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精霊使いと異邦人  作者: 武瀬 霜
幕間
40/47

4話

朝靄に包まれた森の中は様々な生物の起床を喚起していた。


夜の真っ暗な森が打って変わった様相を呈していく。


「けほけほ」


知らずうちに大木に背を預けて眠りこけていた私は激しくむせ込んで目覚めた。


口元から滴る液体を無視して辺りを見る。


相変わらず見たこともない景色だけが目に映り込む。


昨夜、野生のイノシシと遭遇した後どうやって逃げ延びたのかまるで覚えていない。


一つ確かなのは、イノシシに襲われたという事実だけだ。


その証拠として、左腕の肘から手首にかけて二筋の青あざができていた。


左腕だけやけに冷たくて、痛いという感覚はあまりなかった。


心身ともに疲弊しきり、生きた心地が全くしないのに私はまだ生きている。


私は今どんな顔をしているのだろうか。


顔は泥にまみれ、精気を失った瞳だけが唯一の生命活動を続けている。そんな顔だろうか。


実際には浅い呼吸もしているし、手だって足だってまだ動かせるはずだ。


なのにぴくりとも動かせる気がしない。


体は重く、瞼も次第に重くなってくる。眠くて仕方がない。目を瞑れば体の疲労が嘘のように消えたように感じる。


あとちょっとだけ寝よう。そうしたら、起きればいい。


疲れた体が少しは休まるかもしれない。


それに起きたら、実はこれまでの出来事が全て夢だった。なんてことがあるかもしれない。


目を閉じて、もう一度開ければきっといつもの笑顔な姉がいて、悪夢を見ていた私を優しく撫でてくれる。


傍には母もいて、三人が仲良く過ごしている。


家の近くの河川敷をゆっくりと散歩すればそれだけで笑顔が生まれる。


河川敷の近くにある公園の遊具で姉と遊び、疲れたら日陰で休む母の元へと戻る。


公園には人間の声だけでなく、鳥の囀る音が聞こえ、川のせせらぐ音まで聞こえてくる。


私のお腹も空腹を訴える。それに姉と母が笑う。


恥ずかしくなって顔を逸らせば、ごめんねと聞こえた気がした。


「……」


落ちる感覚を伴ってすぐに夢から醒める。


さっきまで見ていた母の顔や姉の顔を鮮明に思い出すことができるのに本人達はここにはいない。


果てしない寂寥感だけが胸のうちに広がっていく。


未だに夢の中で聞こえていた音が耳に残響している。


「……」


違う。これはこの森の中で聞こえてくる音だ。


鳥の囀りも川の流れる音も夢現つに聞こえていたものだ。


足に力を入れてなんとか立ち上がる。


ひとまずは川の流れる音がする方へ。


一粒の希望を抱いてはそれに向かって歩みを進めることしか今はできない。

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