イケメン(幼児)と悪役宣言
人権?ナニソレ(以下略)
「つまり、その子は結局誰のモノ?」
その問いに年下の少年は、三つの年の差になった悪友を見上げて意味ありげに笑う。
真意を探るような、面白がるような笑みは深く、しかしそこにあって当然の怒りは見えなかった。
「勿論、大きい箱を選んだコー君のモノだよ!お誕生日、おめでと~!!」
(様子見かな。面白がってるだけな気もするけど)
「ありがとう。じゃあ、ボクの所有物から手を離して。指の跡が付いてるから」
子どもとは思えない、まるで大輪の花のような艶やかな笑みを浮かべるコランダムは、年下の少年にまったく笑っていないオッドアイを向けて指摘する。
指摘した通り、黒目の子どもの掴まれたままの手首は無造作に強く握られていたせいで指の跡に痣が出来ていた。
手加減もなく無造作に、まるで物のような扱いに、しかし当の本人は無表情に何の反応もしない。
彼にとって、それはごく普通の扱いであって改めて痛がる必要もないからだ。
それともこれも、『躾』の一環なのかもしれない。
年下の少年は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと自分が掴んだままの細い腕を見下ろす。
見下ろした途端、笑みは凄味を増した。
コランダムの不遜な態度は、悪│友とはいえ既に能力差が出ている相手に対するものではない。
鈍感な黄褐色の目を持つ少年ですら雰囲気に飲まれ、怒りを収めて成り行きを黙って見守っていた。
東の島国にいた前世であれば、空気を読み笑いながら謝っていそうな場面である。
しかし年下とは思えない気迫を間近に浴び、それでもコランダムは自身も笑みを深めて黙ったまま少年の動きを見ていた。
部屋の外ではまだ、キュリアス家の嫡子の誕生を祝う華やかな雰囲気に満ち溢れているというのに、扉一つ挟んだ私室では緊迫した空気が充満している。
身動き一つで、この部屋に張られた糸のような緊張を切ってしまいそうで紅目の少年と黄褐色の目を持つ少年は身動ぐことが出来ないでいた。
ただ黒目の子どもだけが、コランダムを見、掴まれて痣になった自身の腕を見下ろし、同じ年の少年が反対側の手に持つ契約書と外れた足枷をそれぞれ忙しなく見えないぐらいの速度で首を巡らせながら見ていた。
張り詰めた空気の中、どれだけの時間が経過しただろうか。
実際にそれは、大した時間ではなかったはずだ。
どちらも目を逸らすことなく見詰め合い、そして…フッと緊迫感が急に途切れた。
先に緊張を解いたのは、年下の少年である。
彼は霧散した緊迫感など、最初からなかったかのように無邪気に見える笑顔を浮かべてみせた。
「そっか~ごめん、ごめん!」
ニコニコしながら黒目の子どもの腕から手を離し、軽く謝っている姿はとても先程までの少年と同一人物とは思えない。
どうやら、これで事態は収拾したらしいと感じた紅目の少年は、重圧から詰めていた息をゆっくりと吐いて安堵する。
和やかな雰囲気になった親友たちに、先程までの居心地の悪さに軽く文句をいうつもりで口を開いた少年は、結局は何もいうことが出来なかった。
「そうだよね~自分のモノなのに、他人に痣なんて付けられちゃイヤだもんね!新品なのに!」
「何いっちゃってるのおぉぉぉぉっ!?」
思わず反射的に、コランダムは叫んだ。
ムンクの叫びを彷彿させる、幼いのに色気のある整った顔立ちが台無しな酷い表情だった。
コランダムにとって、思わぬ攻撃だったのだろう、残念ながら年下の少年とは別の意味で先程とは別人である。
「何その新品のオモチャを汚されて怒ってる子どもみたいなのっ!?そんなことないからっ!!」
「え~?だってキミの│モノ《・・》なんだよ~だったら同じでしょ~」
“モノ”を強調するのはわざとか。
確かにコランダムは、黒目の子どもの所有権を主張した。
しかし、それに理由があることを年下の少年はわかるはずだ。
(いや、わかってての反応だよね)
完全に面白がる少年の様子に、コランダムは脱力したくなった。
しかし今は姿勢を正し、何とか耐えてみせる。
何故、コランダムがそうしたのか理由は簡単だ。
バキバキバキッ
凄まじい音を立てて、子どもが入っていた大きい箱が潰されたからだ。
「コハク」
「ヤマトだっ!!」
「…ヤマト、勝手にヒトのもの壊さないでよ」
引き金は、『ヒトのもの』だったようだ。
黄褐色の目が、銀色に代わり少年の口が耳まで裂ける。
「お前が、お前がいうのかっ!そんなことをっ!!」
裂けた口から覗く鋭い牙を噛み締め、喉の奥から唸り声を出す。
短く切り揃えられた髪はザワザワと伸び、顔を覆いはじめている。
「聞こえないの?ボクは壊さないでっていってるの」
「お前は、否定するのか。そいつの存在を」
(こりゃ、聞いてないなぁ。完全に、頭に血が上ってる)
苦笑交じりにコランダムは思うが、黄褐色の目をしていた少年の今の状態を見れば一目瞭然だ。
満月でもないのに、彼は既に変身衝動を抑えられていない。
髪色と同じ体毛に覆われはじめているだろう、いつもよりも小綺麗な服が内側から膨らんでいて、尻尾が生えているだろう臀部も窮屈そうである。
何より肉食獣特有の鋭い目が、ギラギラとした銀色に完全に代わっていた。
まだ変身は終わっていないが、こうなってしまえば今の彼には冷静な判断は難しい。
つまり、コランダムにとって好都合である。
「あのねぇ。別にボクは、その子の存在を否定してるわけじゃないよ?」
尊大な態度で、ゆっくりとコランダムは腕を組んだ。
「だけど、立場は立場。奴隷じゃないにしろ、もらったからにはその子はボクのモノ。どんな扱いをするにしたって、それはボクの勝手だ」
膨らんだ体毛が少年を大きく見せるのに対抗するかのように、コランダムは胸を反らして顎を上げる。
ツンと上げた顎で、腕を解放されたにも関わらず年下の少年の横に黙って立つ黒目の子どもを指してみせた。
「キミがその子と、誰を重ねているかは知らない。だけど、それはキミの勝手だ。ボクがキミに従う必要性はまったく感じられない」
銀色に輝く目が一瞬だけ見開かれ、衝撃を受けた様に硬直する一回り大きくなった身体に気付かないフリをして、コランダムは目を閉じて、静かに開いた。
「つまり、キミの感傷に付き合うつもりは、ボクには少しもないんだ」
この上なくはっきりと、コランダムは宣言する。
いっそ心なく、冷たく聞こえる言葉であった。
気位が高く、居高で如何にも貴族の物言いである。
(高飛車高飛車女王様…じゃなくて、悪役令嬢!)
しかしまさか、ライトノベルの知識を総員しつつ、頭の中ではこんな呪文を唱えていたなんて勿論、黄褐色の目を持つ少年は知らない。
尤も、知らなくても何ら問題がないことだ。
ついでに一つ、高笑いでもしようかと思い、しかし自分が後の攻略キャラだと思い返して仁王立ちの体勢で胸を反らすという、意味のわからないことをし出すコランダムを少年は睨み付ける。
意味はわからないが、怒りは煽られたようだ。
ギリギリと歯を食いしばった少年は、ほとんど獣の…狼の姿になっている。
上半身だけ狼の姿をした彼は、怒りに任せて鋭い爪を手の平に食い込ませるくらいの強さで握り締めて拳を作り、それを振り上げた。
振り上げた速度より余程速く、拳は唸りを上げ振り下ろされた。
風を切って近付く拳と、風によって巻き上がるピンクプラチナの髪。
コランダムは動揺を一切見せることなく、一連の動作を目も逸らさずに見詰めていた。
「……いい」
まさに目前、拳が止まった。
その拍子に、顔の中心に風を受けて前髪が綺麗に二つに分かれる。
「もういい。お前なんて殴っても、何もならない。馬鹿馬鹿しい」
拳を下ろした狼の姿になった少年は、尖った声で呟いた。
まだ怒りに震える姿を翻し、さっさとコランダムから離れた彼は扉の方へと向かう。
「先生たちに相談しないで連れてっても、ダメだと思うよ?」
「お前にいわれなくても、そんなことぐらいわかるっ!!」
コランダムは、気を利かせて声を掛けたつもりだったが、少年は歯を剥き出しにして怒鳴った。
一瞬だけ、黒目の子どもに視線を向けたことに気付いたから声を掛けたのだが、どうやら気に食わなかったようだ。
コランダムに背を向けて距離をある程度取った彼は、深呼吸を繰り返して昂ぶった神経を静めていた。
逆立っていた体毛も落ち着きと共に縮まり、いつの間にか変化していた毛に覆われた三角耳も元に戻り、尻尾が引っ込んだ辺りで少年は肩越しに振り返って暇を短く告げた。
「帰る」
銀色から黄褐色に戻った目は、コランダムに合わせる気はないらしい。
短い言葉を告げると、後は用はないといわんばかりの態度で部屋を出て行く。
視線で少年の背中を追っていたコランダムだったが、扉が閉じるまで一度も彼は振り返ることはなかった。
「貴様は本当に……、色々と足りないな」
「えっ、本人を目の前にして辛辣過ぎないかなっ!?何かに包んでからいってよ!」
二人のやり取りを黙って見ていたかと思いきや、この態度である。
オブラードよりも、何か厚いもので包んでもらいたい気分のコランダム。
しかし呆れた様子を隠さない紅目の少年は、相手の文句など聞いていなかった。
「言葉を惜しまず、いえばいいだろ。…ここで貴様が所有という形で囲っていなければ、奇妙で奇怪で貴重な存在を奪われ兼ねない、と」
文句を連ねようとしていたコランダムは、その言葉に詰まる。
黒目の子どもの所有…ではなく、処遇に対する話であった。
黄褐色の目を持つ少年が、コランダムに口を出されなかったらしたであろう、保護という手もある。
安全な帰る場所があればその方がいいのだが、黒目の子どもには親類もいなければ帰る当てもない。
しかし、それを知りうるのは現段階でコクヨウルートをプレイしたことのあるコランダムだけで、現実的な証拠はない。
つまり“保護”では、血縁者を名乗られれば奪われ兼ねないのだ。
しかし、名のある貴族の“所有物”であるのなら、強奪は少なくても簡単には出来なくなる。
勿論、貴族が禁止されている奴隷を所有していると内情はどうであれ、密告して自身は親戚であると偽装してしまえばいいだろうが、血縁関係だと正確に認められない限りは国の預かりとなり、奪うことは難しくなるだろう。
ツギハギだらけの子どもは、多種多様の姿を持つモンスターの目から見ても異形である。
あのように、様々な種族の特徴を身体に宿し、生きているモノは珍しいのだ。
悪魔のように、本性が複数の生物が混ざったモノもいるにはいるが、彼らは先天的にそういう存在である。
後天的に混ぜ合わせられたモノは、それぞれが馴染まずに繋ぎ目から崩壊し兼ねないのだ。
詰まるところ、黒目の子どもはその手のコレクターや研究者にとって堪らない、レアな存在であった。
きっと、根がお人好しな黄褐色の目をした少年がそのことを知れば、自分に関係ないことでも持ち前の正義感を発揮して首を突っ込み、挙げ句の果てに事態を大きくしそうである。
しかし、モンスターが存在することを世間に知られるのは拙い。
だからそこで先手を打って、コランダムは悪役令嬢モドキとなって煽るだけ煽ったのだ。
「わかってたんなら、助けてくれてもいいじゃん」
歯の一、二本ぐらいは覚悟していたが、だからといって痛みを感じたいわけではないコランダムは口を尖らせる。
「馬鹿者。あの人が出て来たらどうする」
口を尖らせるコランダムに、親友は更に呆れた声で返した。
だが、彼のいい分は杞憂だろうことをコランダムは知っていた。
「いくら子煩悩でも、先生は子どもの喧嘩に口を挟まないよ」
黄褐色の目をした少年の親を思い浮かべて、コランダムは心配性な親友に笑い掛ける。
「だって、自分の愛息子を信じてるからね!」
「…だったら、貴様はせいぜい失望されないようにしろ」
(ありゃ?別に先生が、息子の友人を信用してるとはいってないんだけど)
コランダムは黄褐色の目をした少年自身が、父親にこんな喧嘩如きに潰されたりヘコんだりしないと信用されているといったつもりだった。
しかしどうも、他の方面でも信用されていると紅目の少年は思っているようだ。
「へ~、キミって先生のことよくわかってるんだ?」
(普段は恐がってるくせにね~)
含むものを感じたのか、紅目の少年はコランダムを睨み付ける。
「…兎に角だ!精神面や体調面の不調がないか、あの人に診てもらえ。何かあれば、オレも手を貸してやる」
「お~!頼もしいね~!」
「キャーッステキ抱イテ-!!」
「茶化すな、馬鹿者共。しかも、棒読みだな。ところで、…あの行動に何らかの意味があるのか?」
「棒読みじゃなければ、それはそれで怒るくせに。って…何でっ!?」
突っ込みに突っ込みで返したコランダムは、親友の紅目の先を見て驚愕する。
「いやいやいや!何でまた、足枷を元通り着けようとしてるのっ!?もう外していいんだよ!」
腕を離されて、先程の騒ぎの中棒立ちになっていた黒目の子どもは、何をどうしたのか外れた足枷をまた足首に着けようとしていた。
既に、書類の形に契約の証が変わったのだから足枷は不要であり、もう装着することも出来ないはずなのに、無表情な彼は表情がないなりに一生懸命になっていた。
「えっ、何、これって拒否?ボク、拒否られてるっ!?ご主人様失格!?」
何もしていないのに、いきなり拒否されたコランダムは『ヒイィィィ!』と悲鳴を上げた。
情けないことこの上ないが、コランダムはショックが大きくてそれどころではない。
他の攻略キャラや、キュリアス家の執事をはじめとするイケメン相手であれば、平気で『滅べ』ぐらいいうコランダム。
しかし黒目の子ども…いや、“コクヨウ・フランケンシュタイン”は別である。
攻略対象の中でもコランダムにとって、別格であり特別であった。
(キミのこと幸せにしたいのにぃぃぃ~)
求婚じみた発言であるが、コランダムは至って真面目だ。
大真面目に“コクヨウ・フランケンシュタイン”が好きだ。
偶然コクヨウルートのノベライズ(全年齢向け)を読んで涙し、勢いのまま友人から借りてゲームをプレイして涙したくらい好きだ。
(あの子とヒロインちゃんと幸せになれるんなら、本編よりも更に凄い悪役だってやれるのに!)
…つまり何がいいたいかというと、この上なく“コクヨウ・フランケンシュタイン”が好きだというわけだ。
だが、ゲームを画面向こう側でプレイしていたのと、現実として相手と接して尚且つ拒否されればさすがのコランダムも取り乱してしまう。
何かもう、“コランダム・キュリアス”としては今更ながら大変なことになってしまっていた。
無論、悪い意味で。
「ん~?何なに~?」
残念なイケメンを、とても楽しそうに眺めてい年下の少年。
気付かないくらい遠慮がち袖を引かれた少年は、先程の態度から一転して親しげな様子で黒目の子どもに顔を寄せる。
年下の少年もまた、後の攻略対象だけあって顔立ちはよく、ショタキャラとして登場するだけあって二人が顔を寄せ合う姿は大変可愛らしい。
しかし、片方は見た目が可愛らしくとも悪魔であるから色々な意味で注意が必要である。
「うんうん…あ~、なるほどね!大丈夫だよ~」
(あんなに仲良さそうだとか!狡い、さっきはあんなに乱暴に腕掴んでたのにぃぃぃ~)
ハンカチでもあればギリギリと噛み締めてしまったかもしれない程に、コランダムは悔しがった。
年下の少年はあれか、年が同じだから抵抗なく受け入れてもらえるのだろうか、悪魔なのに。
ギリギリする自分の横で、親友がドン引きしていることに気付かないコランダム。
しかし悪魔の少年は、そんな悪友の姿如きに恐れを抱くことなく、あっさりと黒目の子どもに聞いたままの言葉を発した。
「オッ君がね、自分のせいでヤッ君とコー君が喧嘩してるから足枷を着け直して戻ろうとしてたんだって~」
コランダムは、その言葉にキョトンとした。
否、言葉は理解することが出来ている。
だが、コランダムが呆然としているのは黒目の子どもが“戻る”といったことだ。
「…えっ?その子が戻れるところって…しかも、足枷着ける場所なんて」
(オークション会場?)
場所は限られているどころか、コランダムが思い浮かべるのは一つしかなかった。
「うん。だってそうすれば、ヤッ君とコー君が喧嘩する理由がなくなるし、自分の処遇で悩む必要がなくなるってオッ君がいってたんだ~」
「つまり根本的な原因がなくなれば、喧嘩する理由がなくなって二人が仲直りするし、ついでに奴隷だなんだっていわれることもないってその子はいってるのっ!?」
年下の少年の語尾に、コランダムは被せる勢いでいった。
いっていることは、言葉は違えど少年と同じことなため、彼は苦笑しながら肯定する。
「そうそう~ボクとしては、コー君の誕生日プレゼントのつもりだったんだけどね~コー君の好きにして~?」
本当に、彼にとってはどちらでもいいのだろう。
黒目の子どもがコランダムのところに残ろうと、オークション会場に戻ろうと、面白ければそれでいいのだ。
考え方がとことん、悪魔らしい少年である。
無邪気そのものの笑顔なのに、中身は愉快犯な少年を見ていたコランダムは一瞬で冷静になった。
悪魔な悪友のおかげかどうかわからないが、コランダムはやっと我に返ったようだ。
気を取り直すため咳払いを一つしたコランダムは、伏せた顔を上げるタイミングで閉じた目を開いてしっかりとこちらの出方を見ている感情の見えない黒い目を見詰め返した。
「ボクがさっきいったことが、理解出来てないみたいだね」
唇の片方だけつり上げた、歪んだ笑みを浮かべてコランダムは続ける。
「キミは、ボクの所有物だ。例えキミ自身であろうと、それを否定することは許さない」
ゆっくり、幼い子どもにいい含めるようにコランダムは続けた。
「所有物は、自分自身のことなんて考えなくていい。ボクのいった通り、ボクの望むようにしていればいいんだ。わかった?」
傲慢な口調は問い掛けの形で最後は締められていたが、黒目の子どもに『いいえ』とはいわせない雰囲気をまとっていた。
まあ尤もな話、子どもには主人の言葉を否定する気など、更々ないようだが。
実際、黒目の子どもの返答は『是』であった。
「はい、マイマスター。オレはマスターの所有物です」
「よし」
ほぼ考える時間などない位、直ぐに答えた子どもにコランダムは満足げに笑った。
「懺悔があるなら聞こう」
「だってさ~ああいうのって、スパイスってヤツでしょ~乙女ゲームにおける、“お約束”っていうの?」
二人になって、先程の黒目の子どもに対する悪友の態度について厳かに聞いてみたときの彼の反応はこうだった。
コクヨウ・フランケンシュタインにおいてのキモとなるのは異形の姿と迫害された過去である。
そんな自分を受け入れ、愛してくれるヒロインを好きになるー…というのが彼であった。
陰のないイケメンなど、乙女ゲームの攻略キャラに│非ず。
前世で誰がそんなこといったのかは覚えていないが、コランダムは納得した。
自分だって、ゲーム本編のコクヨウが纏う陰が気に掛かって仕方なく、是非ともヒロインに癒やされ、共に幸せになってほしいと思ったものである。
(コクヨウ君の立場になれば悲惨でしかないけど、“お約束”ってのは大事だよね)
それに、そうでなければ普段から尊大な口調をしている、紅目の少年のイケてる顔面を毎回会うたびに殴っているだろう。
あの血統(王族)も見た目もいい親友でも、悩みもあれば陰もあるのだ。
…まあ、コランダムはそんなこと知らず、初回に殴り掛かってはいたが。
「ねーねー、これからあの“コクヨウ”君はどうするつもり~?」
実はコランダムに前世の記憶があることと、この世界が乙女ゲームに酷似しているということを、この年下の悪友は知っていた。
好きで話したわけではなく、悪魔の持つ特殊な術で記憶を漁られた結果であり、しかも完全な味方…というわけでもなさそうだ。
何せ今回の件も、独断・独走の結果である。
「だってあの子、キミが前世で好きだった子でしょ~?」
持った感覚的には、魔力が籠もっているとは思えない上質な紙に見える契約書をピシッと突き付けてコランダムは訂正した。
「“好きなキャラだった”だよ。あの子はボクのモノでしょ?だから、本人に何かしないでね」
なので一応、釘は刺してみるが、どれ程の効果があるのかはわからない。
相手は悪魔であるし、今だってニマニマ笑うだけで返事をする素振りも見せないでいる。
そう、彼は楽しければ何だっていいのだ。
ゲームのストーリー通りでも、そうでなくても問題はないらしい。
今回はストーリー通りにオークションに“出品”された“コクヨウ・フランケンシュタイン”を、ストーリー上では関わりのないはずの彼が競り落としたのだ。
しかもそれを、誕生日プレゼントとしてコランダムに贈っている。
(学園滅亡ルートからのモンスター対人間・ハンター全面対決!…なんてのがあったけど。滅亡フラグはもうほぼ折れてるから、ストーリーに沿わなくても大丈夫…だよね?)
本人は気付いていないが、ゲームに沿ってないというならば、コランダム自身が既に設定とは別人である。
それと滅亡フラグが折れたこととは、一先ずは置いておいて。
(よくラノベで悪役令嬢に転生した主人公がルートから外れ過ぎないように、破滅フラグをへし折るってのがあるよね。どう後のルートに関わるかわからないから、あまり外れられなくって苦心するってやつ)
読者だったときは、結局フラグを折るのであればだいぶルートから外れるから心配する意味がないと思っていたコランダム。
しかし今、悪役令嬢や主人公ではないにしろ、同じ状況に陥り、同様の葛藤を抱くことになった。
(ボクのとこに来たことで、ゲーム本編にどれだけの影響が出るかはわからない。だけど、それ以外はある程度は同じになるように整えておいた方がいいかな)
執事に用意させた部屋へと先に移動した黒目の子どもと、ゲームの黒目の少年の無表情を思い浮かべた。
彼の過去については、回想として出て来るだけの情報しか知らないが、コクヨウルートで“コランダム・キュリアス”の傲慢な態度や最低なやり口は知っている。
正直、ゲームの“コランダム・キュリアス”の愚かしい行いは、殴り倒してやりたいものだったし、出来ることなら好きだったキャラクターを自分の手でいたぶるなど気が重いことはしたくはない。
しかし、それが後々の彼の幸せに必要であるのならそれは仕方ないことだと割り切る。
(ヒロインちゃんは気になるよ?だけど、別に“コランダム・キュリアス”をヒロインちゃんに幸せにして欲しいわけじゃない)
大体、コランダムはヒロインの手が必要な程の悩みやトラウマを抱え込んでいないのだ。
友人たちと馬鹿騒ぎをしている今だって十分、幸せにである。
…だから、その場所は本当に必要なヒトに譲るべきなのだ。
「攻略キャラ辞める」
決意を滲ませた声で、コランダムは小さな拳を握り締める。
脳裏には、本編でハッピーエンドを迎えたときに見れた照れ臭そうに、しかし幸せそうに微笑み合う、初々しい恋人たち。
(まかせて!しっかりその大役、勤め上げるから!)
キリッとした、強い光を宿した目で、コランダムは握った拳を天…ではなく見慣れた天井へと突き上げる。
「ボク、悪役になります!!」
コランダムの所謂“悪役宣言”が、高らかに響いたのであった。
吸血鬼族と人間のハーフで黒み掛かった紅目の少年・スピネル…生徒会会長。
半端な変身能力しか持たない人狼族で黄褐色の目をした少年・ヤマト・コハク…生徒会書記。
悪魔族で年下の青み掛かった明るい碧色の目の少年・アパタイト・ファウスト…生徒会会計。
ツキハギの“怪物”で黒髪黒目の子ども・オブシディアン(デフォルト名コクヨウ)・フランケンシュタイン…生徒会補佐。
(ついでに淫魔族のコランダム・キュリアス。生徒会副会長)
先程、脳裏に過ぎったオープニングムービーに登場したメンバーの内の五人が揃ったということを、コランダムは不意に気が付いた。
(あれっ?でもこの五人、この時期に出逢ってるっけ?)
…随分、今更な疑問であった。
↓以下、ヤマナシ、オチナシなバカ話↓
【台無しです、スピネル君】
年下悪魔「頼もしいね~」
コランダム「キャー!ステキー、抱イテ-!!」
紅目「(イラッ)…あぁ、いいぞ。希望通り、抱いてやる(頬をイヤらしく撫で下ろす)」
コランダム「(ゾワッ)ヒッ!?」
紅目「お前は色々たりな…いや待て!オレも言葉が色々足りなかった!“抱く”というのはハグだ!友愛を示すものだっ!!だから外した足枷振り回すな、取り敢えず置けーっ!!」
【台無しです、コランダム君】
好きだったキャラを傷付けたくないコランダム。しかし、彼の幸せのために鬼(※悪役)になる決意をする。
コランダム「ボク、悪役になります!」
年下悪魔「(ナレーション風に)コランダムはまだ知らない。そんな決意とは裏腹に、何にも意図せずに、無垢で繊細な心をズタボロにすることを。次回、『イケメン(幼児)と先生二人』。お楽しみにね☆」