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夏の幻 1

  ア マイ フィロソフィ1.5 夏の幻                          


                      名草 宗一郎




 夏のてり焼ける日差しをさんさんと地面が浴びている。こちらは日差しはないが夏の余波をもろに受けて暑さが体内の外を熟している。

 僕の名は笹原一樹、この高校に入学してから4ヶ月が過ぎた。

 僕は、僕はここに来て一体なにをしようと思ったのだろう。そう、僕は自問した。しかし、当たり前だが何の答えも返ってこない。

 僕は東京の立川出身の少年。今は岡山の宗堂にいる。中学のときの不登校になり、自分の意志で岡山に来た。

 しかし、来てみたけど…………。

 すぐによくなるとは思っていなかったけど、しかし、こうまで何もないとは思わなかった。

 今、僕は窓際の席で昼の授業を受けながら思っているのだが、ここに来て4ヶ月。僕はなにを期待していたのだろう?

 確かに、両親のところにいるより、ここに来た方がいいと思っていたけれど、結局何も変わらなかった。

 誰も友達なぞできなかった。

—キーンコーンカーンコーン。

「じゃあ、これで終わります」

「きりーつ,れい」

 それで五時限目の授業は終わった。

 



「きりーつ、れい」

 この日の最後の授業が終わり、放課後になった。僕は部活などにはいってないのでもう帰宅するのだ。

 それで帰り支度をしていると、教室のある一点に人だかりができる。ある一点に向かってみんなが話している、それはこんな具合だ。

「美春、今日はお買い物しましょう」

「いやいや、美春さんはカラオケに行きたいんじゃないか、ねえ、美春さん、僕らとカラオケに行きませんか?」

「何言ってんの男子、美春ちゃんは私たちと一緒にスイーツ巡りするに決まっているんだから」

「そんな事はないぞ。ねえ、美春さん。今日は俺らとゲームしましょうよ。『勇者王』をみんなですれば楽しいはずですよ」

「美春がいくらゲームが好きでもやろうばかりじゃあ、楽しくないわよ。ねえ、美春、今日は本屋に行きましょう。今日入荷された漫画があるらしいから、今日はそれ買いましょうよ」

「ええ〜?どうしようかな〜?」

 ある一点、つまり美春の周りにみんなが集まってなんやかんや言っている。 美春はクラスの人気者だ。みんな、美春と仲良くしたいのだ。

 寺島美春。自分と同級生の子。目が大きく、頬が心なしかふっくらしていて勉強もできるし、何より性格がすごく明るい女の子。

 寺島さんは入学したときからその明るい性格で友人、知人をどんどん増やしていった。学園のアイドルというようなものでは無いけれど、確実にクラスの人気者になっていったのだ。

 それに引き換えて僕は、今までなにをやってきたのか、なんなのかというぐらい中身はすかすかだった。

 友達はいないし、勉強だってついていくのがやっと、家に帰ったら勉強をしたり、本を読んだり、音楽を聴く程度。

 こんな、何もない一日をただ漫然(まんぜん)と過ごしているしかないのだ。

 寺島さんは何かおもしろい事を聞いたのか口を大きく開けて笑っていた。僕はそれを尻目にそっと教室からでた。




「お帰り、一樹君」

「はい、ただいま」

 僕は家に帰ってきた。他にする事もないし……………。

「あ、そうだ、一樹君。今日は和也が帰ってきたのよ。何でも、会議が早めに終わったんですって、それでもう今の所やる仕事がないって言っていたわ」

「叔父さんが?はい、わかりました。ちょっと挨拶(あいさつ)に行ってきます」

「和也なら書斎にいるから、行ってきてね」

「はい」

 



 僕はまず自分の部屋に入って鞄を置いて、着替えてから叔父さんの書斎に向かった。叔父さんの書斎は家の中で一階の西の方にある。ちなみに僕の部屋が2階の西側だ。

 僕はノックをして返事が返ってきたので入った。

 叔父さんの書斎へ入ると古い本の匂いが全身に纏って(まとって)離れていくのだ。そういうものを嗅ぐたびに僕はこれが大人というものか、という気がしてくるのだ。

「おう、一樹君か。どうだ、調子は?」

「まあまあです」

「そうか、まあまあならいいな」

 それから僕たちは沈黙した、他にどう話せばいいのかわからなかったのだ。

「あ、そうだ、叔父さん。今日は早く帰ってこれたのですね」

 叔父さんは少し苦笑するような顔をした後、こう言った。

「まあね。早めに終わったと言ってもあれだよ。議論が煮詰まってしまったんだよ」

「議論が煮詰まった?」

「ああ、そうだよ。何せ今は不況だ。どんどんシェアが小さくなっている。まだ、だいじょうぶだと思うけど、今後はどうなるかわからない。海外に出て行かないといけないかもしれない」

 僕はびっくりした。世の中ではよく、失われた10年とか言っているけど。やっぱり、身近なところでもこんな不況の影があるんだな。

「それで今後どうするかという話で議論が堂々巡りをしてしまってね、また、次回に話す事に決まったんだ」

「ヘー」

 僕はぽかんとしたまま、腑抜けた(ふぬけた)事を言った。しかし、実際には世の中の現実の一端を初めて知った気がしたのだ。

 それから叔父さんが唐突に話題を変えてきた。

「一樹君の方は学校で何かあったか?」

「いえ、何もありませんよ」       

「そうか」

 僕があまりに素っ気なく答えたので叔父さんは少し鼻白んだ。

 それからしばらくどちらも沈黙した。しかし、ふっと叔父さんは微笑んでこう言った。

「まあ、一樹君。そんなに焦らなくてもいいと思うよ。普段と同じようにやっていけば、そのうちいい事あるよ」

「はい」

 それで僕は叔父さんの書斎からでた。まあ、叔父さんは僕の事を励ましてくれたのかな?僕はそう受け取る事にした。

ーキーンコーン。

 4時限目の授業も終わりお昼になった。僕はもう朝のうちにコンビニでパンを買っていたのでそれを食べる事にした。

 人のざわめきが静電気のようにぱちぱちと発生している。今の僕からすればこういうのは本当に自然現象のように感じられる。

 そうやって、ぱちぱちとしているかと思いきや、ある一点に静電気が集まって一つの電気になっていこうとした。

「美春ちゃーん。一緒に食べましょう」

「うん,いいよ。真紀ちゃん」

「じゃあ、寺島さん。僕らも一緒に食べてもいいでしょうか?」

「もちろん、歓迎だよ。上田君」

 そうやって寺島さんの周りに人が集まっていった。自分の真後ろでどんどん人が集っていく。

 ふと外を見るとベランダに、この上にある巣から落ちたのだろう、小鳥がひからびて死んでいる姿を見つけた。


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