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あの日、俺は一人家で呑んでいた。
心江は、パンクラブの仲間と温泉旅行に出かけていた。
家の電話が鳴り響いたのは、22時頃だった。
ホテルの部屋の浴槽で倒れたと連絡が入り、タクシーですぐにホテルへと駆け付けた。
1時間後に漸く到着すると、心江が泊まったホテルの部屋の前で、心江の友人たちが床に崩れるように座り込んで泣いていた。
その横には警察官が数名立っていた。
「心江は?」と俺が青ざめた顔しながら言う。
「残念ながら….」と警察は答えた。
「病院は?何故病院に運ばないんです?」
「救急隊が到着した時には、すでに亡くなっておりましたので」
「そんな…」俺は一瞬にして時間が止まったように感じた。
俺が心江に会いに行こうとすると、警察は、「その前にお聞きしなければならないことがあるんです」と言って、今日はどこにいたのか、心江は生命保険に加入しているか等俺に対する事情聴取がはじまった。
その後、解放され心江にやっと会えた時には、身体がすでに固まり始めていた。
「なぜこんなことに…」俺はその場に泣き崩れた。
その後、警察の調べでは、備え付けの浴槽で入浴中、バッテリーつけたままの携帯電話を使用し、感電したのだろうということだった。
「携帯のメールに今までありがとうとありました。事故と自殺の可能性も高いですね」俺はその言葉に耳を疑った。
あんなに幸せそうだった心江が自殺…。
その後、慌ただしく通夜や葬儀を執り行ない一通りのことが済み、
一人まるで太陽を失った様にガランとした部屋で心江の遺影をボーっと見ていた。
気のせいなのだろうが、遺影の心江が微笑んだ気がした。
ついこの前まで、「貴方と結婚して本当に良かった」と言ってくれていた心江が自殺なんてかんがえるのだろうか?
「ねぇピル知らない?鞄の中に入れていたはずなんだけど見つからないのよ」と生前、心江が言っていた事をふと思い出した。
心江はあの日、生理になってしまい温泉は諦め、部屋の浴槽に入浴すると言ったらしい。
自殺したとは到底信じきれない…俺は頭を掻きながらリビングに移動し本棚の中に置いてある、心江の日記を手に取り読み始めた。