜まったら弟に頼んで車を出してもらって、古本屋に売りに行くのだ。ケースの中には数冊入っているが、今ある中でも断トツに面白くない漫画だった。

『ネットで話題沸騰!!』と煽られていたので、すぐさまパソコンで検索してみて、あの女の子が何故“ある意味面白い”と言ったか理解した。ツッコミ所満載で面白いんだ……。


 その後、好きな『カルテット・キッス』を読んで、主人公の女の子が勇気を出して告白するシーンに胸キュンして、振られた時には一緒に涙した。あの漫画とは大違いな細かい心理描写に大満足した。次巻から新展開を迎えるみたいなので、すごく楽しみだ。


 この日はいつも通り、涼しい部屋でダラダラと本を読みながら過ごした。

 ……まさか月曜からはあんな事になろうとは、この時は全然気付かなかった。


照子は喪女だけど干物女ではないので、家事はきちんとするタイプです。料理も普通に作れます。


本当は照子はオタク設定だったんですが、私が中途半端なオタクなので、『少女漫画好きなちょっと夢見がちな女性』になりました。現実では男性と巧く話せないですが、恋愛漫画を読むのは好きな照子だったりします。

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