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ボク、攻略キャラ改め悪役です!  作者: くろくろ
攻略キャラに転生したようだ。
4/20

イケメン(幼児)と誕生日会

(……そんなことも、ありました)


一言で、今までの諸々を片付けたコランダム。

若干、遠い目をしているのは仕方ないことだ。


「何を遠い目をしているんだ?オレが目の前にいるのに、無礼なヤツめ」


「あー、ハイハイ。シツレイしました」


適当に返事をするコランダムに、ムッとする黒み掛かった紅目の少年。

しかし、心配しているのであろう彼は、先程から準備していた皿を差し出す。


「いくら父君との挨拶回りとはいえ、自分の体調くらいは把握しておけ。それと、短い空き時間をせいぜい活用して、腹持ちのいいものでも口にしろ」


「はぁ」


(挨拶回りしてたの、母なんだけど)


「なんだ?」


思っても、余計なことはいわずに好意は受け取っておく。


「いえいえ~。ありがとうございます、わざわざボクのために」


「…暇だったからだ。わざわざでは、ない」


暇つぶしにしては、栄養バランスと腹持ちの両方が兼ね備えられた一皿である。


(まったく、素直じゃない王子様だ)


いっそ『やれやれ』と心中をいってやりたい気持ちがあったが、本人が聞いたら確実に温かみの乏しい青白い顔を真っ赤に染めて怒鳴り散らしそうなので賢明にもコランダムは口に出さなかった。


彼とはかつて、一人の女性を巡って争ったことがあるのだが、今では親友という間柄だ。


(今度、秘蔵の絵画でも贈ってあげよう)


親友はきっと、泣き喚いて喜ぶだろうと、美しい女性の描かれたほぼ肌色のコレクションを思い浮かべながら続いてやって来た人物に視線を投げる。


「こらん…キュリアスっ!」


「ん?」


名の“コランダム”ではなく、わざと家名にいい直したのは黄褐色の肉食獣じみた鋭い目をした少年だ。

思春期にしては早いが、どうも最近友人を名で呼ぶのが恥ずかしいらしい彼は、いつも律儀にいい直してくれる。


「勝負だっ!しょうがいぶ…じゃなくて、ババ抜きでっ!!」


「オッケー」


“障害物競走”といい掛けた瞬間の、侍女たちの悲愴感漂う表情に先日のことを思い出した二人。

屋敷内で爆走する子どもたちに、彼女たちは立場上強く止めることが出来ずに真っ青な顔でオロオロしていたのは記憶に新しい。

さいわいというべきか、値の張る壺や絵画などは無事だ。

ただし、廊下に敷かれていた毛足の長い絨毯が摩擦でズタズタに、装飾の美しい鏡は通り掛かりに粉々にされたが。


侍女たちにとっては幸運にして、ちょうど本館から様子を見に来た執事が少年たちを捕まえてくれたことによって、被害が最小限に済まされたのである。

首根っこを掴まれて持ち上げられた挙げ句、説教を喰らった…というところまで思い出した二人はブルッと大きく震えた。


『しかし…』と、手作りのカードを配る少年を見詰め、コランダムは顔を綻ばす。

以前は野良犬のように警戒心も顕わだったのが、今ではこうしてよく吠える仔犬のようだ。


(うんうん、懐いてくれたんだね!)


前世でも犬派だったコランダムは、この懐きっぷりにニヤニヤが治まらない。


「いや、懐くや友人以前に、ライバルとしか認識していないだけだろ。さしずめ、名を呼ばないのは馴れ合いを避けるためか?今更ながら」

「うるさいっ!!」


何故かババ抜きに混ざってきた紅目の少年に、どうやら図星を指されたらしい。

健康的に焼けた肌を、真っ赤に染めて怒鳴っていた。

しかし、勝負事には油断は禁物である。


「一抜けた、だな」

「あっ、ボクもだ」


「……ぐうぅぅ~っ」


数刻後、悔しげな唸り声を上げてカードの山に自分の手札を投げ出したのは、黄褐色の目をした少年だ。

彼の手札には、楽しげに笑う道化師。

先に上がった二人にとっては、『案の定』やら『やはり』という結果である。


「貴様…賭け事だけはやるな」


(わかりやすいからねぇ)


「うっさい!だいたい、賭け事なんてオレはやらないっ!!」


心の中で思っただけのコランダムに対し、実際に心配半分呆れ半分に忠告した紅目の少年に食って掛かる黄褐色の目をした少年。

彼らは相反する種族同士だから仲が悪いー…わけではない。

コランダムが出会ったときもそうだが、彼はただ単に負けず嫌いなだけだ。

それはいいのだが、誰彼構わず勝負を吹っ掛けるのは止めた方がいいと思っている。


(いま、喧嘩売ってるの自国の王子様だよ~)


教えてやらない方もどうかと思うが、突っ込む人物は未だいない。


「あ~、コー君!お誕生日おめでと~ぅ」


にこにこしながら走って来たのは、明るい青み掛かった碧色のやたらと輝く瞳を持つ少年だ。

先程の二人に比べると更に幼い彼は、そのままの勢いで年上のくせに同じくらい華奢な友人に抱き着いた。


「ありがとう。でも、二度目だけど?」


「お祝い事は、何回いってもいいと思うよ~」

「そういうもんか?」


「うんっ!」


黄褐色の目を瞬かせた少年は、年下の少年に律儀に突っ込んでみるが、相手はマイペースなもので気にした様子もない。

祝われる側も、二度目のお祝いの言葉を嬉しそうに受け取っているのでいいのだろう。

同情の眼差しで、肩を叩いてくるのは紅目の少年だけで、逆に神経を逆撫でされたらしく手を振り払って睨み付けている。


その間、コランダムと年下の少年は抱きしめ合ったままキャッキャッとはしゃいでは侍女たちを和ませていた。

和んで油断した瞬間、警戒していたスカートめくりを悪ガキ二人にされ、侍女たちの悲鳴が上がったのもつい最近のことなのだが、彼女たちは忘れてしまったようだ。

気付いたらいつの間にやら一人増えていた悪ガキに、手を焼く彼女らの明日は波瀾万丈だ…大袈裟ではあるが。


「ねーねー、コー君。挨拶はもう終わった~?」


引っ付いたままそう問われたコランダムは、チラッと人々の中心に立っているプラチナブロンドの頭を見て頷いた。


「終わったと思う。なんかもう、子どもの誕生日を祝ってるって感じじゃないから」


遠目でしか見えないが、挑発的な深紅のドレス姿をした今夜の│主役コランダムの母親は、招待客の接待をしている。

しかしその周囲には女性客は皆無で、代わりに同伴者そっちのけの男性客しかいない。

子持ちとは思えない細い身体にコルセットなどいらないほど括れた腰に、けしからんサイズのバストだけでも十分、男性客の視線をくぎ付けにし、垂れ目がちな鮮やかな翠色の瞳は思わせ振りな視線を男たちに送っている。

デレデレと鼻の下を伸ばし、お互いを牽制し合う彼らと、夫の居ぬ間に火遊びをしようとしている母親。

会ったことのない父の心境はコランダムにはわからないが、執事の反応から貴族の婚姻ではこれが普通なのかもしれない。


(よく小説であったもんね。貴族の結婚は義務で、跡取りが出来たらお互いに恋人がいても不干渉だ~っていうの。子どもに悪影響だって、思わないのかなぁ)


前世で読んでいた少女小説を思い出し、コランダムは至ってのんびりと考える。

ゲーム知識は兎も角、かつての自分自身に関する記憶や倫理観が薄いせいか、それともこの世界が“乙女ゲームの世界”だと思い出したせいか、その考え方は相変わらず幼い子どもにしては淡白でドライであった。

これが黄褐色の目をした少年であれば、幼い子どもの親に対する独占欲と潔癖さで相手の男性客に食って掛かっていただろう。

しかし、淡白でドライなコランダムは、さっさと悪影響な光景から目を逸らすことに決めた。


「何かあるなら、ボクの部屋に行こうか?」


それで問題ないらしく、抱き着いてきた少年とそのまま手を繋ぎ、やはり付いて来るつもりらしい二人の少年を伴って大広間を後にした。

途中、自分付きの侍女に自室に戻ることを告げ、母と執事に伝言を残す。


大広間を出る前にもう一度、室内を見渡したコランダムは煌めく豪奢な装いを目に焼け付けてゆったりと微笑んだ。


「どうした?」


「んー?今日って、ボクの誕生日会なんだと思ってさ」


当たり前のことを、今更口にしたコランダムに怪訝な表情を浮かべ、黄褐色の目を瞬かせた少年。

コランダムから直接、招待状を貰わなければ入れなかったであろう祝いの会は、貴族の令息である少年を祝うに相応しいもののように思えた。

身分を隠し、護衛を親族に見立てて参加した王子は兎も角、招待客もそれなりに多く皆、身分に申し分のない者たちのように思える。

そうでなくとも、挨拶回りの際に祝いの言葉と共にプレゼントを受け取っていたはずのため、何を寝惚けたことをいっているのかと呆れた顔になる少年に、ライバルと認識している本日の主役は子どもにしては色気のある垂れ目を細め、至って朗らかに笑った。


「大人はみんな、ボクそっちのけだからさ」


コランダムは誕生日を迎えたからといっても、まだ幼い子どもだ。

それでも貴族として、建前は何にしろこういった集まりが情報交換や新たな関係を結ぶために必要なことはわかっている。


勿論、そのことをコランダムが理解していることは少年にもわかっているのだ。

だが、コランダム同様に子どもである少年はライバルの立場で考えて、凛々しい眉を下げた。

社交の場としては祝いの言葉や贈り物は必要だが、心からコランダムを祝い贈られたものがないことに気付いたからだ。


「キュリアス…」

「あー、でも!」


身体を鍛えて強くなることだけに固執して、繊細な心遣いなどろくにしたことがない少年が、ない知恵を絞って慰めようとしたちょうどそのとき、無情にも言葉の途中でぶった切られた。

しかも、慰めようとした相手だから微妙に文句がいえずに続きをぶっきらぼうに促す。


「なんだよ」


「少なくても、三人は心を込めて祝ってくれたし~」


ニコッと笑ったコランダムの人差し指が順に紅目の少年、年下の少年を指して最後に自分へと向けられた瞬間、彼は促したことを後悔した。


「やっぱり、持つべきものは友だちだよね!」


「バッ、バカかっ!オレはいつかお前を負かすライバ…」

「うんうん。やっぱ、友だちはいいものだよね~」


「悪魔が口にする言葉程、胡散臭いものはないな」


「おいっ!人の話を最後まで聞けーっ!!」


残念ながら、誰も聞いてはくれなかった。

身悶えながら叫ぶ、黄褐色の目をした少年を素晴らしい笑顔でコランダムは放置することにする。


「それはそうと」


やはり他のヒトも、放置することに決めたらしい。

叫び声について止めることなく、横から伸ばされた手はコランダムの手に重ねられる。


「このイヤラシい手付きは止めろ」


「ブホッ」


母のお胸様を見てから無意識にワキワキしていた手を押さえて…か ら の、裏拳を額にいただく。

手首のスナップが利いたこの一撃は、なかなか強烈であった。


「…ッ!額が割れたら、どうすんの?」


「中身が入れ替えられて、いいのではないか?」


「うぎぃぃっ!鬼ぃぃぃっ!!」


「もとより、鬼だが。わかり切ったことを、今更いうな」


『何いってんだ、こいつ』的な返事と視線をもらい、コランダムは余計に文句をいう。

種族名ではなく、コランダムは強いていうなら『鬼畜!』という意味で使ったのに過ぎない。

ちなみに、紅目の少年は正確にいえば吸血鬼のハーフであって、鬼なら黄褐色の目をした少年の養母である。


「それじゃあ、ボクから改めてだ~いすきなコー君にお祝いしま~す!!」


何が『それじゃあ』なのかは、取り敢えず突っ込まない。

先程同様に、自分が恥ずかしさに身悶えることになると察したのは黄褐色の目をした少年だったし、口を挟んだら話が進まないことを危惧したのは紅目の少年だった。

コランダムはといえば突っ込むどころか、自室に着いた途端にそういってくれた悪友と、まるで子女のように手を取り合いキャッキャッとはしゃぎ出したため、そんな暇はないようだ。


「えー、なになに~?」


手を取り合う相手に、楽しそうに問い掛けるコランダムは自室になかったはずの、明らかに異質な大きな箱に気付かないフリをした。


箱のサイズは、小柄なコランダムが屈んだら姿が隠れるくらいの大きさをしている。

何が入っているのかは現時点ではわからないが、持って来た相手が相手だ。

一般的な、プレゼントではなさそうである。


「勿論、コー君への誕生日プレゼントだよ~ふふっ、中身は何だろうね~何だと思う~?」


ニコニコしながら、プレゼントの中身を予想させようとする年下の少年のあどけない笑顔。

しかし何故だろうか、先程カードの山に乗っていた道化師と彼の少年の表情が酷似している気がして一瞬、│躊躇ちゅうちょする。

無邪気なくせに、禍々しい“何か”を感じさせる悪友にコランダムは圧倒…されない。

ただ面白いことが起こりそうな予感に、赤と青のオッドアイを輝かせていた。


「わかんないっ!何だろ?」


年下の少年が、愛らしい見た目に反し、恐ろしく力の強い個体だと認識している紅目の少年は、親友の豪気なのか鈍感なのかいまいちわからない反応にただただ感心する。

ついでに、キュリアス家の未来も心配しておいた。

次期当主が好奇心に殺されかねない。


「じゃあさ~大きい箱と、小さい箱。どっちがいい~?」

「大きい箱っ!」


まだ、小さい箱が登場していないのに即座に答える。


即答するコランダムの姿に、養母から聞いた“舌切り雀”を黄褐色の目をした少年は思い出した。

選りに選って、仕掛けたのがイタズラ好きな年下の少年。

出て来るのがおばけである方が、むしろマシだろう。

箱の中身が“妖怪”という、養母の故郷のモンスターだった場合は…外交問題になりそうだ。


「ではでは~プレゼントぞーてーです~おめでと~」


パチパチパチ


「ありがとう!」


釣られて拍手する二人の少年は、贈呈品を前にしたコランダムの動向を見守る。


重心を下げ、何かあれば素早く動けるように軽く身構えて拳を握った少年二人。

片や何かあれば最悪、箱から一番近いコランダムを遠ざけようと考え、片や何かあれば最悪、箱に一番近いコランダムをぶん殴ろうと考えていた。

…そのことをコランダムが知ったら、どちらが“親友”という称号に相応しいか小一時間くらい悩むかもしれない。


生憎、コランダムは気付くことがなかったので、無駄な時間を過ごすことなく、プレゼントに巻かれているリボンを鼻歌混じりに解いていた。


「何が出るかな~何が出るかな~」


正方形の箱を転がす…ことはなく、軽快なリズムに合わせて楽しそうに蓋を開ける。


「オープン・ザ・蓋~!!」


自分で『パカッ』と蓋を開ける音まで出したコランダムは、笑顔で中を覗き込んだその表情のまま固まった。

笑顔のまま、黙って蓋を元通り閉めたコランダムは油の切れたブリキのおもちゃのようなぎこちない動きで親友とライバルの方を向いた。

宝石の如き美しいオッドアイが、完全に泳いでいる。


「なんだよ?」

「どうかしたのか?」


二人に答えず、またぎこちない動きで箱へと向き直り、笑顔で固まったままの顔で蓋を見詰める。

その様子に、そろそろ瞬きをした方がいいと紅目の少年は口には出さずにひっそりと心配した。


何もいわず、ただ様子のおかしいコランダムの横へと少年二人は並んだ。

その視線は同じく、箱へと向けられている。


コランダムの蓋に添えられていたままの手が、持ち上げるために動く。

蓋がゆっくりと持ち上がるこのとき三人の誰かが、生唾を飲む音がやけにはっきりと聞こえた。


目が合ったような気がする。

三人は同時に思い、コランダムはゆっくりと再び蓋を閉めた。


「………」

「………」

「………」


彼には珍しく、虚ろな目をしたオッドアイ。

しかし貼り付いた笑顔は、そのままだ。


紅目の少年は、先程見た黒い目を思い出す。

黒といえど、中にいた生き物の持つ色は純粋なものではないように少年は思えた。

強いていうなら、様々な色が混ざり合い、最終的に辿り着いた、そんな作られた色だ。


黄褐色の目を持つ少年は、先程見た黒い目を思い出す。

今、コランダムは虚ろな目をしているが、そんなものなど比べようもない目を中にいた生き物はしていたと思った。

澱み、濁り、歪んだ、それなのに虚ろな印象の目だ。


二人の少年は種族も育った環境も、この瞬間に考えたことも違ったか、辿り着いた答えは同じである。

曰くーーー中にいる人型の生き物は、通常に生まれた存在ではなく歪な者だと。


年下の少年は、無言のまま唇の端をつり上げている。

三日月のようにつり上がった口元を隠すことなく、彼は楽しそうに三人の反応を見ていた。


人狼である黄褐色の目を持つ少年は、かなり正確な自分の野生の勘を信じている。

だからきっと感じたように、箱の中にいる人型の生き物は、身の毛もよだつような方法で造り出された存在なのだろう。

にやつくあの悪魔が関わっているのだから、その考えは間違えではないはずだ。


命が冒涜された、穢らわしい、哀れな生き物。

弄ばれるために悪魔が造った存在に同情はするが、黄褐色の目をした少年や紅目の少年のように鋭い者はその生き物を受け入れられない。

あまりにも歪んだ、他とは違う存在を忌避しようとした彼らはこの“プレゼント”を受け取ったコランダムに何かいようと口を開き掛けて。


「…どうせなら、箱詰め美女の方がよかったのに」


それこそ本当の、“箱入り娘”…か?


しかし黄褐色の目をした少年は脳裏に、箱にみっちり詰まった女性たちを想像してしまい、興奮するよりも猟奇的な光景に恐怖する羽目になった。

きっと彼は今夜、悪夢に魘されるであろう。


「『プレゼントはわ・た・し(ハート)』が出来るのは、可愛い女の子か肉感的なおねーさん…いや、ウソウソ。冗談だよ!大丈夫、だーいじょうぶ!キミだって、ギリギリセーフだよ!」


コランダムの馬鹿な話を聞いていたかのように、箱がブルブル震え出す。

箱入り娘を妄想しながら、鼻の下を伸ばすコランダムのどこに、怯える要素があるのか少年らにはわからない。

ついでに、何がどこを取って『ギリギリセーフ』なのかも彼らは知りたいとも思わない。

しかし箱は、未だに可哀想な程に震えていた。


ーーー後に、長々とこのときのことを持ち出しては“箱の中身”に拗ねられるのだが、今のコランダムは震える箱を慌てて宥めるので精一杯である。


震える箱と、宥めすかすコランダム。

滑稽なその光景に、二人の少年の肩から力を抜く。

何というか、真面目に考えていた方が馬鹿を見る気がした。


強張りが取れ、余裕を取り戻した黄褐色の目を持つ少年は、自分が弱く異質で群から追われたことを思い出す。

少年はそのとき養母に引き取られ、コランダムらに出会い、養父を得ることも出来た。

だから、箱の中身を異端だと排除しようなどと、少なくとも自分はしてはいけないと彼は思う。


中にいた人型の生き物に、こちらを害する意志を感じられなかったことと、結局は受け取ったコランダムが処遇を決めることだと改めて考え直す。

コランダムは馬鹿に見えるが気の優しい奴だから悪いようにはしないだろうし、黄褐色の目をした少年も微力ながら手を貸すつもりだ。

ここまでしっかり自分の考えをまとめ終えた少年は、普段悪友コンビにいじり倒されるだけあって生真面目であった。


無言でいるのは、紅目の少年も同じである。

彼もまた、親友(他称)の発言で毒気が抜かれた状態にあった。

コランダムの言葉に呆然として、言葉や行動に呆れ、それからもう一人の少年と同様に真面目に考えてから口を開く。


ただしその真面目さは、もう一人とは違う方面へと発揮された。


彼は面白そうに見ていた年下の少年を呼び、自分へと意識を向けさせた後に、コランダムへプレゼントの希望を聞いたかどうか確認した。

勿論、サプライズにするのため答えは『否』だ。

プレゼントを贈る側の気持ちは、相手の様子から理解は出来る。

出来るが、それとこれとは違うと、紅目の少年は顔を│しかめて説教をし出す。


「生き物を贈るのであれば、相手に聞いてからにしろ。世話が出来ない奴に貰われた方は、命に関わるからな」


つまり、最期まで世話が出来ないのなら生き物を飼う資格がないという、前世では犬猫を飼いたがる小さな子どもにいうセリフである。


彼のいい分は、とてもまっとうで正しい。

正しいのだがしかし、その言葉を使うのは最終的に世話をする羽目になる母親だ。

なので、思わずコランダムと黄褐色の目をした少年が叫んだのも仕方ない…かもしれない。


「「オカンっ!!」」


後々、ある学園の生徒会長となった後も変わることなく呼ばれ続ける、王子の姿形には似合わないあだ名が決まった瞬間だった。



↓以下、山ナシ落ちナシなバカ話↓








【台無しです、コランダム君】


紅目「貴様、賭け事だけはするな」

コランダム「キミは、その厨二病臭い口調をやめた方がいいよ。これが次の王様だなんて…“貴様”って、ゲームの中でしか出てこな痛い痛いっ!頭わし掴まないで!?」

紅目「(頭ギリギリ絞めつつ)何をいっているのかわからないが、何か腹が立つ」

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