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リア充共に告ぐ!!  作者: 雨鴉
第1話
5/8

おつとめ品vs新商品!!夏のラブストーリー開幕!!

お久しぶりです。久々の更新です。

 

 三十路喪女がじっとりと汗をかいてる中、ピチピチの20代前半な天使ちゃんは実に爽やかな出で立ちだ。こう……サイダー系のCMとか出れそうなくらいの爽やかさだ。ライムレモン新発売っ☆みたいな?反対に私は閉店間際のスーパーのお惣菜のようにシナシナである。


 たった2週間しか関わってない私に、何と言う爽やかさで近付くのか。真っ白なスラリとした脚を惜し気もなく晒し、ピンヒールのサンダルで駆け寄る姿は、まさしくヒロイン。眩しいくらいの笑顔で周りの視線を独り占め状態なのに、気付きもしない。うーん。この鈍感さ、まさにヒロインだな。

 フワフワのキャラメル色の髪を緩くまとめて、花のバレッタで留めてあり、項に掛かる後れ毛が色っぽい。


「すごい偶然ですね!!茂木さんもショッピングですか?」


 小柄な天使ちゃんと165㎝の私が向き合うと、天使ちゃんは自然と上目遣いになる。うっ……男はこの無自覚なあざとさにオチるのか。


「私は知り合いの引っ越しの手伝いに来ただけで……天使さんは1人で買い物?」


 ショッピングなんぞ洒落た言い方出来なくてすいません。キラキラリア充と向き合うだけで精一杯です。

 向き合うだけでダメージが蓄積されていく私に気付かず、天使ちゃんは話を続ける。


「友達と一緒です。今トイレに行ってて……、あっ!!こっちだよー!!」


 視線を巡らしながら話してた天使ちゃんは、件の友達を見付けたのか大声で呼び掛けた。……ちょっ!?目立つから止めて!!

 目立たず空気のように溶け込む存在でありたい、そんな私の希望虚しく、澄んだ鈴のような声は休日でごった返す駅に響き渡った。


 てっきり天使ちゃんの友達は、同系統のゆるふわ女子なのかと思っていた。結果、物凄く裏切られた。


「じっとしてろって言ったろ?ひより。……お前誰?」


 夏の日差しを眩しいくらい浴びる金髪と、アクセサリーじゃらじゃらで服装もバンドマンのようなロックテイストで……つまり私が全く関わった事のない人種だった。

 細身で普段外に出ないのかビックリするくらい色白で、今時の何て言ったか……ジェンダー系の中性的で綺麗な顔立ちをした男だった。

 ……そう、男だった。


 綺麗だけど険のある顔立ちなのか、切れ長の目を更に鋭くさせながら私を見る。……てか、睨まれている。


「何でテメーみたいな地味な女がひよりといるんだよ!?」


「ひぇっ!?何でって天使さんに話掛けられたからです!!」


 喪女差別反対!!何だよコイツ、ヤンキーなのかよ!?

 只でさえ男が苦手なのに出会い頭に怒鳴られて、私は涙目だ。

 何故に年下の男に、会社の後輩と話しただけで怒鳴られなきゃなんないのか。


「ちょっ……、(らい)ちゃん止めて!!私が呼び止めたの!!」


「はぁ?何でこんな地味女、ひよりが呼び止めるんだよ?明らかに接点ないだろ?」


 私が雷ちゃんとやらに萎縮しまくっている事に、天使ちゃんは眉を吊り上げてご立腹だ。そんな天使ちゃんにタジタジになりながらも、雷ちゃんとやらは私をディスってくる。


「茂木さんは私の会社の先輩で、研修中に教育係だったの!!偶然見掛けたから私が呼び止めたの!!」


「教育係……?って、だったらテメェ、ひよりをイビってた奴か!!」


「ちがーう!!」


 ……帰りたい。

 駅の目立つ所で、人目を引くゆるふわ可愛い系とヤンキー丸出しのジャ○ーズ系イケメンが痴話喧嘩。

 必然的に側にいる私にも視線が集まり、クスクスと笑われる。

 ……嗚呼、今無性に他人の振り(まぁ、ほぼ他人なのだが)がしたい。昨日今日と高レベルの美形と関わり合い、私の精神はゴリゴリに削られていた。喪女のリア充への耐性のなさナメんなよ。


「あ、天使さん、私人と待ち合わせしてるから、これで失礼するね」


 目の前で繰り広げられるラブコメに、いい加減耐えられなくなってきたので、勇気を振り絞って言った。各務にメールを送って随分経つので、もう駅に着いてるかもしれない。


「あっ!!茂木さん、ごめんなさい!!ほら、雷ちゃんも謝って!!」


「何で俺がこんな地味女に……」


「コラー!!」


 切り上げたくて言ったのに、何故にまたラブコメが始まるのか。

 うげっ!?カバンの中でスマホが振動している。恐らく各務だろうな……ヤバイなぁ。

 茹だるような暑さの中で長々と足止めを食らい、いい加減イライラしていた時だった。


「謝罪とかいいから、私本当急ぐから……」


「えっ!?でも……」


 もう振り切ってしまおうと早口で言った私に、天使ちゃんは慌てて私の方を見て…………固まった。

 あまりにも見事に固まったので怪訝そうに見返すと、天使ちゃんの横にいた雷ちゃんとやらも固まっていた。

 え?何で?


「茂木……お前何やってんだよ」


 つい数時間前まで聞いていた、低めの心地好い美声が背後から聞こえた。





 さっきから気になっていた女性陣の歓声。ええ、実は遠くの方から聞こえていました。てっきり芸能人でもいるかと思っていたら、まさか知り合いのハイスペックエリートに向けてのモノだったとは。ハハ……渇いた笑いしか出てこない。

 おそるおそる振り返ると、今朝別れた時と変わらないカジュアルな服装の各務が、スマホ片手に立っていた。……クソッ、スマホのCMにでも出るのかってくらいサマになっているのが腹立つ!!


 待たせた所為か若干不機嫌そうな顔をしている。……コイツ、時間にルーズな奴とか嫌いだからな。恐らくそれでムカついているのだろう。……自分の都合で無理矢理呼び出したのに、勝手な奴だな!!

 可愛い女の子とやんちゃ系の男の子の取り合わせで、只でさえ目立っていた所に、日常でおよそ出会う事のないくらいの超絶イケメンが登場し、周囲の視線は倍以上に集まって来た……ううっ、帰りたい。暑さだけの所為じゃない汗がダラダラと出てくる。


「……トラブルか?」


「……いや、問題ないであります」


「何だよその口調」


 不機嫌だった癖に、私が困っていたのが解ったのだろう。瞬時に状況を理解したのか、天使ちゃんや雷ちゃんとやらに警戒する各務。流石、海外出向組に選ばれた精鋭中の精鋭である。あらゆるトラブルに備えて、瞬時に行動に移せるように普段からなっているのだろう……戦士かよ。

 待てよ。よくよく考えたら、月曜から各務と天使ちゃんは同じ部署になる。一緒に働く前に各務に悪印象を持たせてはマズイ気がする。多分ここは紹介くらいしておいた方が良いか……。

 私の口調が軍隊コントみたいだったからなのか、各務は肩を震わせて笑っている。別に面白くないのに、よくそんなに笑えるな。……アメリカ生活長過ぎて、笑いのツボがおかしくなったのだろうか。


「各務君、彼女来週から貴方と同じ部署になる、天使ひよりさんよ」


 私の軍隊コント口調のお陰で機嫌が少し良くなった各務に、天使ちゃんを紹介する。

 すると、笑いをピタリと止めた各務と、固まっていた華奢な身体をビクンと跳ねさせた天使ちゃんの視線が絡まる。


 その時、私は初めて人が恋に落ちる瞬間を見た。


 天使ちゃんの淡く透き通った瞳が、各務と視線が合った瞬間、トロリと蕩けたようになる。それだけではなく、長い睫毛を瞬かせて、白い頬を薔薇色に上気させた。

 すっげぇ……各務、会社内で断トツ人気の天使ちゃんを一瞬でオトしやがった。流石超絶イケメン。

 天使ちゃんの頭の中は、往年の恋愛ドラマの主題歌であるラブのストーリーが突然に起こるメロディが流れてるだろう。……古いか?今の子はそのドラマ知らないだろうな。じゃあ何だろ?最近のドラマ知らないなぁ……。


 私がつらつらと最近のドラマを思い浮かべていたら、各務と天使ちゃんの挨拶は終わったらしい。

 天使ちゃんは頬を薔薇色してうっとりと各務を見ており、もうメロメロ状態だ。そして、そんな恋する乙女な天使ちゃんを、面白くなさそうに見ている雷ちゃんとやら……プッ!!ざまぁ!!コイツ、分かりやすいくらい天使ちゃんラブだったもんな!!心の中でこの顔文字→m9(^Д^)(プギャー)と同じ事をしておいた。先程の私への理不尽な発言等へのモヤモヤ、ちょっと消化できたかも。


 しかし、フォーリンラブな天使ちゃんとは違い、各務の方は全く態度が変わらない。……やっぱり金髪ナイスバディな美女じゃないからか。天使ちゃんは……まぁ清楚系だもんな。本場の肉食系の美女を食い散らかしていたなら物足りないだろう。


「行くぞ」


 各務に知られると失礼な妄想をしていた私は腕を掴まれ、妄想のネタにされてた本人に引き摺られてその場から立ち去る。モデル顔負けの長い脚の各務とのコンパスの差で、若干早足になりながら後ろを振り返ると、まだ夢見心地な天使ちゃんと、此方を睨み付ける雷ちゃんとやらが小さくなっていた。






 今更な情報だが、各務は勿論の事だが平凡なイチ社員である私でもそこそこ収入は良い。

 まぁ勤続年数によって昇給したお陰でもあるが、会社の業績の良さが社員に還元されるので、多分大企業に勤めてる人と変わらないくらいは貰っていると思う。ブラック企業が問題になっている最中、こんな厚待遇を受けられて有り難い。そんなホワイト企業だからか入社希望が後を絶たないので、私が入社した当時とは比べ物にならないくらい倍率が上がっているらしい。……まぁ、元々はブラック中のブラック企業だったのだが。就任数年でシステムや幹部を一新した社長には感謝しかない。

 そういう理由から、私はセキュリティのしっかりした広い部屋に住めているのだが、各務はそれに加えて当社きってのエリート。多分私の収入の数倍は貰っているだろう。……で、何故こんな事を説明したかと言うと。


「てか、家賃いくらよ」


 駅まで徒歩圏内、セキュリティばっちり、コンシェルジュ在住のタワーマンション。……そう、金持ちのステータス、タワーマンションだ。

 シックでオシャレな外観で、最近建てられた真新しいマンションが、各務がこれから暮らす家である。確か分譲でも賃貸でも契約出来るらしいのだが……まさか。


「買った」


 でーすーよーねー!!年収数千万な上、実家が世界的に有名な企業ですもんねー!!

 普段は感じる事のない格差と言うものをヒシヒシと感じながら、私は慣れた様子の各務に続いてマンションの中に入る。

 自動ドアを通り抜けたら、ホテルのような落ち着いた色合いのエントランス。すげぇ。冷房完備だ。

 きちんとスーツを着たコンシェルジュに頭をさげられながら、奥へと進むと静脈認証のオートロックがある。最新の防犯システムに、我が家のオートロックが暗証番号入力がちゃちく感じる。


 確かタワーマンションって、上階に行く毎に購入額も上がっていくはず……各務、お前一人暮らしなのに何故に最上階なんだよ。

 ツッコむ気力も根こそぎ奪うくらい豪華な部屋に、私は圧倒されるばかりだった。

 室内の広さや陽当たりの良さは勿論、絶妙なバランスで配置されたソファーやテーブル等の家具類の高級さに気後れを感じる。……オシャレでリーズナブルなニ○リで、家具類全部を揃えた私には縁のないものだ。


「ん?アメリカで使ってた割には綺麗だね」


 数年使っていたら、どんなに綺麗に掃除していても“使用感”みたいなものがあるはずなのに、此処にある家具は全て新品のように感じた。

 そんな庶民な私に、金持ちのボンボンな各務はあっさりととんでもない事を言った。


「アメリカで使っていた家具は、向こうの知人にあげた。……此処にある家具は、日本で購入したものだ」


 海外で生活した事がないので、家具等の大型の荷物の運搬費がどれくらい掛かるか分からないが、かなり高額なのは想像できる。……それを差し引いても、此処にある家具の総額が運搬費を越える事はないと思う。うん。ニ○リやIK○Aとかで買い揃えるなら別だろうけどさ。


「……もったいなくない?」


 おずおずと聞いた私に、各務は口許を緩めるだけで返事はくれない。悪かったな、貧乏性で。





 結果的に言うと、各務の引越しの手伝いはそんなに大変じゃなかった。

 家具と共にキッチン用品も譲ったらしく、アメリカから届いた荷物は5年暮らした割には微々たるものだった。

 流石に下着を含む衣類を片付ける訳にもいかず、私は書物の片付けや空になった段ボールを潰したり、簡単な掃除をしたりした。各務はその間に衣類を片付け、パソコン等の電子機器の配線を繋いだりしていた。

 その間私たちは殆ど会話はしなかったけど、そんなに気まずい空気は流れず、本棚に綺麗に並べる作業はそんなに苦痛では無かった。


 結局、ホテルでの御礼の代わり引越しを手伝ったのに、また晩御飯を奢ってもらった。本末転倒とはこの事である。

 ……仕方ない。普段食べれない回らないお寿司の誘惑には逆らえなかった。


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