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ボク、攻略キャラ改め悪役です!  作者: くろくろ
攻略キャラに転生したようだ。
5/20

オープニング

「今日から私、ここに通うのね」


鈴が鳴るかのような、可憐な声が呟く。

視線を模した画面が学園の入口から上へと移動し、徐々に後退して全体を映し出す。

上質でいて品の良い建物に、光のエフェクトが散って見えた。


「…そういえば、さっきの人」


可愛らしい声と共に“視線”がボヤケ、場面が切り変わる。


続いて蔦に覆われた、洋館…にしか見えない建物が“視線”に映された。

くすんだ色合いの建物に、周囲の木々が光を遮っていて昼間とは思えない程に暗い。


画面の端か薄らとボヤケたままで、それで回想を表現しているようだ。

これは学園の入口に辿り着く前、迷い込んだ先で見付けた建物であった。


「寮があるって話だけど、何でこんな森の中に…痛っ!」


手を伸ばした先には、鋭い棘の生えた蔦。

痛みのあった手を広げてみれば、指先に血の粒がぷくりと浮かんでいた。

どうやら、棘で指を傷付けてしまったようだ。


「やだ、血が……」

「そこで何をしている」


急に声が掛けられ、驚いたのかビクッと“視線”が上下に揺れた。

慌てる気持ちを代弁するように、素早く横に“視線”がスクロールする。


「あっ……」


出そうとした声が、途切れる。

それは仕方ないことだ。

何故ならそこに、この世のモノとは思えない程、美しい人がいたのだから。


「聞こえなかったのか?」


ゆったりと歩いて来た美しい人は、ゆるく結われた金の髪を揺らして近付いてくる。

魅力的な低い声は怒声でもないのに身体を動かず意志を奪い、足を地に縫い付けてしまっていた。


威風堂々と歩む姿と豪奢な金の髪は、まるで王者である獅子を想わせる相応しい姿である。

…すると、身動きが取れないこちらは、絶対的強者の前で震えるウサギだろうか。


「説明を聞いていなかったのか?ここは一般生徒は立ち入り禁止だ」


咎めるような口調と、あからさまに寄せられる眉間の皺に、ハッと我に返って慌てて弁解をする。


「ごめんなさいっ!道に迷ってしまったんです!」


「誰と口を利いていると思っているのだ。『申し訳ございません』だろう」


「…申し訳、ございません」


「フンッ」


いい直したにも関わらず、鼻で笑う青年…いやまだ少年だろうーー…彼は開いたままの手の平に視線を向け、黒み掛かった紅い目を向ける。


「先程から香る、忌々しい匂いは貴様か」


足早に近付かれ、思わず引き掛けた手を強い力で掴まれた。


「痛っ!かっ、香り?意味がわから」

「黙れ」


剣呑な雰囲気に呑まれ、痛みに上がりそうになる悲鳴すら必死に呑み込んだ。


…だが、呑み込めたのはそこまでだった。

彼が次に移した行動により、衝撃の余りに声を呑み込み損ねてしまう。


少年が軽く屈んだと思ったら、指に唇を寄せて口付けたのだ。


「ひゃぁっ」


少年が優雅で洗練された仕草で、あまりにも当たり前に行った口付けは、情けない悲鳴を上げてしまったようにこちらはまったく慣れてはいない。

貴族の令嬢とはいえども、爵位の低い田舎者などに丁寧な扱いをしてくれる相手など今までおらず、どうしていいのかわからないまま手を預けて呆然として立ち尽くす。


…しかし、おかしい。

口付けは普通、手の甲に唇を寄せて触れるフリをするだけだ。

しかし彼は、手の平を向けた状態で指先に口付けをしているのだ。

それに温かく、柔らかな感触。

彼はフリではなく、本当に唇で触れているようだ。


最初は軽く触れるだけ、次には微かなリップ音と共に血を吸われ、最後にはねっとりと舌で舐め上げられる。


“視線”だった画面が切り替わり、ゆっくりと少年と彼より幾分か幼い印象の少女の二人に移り変わった。

瞼を伏せ、俯き気味の顔に長い金の髪が掛かり、薄い唇が僅かに開いてそこから少し覗く赤い舌が指先を這う様が卑猥に映る。


「~~~ッ!?」


声にもならないか細い悲鳴が、頬を真っ赤に染めた少女の愛らしい唇から漏れ聞こえた。

と、同時に掴まれていた手を勢い良く引き抜いて、慌てて数歩、後退る。

テラテラと濡れて指先をもう片方の手で押さえ、胸に抱き締めて少女の息は数歩しか距離を開けていないというのにとても荒くなっていた。

目元は平凡な栗色をした前髪で隠れてしまっているが、もしかしたら突然のことに涙目になっているのかもしれない。


画面はまた、少女の“視線”へと切り替わり、身を起こす少年を映し出す。

少年は突然の暴挙ともいえる行動に対し、弁解をすることはなかった。

ただ、無言のまま紅い目をこちらに向けるだけだ。


…だが、その目から理性が薄れ、紅いはずの色が髪よりも濃い金に変わるのを目の当たりにした瞬間、動揺に“視線”が揺れて次には身を翻して駆け出していた。

草をかき分け、デコボコとした地面を駆け、出来るだけ距離を稼ごうと必死に足を動かす。


そんな彼女の脳裏に、フラッシュバックする光景。

襲い掛かる、見たことのない獣に似た何かが、セピア色で再生される。

全体にはセピア色なのに、その何かの知性の感じられない目は濃い金をしていた。

…先程の少年と同じ、金色に。


「きゃっ!?」


画面が大きく揺れ、セピア色の光景が霧散する。

森のような場所に戻った“視界”は、倒れ掛かるように急に下がり、慌てて体勢を立て直すように元へと戻った。

振り返って下を向いた先に地面から飛び出た木の根があり、どうやらあれに躓き、たたらを踏んようだ。


「はあはあ」


荒い息遣いのまま、顔を上げて先程までいた洋館へと視線を走らせる。

辛うじて肉眼で確認出来る位置に、まだ少年は立っていた。


その目は、あの金色は見間違えだったかの如く、最初と同じ黒み掛かった紅をしていた。




「…もう、会うことはないわね。忘れよう」


呟くと“視線”の端からボヤケた部分がなくなり、木々の代わりに再び学園の前へと移り変わる。

回想を終えた少女は、頷いて軽やかな声で笑った。


「きっと、楽しい毎日になるよね!」




“視線”が転じ、上の方から少女を見下ろしている場面となった。

真新しい制服を着た少女は遠目でもわかるくらいに、口元に笑みを浮かべている。

今日から新しくはじまる毎日を空想し、微笑んでいる彼女には聞こえない呟きが落ちた。


「あれが、聖女…か」


壁に凭れながら、眼下を見詰めるのは少年だった。

垂れ目と泣きボクロが色っぽい彼は、空のティーカップから手を離す。


カップは床に落ち、呆気なく砕けて破片を散らす。

いっそ妖艶といえる、艶めいた笑みを浮かべ、少年は破片を更に踏み砕いた。




「ねえ、知ってる~?」


何かを含んだような、そんな問い掛けに、問われた方は感情の揺れが感じられない顔で首を横に振る。

面白みに欠ける反応に対し、問い掛けた方の幼い顔立ちの少年は異様に輝く大きな目を細めた。


「今日から、この学園に通うんだってさ~よく、人間側から通うことを許されたよね~?」


紅茶のシミが付いたシャツを捲り、赤くなったことがわかりづらいツギハギだらけの肌を冷やしていた黒髪の少年の反応はない。


「フフッ、その醜い顔にも怯えないでくれるといいね~ぇ?」


感情の宿さない黒い目を、ニヤニヤと笑う少年に一瞬だけ向けて、ツギハギだらけの腕へと視線を戻す。

やはりそのときも、反応らしい反応はなかった。




「……これで、生徒会からの書類は以上です」


「わかった。…あぁ、ところで今日から転入生が来るが、知ってるだろ?」


ネクタイを指で弛めた若い教師が、ニヤリと笑う。


「彼女は│特殊・・な事情があるから、世話は生徒会メンバーが」

「我々、生徒会は関わるな、と。先日の、風紀委員会との話し合いで決定したはずです」


野性的な雰囲気を持つ少年は、ついでに鋭い黄褐色の目でネクタイを指し、『締め直して下さい』と付け加える。


「そうはいっても、あのとき生徒会メンバーはお前しかいなかっただろ?だったらまた掛け合って…」

「決定は、決定です。小さなことでも、わざわざ風紀委員会に攻撃の正当性を与える必要はないと思います」


「かったいな~転校生は、可愛い女の子だぞ。そう堅くならなくても、楽しく付き合ってけばいいだろ?生徒会は男ばっかで、潤いがないし」


「女など、みんな同じだ」

「ん?」


嫌悪感も露わに、少年は吐き捨てる。


「いえ。補佐には後輩が一人、既に入っていますので人員は足りています。では、失礼しました」


一礼して踵を返す少年は、教師に話すきっかけをこれ以上与えることなく素早く歩き去る。

隙のない後ろ姿を見送った教師は、先程までの軽薄とも取れる笑みを消して、無感情な渇いた目で呟いた。


「面倒くせぇな、全部」




寮の自室だろうか。

涼しげな切れ長の目をした少年が、無言で鈍く光る凶器を一つ一つ確認しながら身に着けていく。


最後にブレザーを羽織って中に吊り下げたナイフを人目から隠すようにし、風紀委員会に属することを示す腕章を巻き付けそして…ハンカチの上に大事に置かれたペンダントを手に取った。


安っぽく、粗末な作りをしたそれには小さなブラッドストーンが一粒、付いている。

少年は静かにそれを見詰め、声に出さずに誰かの名を呟いてからペンダントを首に提げた。




少女が彼らと出逢い、何を為すかはまだ、誰も知らない…ーーー




↓以下、ヤマナシ、オチナシなバカ話↓



【台無しです、コランダム君】


黙々と自室でナイフを仕込む少年。


コランダム「まさに全身凶器!そんなんで、走ったりして自分に刺さったらわらえー…痛い痛いっ!?めり込んでるっ」

少年「(ナイフの鞘をグイグイ頬にめり込ませつつ)あんたが、走らせなければ、いいんでしょう(グイグイグイ)」

コランダム「痛い痛い痛いっ!!」

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