イケメン(幼児)と前途多難
人権?ナニソレ美味しいの?的な展開が続きます。注意。
悪魔というものは、天使のような顔をして法外な契約料を請求するものである。
(悪徳業者のやり口かっ!しかも気を付けるよう、教訓的な意味でよく引き合いに出されるし)
つまり、それだけ危険な存在だということである。
(でも、だからって…)
「いいか。親切に手を貸しているように見えるが、後でどのような形で仲介料を請求されるかわからない」
「親切っていうか、押し売りというか。拒否する間がなかったんだよ」
「隙を見せるからだ、馬鹿者。奴らは何が楽しいのか、他人の人生に介入して来ては本人や周囲を弄び狂わし、壊す」
「わー、こわい怖い」
「怖いで済むか。大体、なんだその態度は。悪魔のがめつさを、甘くみるな。貴様は昔から粗忽者で、勘違いをしては暴走していたな。ミアのことに至っ」
「もう勘弁して、オカン!」
このまま続けられると、今より小さな頃にやらかした“あれこれ”を持ち出されると察したコランダムは遂に降参を宣言した。
“オカン”と“オトン”とどちらにしようかと悩み、結局は前者にしたのは紅目の少年には内緒だ。
過去のことを持ち出し、長々と小言をいい続ける姿からコランダムの独断と偏見からの判断である。
両手を挙げて、気分としては全面降伏だ。
コランダムは兎に角、悪魔とは今後契約はしないでおこうと思った。
…もう、遅い気がするが。
チラッと小柄な少年を見詰めれば、自身の一族に対してかなり辛辣なことをいわれていたにも関わらず、ケロッとしている。
ちなみに、目は明るい碧色に戻っていた。
「うん?大丈夫だよ、スー君!」
「何が大丈夫だ。しかも、他人事のような態度だな。仲介とはいえ、関わった以上は当事者も同然だ」
確かに悪魔の『大丈夫』が恐ろしく感じるのは、どんな種族でも共通だろう。
しかし、そんな存在にもオカンは負けない。
最後にはしっかりと、叱り付ける。
「病気の有無からはじまり、健康状態、年や身長体重一日の食事の量や必要な運動量など、契約するのに話すべきことがあるだろうが!」
「いや、犬猫を買うときの注意だろ、それ」
やっと会話に入って来たと思ったら、黄褐色の目をした少年は呆れた声で突っ込む。
(そういえば、コクヨウ君のルート名に『黒い忠犬』ってのもあったな)
コランダムは突っ込みを聞きながら、ぼんやりと乙女ゲームとしてはある意味バットエンドなルートを思い出した。
しかし、それをおくびにも出さないで冷静に軌道修正を図る。
「そもそも、話が逸れてるよ」
コランダムに突っ込まれ、紅目の少年は目を剥いた。
年下の少年がいうには契約は元々、オークションで“商品”を買ったときに付いてくるオプションだそうだ。
購入者は年下の少年なのだが、彼は自分が“商品”の所有者になるつもりはなかったため、オークション会場での契約は断っていた。
しかし、オーナー側としては何かあった場合を恐れ、会場から連れ出すための仮契約だけを行い、本契約のために簡易的に行える契約の呪を刻んだ足枷を黒目の子どもに取り付けたようだ。
「そういうわけだから、仲介っていうよりただ介しただけって感じ~?まあ、足枷じゃ動きが制限されるし、体面が悪いからボクがしたのはオマケで契約を文書化したくらいだよ~だから別に、後で法外な契約料をなんて取らないから、安心してね?」
オカンに対して、キチンと説明をする年下の少年。
紅目のオカンは悪魔が嘘を吐かない代わりに、事実を歪曲して伝えたり、真実を隠していたりすることをコランダムより理解しているため、正直なところ不安であった。
しかしながら親友の手前、そう口うるさくすることなく納得して見せる。
別に、コランダムに突っ込まれたのがショックで口を挟むタイミングを逃したわけではない…たぶん。
「幸いにも、彼は本契約なしでも従順だったから、ボクの家でも簡単な躾は出来たし」
『躾』の部分に反応して怒りのオーラを放ちはじめる黄褐色の目を持つ少年を視界の端から外しつつ、コランダムは悪友の言葉に納得した体で頷いてみせた。
本人は真面目なつもりだが、内心はあまり理解していないことを短くない付き合いで紅目の少年はわかっている。
キリリッとした表情といい悪くない顔立ちなのに、内面を知れば一気に残念な仕様になった。
…幼馴染みという括りに入る彼らにとって、今更なことである。
コランダムは、説明を聞いて暫く考え込む。
黒髪黒目の、様々な種族の皮膚や体毛や羽根や鱗やを繋ぎ合わせたツギハギだらけの異形の子ども。
表情も口数もなく、従順でされるがままの生きた人形。
肉体を生命をも弄ばれて造り上げられた、他に類を見ない奇怪な生物。
ある種の芸術作品であり、何かの研究結果。
はたまた、神を冒涜する怪物でしかなく、存在を否定され退治される対象。
…もしくは、名前すら付けられなかった怪物に、心を寄せて慈しむ優しい性根の持ち主に出逢い、ただのヒトとなるか。
道徳心や倫理観など、前世の世界のものはかなり薄れているコランダムだが、自分や自分にとって大切なヒト・気に入ったヒトが絡めば話は別だ。
(他人はどうなろうと構わないなんて。我ながら、鬼畜で外道だとは思うけど…さ)
コランダムは自身の考えに自嘲しつつ一度目を閉じ、そしてゆっくりと瞼を開く。
「つまりアット、その子は結局誰のモノ?」
↓以下、ヤマナシ、オチナシなバカ話↓
【台無しです、コランダム君】
コランダム「“目を剥いた”とか“ショックだったわけではない…たぶん”とか、だいぶ台無しだと思うよ!ねぇ、どうなの王子様!」
紅目「そうだな…あれはオレが休養地にいた頃の話だ。曇り空を幸いに外に出ていたオレは、どこからか侵入してきたバカっぽい子どもと遭遇してな。そいつは自分のオンナをオレが奪ったと、わけのわからないことをいい出して殴り掛かってきた。無論、オレも応戦したさ。それで、騒ぎになり使用人たちが集まってきた中に、ピンクプラチナ頭の侵入者曰く『ボクのオンナ』がいたわけだが、どうも様子がおかしい。唖然として抵抗しなくなった侵入者を問い質せば、どうやらそいつの探していた相手の双子の妹だったらしい。…で、どうだ。どんな気分だ、勘違い暴走野郎」
コランダム「最悪だよ、この鬼畜野郎!!」