7話
その言葉を聞いて弾かれたように上を向く。
茂みよりも高い位置の枝に上着が吊るされていた。
何かしなければ。そう考えるがどうにも動けない。
もしかしたら、他に別の服があって、そのことを言っているのかもしれない。
もし頭上にある私の服のことを言っていたとしても、服があるだけで人がいるかどうかなんて分からないだろう。
いざとなったら逃げるか、隠れるかすればいい。
そのためには男達がどう動くかだけ注意しなければいけない。聞き耳を立てて様子を伺う。
濁流の音と、葉擦れの音、生き物達の鳴き声がやけに大きく耳に届いてくる。
男達の声を必死に聞き取ろうとしているのにさっきまで聞こえていた野蛮な声が一言も聞こえない。
「……」
どこかに行ってしまったのだろうか。
そんな希望が打ち崩されるのは一瞬だった。
茂みの奥からぬうっと手が生えてきた。その手は狙い過たず茂みを背にしていた私の左腕を掴んだ。
「っ……!!」
打撲か骨折してしまった腕を思い切り握られて叫ぼうとした。しかし、叫び声はくぐもった声にしかならない。
見つからないように声を必死に堪えたわけではない。もう一本生えてきた腕が口元を覆い隠したのだ。
力強く握られた腕は勢いがよく、そのまま体を倒される。
それを追いかけるように伸びる腕が茂みからどんどんと伸びてきて、その本体が姿を現わす。
「おい。早く押えろ。」
うつ伏せに倒れ伏した私の体は、男の右手によって口を、左手によって左腕が押さえつけられている。
「ンンッ!」
漏れ出る声が男の右手に吸収される。
男の指示に従って同じく茂みから姿を現したもう一人の男が迅速に私の右腕と右脚も押さえにかかる。
男二人がかりで抑えらて身動きが全く取れなくなってしまった。
異変を察知した男達は冷静に判断を下して瞬時に襲いかかってきたようだ。とても逃げる暇などなかった。
先に体を押さえた男は私を検分し、もう一人の男は周囲を警戒する。
「どうやら子供一人のようだな」
「汚れてはいるがずいぶんと上等な服着てるじゃねぇか」
男達がそれぞれ言葉を発する。
「見た所エルフでもねぇ。なんでここにいるかは分からんがこれはいい獲物だな」
「女はいろんな使い道があるからな。イノシシなんかよりもよっぽどいいぜ」
口を押さえつける男が顔を近づけてきて間近で瞳を覗き込んでくる。
平凡な男だ。特に特徴のない顔立ちに長すぎず短くない髪。無精髭は男達の生活環境が反映しているように思える。
体型も太りすぎず細すぎず、腕っ節の強さが重要な盗賊らしく適度に鍛えられている。
あちらもこちらの顔を幾分か眺めた後、左腕に力を入れてくる。
左腕が圧迫され猛烈な熱さを訴える。
「ンンッンンッ!!」
目に涙が浮かび、絶叫が迸る。
そんな私の姿を見て押さえつけた男の顔が悦に綻ぶ。
「いいねぇ。痛いか?もっと泣いていいんだぜ?もっと苦痛に顔を歪めろよ」
「ったく。やっぱいい趣味してるなお前」
「そうだろ?」
「俺には全然分からんな」
そうして男が何度か左腕に痛みを与え続けてきた。それに私が苦鳴を上げる度、男は陶酔するような表情を見せる。
「おいおい。いい加減にしとけよ?こんなんで壊れちまったらつまらねぇだろ」
「ああわりぃ。あまりに良い反応しやがるんで興奮しちまった。」
「見てみろ、もう目が虚ろだぞ」
「でもよこうやって痛みを与えると目が蘇るんだよ」
男はそう言って、もう一度手に力を込める。慣れることのない激しい痛みが飛びかけていた私の意識を引き戻す。
「あぁたまらねぇ!」
「分かった分かった。見てると逆に腹立ってくるからもうやめろよ」
「チッ。この良さが分からねぇなんてな」
「わかりたくもねぇな」
「なに善人ぶってやがる。まあいいさ早いとここいつを連れてくぞ」
「お前がちんたら遊んでんだろうが」
「何言ってんだ、俺のおかげでだいぶ大人しくなっただろう?そういうとこまでちゃんと考えてやってんだぞ」
「そうかよ」
呆れたように返事をする男が先に拘束を解く。
ついで口を塞いでいた男がようやく拘束をほどき、私を軽々と肩に担ぎ上げる。
今なら、叫ぶことも暴れることもできるが、そんな気力はとうになくなっている。
「さっさと戻るぞ」
そう言って手ぶらな男が川辺に沿って上流の方向に進む。
私を担いだ男もそれに続く。
男が歩みを進める度、腹部が男の肩に食い込む。
この先どうなってしまうのか。
薄れゆく意識の中、考えることはできなかった。




