10話
少しの間、集団の話し声を聞いていて思ったが、あまり危険な人達ではないのかもしれない。
もしかしたら、この状況から私を助けてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みにかけて気づかれないようについて行く。
集団が通って行く道は、何度も往来があるのかしっかりと踏み固められている。
ガラスの容器を持っている者や網を持っている者などがいる。
川原で魚でも獲っていたのだろうか。
誰にも気づかれないように近づきつつ、徐々に距離が縮まっていく度に慌てて立ち止まる。
やがて見えてきたのは、小さな集落だった。
男女の集団が集落の中に消えていくのを遠目に眺める。
どうやらここで暮らしているようだ。
かやぶきの家屋がポツポツ点在し、畑が耕されている。村を囲う塀などはなく、森の中にポツンと存在する集落。
まるで日本の昔話に出てきそうな村だが、そこに暮らしている人達は日本人ではない。
なぜそう言えるのか。
まず、髪の色が黒くない。みな、緑か青か赤色の髪の色をしている。
そして何よりも、彼らは一様に耳の形が変なのだ。
普通は丸い形のはずの耳が尖っている。
集団の後を追っている時は気付かれないようにするので手一杯で気付かなかったが、こうして落ち着いて見ていると、彼らの纏う雰囲気も異質なものに感じてきてしまう。
未知なるものへの恐怖が少しずつ湧き上がってくる。
一歩、二歩と静かに後退し、村の様子が見えなくなったところで振りかえろうとした時、背後から葉を揺らす音が届いた。
「!?」
驚いたのも束の間。一瞬で口が手で塞がれる。
背後から誰かに口を塞がれると言う既視感のある状態にもはや恐怖しか感じない。
「誰だお前?盗賊の仲間か?」
声を上げることすら叶わず、誰かに捕らえられた。口の次は手と足も拘束される。
「んんッ!!!」
拘束するために巻き付けられた誰かの右腕が折れた左腕を圧迫する。
激しい痛みが脳に響いて男の子が発したことが理解できない。
「おい、暴れるな。大人しくしろ」
腕の痛みで暴れれば暴れるほどきつく締め付けられてしまう。
痛みに頭が支配される一方で縛り付ける何者かについておおよそわかったことがあった。
私に巻き付けられた腕や足は大人にしては細く、短い。
口を抑える手も私とほとんど変わらない大きさだ。そして声質も大人のそれではない。
「観念したか?」
頭の後ろから声が投げかけられる。
もう意味が分からない。なぜ私ばかりがこんな目に遭わなければならないのか。
自然と涙が溢れ出てくる。
「おい聞いてんのか?……って、なんで泣き出してんだ!」
涙が頬から男の子の手に伝う。
それに気づいた男の子がさっと口を塞いだ手を離し、拘束も緩める。
「せ、せこいぞ泣くなんて!どうせ演技なんだろ!?俺は騙されないからな!」
私を完全に離した後、男の子が何か言っているが、もう耳には入ってこない。
「ガウス君、急に走ったりしないでよ。何かあったの?」
茂みからまた一人男の子が姿を現した。
「いや、不審なやつがいたから……」
「え?その子?倒れてるけど、どうしたの?」
「俺がやったわけじゃねぇぞ!急に倒れたんだよ!」
「そんなわけないだろ?きっと君が何かしたんだよ。泣いているんだからどこか痛いんじゃないの?」
「そんなの知らねぇよ!俺は何もしてねぇからな!」
二人の話し声は私には届かない。
地に伏したまま、こみ上げる痛みと悲しみでただただ涙が止まらなかった。
そして遅まきながら理解する。
ここには私を理解するものが誰一人としていないことを。




