5話
緩慢な速度で進んでいけば、やがて木々が拓けて、目の前には川が広がる。
川幅は長くて渡ることはできそうにない。
体じゅうに付いて固まった泥を落としたいし、体もできれば洗いたい。
しかし、茶色く濁った川は昨日の雨の影響で流れが速く水量も多いようだ。
上着だけでも洗えないかと思い、足場がしっかりしているところから、流されないように注意して上着をさっと洗う。
泥は洗い流すことはできたが、全体的に茶色く汚れてしまった。
「う……」
そして臭いを嗅いでみると生臭かった。
当たり前だが、上着はぐっしょりと濡れてしまっていて着ることもままならない。
上着はしばらく近くの木の枝に吊るしておく。
上半身を下着のシャツだけにしてしまった私は迂闊な行動に肩を落としながら辺りを見回す。
水流は左から右へと流れている。上流を北と仮定したら、西側の岸に居る状態だ。
川向こうはこちらと同じで、見える限りの範囲を木々が生い茂っている。
周辺に人が住んでいるような気配はなく、どこまでも続く孤独に終わりが見えそうにない。
萎えた足がふらつく。
心なしか顔が熱い。頭に血が上っているような感覚がする。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「!?」
近くの木にもたれかかった直後、人の声が聞こえてきた。
ついで草をかき分ける音が聞こえてくる。
遠い。聞こえてきた声と音は遠い。
こちら側の岸の森から聞こえてくるが、かなり茂っていてまだ相手を視認することはできない。
立てば茂みの上からギリギリ確認できるだろうか。その場合はもちろん相手もこちらに気付くはずだ。
別に気づかれて困ることなんてない……はずだ。
むしろ助けを求めることができるかもしれない。
ならば早々に姿を現した方がいい。そうは思っても足を動かすことはできなかった。
逡巡している間にも声が聞こえてくる。
「最悪だぜ。どうして俺らが狩りなんてしなきゃならねぇんだ」
聞こえてきた声の主はさっきのものと違う。
さっきの言葉が私に対して急に発された言葉ではなかったことにまずは安心するが、男達の間で物騒な言葉が飛び交う。
「ちくしょう。こうなったらイノシシの一匹でもとっとと捕まえて、俺らだけでたらふく食ってやる」
「そうだな。他の奴らには余った肉でもくれてやりゃいい」
「余った肉すらくれてやるかよ。ケッ!」
「おいおい。それじゃ俺らが他の奴にのされちまうだろ」
「知るかよそんなこと。欲しけりゃ自分で捕りにいきゃいいんだ」
随分と口が悪いが、話を聞く限りどうやら猟師のようだ。
他にも仲間がいるようだが今は二人だけらしい。
猟師なら気を付けて姿を晒せば、獣と間違われて殺されることはないだろう。
そうなると、相手との距離が近くなってしまえばしまうほど相手に警戒されかねない。
一定の距離がある今のうちに二人に気づいてもらうべきだ。
決心して立ち上がろうとした矢先、未だ続く二人の話に体が一瞬にして凍りつく。
「なんで盗賊の俺らが猟師みたいなことしなきゃならねぇんだよ」
「全くだな。狩りは狩りでも俺らの本業は人間なのによ」




