6話
脈拍が一気に上がる。早鐘のように鼓動を打つ心臓がうるさい。
うるさすぎて私がいることが相手にバレてしまうのではないか。
そんな気持ちが膨れ上がり、どんどんと緊張が張り詰めて行く。
「そう言えばよ、この前の獲物は面白かったよな」
「ああ、あれか。男が嫁と娘を見捨てたやつ」
「そうそう!なんも金目のもん持ってなくってよ。いやぁいいカモだったぜ」
下賎な男達の話し声が聞こえてくる。
まさか、そんなはずはない。
お姉ちゃんとお母さんであるわけがない。きっと別の話だ。
彼らの話し声を聞いてはだめだ。
今、どうするかだけを考えなければいけない。
二人は今どこに向かっている?
近くまで来ているのか?
それとも離れて行っているのか?
男達の声量で判断すれば、どっちとも取れない。
近づいているわけではないし、離れていっているわけでもない。
「親も子もいい声で泣きやがるからよぉ、今思い出してもたまらねぇぜ」
「ったく、お前はクソ野郎だな」
「お前が言えた義理かよ」
下卑た笑い声が森にこだまする。
必死に無心を繕う。今すぐに耳を塞いで男達の声をシャットアウトしたい。
しかし、そんなことをしてしまってはいざという時に何もできなくなってしまう。
気付けば男達がすぐ後ろにいて逃げる暇もなく捕まってしまうかもしれない。
捕まる?捕まったらどうなってしまうのだろうか?
考えても無駄だ。
今はとにかく落ち着いて。
呼吸すら止めてしまいたい。
そうすれば一切の音がしなくなる。
でも、そのうち息が切れてやっぱり大きく息を吸ってしまう。
呼吸はどんどん荒くなっていく。
「そんなことより、肉だよ肉。さっさと獲物見つけようぜ」
「ああ、この辺はもう川の近くか、なら動物の一匹や二匹いるんじゃねぇか?」
「バカ言え。昨日の今日だぞ?増水してんだから近付きやしないだろ」
「それもそう……か?」
男達が立ち止まる気配がする。
早鐘を打っていた心臓はすでに痙攣するかのように脈打っている。
嫌な予感がする。
何か大事なことを忘れていて、それが引き金になりそうな前触れのようなものが……
「おい、あれ……」
私の姿が見えるはずがない。茂みが邪魔になって何も見えないはずだ。こちらからも男達の姿は一切見えない。
「あの木にかかってるやつ……」
訝しむ男が指差す先がわからない。男が見えないのだから当然だ。
「あん?」
男が指差す先をもう一人の男が眇めて一言だけ呟いた。
「あれは……服だな」




